第18話 ユウキの試練
「ユウキ!!」
戦いを見ていたステラと十剣士が、背中から血飛沫が噴出しているユウキをかばう様に躍り出た。
「ユウキ、大丈夫なの!?」
ステラが、叫んだが返事は無く、ユウキはゆっくりと地上へ落ちていった。
「サルガス! ユウキをお願い!」
「承知!」
サルガスが、ユウキを受け止め味方の兵士達の居る所へ連れて行った。
「許さん!」
ステラは叫びながら修羅化していた。そして、スーパー羽衣を起動して、ヤミに突っ込んでいった。
「ステラ、死んでもらうぞ!」
ステラとヤミの戦いが始まった。ステラは、スーパー羽衣を使ってヤミを追い詰めようとしたが、修羅化してパワーアップした彼女の力でも、ヤミの動きが速すぎて捕らえきれなかった。
十剣士が取り巻いて、一気に攻撃しようとしたが、ヤミのスーツから無数の蛇が顔を出してレーザー光線を吐き出し、十剣士を寄せ付けなかった。
ステラ達もヤミを攻めきれなかったが、ヤミのスピードとパワーをもってしても、スーパー羽衣を破壊する事は出来ずに、時間は過ぎて行った。
「全軍、こやつらを蹴散らせ!!」
ヤミが痺れを切らして号令をかけると、海岸に居たネーロ軍の一万の部隊が、イナゴの大軍の様に黒い塊となって、ステラ達に襲い掛かった。ステラのスーパー羽衣に触れた兵士達は、次々と血飛沫を上げて砕け散って、十剣士もその剣で懸命に戦ったが、一万の敵相手では戦いにならなかった。やがて、ステラ達はネーロ軍のスーツ部隊の黒い雲に飲み込まれてしまった。
その時である。赤と青の二つの飛行体が何処からともなく現れると、ステラ達の前に飛び出し、ネーロ軍と対峙した。それは、二体のロボットだった。
赤いロボットは、その身体を炎と燃やしながら、ネーロ軍目掛けて巨大な火炎弾を放つと、数十万度の凄まじい火炎が空を焦がし、無数のネーロ兵を一瞬で焼き尽くした。
青い炎のロボットは、クリスタルの身体から、絶対零度の冷凍波をネーロ兵に浴びせると、彼らは一瞬で凍りつき、砕け散った。
あまりの破壊力にネーロ軍は、逃げ惑い、ぶつかり合って総崩れとなったが、ロボット達の容赦ない攻撃は続き、一万のネーロ軍は、数分で壊滅してしまった。二体のロボットは役目を終えると、光となってフッと消えた。ステラ達は、不思議なロボットの出現に驚くばかりだった。ヤミは、命からがら逃げ帰っていった。
このロボットの正体は、エイリアンの攻撃型ロボットで、赤い方は炎を使うフレア。青い方は氷(絶対零度)を使うルナ。二体ともエイリアンのスーツの守護神である。
数日が経って、ユウキはコスモタワーの、蘇生カプセルの中で目を覚ました。
「ステラ、……ここは何処だ?」
「コスモタワーの中よ。良かった、もう三日も眠り続けていたのよ」
カプセルを心配そうに覗き込んでいるステラの顔が鮮明になって、ユウキは我に返った。
「ネーロ軍はどうなった!?」
ユウキが起きようとすると、背中に痛みが走って身体が動かせなかった。
「ステラ、僕の身体はどうなっているんだ?」
「……脊椎の神経をやられたの。下半身が麻痺して、戦士としての復帰は難しいそうよ」
ステラの目に涙が溢れた。彼女は暫くこの事は言わずにおこうかとも考えたが、すぐに分かる事だと思い直し、敢えて本当の事を告げたのである。
「なんて事だ……」
ユウキは、衝撃の事実に愕然として言葉が続かなかった。
「この世界の医術は優れているから、きっと歩けるようになるわ」
「……」
ステラの言葉も、ユウキにはただの慰めにしか聞こえなかった。彼の瞳からは、既に光が消えていた。
ユウキは、二週間ほどで、カプセルから出ると、ライト王国から来た医療チームの手術を受けたが下半身の麻痺は治らなかった。
彼は、新築されたステラハウスで療養する事になり、ステラが看病についた。
破壊尽くされた、サウスシティだったが、ライト王国の応援もあって、基地の復興工事が始まっていた。ユウキは窓越しに、その建設の槌音を聞きながらも心は虚ろだった。戦士となって、この国のために働きたいという願いが潰えた今、彼の心を支えるものは何も無かった。
「あなた。車椅子で散歩しようか?」
ステラが、ベッドから降りようとしないユウキに声を掛けた。
「そんな気分じゃない」
ユウキが顔を背けた。
「そう、じゃあ二人でゆっくりしましょう」
「お前も、忙しいんだろう。僕の事はいいから、任務についてくれ」
「私の任務は、此処であなたの妻を演じる事よ」
「……」
弱気になったユウキが涙ぐむと、ステラがベッドに入って、優しく彼を抱きしめた。
それから一月が経った頃、ステラの愛に包まれたユウキは、次第に元気を取り戻しつつあった。彼にとっての支えがステラの存在だった事を思い出したのだ。
その日は、ステラが、彼を散歩に誘った。
「あなた、岬まで散歩しない?」
「そうだな。海が見たくなった。行こう」
ユウキは移動カプセルに乗って、ステラを伴って岬へと向かった。移動カプセルは直径一メートルほどの球形の乗り物で、重力制御で何処へでも飛んで行ける優れものである。
「こいつは凄いな。面白いぞステラ!」
ユウキは移動カプセルを操って、自在に飛んで見せた。
「余り、はしゃぎすぎたら、落っこちるわよ」
二人は遊びながら、岬の先端へとやって来た。
海は凪いで、太陽を浴びた波がキラキラ光っていて、爽やかな風が二人の頬を撫でた。
「ああ、気持ちがいいな。生き返った気分だ」
ユウキは、大きく深呼吸をして新鮮な空気を吸い込んだ。
「ほんとね。お弁当でも持ってくればよかったわね」
二人は、暫く岬の辺りで時間を過ごしていたが、不意にユウキが真剣な目になって話し出した。
「ステラに聞いてほしい事があるんだ。このままでは、僕は、ステラのお荷物になるだけだ。この国の為に戦う事も出来ない。そこでだ、戦士として戦える方法が一つだけあるんだ。例のエイリアンのスーツを着用しようと思う」
「でも、それを装着すれば、人間ではいられなくなるんでしょう。私は反対だわ」
「何故だい。機械になってしまっても完全に死ぬわけじゃない、自分というものは残るはずだ。ステラを忘れたりはしない。戦えない戦士では死んだも同然じゃないか。苦労して此処迄来た意味がない」
「私と夫婦になれたじゃない、それだけでも来た意味はあったわ」
「分かってくれステラ。博士に二人の赤ちゃんを抱かせる約束は守れそうもないが、どうせ死ぬなら、この国の為、いやこの星の為に戦いたいんだ!」
ユウキが懸命に頼んだが、ステラは首を縦には振らなかった。彼女は、戦士として戦いたいというユウキの気持ちが痛いほど分かった。だが、エイリアンのスーツは余りにも分からない事が多すぎて不安が先に立った。それに、機械となったユウキを愛する自信がなかったのだ。
次の日、ステラがライト王国に出掛けると、ユウキは、密かに移動カプセルに乗って、ストレンジ博士の研究所に向かった。
「ユウキ、出歩いて大丈夫なのか? そんなもので此処迄来たのか」
移動カプセルに乗ったユウキを見て、ストレンジ博士があきれ顔で言った。
「戦闘スーツの様に早くは飛べませんが、二時間で来られました」
ユウキは、さすがに疲れた様でフーと息を吐いた。
「その様子では、ステラに内緒でやって来たんだな?」
「バレちゃいましたか。それで……博士に折り入ってお願いがあるのですが」
「エイリアンのスーツの事じゃな?」
「お見通しですか。あのスーツを着用させて下さい。ステラは納得していませんが、こんな身体になって腹が決まりました。お願いします!」
「よし、いいだろう。万が一の時は、骨は儂が拾ってやろう」
博士は、そう言って、奥の部屋の鍵の掛かった引き出しから、エイリアンのスーツの指輪を取り出して、ユウキに渡した。
ユウキがその指輪を装着すると、孔雀の戦闘スーツが彼を包んだ。
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