第15話 地獄の門
1
「取り敢えず、奪ったはいいけど、これからどうする? なぁ、どうすんだ?」
「悪魔と天使を倒して、門を頑張って消す!」
ルーヴィックの合図(だと思う)で、飛び出して鍵を奪ったはいいが、その後の行動を決めていない。隣で気合いだけは十分のユリアに頭を抱えながら、レイ達は廊下を走る。
後ろからうなり声のようなものが聞こえてくるので、悪魔が追いかけていることは間違いない。何度か撒こうと試みたが、無理だった。
レイは背中で気配を感じながら、ルーヴィックの道具箱から聖水のアンプルを取り出して後ろに投げつける。気配が少し遠ざかる。
二人は階段を駆け上がると、登り切ったところで振り返り、レイは聖水のアンプルをユリアは祝福を唱える。聖水を浴び、祝福を受けた犬のような悪魔、ジェイスは怯んだものの、走っていた勢いのまま階段を駆け上がった。後ずさるレイを慌ててユリアは引っ張り、引き寄せる。背後から骸骨の悪魔、レオゼルが影から現れ、襲いかかってていた。
咄嗟に持っていたハンマーを振り回し、レオゼルの頭を打つ。鈍い音を立てて止まった。まるで壁面を打ち据えたような感触だった。
だが相手のダメージがゼロと言うわけでもなかった。レオの手に巻き付けた魔除けのペンタグラムが、若干の効果を発揮してくれたのだろう。ルーヴィックがアメリカから持ってきた物だ。
とはいえ、やはり効果は薄い。
腕の痺れが癒えないレイの前にユリアが躍り出る。
祈りの言葉とレオゼルが炎をぶつけたのは同時だった。熱は感じなかったが衝撃を受け、レイとユリアは後方へ吹き飛ぶ。レイがクッションの役割を果たしたのでユリアにダメージはない。
レイは即座に上のユリアを押し退ける。ジェイスの牙が襲いかかってきていたからだ。レイはハンマーの柄を構えて、牙を受ける。凄い力に体は振り回され、地面に何度も叩き付けられ、押しつけられる。ジェイスの燃える目が笑っているように見える。吐く息が熱く、垂れる涎がレイの体に触れると、ジュッと彼の皮膚を焼き激痛が走る。
一方、ユリアは立ち上がると、そこにはレオゼル。ただ腕を振り回しただけだろうが、それを身に受けたユリアは棍棒にぶたれたように吹き飛んだ。地面に落ちて、息が詰まる。肺の中の空気が漏れ、息ができない。つまり祈りが唱えられない。
這って逃げようとするユリアの服を掴み、持ち上げるレオゼルに、ユリアは十字架を投げつける。一瞬、怯んだ隙に距離を取った。
「レイさん、ブルーさんの鞄を!」
それどころではないことは分かっていたが、彼女もあらん限りの声で叫んだ。
ジェイスの巨大な体躯にのしかかられ、ハンマーの柄で防ぐレイの耳にも彼女の声は届く。レイは抵抗しながらも、脇の転がるルーヴィックの道具箱を蹴りつける。中で何かが割れる音がしたが、気にしてられない。
一瞬、ジェイスの意識が道具箱へと移った時、レイは力を抜くと同時に身をよじってジェイスの牙を躱す。同時に、道具箱から取り出していた銀の杭をジェイスの顔面に突き立てる。退魔の銀でできた杭は抵抗もなく突き刺さる。
激しく暴れるジェイスの様子を確認し、レイはゆっくりと立ち上がる。悪魔の涎で焼かれた場所は痛むがまだ動く。そしてのたうち回る巨大な犬の首を踏みつけるとハンマーを振りかぶった。
「地獄に落ちろ、親父の敵だ」
思いっきり振り下ろされたハンマーは、杭の刺さった場所にぶつかり、さらに奥へと突き刺さる。耳を塞ぎたくなるほどの絶叫と共に、ジェイスの体は一気に崩れた。
放られたルーヴィックの道具箱に這ってたどり着いたユリアは中を確認する。
ビンが何本か割れ、中身が溢れていた。ユリアは鞄の中から塩の瓶を取り出して、鞄にぶちまける。中で聖水、聖油、天使の涙から取った(彼はそう説明していた)塩が混ざる。そして短く聖句を唱えた。
それをすくい手に持ち、レオゼルに向かう。レオゼルは火を吐いたが、盾にした道具箱がそれを防ぐ。そしてそのままレオゼルに飛びついた。手をレオゼルに押しつけると白い煙と共に、酷い臭気が上がる。
顔を背けながらも、必死で祈りを口にし、名を尋ねる。
「主の名の元に尋ねる。お前の名前は何だ?」
苦しみながらも抵抗するレオゼルに、ユリアは何度も名前を聞き続ける。
知らぬ間に、鼻から血がしたたり落ちてくる。
「名を、名乗りなさい!」
絶叫と共に漏れるレオゼルの本当の名。
「父と子と聖霊の御名において、汝、いるべき所へ今すぐ去れ!」
レオゼルの絶叫に負けないほどの声を出し叫んだユリア。
悪魔は体を保てず崩れ落ち、消えた。
残るは静寂のみ。
近づくレイに肩を叩かれるまで、ユリアは呆然としていた。
「やったな。ユリア」
笑顔で語りかけるレイに、小刻みに頷きながら笑って返した。
だがその二人の背後に、音もなく影が忍び寄っていた。
2
よく地下にこれほどの施設を作ったと思えるほど、内部は豪華だった。所々にある光と周囲の白い壁でそこまで暗さを感じない。ルーヴィックとヘンリーの靴音が高い天井に反響する。
階段を数階上った所で、ようやく目的の者たちの姿が見えた。天使だ。こんな状況でなければ、見とれるほどに美しい。ただ、その天使は地獄の門を開こうとしており、さらに今まさにユリアとレイを手に掛けようとしている所だった。
ルーヴィックとヘンリーは銃を構えて発砲。矢を構えた天使を傷つけることはできなかったが、矢の狙いをそらし、さらに隙を作れた。
ユリア達もこちらに気付いて走ってくる。それに気付いたルーヴィック達は逆に走って逃げる。
「何で逃げるんですかー?」
「馬鹿野郎、天使がこっち来るだろうが!」
天使は標的が一つに固まり狙いやすくなったのを見ると、矢をつがえる。同時に光輪が周囲にあらわれ、大量の火の矢が襲いかかった。それぞれ柱などの陰に隠れ、難を逃れるが矢の襲撃は止まない。
「悪魔とか天使は弾切れがねぇのか!」
誰に向けていいか分からない愚痴をルーヴィックは吐き出す。
「鍵は手に入ったのか?」
どこかに身を隠すユリアとレイに叫ぶ。返ってきた声はレイだった。
「ちゃんと持ってる。悪魔達も倒してやっだぜ!」
どこか自信に満ちた力強い声だった。その返答にルーヴィックは笑みを浮かべ、小さく拳を握る。つまり天使は手札を全て失ったわけだ。
「レイ、ユリア。さっさと行って門を消してこい!」
言うやいなや、ルーヴィックは柱から飛び出してライフルは撃ちまくる。そしてポケットから瘴気の瓶を取り出して、天使の足元に投げつけた。弾丸は弾かれるが、瘴気には警戒を示して後ずさる。
「ブルーさん、大丈夫ですか?」
ユリアが心配そうに見るが、ルーヴィックは視線も向けずに「早く行け」と短く答えるだけ。ユリアはそれを確認し、レイととともに通路を走り去っていく。
「こっからはプロの仕事だぜ!」
苛立たしげに現れる天使を睨みながら思わず笑みがこぼれるルーヴィック。
再度、小瓶を取り出して投げつけるが、天使の目前で止まり、そのまま炎を上げて消えた。しかし狙いはそこではなかった。素早く回り込み移動したヘンリーが天使の背後に現れる。小瓶を振り上げる瞬間、天使は光子となり消え、次の瞬間にはヘンリーの頭上に現れて踏み潰す。
上に乗られもがくヘンリーの肩に弓矢の鋭い端が突き刺さる。悲鳴を上げるヘンリーを見て、天使特有の優しげで、どこか悲しげな笑みを浮かべる。ルーヴィックはセミオートの拳銃に持ち替え、天使へ発砲するが全て届かなかった。
「愚かですね。人間よ」
天使が二人に、話しかける。
「愚かで、そして愛くるしい」
「その愛くるしい人間を、どうして滅ぼそうとする?」
ヘンリー、そしてルーヴィックを見る。
「滅びませんよ。もちろん苦難が降りかかるでしょうが。あなた方に試練を与えたいのです」
「ふざけんな。苦難なら飽き飽きしてるぜ」
「まだです。苦難を乗り越えてこそ、愚かな人間は神への信仰心を取り戻します。そして人間はより高い次元へ成長できる」
「そりゃ、ありがたい話だがな。今回は諦めるこったな。もうすぐ門はこの世界から消滅する」
「そうですね。早くあなた方を天に召し、向かわなければいけません。何せ失敗はできませんから。モルエルのためにも」
「お前が殺したんだろ?」
モルエルの名前に思わずカッとなったルーヴィックは語気を強める。その様子を少し愉快そうに見る。
「あれは残念でした。しかし、モルエルは私の存在に気付いてしまいましたから。そして私の考えには賛成してもらえませんでした。しかし、もっと残念だったのは、あの晩にあなたを殺しておかなかったことですね。モルエルが死んだ時のあなたはとても愛らしく、思わず殺すのをためらってしまった」
「つまりは、あれだろ? 口では大層なこと言ってるが、要するに弱者が傷つきもがく様を見るのが好きな、ただの変態じゃねぇか」
その言葉に、天使は美しい顔を歪める。怒りではなく、卑しく欲望にまみれた笑顔だ。完成された美貌が笑みで歪み様は恐ろしくもあり、それでも美しくあった。この天使がようやく本当の顔を見せたと、ルーヴィックは感じた。
「あなたが、残念がることは・・・・・・もう一つありますよ」
黙っていたヘンリーが切れ切れに話す。視線を向けると、地面に仰向けになるヘンリーは顔を覆うガスマスクを付けていた。
「私を先ほど、殺さなかったことです」
ヘンリーは袖に通してあった管を向けると、その管がつながる腰に取り付けた圧縮機のポンプをもう一方の手で何度も押し込む。
管から勢いよく瘴気が噴霧され、天使を覆った。
悲鳴を上げて逃げようとする天使に追い打ちを掛けるように、ヘンリーは起き上がり浴びせ続ける。
「そんなの持ってたのか?」
「えぇー、持ってないんですか?」
噴霧器とハットと一体化しているガスマスクを見ながらルーヴィクは訪ねると、ヘンリーの優越感たっぷりの返答が返ってくる。
殺してやろうかと思ったが、今はそれどころではない。弱体化する天使に拳銃を向け、弾倉が空になるまで撃ち続ける。天使が視線の向け、目の輝きが増すと飛んできた弾丸は見えない壁に遮られるように宙でへしゃげ、溶ける。しかし、最後の弾丸だけは、その壁を突破。天使の右の二の腕に直撃するとその部分が火の粉と灰へと変わる。そして二の腕から下が飛び、右手は彫刻のように石化して地面に落ちた。モルエルが死んだ時と同じだ。目を見開きその様子を見る天使。
「効いてますよ! もっと撃ってください」
「あー、今の弾倉が最後のだ」
「さっきのガトリングの時も思いましたけど、何でもっと大切に物を扱わないんですか?」
「うっせー。そんなもん気にして戦えるか!」
ルーヴィックは取り出した振り香炉に火を付けると鎖を持って振り回す。勢いよく回る振り香炉をそのまま天使に叩き付ける。黒い煙を吐く香炉はそのまま天使の側頭部を薙ぐ。ぶつかった衝撃で黒い煙と火の粉が舞う。ルーヴィックはさまざまな回し方で変則的に天使を襲い、香炉を打ち据える。最も勢いを付けた香炉を喰らい、耐えきれずに天使が後方へ飛ぶ。
「何ですか? それ?」
「持ってないんですかー?」
珍しそうに尋ねるヘンリーに、どや顔で返す。
天使の周囲から炎が巻き起こり、瘴気を消し飛ばす。そして左手で弓矢を持ち、大きく翼を広げると炎に包まれ消える。そして次の瞬間にはルーヴィックとヘンリーの間に現れていた。
目の光は先ほどよりも増している。するとルーヴィックのコート(ヘンリーに借りてる物だが)が燃え上がる。慌てて脱ぎ捨てると、天使に香炉を振り回すが、それを弓矢でなぎ払う。ルーヴィックも香炉ごと薙がれ吹き飛ばされる。そして壁にぶつかり顔を上げると、目前に光輪が浮かんでいた。
まずいと思ったが、矢が光輪から放たれる前に、ヘンリーが天使に躍りかかったことで、光輪は消える。ヘンリーは傘からサーベルを引き抜くと、素早い動きで何度も切りつける。が、天使はそれを弓矢で全て受け流し、打ち据える。攻防をしばらく繰り返すも、ついに弓矢の殴打を受け、ヘンリーに隙ができる。そして矢を受け吹き飛んだ。
天使は先ほどと同じように消える。
ルーヴィックは体を引きずりながらも、ヘンリーの元へ。
胴体に矢を受けたヘンリーは噎せながらも生きている。
「祝福を逆に書いてやりましたよ。ちょっとは効果があるんですね」
へへへと笑うヘンリーのシャツには何かが縫い付けられていた後があるが、見事に焼けて焦げている。彼の言うとおり、多少はそのおかげで軽減できたのだろうが、重症であることには変わりない。傷は焼けており、血は出ていないが、肉の焦げた酷い臭いだ。腹部を押さえるヘンリーは手当てをしようとするルーヴィックの手を遮る。
「自分の手当てぐらい自分でできますよ。天使を追ってください。おそらく門の広間です」
少し躊躇うルーヴィックに、ヘンリーは「少し休んで追いかけます」と力なく言う。
ルーヴィックはポケットから鎮痛剤の瓶と自前の注射器を取り出して床に置いた。
「まぁ、馬用だが効き目は保証する。それとこいつを注射すれば少しの間は動けるはずだ。いろいろと混ぜた俺特製のブレンドだ。あと二本。一本やるよ」
「皮肉の一言でも言いたいですが、今はありがたくいただきます」
ヘンリーが受け取るのを見ると、ルーヴィックはナックルナイフを取り出し、拳に取り付けると広間へ向かって走り出す。
3
広間ではすでにユリアが儀式を始めており、何やら呪文(祈り?)のようなことを唱え始めてしばらく立っていた。未だ何も起きないが、何かに取り憑かれたように唱え続けるユリア。それを見守るレイ。
天使が上空に現れたのはそんな時だった。これほどうれしくない天使の降臨は初めてだっただろう。
そしてまさに、天使の周囲から光輪が現れ、レイがユリアを守るようにして立った時、天使の背後からルーヴィック縁を乗り越えて飛びかかった。逆手に持ったナックルナイフで何度も突き刺しながら、そのまま天使と共に落下する。
地面に叩き付けられ、血反吐を吐くルーヴィックは起き上がって天使にタックル。掴みかかりナイフを突き立てるが天使は躱して、弓矢でルーヴィックの足をすくい上げると、そのまま地面に叩き付ける。肺の空気は全て漏れ、咳き込む彼を見下ろす天使。そんまま弓矢の端を突き刺そうと振り上げるが、レイが持っていたハンマーで打ち据える。しかし見ない壁に阻まれ、逆に吹き飛ばされる。
「身の程をわきまえなさい!」
再び上空へ飛び上がった天使。さながら聖堂に飾られた壁画のような光景だった。が見上げるルーヴィックには別の物が映っていた。
ヘンリーだ。
上段の縁を越え、飛び降りてきたのだ。そしてサーベルを振りかぶり、そのまま振り下ろす。天使も気付くが反応が遅れた。彼のサーベルはそのまま天使の翼を切り捨てた。
床に落ちるヘンリーはそのまま動かなくなる。翼を失くして地に落ちる天使は、悲鳴よりも先に驚愕に目を見開く。そしてついに、その瞬間がくる。
門の周囲から円を描くように円柱の光線が吹き上がる。それは門を上部から少しずつ分解し、巻き上げていく。ルーヴィックは光線の円の中にある天使の翼もまた分解されるのを見る。
天使はユリアへと向き、近づこうとするのを、ルーヴィックが雄叫びと共に起き上がり体当たり。
「レイ、俺の鞄だ!」
レイはルーヴィックから借りていた道具入れを放ると、それを宙で掴み、鞄ごと天使を殴りつける。そしてもみ合いながら、道具入れに手を突っ込み、中から瘴気の小瓶を取りだして天使の目の前で割った。吹き出す瘴気に天使だけでなく、ルーヴィックも顔に浴びる。
苦しみながら後ずさる天使に、ルーヴィックは渾身の力を込めて蹴り込んだ。天使の体が浮かび上がる。少し呆然とした表情のまま光線の中へ消える。そして絶叫。
体が分解されていく。天使は光線から慌てて抜け出そうとした時、レイのハンマーがそれを許さなかった。思いっきり振り回されたハンマーを受け、天使は後方の門まで吹き飛ばされた。
跪くルーヴィックは瘴気を浄化するため、道具入れから聖水のアンプルを割って何本も飲む。すると喉の奥が焼けるように熱くなり、真っ黒なタールを大量に吐き出す。
頭からも聖水を掛け、祈りの言葉を唱える。少し楽になった所で光線を見ると、門はほぼ消えかけていた。そして、最後に四方に衝撃波が走り、ルーヴィック含めレイ、ユリアは吹き飛ばされた。
白煙が巻き起こった後には、強大な門は跡形もなく消えていた。
安堵に顔を見合わせる一同。しかしその白煙を引き裂くように天使の残骸が襲いかかってきた。
慌てて避けるも足がもつれてうまく動かない。天使はルーヴィックに這いながら襲いかかる。美しかった顔はもはや面影を残しておらず、化け物以外に何者でもない。
ルーヴィックは周囲を見渡すと離れた所にセミオートの拳銃が落ちていた。どこかのタイミングでホルスターから吹き飛んでいたのだろう。
ルーヴィックは体を引きずりながら、腰のリボルバーを引き抜いて撃ちながら移動。ただしそこまでの効果は見られない。
拳銃までたどり着いたルーヴィックはベルトのバックルを外して弾丸を取り出す。もしもの時のお守りだ。拳銃の遊底を引き、弾丸を装着。天使が目前に迫り手を振り上げるのと、彼が銃を構えるのはほぼ同時だった。
「俺が不死身のルーヴィック・ブルーだ。覚えとけ!」
コンマの差で早く引き金を引いたルーヴィックの放った弾丸が天使の額に当たり、そのまま天使は石化し火の粉を上げて砕け散った。
しばらく固まったまま動けなかったが、一息つくと、体をそのままヘンリーの元と向かう。呼びかけても返事はない。ルーヴィックは注射器を取り出すと、振り上げる。振り下ろした手を遮ったのは、ヘンリーだった。
「それを二本打つのは勘弁してください」
力なく笑うヘンリーに、一瞬呆けるがルーヴィックも笑いながら隣に寝転がる。
「俺が不死身のルーヴィック・ブルーだ。って、本当に恥ずかしいことを叫びましたね」
笑うヘンリーに、ルーヴィックも笑いがこみ上げる。あれは必死すぎて口から出てしまったが、彼自身恥ずかしいことを言ったと思う。できるなら無かったことにしたい。
少し離れた所で呆けた顔をして座るユリアをレイが起こしている。
そして、二人はルーヴィック達の方へと歩いてくる姿を見ながら、意識が途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます