羽入 唯 アゲインの続き


「昨日のお願い覚えてるかな……?」


 一通りお昼ご飯を楽しんだあと、羽入さんはおそるおそるそう聞いてきた。


「緋色のことで協力してほしいってやつ?」

「そう! よかったぁ、覚えててくれて……」


 もしかするとさっきまでの至れり尽くせりは、羽入さんなりの気遣いだったのではないかと思う。


「でも、具体的に俺は何をしたらいいの?」

「緋色のイベント実装は来月に予定されてるの。だから、それまでの間、小津くんの登下校とお昼の時間を私にもらえませんか!? 全部小津くんの都合に合わせるし、お昼も迷惑じゃなかったらこの間は私が用意するよ!」

「いや、そんなの悪いって……」

「ううん、むしろさせて。私の都合で小津くんを巻き込んじゃったんだから、これぐらいしないと私が我慢できないの!」


 羽入さんの表情は昨日と変わらず真剣だった。更に一歩も譲る気はないようにも感じられる。

 

「わかった。羽入さんがそれで良いなら」

「やったぁ! ありがと! 頑張るねっ!」

「お手柔らかに」

「むしろビシビシ厳しくよろしくね!」


 羽入さんは燃えやすい一面もあるようだった。


「小津くんはどうやって通学してるの?」

「えっと、俺の家は一駅で、駅からはバスで通ってるね」

「なるほど。いつも何時ぐらいの着くの?」

「8時20分くらいかな。羽入さんは?」

「私は……まぁ、同じ感じ!」


 羽入さんの声を重なるように、昼休み終了のチャイムが流れた。

どうやら今の楽しい時間はここまでらしい。

 

「メッセージアプリも登録して大丈夫?」

「良いよ」

「ありがと! 後で申請しとくから承認よろしくね。じゃ、また放課後!」


 愛らしい笑顔を浮かべつつ、羽入さんはそう言って、足早に屋上から姿を消す。

 相変わらず穏やかだけど、嵐のような人な気がする。


「これ、現実だよな……?」


 一人になり、改めてさっきまでの出来事が信じられない武人だった。

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