第30話 魔法のアイデア
Dランクになって三日目。
今日も一昨日や昨日と同じように討伐系の依頼を三つ受けて、残りの時間は鍛錬に当てる予定だ。
昨日は新しく買った10万ハンスの探知計のおかげで一昨日に比べて仕事にかけた時間が狙い通り大幅に短縮された。その浮いた時間を鍛錬にまわすことができた。
こうしてたっぷり大部屋の方で鍛錬できたおかげだろうか、他人が行っていた鍛錬を参考に、ついに新しい魔法を生み出すアイデアを閃くことができてしまった。
故に夕方からは図書館の閉館時間までこもって、そのアイデアに使えそうな本を頭に詰め込んだり、借りたりした。
実用的かどうかは置いといてとりあえず魔法を作れば好きな能力を1段階上げられる。茨の道になりそうだけど、ぜひとも実現させなければならない。
……そうして今はまたいつものように、僕は、依頼用紙が貼りつけてある掲示板を眺めている。
もうすでに一つ依頼をクリアしてしまったため、あと2件。
そして現段階の目標であるCランク昇格まであと3件。この調子なら明日中に終わらせることができるだろう。
「やあギアル。今日も頑張ってるね」
「マスター、おはようございます」
マスターの方から声をかけてくるのは三日ぶりだろうか。一昨日と昨日は挨拶くらいしかしなかったし。
「うん、おはよう。まさか二日で一気に6件も依頼をこなし、今日もすでに1件終わらせるとはね。ギアルの熱意は常に俺の想定の上を行く」
「恐縮です」
「……ただせっかく10件、次のランクに進むまでに経験を積むチャンスなのに全部討伐系の依頼で終わらせるっていうのはもったいないんじゃないかな?」
「……あっ」
決して早くランクを上げるためではなかった。どちらかというと、自分の鍛錬の時間を長く取るため。そのために様々な仕事を経験しておくという大事なことを疎かにしてしまっていた。
というか元々、この10件という猶予はその経験のためだったんだろう。
「採取とか護衛とか調査とか。討伐以外にも依頼はたくさんある」
「そう、そうですよ。見失ってました。残り3件は討伐以外にしてみます」
「良いね」
マスターは満足そうな表情を浮かべて、食堂の方に消えていった。
となるとすで目をつけていた一昨日と同じ内容のカマンティス討伐の依頼はやめおいて……本日二件目はこれがいい。
とある村の近辺にCランクの魔物ゴゴブリンが出現したため、住処の突き止めて欲しいという調査の依頼。
住処を突き止めたらBランクの冒険者に引き継ぎ、そこにたくさん居るであろうゴブリン系の魔物を一網打尽にするつもりらしい。
こう言った上位ランクが仕事しやすいようにするための下準備を下位ランクの冒険者が行うという依頼もたくさんある。
僕は速く動ける。つまり何かあったら即座に逃げられる。こういった偵察も悪くはなさそうだ。
仕事の流れとしてはまず、シャンプ村という所に行き村民達に詳細を聞く。それを頼りにゴゴブリンの住処を発見、紙に記す。その紙を村民達に手渡し、達成証明書をもらう。その証明書をギルドに持ち帰って提出すれば報酬金がもらえる。
シャンプ村はここから普通の馬車で片道4時間かかる場所にある。往復8時間……まあ、こういった丸一日かかる仕事に慣れておく必要もあるだろう。経験のために目を瞑ろう。もっと上のランクだと丸三日以上かかるものもあるらしいし。
さっそく依頼用紙を掲示板から剥がし受付に持っていった。そして馬車の手配をする。馬車を貸してもらえたら、近くのお店で長時間移動用の食料を買い込んでから、すぐに乗り込み出発した。
片道4時間あるのだから場所の中ではいつものモノを対象にした魔法の練習はできるはず。そう考えたら鍛錬のためにわざわざ時間を取るのと変わらない。ムチを振るうことはできないけど。
また、閃いたアイデアについての考察だって頭の中で考えればいいことなので今も全然問題なくできる。
魔法の練習か、アイデアを進めるか。ちょっと迷った結果、今の時間は昨日閃いたアイデアに沿って新たな魔法の開発を始めることにした。
その魔法とは、エンチャント。
マホーク君が斧に雷属性を纏わせたり、アテスが剣に風属性を纏わせたりしていたあれ。それの速度版を作ればいいというのがアイデアなわけだ。
このアイデアが湧いたきっかけは、大部屋で練習していた剣士三人が偶然、同時にエンチャントで剣に属性を付与したのを見た時だった。
ふと、頭の中で「なぜ補助魔法には、割と多くの人が扱えるエンチャント系の魔法すら存在しないんだろう」と少し妬んでしまった。……まだ魔法が4つしか無いの、僕は割と気にしている。
そして無いなら作ればいいという発想になり、今に至る。
ただ、着眼点はいいかもしれないけれど大きな問題がある。
それは『速度』をエンチャントしたところでどんな効果が付与されるかまるでわからないということだ。
わからないから練習のしようがない。練習できなければ習得できない。
前例がなく、おそらく僕が世界で一番最初に試みるものだから仕方がないとはいえ、付与される効果も僕が考えなければならないということになってしまった。
エンチャントとは本来、相手に向けて放つ攻撃魔法をわざわざ武器に付与して武器を強化するものだ。本にそう書いてあった。
そういった元の魔法とはっきりとした違いがあるから一つの系統として成立するらしい。
しかし、僕の放つ速度魔法は、すでに武器にも恩恵がある。だから本当はエンチャントなんて必要ない。
でも僕は速度のエンチャントをつくりたい。だったら速度が関連する内容で「武器を速く動けるようにする」以外の強化できる効果を何か考えなくてはならないんだ。
要するに、【速度暴走】を編み出せたときのような発想をもう一度しなきゃいけない。
なかなかに骨が折れそうだ。
エンチャントについて掘り下げた本、補助魔法がもたらす恩恵を職業ごとに分けて紹介している本、速さがうりの冒険者の名前を集めた名鑑。その他参考になりそうなものを何度も何度も読み返してみた。
でも手がかりなんてあるはずがなかった。本が頼りにならない上に、今は速度暴走に対しての弓の原理のように参考にできそうな例えもない。
ただ、ただ答えのないものを考え続けるだけであっという間に4時間が過ぎシャンプ村が見えてきた。
残念だけど、まあ、4時間で新しい魔法が完成したら誰も苦労はしない。気を取り直してしっかり働こう。
==========
(あとがき)
※明日の投稿も午後6時と午後10時です。
<この世界の馬車について>
この世界の馬車は御手がおらず、馬の魔物が運転してくれている。その馬が元々目的地を記憶していたり、目的地までの地図を食べさせると該当する場所へ移動する。魔法やアイテムで記憶に埋め込む場合もある。
魔物なので補助魔法をいくらかけても大丈夫なもの、戦闘に参加してくれるもの、空を飛ぶもの、海を走るもの、溶岩が平気なものなど様々な種類がある。
また、物によるが多くの馬車の車内は見た目より内部が広くなるよう魔法をかけれており、大体のものは最低でも4畳半ぐらいの広さはある。
(非常に励みになりますので、もし良ければ感想やレビューやコメント、フォローなどをよろしくお願いします!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます