嬉々として虚構

金曜日

Temptation in a crowded train

満員電車

そこは現代に存在するパンドラの箱である。

果たして最後に残るのは希望か

それとも.........


はぁ、はぁ、、

思わず吐息が洩れる。

ダメだダメだと思いつつ自らをこうも制御できないとは。

冷静を装えない俺を周りの人間はどういう目で見ているのだろうか。

あぁぁぁ、ダメだ。


「きゃ、やめてください」


車内がざわめきだす。


「やめてください。今、さわりましたよね」

「やってない。そんな証拠どこにあるんだ」

「手を出してください」

「なんでだ」

「いいからだしてください。今はこういうものがあるんです」

声を上げた女性が痴漢対策用の印鑑を見せつける

「うぐぐっ。すみません。。。。」


なにか、遠くの方で騒いでいるようだ。

皆の視線が車内後方に集中する。

まてまて、メインディッシュこっちだ。

はぁ、ダメだ。でる。


ぷしゅ~。


俺を中心に周辺が騒めきだす。

そう俺は満員電車の中で屁をひねり出すことに快感を覚えてしまった悲しい運命を背負った男なのだ。

くさい。自分でも分かる。

露骨な不快顔をし周りを見渡す。そう、自分も被害者を装うのだ。

背中越しの頭焼け野原の中年サラリーメンすまんが犠牲になってくれ。


満場一致で、おじさんが犯人と納得したところで、異変を察知した。


太ももから膝裏を経由し脹脛へとつたう間隔。

靴下がその流れをせき止めてくれた。

そんなことはどうでもいい。

これは漏れている。油断した。

いっこうに消えない匂いに車内は騒然としてる。

むしろその匂いの範囲を広げている。


「ママ、くしゃいの」

「え、漏らしちゃったの。次の駅で替えようね。」


皆の視線が小さき者に集まる。

これは渡りに船だ。助かった。

周りは不快な顔もしつつも仕方ないかという雰囲気で停車駅に到着する。


トラブルはあったが、今日も気持ちがよかった。

また、やろう。


颯爽と電車を降りる成人の後姿は活き活きとしていた。

くその匂いをまき散らしながら。


「あら、マー君うんちしてないじゃない」


パンドラの箱には何も残ってはいなかった。

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