魔女と骨 6
わたしはこの大陸の主である大樹の精霊の子。古くからこの大陸を守ってきた。魔王の瘴気に毒された『悪しきもの』を浄化するために、日々、戦っていた。何十年も、何百年もこの大陸を守るために……戦い続けてきた。
ある時、魔王の瘴気が強くなり、強大となった魔獣と渡り合うために、わたしにはより強い力が必要となった。
悪魔との契約により、わたしは強い力を得ることに成功した。悪魔を欺くことはできたが、心臓と魂を容れた器をなくしたわたしの肉体は朽ちていった。
長い長い戦いに疲れ果て、傷ついたわたしは、生まれいでた大樹の下で、その命を閉じようとしていた。
そこでわたしはおまえと出会った。おまえはこの出会いを覚えてはいないだろうがな、ルートよ。
「おばあちゃん、どうしたの? つかれちゃったの?」
見上げると、小さな子供がいた。それがルート、おまえだ。
そう、この時わたしは、枯れた枝のような老婆の姿だったのだ。
「……あぁ、そうだね。長いこと生きて、疲れてしまったよ」
「だいじょうぶ? このリンゴを食べたらげんきになるよ!」
差し出されたそれは、リンゴに似ていたが、中身はまるで別物のとても神聖な物だった。
わたしはそれをかじった。全身に力がみなぎっていった。朽ちた肉体が癒されるのを感じた。
「おいしい? おばあちゃん」
「……あぁ、おいしいね。とてもおいしい」
「おばあちゃん、泣いているの? どこか、痛いの?」
「……いいや。どこも痛くないよ。嬉しんだよ。優しい子だね」
誰にも関わらず、感謝もされず、ただこの大陸を守る使命だけに生きてきたわたしの『生』が、全てが報われた気がした。
「よかった! またあした、リンゴもってくるね!」
それから毎日、おまえはわたしに実を届けてくれた。
あとでわかったことだが、その実はこの地に根付いた世界樹の子に成ったもの。わたしの親戚みたいなものだな。からだによくなじむわけだった。
「ぼうや。もう、リンゴはいらないよ。ありがとうね」
「え? もう、だいじょうぶなの? ほんとうに?」
わたしは立ち上がり、宙に浮いて見せた。
「わぁ! おばあちゃんすごい! まじょさんだったの?」
「ふふ。そうさね。わたしは魔女さ。みんなを守るよい魔女だよ」
「すごーい! じゃあ、ぼくがこまっているときは、たすけにきてね! やくそくだよ!」
「ああ、その約束、必ず守ろう」
その約束を守るため、わたしはおまえの側にずっといた。
ある時は鳥に化け、犬に化け、危険からお前を遠ざけた。
予期できなかったのは、あのバケモノ大蟻の存在だった。あれは確かに、この大陸の種ではない。しかし、ずっと昔からいたのだろう。初めて見るモノを相手に対処が遅れ、おまえは死を免れない大怪我を負った。
おまえを生き長らえさせるための苦肉の策が、お前の心臓と魂とわたしを一体化することだった。おまえはわたしの一部分として生きているのだ。わたしの魔力が尽きない限り、おまえは死ぬことはない。
こんな形でしか、おまえを守ることができずに申し訳なく思っている。
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