36.革命軍の魔女

 子ども達とはいえ魔女達で構成されるレジスタンスに加え沖田達の援護もあって、革命軍の陣容は大きく崩れ始めた。レズスタンスの指揮が良いのか、効率的に分断され個々に孤立化したところを、集中した火力で各個撃破されていく。

 しかし、レジスタンスの動きを見ていると、革命軍を殲滅することが目的ではないようだった。

 敵軍の動きに合わせてその場にとどまり、追撃を行う様子がない。

 あくまで広場に磔にされている人々の救出が目的だとわかる。

 異能力を使う10歳ほどの少女に、後から銃剣で襲いかかった革命軍兵士を抜く手もみせずに袈裟切りに倒した小坂が、その少女の背後を守るようについてやる。

「ありがとう」

 青ざめた顔に必死の形相で戦う少女がかすれた声で言い、無理矢理に笑顔を作った。

「もう少しだ、頑張ろう」

 小坂が微笑み返す。

 こちらに鋭く飛んできたフルメタルジャケットの銃弾を、薄く水面の光が弧を描いて切り落とした。その小坂の腕に水影のようにとりまく波紋が湧き、よく目をこらせば、彼の背後にうっすらと何か得体の知れない影が見て取れる。

 明らかに革命軍が浮き足立ち、後退を開始したときだった。

 遠く重低音で響く巨大ヘリの音が近づいてきた。

 吉川がライフルのスコープから目を離して、傍らの双眼鏡を引き寄せた。

「?!」

 双眼鏡を放ると、喉物についているインカムのスイッチをオンにする。

「すぐに森の中まで移動しろ!ハインドDだ!ご丁寧に上下2機編成!」

 昨年のクエートでイラク軍に包囲された際、最も恐ろしい兵器の一つだった攻撃ヘリ。陸上を生身で移動する歩兵、鈍重な戦車や装甲車にとっての最大の天敵。ハインドDはその中でも最強の攻撃ヘリだ。

 機種下に設置されたのターレットからばらまかれる12.7ミリ弾にかすりでもすれば、その部分の肉体は永遠に失われる。左右のスタブウィングには12発の誘導式対置ミサイルを装備し、装甲はチタニウム合金製で戦車砲の直撃にも耐えられる。攻撃ヘリとしては大型で兵員輸送能力もあり8名を搭載可能だ。

 上下2機編成とは、低空に1機、その上空に1機を1ユニットとして、低空の一機が攻撃を受ければ、上空の一機が攻撃してきた敵を優先的に撃破していく。上下二機の攻撃ヘリを同時に倒す必要があるため、攻撃側の難易度は格段に跳ね上がる。

「移動しろ!攻撃ヘリが来る!」

 小坂がレジスタンスの子ども達に大声で声をかける。

「大丈夫!私たちの能力でヘリを落とせるわ」

 先ほど女の子が小坂に叫んだその時だった。

 空間に張り付いたように目を見開いて、その子がストンと糸の切れた人形のように倒れ込んだ。

 他のレジスタンス、特に能力者らしき子ども達が、次々と倒れ出す。

 口から泡を吹き、息をしようと必死にもがくが、そのまま目の焦点を失っていく。

「?!」

 周りで次々と倒れていくレジスタンスに動揺する小坂。

 先ほどの女の子を抱え上げたところで、ハインドのタレットが火を噴いた。

 小坂の刀がぐるりと円を描き、放たれた弾頭をはじき返すが、チューブ型ロケットから放たれた誘導弾が、二人を吹き飛ばした。

「チッ」

 舌打ちして吉川が対物ライフル、バレット82の弾倉を入れ替える。

「こちらに戻って来れますように」

 吉川の目が青く沈み、風が彼の体を巻いた。

 炸裂音と共にバレットから放たれた劣化ウラン弾。

 コックピットに飛び込めば、乗員の命を一瞬にして奪う、その狂気の弾丸は、ほぼ同時に二発放たれ、彼の異能力によって地球上のあらゆる物理法則を無視して、ハインドのキャノピーを貫通するはずだった。

 バチンッという何かを弾き飛ばすような音がして、バレットの弾頭は二発とも空中で弾けた。

「?!」

 驚く間もなく、上空の一機が誘導弾を吉川に向けて発射。

 かろうじてライフルだけを担いだ吉川が森の奥へと飛び込むと同時に、後で爆発が起こる。

 対人用のベアリングがばらまかれ、辺りの木々や地面を粉々に打ち砕き、ベアリングの幕が吉川にも襲いかかる。が、風を捲いて現れた空気の固まり、巨人の影が無数のベアリングをいとも簡単に弾き返す。

 吉川が暗黒の光を宿した目でハインドを睨むと、重量、発射時の衝撃、常人なら立っては決して扱えないその巨大なライフルを、ハインドに乱射。

 そのうち、数発がハインドに命中した。

 上空の一機がレジスタンスと沖田達に攻撃を加えつつ、着弾したもう一機が処刑場に強引に着陸すると、中から特殊部隊らしき一体が素早く降りて展開した。その後方に、ゆっくりと降り立った人影が一人。

 見るからにグラマラスの肉体を黒いスーツで包み、目が二つだけ開いた黒い仮面を付けた女。

「あいつ」

 死者の国の魔神の能力で極端に増幅された視力が、吉川にその女の正体を教えた。

「巨乳女じゃないか!」

「なんだって?!」

 森を走り回って、革命軍と戦い続けている沖田聞き返した。

「だから、巨乳女だ!」

「巨乳!?」

 鬼神のような形相で奮闘していた沖田がヘリから降りた女を一瞬、馬鹿面して眺める。その横合いから、ナイフで切りつけてきた革命軍の精鋭に対して、力に逆らうこと無く前にいなして四方投げで倒し、腕を決めたまま腰だめのベレッタを撃ち込んだ。

「あぶねー!バカなこと言ってないで、あの子ら連れて撤退するぞ!」

「だから、あの美人のロシア人のねーちゃんだよ!」

「なんで、わかんだよ!」

「あの魅惑的な超絶ボディライン!見間違うわけがない!!」

「アホか…」

 沖田が頭を抱えた。

「おーい!ねーさん、俺たちだぁ!東京でウォッカを酌み交わしたムサノの同志だよ!」

 東京のホテルで軟禁時に一番酒を酌み交わしていた小坂が叫んだ。

 左手を大きく打ち振った小坂ががっくりと膝をついた。

 肺が機能を失ったように、呼吸をしても血液に酸素が取り込めない。

 激しい耳鳴りが襲い目の前があっという間にブラックアウトして意識を失った。

 それを見てカーラとおぼしき女の仮面が怪しく光った。

 ヘリから先に降り立った部隊は精鋭らしく、カーラを守るようにして展開する一方で、確実にレジスタン側を押し返しはじめた。


To be continued.

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