魔女と骨 5

『あらぁ。まさかここまでたどり着くなんてね。ずっと見てたわよぉ、魔女のルージュさん♪』

 そいつの見た目は人間の女に似ていたが、とにかくでかかった。成人男性五十人分くらいはあるな、こいつ。頭には蟻のような触角。寝そべり、頬に右手を添えてこちらを見下ろし、不敵に微笑んでいる。


「返してもらうぞ。わたしの心臓と魂を」

『あははぁ。できると思っているのぉ?』

「力づくでもやるさ」

『こわいこわい。でも、いいのかしらぁ? アナタの心臓と魂の入った器は、ワタシの手の中よぉ。変な動きしたら、すぐに握りつぶしちゃうんだからぁ』

「……く」


 ふ。と蟻の女王はわらう。


『まぁ、ちょっと落ち着いてぇ、見てよぉ、ワタシのコレクション』

 蟻の女王の存在感で気づかなかったが、周囲はなんと金銀財宝の山。どれだけため込んでやがるんだ、こいつ。

「……頼む。返してくれ。それがないと……」

『アナタみたいな人でも自分の命が惜しいのねぇ』

「いや……わたしのことなどどうでもよいのだ。わたしの望みはただ一つ」

『ま、どうでもいいけどぉ。ワタシが欲しいのは美しいものだけ。この金の器もキレイなんだけどぉ、アナタの心臓と魂もキレイなのよねぇ。手放したくないくらいに。うふふ』

 蟻の女王はうっとりと金の器を眺める。

 その目がゆるりと動き、突然オレを凝視する。


『あら? あらあらあら? 何それ? 何それ!?』

 蟻の女王はオレの被っている金色の腕輪を見て目を輝かせている。

『それ、超レアアイテムじゃない!? ワタシの“鑑定眼”でもわからないアイテムなんてぇ! しかも何かとんでもない魔力が秘められてるわぁ! ねぇねぇスライムちゃん、この器とソレ、交換しない?』

「え? いいよ」

『ほ、ほほほほホントぉ!?』

「お、おい! いいのかよスライム。それ、大事なモンなんじゃ」

「え? 別に」

 なんかすごいレアアイテムっぽいけど、もらいもんだし、特に愛着もないし。


『え? やっぱり返してって言っても、もう返さないからねぇ? いいのぉ?』

「いいってば。それよりその金の器、返してやれよな」

『わかったわぁ』

 あっさりと交渉成立し、金の器はルージュのもとへ戻った。


『うふふ! いいモノが手に入ったわぁ! ワタシはね、別に争いがしたいわけじゃないのぉ。キレイなものに囲まれて生きていきたいだけ。邪魔をしなければ危害は加えないわぁ。それじゃ、入り口まで送ってあげるからさっさと帰ってねぇ。この腕輪をじっくり堪能したからぁ』

 拍子抜けしたが、どうやらこれで一件落着したらしい。

 オレたちは蟻の女王の魔法で、遺跡の入口まで飛ばされるのであった。


「小さきスライムよ。重ねて礼を言う。売れば一生遊んで暮らして有り余るほどの金となるようなアイテムを、我らのために……」

 なんと、それほどまでの価値が。

「ま、金にゃ執着はねぇし、困ってたんだろ? いいさ」

 ただ、ちょっとリーフにゃ申し訳ねぇかもだけど。


「器のでかいスライムなんだな、お前。そういや、名前はなんていうんだ」

「テリーだ」

「テリーか。ありがとうな。よかったな、ルージュ。これで――」

「ああ。これでおまえを、救うことができる。ルートよ」

「……は?」


 ん?

 オレとルートは顔を見合わせた。

 何か聞いていた話と感じが違うな。

 ルージュからはあの独特の不吉な気配が消えていた。真逆の優しい雰囲気だ。心臓と魂が手元に戻ったからだろうか。


 戸惑うルートに、ルージュは静かに語りかけた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る