第29話 Dランクの仕事

 いつものように、僕は朝早くからギルドへ来ていた。今日からDランクの依頼を10件こなさなければならない。


 昨日は午前九時頃から午後五時くらいまで、一時間ほど休憩入れつつ、ムチなどの広い練習場所を必要とするものの鍛錬をギルドの練習場を借りて行っていた。

 ただ残念なことに、その約七時間では特に能力の段階が上がることも、能力を覚えることもなかった。ムチの比較的簡単な技ですら一つも。


 まあ、それが普通だ。いくら特技強化・極とはいえ一昨日、一気に色々習得できたことの方が異常なんだ。あれに慣れてはいけない。

 でもだったら、なんであの時はあんなにも……? うーん、冗談抜きで本当にラッキーだったのかもしれない。


 それはともかくDランクの依頼1件目を選ばなくては。とりあえず討伐でいいだろうか。

 目に入ったのはカマンティス一体の討伐。場所は昨日と同じ川辺で報酬金は3万ハンス。悪くないけど、僕、虫系の魔物嫌いなんだよなぁ……。

 いや、贅沢は言ってられない。そもそも僕の武器は遠距離から攻撃できる。近づかなくていいのだから、遠くから倒して、依頼達成の証を回収するその一瞬だけ気持ち悪い思いをすればいい。


 というわけで、僕は馬車に乗って昨日と同じ川辺に行き、探知計でカマンティスを探した。

 流石にDランクの魔物だけあってマッスルカエルのようにすんなりとは見つからず、40分近く歩き回ったけど、なんとか一匹発見することに成功。


 油断はせず、相手が気がついてないうちから『シィ・スピダウン』をかけられるだけかけて抵抗できないように。


 そして昨日、単発で技を使ってもマッスルカエルを一撃では倒せなかった反省を活かし、今回は僕自身とムチの速度を限界まで上げ、ギアウィップとパワーウィップを掛け合わせた。

 首を狙ったこともあってか一撃でカマンティスを倒すことができ、気持ち悪い思いをしながら腕の一部分を回収。即行で持って帰って依頼を完了した。


 それでもまだ全然朝と言えるような時間だったので……今日だけで稼いだお金で今よりいい探知計に買い換えるの悪くないなと思いついてしまい、受けられるだけ依頼を受けてみることにした。


 昨日、一つ一つ丁寧にこなしていこうと決めたはずなんだけれど……実際にやってみたらEランクの時とさほど変わらなかった。つまり、このランクでもまだ、僕にとって昨日のように慎重に考える必要もなかったということだ。


 ……僕の通っていた学び舎では、飛び抜けて勉強のできる子には、学年に沿った内容の他に、希望次第で追加でもっと進んだ授業を受けさせてあげるという制度があった。

 それと同じだ。たくさん仕事をこなせるなら無理のない程度に数をこなして仕舞えばいい。だって一日に何件も仕事を受けるのは禁止されていないし、マスターもいいよって言っていたから。


 まあ、一つ一つの仕事をきちんと仕上げるのと、仕事をたくさんこなそうとするのは別。世間の評価を得るために課されたDランク10件なんだし、仕事の成果が雑になったら本末転倒。そこらへんはしっかり気をつけよう。


 と、いうわけで僕はそれからハブラシカを討伐する依頼と魔獣樹をへし折る依頼を連続でこなした。

 どちらも倒し方はカマンティスとそう変わらなかった。

 今回、一つの依頼をこなすのにかかった時間は移動を含めて平均3時間。手に入れた報酬は計10万6000ハンス。


 魔獣樹を折る依頼の完了の報告をした時間でも、まだ夕方前。

 そのまま金貨を握ってラトビア商店へ。すぐに店長さんを発見したので捕まえ、10万ハンスの探知計が欲しいと相談した。



「坊主は10万ハンス以上じゃないと買い物だと認識しない……とかじゃないよな?」

「そんなふうに金銭感覚は崩壊してませんよ。より良いものが欲しいだけです」

「だよな、うん。噂ではもうDランクらしいし別に不思議なことじゃなかったか。ちょっと待ってな……」



 いつものように店長さんは希望のものを持ってきてくれた。説明を聞く限り、明らかに今使っているものよりモノがいい。10万ハンスだから当然だけど。

 これさえあればもっと仕事が楽になるし、目的物を見つけるまでの時間も短縮できるだろう。

 そのままちょうど10万ハンスを支払い、質の良い探知計を手に入れた。



「また、何かあったらよろしくお願いしますね」

「たまには売りに来たりしろよな。一度きりの来店の客をのぞいて、こちとらもう120万ハンス支払ってもらってるのに、逆に1ハンスも渡してない冒険者なんてそうそう居ないからよ」

「わかりました」



 そうは言ってもお店に売る余分な物がないんだから仕方がない。冒険者らしく、仕事のついでで手に入れたものを売る。そういうやりとりにちょっとした憧れくらいあるんにはあるんだけど。


 それからは特にすることもなかったので、ギルドに戻り、昨日のように練習室にこもってムチ打ちや魔法の練習をすることにした。

 練習室には個室と大部屋の二種類があり、昨日は個室に入ったけど今回は大部屋の方に入ってみた。


 理由はスミスさんが言っていたように、誰か他の人の練習を見て参考にできることがあるかもしれないから。今後とも、練習室はうまく使い分けていこうと思う。






==========

(あとがき)

※毎日閲覧・レビュー、お気に入りありがとうございます!

今日も午後10時にもう一本投稿します。



<魔物紹介>


カマンティス/Dランク


腕が本物の鎌のようになっているカマキリ。大きさも150センチくるいある。他の虫の魔物が主食。

個体によっては自分の鎌にエンチャントをし、技、スラッシュで斬撃を飛ばしてくるので油断はできない。

ちなみに食べても美味しくない。



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