転移にはやはりそれなりの理由が必要だろうか?
いとより、鯛
プロローグ
『終わりの後』
身体って、どうやって動かしていたんだっけ。
ふとそんなどうでもいい事を思い、ゆっくりと身体を捻ってみた。うん動く、忘れてない。そのまま床に手をついて立ち上がって見る、大丈夫、立てるみたいだ。
ずっと身体を動かしていないと忘れてしまいそうになるから、偶に気が付いた時にちゃんと自分の身体が動作をするか、確認しないといけないのだ。運動とはとても言えないけれども。
身体を動かすついでに周囲を見渡して見るが、特に変わった事はない、見慣れた光景。真っ白な床が何処を見てもずっと続き、途切れた地平からは数多の星が煌めいている。
この星達は、かつての私達が成し遂げた誇りであり、私達が行動した結果であり、愚かな私が選択した罪でもある。
その全てに後悔は無い。反省もしてはいけない。
ただ、後悔も反省も無いけれど、最近になってまた思い出してしまうのだ。ここにくる前の事を。
そういえば、最後に交わした約束は、忘れた事が無いな。ぺたぺたと、裸足の足で歩きながらそんな事を思い出した。思い出して、それ以上を思い出すのをやめた。
それ以上は辛いと何度も経験したからだ。
結局、五十歩くらい歩いた所で立ち止まり、その場で仰向けになった。
こんな行為に意味は無いから、早く戻らないと行けない。私が、私であるべき場所に。ここにいると良くない事を考えてしまう。ここも向こうも厳密には変わらないけど、まだ向こうの方が変化はある。私は向こうでは動けないけど、ここみたいに停滞してはいない。
私は目を閉じ、元の場所に帰ろうとして、そう言えばどうやって喋るんだったかと、そんな事を思ったので、意識が引っ張られるのを感じながら、思いついた事を口に出した。
「どうやって笑うんだっけ」
うん、しっかり声が出た。まだ私は大丈夫。
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