★Aパート:何か飲む
「とりあえず何か飲もうか」
「そうだね」
ということとなり、二人は飲み物を選んで注文をした。
暫くすると武人が注文が届き武人の前へはグラスに入ったコーラが、羽入さんの前には、
「こ、これは……」
「なんか想像以上だったかも……」
透明な水差しピッチャーに並々注がれた、エメラルドグリーンのメロンソーダ。
その上にはドドン! と、三つのバニラアイスクリームと、彩りとして真っ赤なチェリーが添えられていた。
多分、二人用なのか――二人用でも随分多いが――二本のストローが突き刺さっている
お値段、これ一杯で1500円。このカラオケボックスの名物メニュー"キングクリームソーダ"である。
「じゃあとりあえず、これからよろしく?」
「こちらこそ!」
小さなグラスと大きなピッチャーでの奇妙な乾杯と相成った。
ズズッとコーラを飲み込めば、強めの刺激が喉を通り抜けてゆく。染み渡る。どうやら相当喉が乾いていたようだ。
もう一口、ズズッと。この味はコ◯コーラかペ◯シか、はたまた業務用の怪しげなものか? 一見どうでも良いことのようだが、今の武人にとっては頭を動かすことこそ重要なこと。
隣ではずーっと縁がないと思ってた羽入 唯が、嬉しそうにアイスクリームを頬張り、メロンソーダを美味そうにすすっている。
学校での高嶺の花かつ、自分が愛するキャラクターの現役の中の人。コーラの出自などを考えていなければ、緊張で頭がどうにかなりそうだったのだ。
そんな調子なのだから、氷がたっぷり入ったコーラなどあっという間になくなってしまうのは自明である。
緊張のためか、まだまだ喉が乾く。武人はもう一杯頼もうと立ち上がる。
「何か注文(たのむ)の?」
「喉乾いててさ。もう一杯もらおうかと」
「あ、あの! よかったら飲まない……? さすがにちょっと多くて」
羽入さんはまだまだメロンソーダがたっぷり入っていたピッチャーを指し示す。
少し溶け始めたアイスクリームがなんともそそられる。
が!
「それはちょっと……」
「そうだよね。人の飲みかけなんて嫌だよね……」
羽入さんは、やや的外れな回答をし、落ち込んだ様子を見せた。
誰が羽入さんの飲んだものを汚いなどというものか。ただ恥ずかしいだけ。それだけである。
「ごめんね邪魔して」
「いや……」
羽入さんはなぜ謝るときに、いつもこんなにまで切なげな表情をするのだろうか。
「やっぱもらうよ。たしかに多そうだし……」
もうどうにでもなれ! 武人はピッチャーに突き刺さった未使用のストローを咥えて、ずずっとすする。
甘酸っぱい味わいが、口から全身へ広がってゆくような、不思議な感覚だった。
「ッ!?」
「ん?」
と、羽入さんも隣でストローを咥えて、メロンソーダを吸い始めた。
意図せず武人の羽入さんは二つのストローで、一つの飲み物を飲んでいた。
これはアレだ。巷でバカップルがよくやってるやつだ!
「おいしいね!」
しかし羽入さんは自分が引き起こした事態が、一体どんなものかわかっていないらしい。
実に爽やかな笑顔である。
「そ、そうだね」
「これってみんなでカレーを食べると美味しい、と同じなのかな?」
「それ、"外でカレーを食べると"じゃなくね?」
「そうだっけ?」
「たぶん」
案外羽入さんは抜けているところがあるのかもしれない。
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