27話 チート活用法
とんでもない、爆弾が落とされた。
しかも予想もしない伏兵から、そして、此度何故ダールトン・ミカエルが陛下に願ってまで同席を願ったのかもわかった。
ふざけないでっ、そう言って彼をそしてこの場に居ない第二王子を罵倒したい自身をなんとか抑える。
そうただただ、椅子の下で私は自身の靴で自身の靴を踏みつける。
決して相手に悟られる訳にはいかない。
冷静にならなければ、持って行かれる。
折角の好機だというのに。
それでも、これで一度この場を引くしかなくなってしまった。
「・・・いいえ、あの」
がくがくと不自然なまでに動揺を見せるミカエルに、私は視線を送ることも辞めた。
「そのっ」
「あぁ・・もしやラピスはご存じでは・・・」
濁された言葉の中に何故が同情まで含まれている気がする。
「お時間・・・こちらもいただきたいのですが・・・」
「えぇ、明後日、同じ時間にもう一度でよろしいですか?」
「っ・・・明後日では」
フェルメス侯がそう声を上げた。だが、彼はどこまでも無情に切り捨てる。
「申し訳ありません、こちらもあまり長いは、出来ないのですよ」
長居とは?どういう意味だ。
「・・・訳をお聞きしても?」
「私は、ただの前座ですから」
「はぁ?」
どういう意味だろうか。
意味深過ぎるセリフと共に、先に円卓を立ったのは、レムソンの人間達だった。
相手を見送るために私も立ち上がり、彼等に礼を尽くす。
「ラピス、次は机上にて」
そう告げて彼は部屋を後にした。
茫然とするジュヴェール国の人間達は、一人の青年の言葉によって絶望する事になった。
次期レムソンの宰相は確かに伏兵という役目を務めていたのだ。
ーーーー
レムソン側の人間が一人残らず部屋を出た。
広間の沈黙を破ったのは、諸悪の根源だった。
「・・・私は、・・あの者がレムソンの使者だとは、知らなかったのだ。」
「では、アレはなんですか?」
後ろに控えていた彼と真正面から対話するために、私はやっと椅子から体を向ける。いやなんというか・・・本当に。
未だにショックの抜けきらない心に影響を受けた体、膝がぐらぐらとしているが、それを彼に悟られるわけにはいかなかった。
机上に残された掌にのる程の一片の紙切れ。
だが、そこには確かに王子の名が書かれている。
あぁ・・見慣れた手記は、これが本当に第二王子のモノだとわかる。
「・・・それは」
「私は、この城にあなた方が帰ってから、一度としてこの件について、報告を受けておりません。・・あなたは、何者かもわからない相手にっ国を売り渡すのかっ!」
「ちがうっ!ただ・・あの時」
つい責めるような口調になってしまう。
でもこれはいくらなんでも酷過ぎる。
私の怒りに、マリーまで同調してしまう前に彼に事情を聞かなければならない。
おちつかないと・・・握り締めた手に自身の爪が傷が出来る。
「あなたはっ!これがどんな事を招くのか本当にわかっているんですかっ!!・・今すぐ、お話下さい。本当に王子は、国境にレムソンが砦を築く事を許されたのですか?」
「ちっちがうっ!!そんな事許される訳が・・・・ただ・・」
「ただ?」
「その・国営の診療所を・・国境の境に・・」
声がだんだんと小さくなっていったが、これでわかってしまった。
「・・・・あなた方はっバカなのですかっ!なぜ刻印もないような適当な用紙に王子がサインをするのを止めなかったのですかっ!」
つい苛立ちに任せて円卓を叩いてしまった。
「こんな紙切れ一つであなた方は、国を・・・」
あまりに怒鳴りすぎたせいか、めまいがする。
でもここで倒れている訳にはいかなかった。
残り2日とちょっと・・どうにかしなければならない。
「マリー・・・悪いけど、第二王子と他の・・・旅に同行した全ての人間に事情を聴いてきてっ!今すぐよ」
「かしこまりました。」
「御子様には、私が聞きに行くわ」
王妃様と陛下に報告して、事態の収拾に努めなければならない。
廃嫡が既に決まってしまっているのに、此度の件では、もう本当に庇いきれない。
「陛下には、此度の件を全て包み隠さずにお伝えしてください。フェルメス侯」
「ですが・・それでは」
「戦争は、なんとしても食い止めます・・・なにをおいても」
私の言葉に、やっとの事で頷いて、彼は、立ち上がると円卓の上にある資料を集め始めた。
「・・・バーミリオン、陛下には」
「ミカエル様・・・あなたが何を言おうとこれは、もうどうにもなりまんせんわ・・・」
私は、そう彼に告げた。
「あなた方は、ただ王子の忠臣であるとそう信じてましたが、そうではなかったのですね、主の間違いをその一命を賭してでもお停めする事もまたあなた方の使命です、それを放棄してあなた方は何をしていらしたの?・・・己がどんな立場なのか、よく考えなさい。」
まるで幼い子供を叱るように、私は懇々と彼を責めた。
「バーミリオン様・・こちらを」
資料を集め終わったらしいフェルメス侯が私に渡してきたのは、件の一片の紙だった。
「・・・ありがとう」
ボロボロのそれに見知ったサイン。
この紙を捨てられたらとそう思いながら、私はそれをじっくりと眺めた。
数行の内容だ。
「・・・・・っ!!(この紋章はっ・・・)」
・・・そしてそこに在った紋章に私は、一筋の光を見た気がした。
やれるかもしれない・・もしかしたら、勝てるかもしれない。未だ勝算は、1%未満だ。
でも、もしかしたらどうにかなるかもしれない。
だがそれには、時間が必要だった。
とても2日では足らない・・・、どうにかして時間を伸ばせないだろうか。
たとえば、なにかあちらにトラブルが起きたりとか・・。
なんとか時間を作り出したいが、いい案が浮かばない。
・・・いや、たった一つある。
だが、それには、御子様に協力を願い、彼女にあのバカ公爵の相手をしてもらうというものだ。
これも賭けだ。
もしも何かしらの問題が起これば、彼女は、レムソンへと連れて行かれ政治の道具として扱われてしまうだろう。
まだ子供の彼女にそのリスクを負わせてまで、時間を得る事が最善なのか。
でもそれでも・・・この国のためにとどこまでの冷静にもう一人の私は、既に思考を巡らせる。
この一片の紙にたった一つ残された一筋の光。
覚えのある紋章。
・・・チートっていうのよね。コレって。
そう、ゲーム内で見た記憶。おぼろげでも確かに・・。
このままではいられない。
先ほどのバカとの短いやり取りで大体は予想がついてしまった。
この紋章でそれは確証に変わった。
『国営の診療所』をというのは、多分間違いなく御子様の思いつきだろう。
それをレムソンに利用されたのだ。
そして、見事に騙された王子達は、立ち合い人を付けてこの馬鹿げた条件を許諾したのだ。
私の前に置かれた紙の横、無造作に置かれた文書。
「・・・・バーミリオンっ、頼む、此度の件全て僕の」
「あなた一人が今更何をした所でもう遅いのです。・・・あの旅で、あなた方が国を救った事をふまえても」
「なっ待て、御子様はっあの方は、本当に王子を愛してますっ!」
元婚約者の前でよく言えるなぁと半分呆れながら、それでも私は既に決めてしまった。
「そうですか、それが?」
あえて切り捨てるように言い切る。
「頼むっ、レムソンには」
「いい加減にしてくださいっ!国を救った英雄ともてはやされた、その結果がこれですか!」
本当は言いたくなかったが、それでも此度の件はとてもじゃないが許せなかった。
「っ」
「主を、そして国を守れぬ臣下などいりません。・・・ですが、あなたには、見てもらいます。自身の過ちが何をもたらすのかを」
そうここで彼をこの戦場から降ろす訳にはいかなくなった。
これから連れてくる筈の大事なキーマンにとってこのミカエルは、とても重要な意味を持ちうる人物だから。
「なっ!僕はっ」
「あなたは、自覚なさい。自身の無力を・・・」
私は、そう彼に言い捨ててその場を後にした。
『待てっ、待ってくれ』その声が私の背に追いすがるが、それを無視し私はそっと広間を出た。
やるべき事はたくさんあるのだ、こんなバカ息子などに構う暇はないのだ。
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