第6話

 家に着くとエアコンのついてない部屋は初夏の暑さでじっとりとしている。家を出てからそのままの部屋は軽い腐乱臭がして愛おしかった。私は冷蔵庫を開けて表面にななと書かれたプリンを取り出す。

「これ、あたしが風邪引いた時にそうたが買ってくれたんだっけ。ありがとね。」

「あたしプリン大好きなのよ、知ってると思うけど。あ、ぷっちんできるやつじゃなきゃダメだよ。やなの。」

 プリンはよく冷えていて滑らかでおいしい。カーペットは一面赤黒い色をしている。床には壊れたギター。

カレンダーは6月にめくれていて、16日に赤く丸がされていた。

「来月あたしの誕生日だね。でも早めのプレゼントもらっちゃったな。」

「あたしもう大丈夫だよ。狂うこともないし、不安になることもないし。衝動的になることもないし。」

「そうたのおかげだね。ふふ。」




「これね、新しいワンピース買ったの。そうたのギターも買ったんだよ。」

サイレンの音。赤い。窓。光。冷たい床。一人。一人。一人。ひとり。


 豆電球を見た時まるで卵みたいだと思った。オレンジ色の光が真ん中からじんわりと光を発していて、そこから離れると真っ暗になって、そこが殻。生命の光。市販の卵って無精卵らしいけど。ぼんやりした生命の光はあったかそうで眠くなる。暖色って安心感誘うんだって。違う。そんなこと。むかしはもっと無敵だった。言葉は飾らなくてよかった。なんだか眠くなる。まぶたが重くなって、徐々にまどろみの中に引き摺り込まれていく。夢と世界と映像と暗闇との境目が曖昧になっていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る