第24話 鞭打ち

「でも、いったいいつ魔法を唱えたなの?」

「脳内詠唱か、無詠唱がないと、できない芸当。しかもこの速さだと、高速詠唱や連続魔法もあるかも。しかも一回魔法をかけた程度じゃこうはならないだろうし、重複補助も……」

「加えてBランクの魔物にいとも簡単にマイナス効果の補助魔法をかけちまうその魔法の強力さねぇ」

「なるほど、通りで話題になるはずなの……」



 周りの草木まで遅くするつもりはなかったけど、慌てていたから仕方がない。むしろ日頃の特訓の成果がちゃんと出てるってことだし喜ぶべきだろうか。



「速度魔法だけ、ってもの、バカにできない」

「むしろリン達より強いなの?」

「……そうでぃ! なぁ、ギアル。ちょっくらお願いがあるんだがよぃ」

「なんでしょうか?」



 スミスさんがお願いしてきたことはこうだった。

 これほどの魔法を唱えられる人間がどのような攻撃で敵を倒すのか知っておきたい。今後の参考にするため見せてくれないか、と。


 スミスさんにとっての今後の参考とは、鍛治師に関わることだろうか。そもそも勉強のために冒険者をやってるだけあって熱心だ。

 それに僕も買ったばかりの鉄のムチを試してみたかったし、ちょうどいい。



「わかりました、では止まってるベリースライム達を……」

「いや、あのベリージューススライムで頼むぜぃ! 強い奴に対しての方がたっぷり観察できそうだ」

「そういうことなら、雑魚は、私たちがやる」

「なのなの! 初めての依頼、魔物を攻撃する感覚を覚えておくのも大切なの!」



 僕があのBランクの魔物を狩れるだろうか。でもたしかに興味はある。


 昨日、図書館で読んだ本はムチの扱いについてのものばかり。借りてきた本もムチの扱いについて。能力のおかげでコツやらなんやらは全部頭に入ったし、あとは体を使って実践するだけの段階だ。

 そもそも僕は重いものが苦手なのであって、手先自体は不器用ってわけじゃない。きっとできるはず。

 

 そして速度魔法との相性も体感しておきたい。とすれば三人のいう通り、頑丈なマトにむかって試した方がいい。



「じゃあ、お言葉に甘えて」

「おっ……ムチかぃ!」

「はい、ちゃんと使うのは今日が初めてですが」

「え、初めてなの? 使えるなの?」

「やれるだけやってみますよ」



 僕はベリージューススライムの前に立ち、本で読んだ通りに鞭を構えた。そして手首のスナップをきかせて横打ちに振るう。

 ムチはしなり、ブヨブヨとしたベリージューススライムの身体を爽快な音をたてながら弾いた。


 体の表面を傷つけたもののダメージが入っている様子はない。

 ただ、この腕力のあまりない僕が、まだ拙いもののある程度本の内容通りに振るうことができ、さらにBランクの魔物を傷つけることができた。それだけでも大事だ! やっぱり鞭を選んで大正解だった!


 それから基礎的な打ち方を一通り試し、何十回と打ち込んでみるもやはり全く効いている様子はなかった。動作はできてることが分かったから全然いいけど。



「あれ、攻撃面はあんまりなの?」

「……そもそも、魔導師に物理攻撃、期待しちゃダメ。魔法一種なら尚更」

「疲れたら言うんだぜぃ! 交代するからよぃ」

「ありがとうございます! でも、まだ本気出してませんから!」

「お! そうかぃ!」



 さて、普通の状態のまま試したいことは試せた。

 次は自分自身に『シィ・スピアップ』を限界まで、鉄のムチに同様の魔法を限界までかけて攻撃してみる。つまり今の僕にとってのフル加速。

 一連の魔法をかけ、試しに横なぎに打ち込んでみた。


 ……気がついたらムチは動作を終えており、ベリージューススライムは鞭の軌道をそのまま描いたような深い傷がつき、その隣にあった木はゆっくりとへし折れていっていた。

 


「い、いきなり威力が跳ね上がったなの!?」

「たぶん、速度魔法の、上昇の方。たしかに、ギアル君の本気。いや、本域」

「はは、そのまま倒しちまえよぃ、ギアル」

「はい!」



 このスピード感、威力、そして一通り試した手順。これら全てを掛け合わせて……僕は存分に鉄のムチを振り回した。

 自分の目にも見えない速度でベリージューススライムのブヨブヨが削れ、体積が減ってっている。風が激しく唸り、地面もえぐれる。


 スライムを倒す方法は二つ。核を深く傷つけるか、体積を大幅に減少させるか。

 同じ打ち方をなんども行えばやがて核へ届きたおせるだろう。しかし、この速さの中で精密な操作はまだ僕にはできない。

 ただこのように速く、速く、速く削るだけでも十分だ。この僕が自分から強力な攻撃を行えている……! なんとも感動的だ。



「見えない、ギアルくんの動きがリンにも見えないなの!」

「鞭の動きが、完全に見えないから、スライムを見なきゃ、攻撃してるか、どうかすら……」



 あと少し、あと少しでこのスライムの命は事切れる。

 急に……頭の中がなんだかモヤモヤしてきた。ああ、なにか手に入れたみたいだ。



<【特技強化・極】の効果が発動。

  能力進化:【速度制御・改】>



<【特技強化・極】の効果が発動。

  能力追加:【擬似 ムチ使い】>



 マスターに迎えにきてもらうまでの一週間の間に手に入れた能力、【速度制御】。

 速度を上昇していても体の制御ができるというもの。本来は補助をかけてもらう剣士などが覚えるものだけど、僕にも必要だと思って習得しておいた。それが今ので一段階進化した。


 そして【擬似 ムチ使い】。たった一日で手に入れられるとは思ってなかった。ラッキーだ。これでおそらく本職の『ムチ使い』の半分ほどの技術を得たことになる。


 そうだ、こうしたらどうなるだろう。

 体の制御がより効くようになり、ムチ使いとしての技術を少し手に入れた上で、このフル加速した状態で【速度暴走】を用いて渾身の一撃を叩き込んでみたら_____。


 結果からすると、強烈な破裂音と共にベリージューススライムは核ごと真っ二つになった。

 それと同時に頭の中に目まぐるしく文字が乱列される。



<【特技強化・極】の効果が発動。

  鞭技追加:[パワーウィップ]>



<【特技強化・極】の効果が発動。

  鞭技追加:[チャージウィップ]>



<【特技強化・極】の効果が発動。

  鞭技創造:[ギアウィップ]>



<【特技強化・極】の効果が発動。

  能力追加:【反動抑制】>



< 能力進化:【個性求道・改】>






==========

(あとがき)

※明日の投稿も午後6時と午後10時の二本となります。



<能力紹介>


【速度制御】


 速度の魔法をかけられることで自分の動きを速くすることができるが、それが強力であれば強力であるほどコントロールが取れなくなっていく。それを解消するのが速度制御。


 この能力を習得していると、一定の段階まで、速度魔法をかけられても体のコントロールが平常と変わらなくなり、好きな動きができるようになる。


 Cランク以上の近接戦闘職の者は所持していることが多い。一部では必須とも言われている。

 なお、副次効果として乗り物酔いがしにくくなる。



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