第23話 スライム

「いくぜぃ……スラッシュ!」



 まず、スミスさんがベリースライムの群れに突っ込み同時に一度に二匹を技で切り裂いた。二匹とも核が真っ二つになり息絶える。

 次にヘリンさんは風の魔法を唱え、風圧の刃が一気に三匹ほどの核を深く傷つけ倒していく。

 そしてリンさんは弓から実物ではなく、魔力で形成された矢を放ち、的確に核を貫いていっている。


 スミスさんに攻撃しようとしてくるベリースライムから優先的に遠距離攻撃で倒され、ヘリンさん達ににじり寄ってくる個体はスミスさんが対処する。そんな連携がしっかりと取れていた。


 これが冒険者。

 お姉ちゃんの仕事中の姿すら見たことなかった。本に書かれた文章や挿絵、授業で受けた内容しか詳しく知らなかったから現場を見れるのは新鮮だ。

 いや、今後は僕が同じ舞台に立つことになるんだ。その覚悟を改めてさせられる。



「うぃ、こんなもんかな」

「一気に、片付いた」

「こーゆー依頼うけるの久しぶりなの! 前回よりかなりリン達手際がよくなってるなの!」

「んだねぃ! じゃあ帰るとするかぃ」



 討伐したことの証拠になるベリースライム達の核を回収し、僕たちはその場を後にするためこの戦闘現場に背を向けた。

 馬車に向かって歩き出そうとしたその時、リンさんが動きを止め、耳を思い切りピンと立てた。



「どうしたの、リン」

「……なんかくるなの。まだ、まだいるなの、ベリースライム! それもリンの個体識別できる範囲内だけでいきなり十匹以上湧いてでたなの!」

「なんだってぃ……?」



 元いた場所を振り返ると、たしかに茂みや木の裏から続々とベリースライムがこちらに向かって這い出てきていた。

 ここは森ではなく林。これだけの魔物が潜んでいたら、流石に気がつくはずだけどな?



「こいつら、確実に自分たちを狙ってるねぃ」

「減ってないじゃないかって、言われて、あとあと面倒になるかも。今のうちに、潰しとく?」

「なの! できる限り個体数を減らすなの!」



 闘争意欲をもったベリースライムが大量に溢れ出てくる。もう、こうなってくると単なる大量発生じゃない。

 スライムを生み出し、スライムを使役できるスライムのことを僕は知っている。Bランクの魔物、ジューススライム。

 おそらくそのベリースライム版が近くにいるんじゃないだろうか。



「なんでぃ、倒しても倒してもキリがねぇい!」

「さっきと合わせて、もう二十匹は軽く倒してるなの!? でもまだいるなのー!」

「それに、さっきもそうだったけど、普通のより頑丈な気がする」

「……皆さん、逃げた方がいいかもしれません」

「な、なんでぃギアル!」

「近くにBランクの魔物がいる可能性が……! あっ……」



 魔導師・魔法使い系は敵意のある、ある程度強い魔力を持つものが居ると感知することができる。いま、初めて僕にその感知の感覚が流れ込んできた。

 ヘリンさんも感じたようで、気がつけば僕と彼女は一点、同じ方向を見つめていた。



「ギアルくん、の、言う通り。いる、Bランクの魔物……!」

「そっちに居るのかぃ? ……おいおい、マジかぃ」



 一本の木の根本に穴が空いていることに気づかされた。そこから這い出てきたのは、目玉のついてる朱色をした液体。

 その液体はどんどん高く積み上がっていき、やがて僕と同じ身長ほどの先の丸まった円柱を形成。

 ああ……図鑑で見たジューススライムが朱色になって目の前に立ち、僕たちの方をじっと見つめている。



「ありゃ、ベリージューススライムといったところかねぃ」

「うん。確実に、この大量発生の、原因……」

「に、逃げるなの!! 食べられちゃうなの!」



 ジューススライムは雑食。なんでも食べることができる。そしてこれでもかとスライムを生み出す。自分の身長ほどの高さがある人間なんていい栄養だろう。

 そしてBランクの魔物だ。Fランク一人とDランク三人だなんて食事以外の何物でもない。



「よし、みんな、逃げるぞぃ!」



 スミスさんのその掛け声で、三人とも攻撃を即座にやめて駆け出した。僕もそれについていく。

 しかしベリージューススライムはそれを逃すまいと、僕たちの行き先に水の魔法陣を展開。魔法陣の形態をみるに『シィ』まで進んでいる。

 魔法は即座に発動し、滝のような水弾が僕たちに向かって撃ち込まれた。



「いやぁあああ!」



 このままだと兎族故に一番足が早く、先頭を走っていたリンさんがモロにくらってしまう。


 でもそうはならないからこの魔法に関しては大丈夫。魔法陣を確認した直後に詠唱を始め、もう発動してしまっているんだ。僕の『シィ・スピダウワイド』六連発が。



「あ、あれ……? なにあれ、ゆーっくりなの……?」

「スライムは動きがゆっくり。だから魔法もゆっくり、とか?」

「そんなことはなかったはずだぜぃ?」



 スミスさん達はなぜか足を止め、ベリージューススライムの方を振り向いた。

 僕の範囲魔法を食らってるんだ、おそらくあの魔物もある程度は動きがゆっくりになっているはず。だから今のうちに逃げないと。



「なにしてるんですか! 僕が魔法で動きを遅くしておきました、早く逃げましょう」

「い、いや、遅くなってる、っていうか」

「ほぼ止まってるなの……」

「……あれなら、自分たちでも流石にたおせるぜい……?」



 あ、そっか。動きを止めるほど遅くできたんなら、逃げずにそのまま攻撃してしまえばいいんだ。

 ここまで明確な殺意を向けられたのはなんやかんや初めてだし、つい逃げることしか頭に浮かばなかった。


 僕も足を止め敵の方を振り向く。ベリージューススライムも、大量のベリースライム達も、周囲の木々の揺れまでもが全て止まっているように見えた。





==========

(あとがき)

※今日も二本投稿するので次は今日の午後10時です!



<魔物紹介>


ジューススライム/Bランク


全長1メートル50~70センチほどのスライム。

その体は普通のスライムの液体部分より頑丈で、弾力性がある。

また魔法を唱えることもでき、水属性や土属性、空間魔法などを操っているところを目撃されている。


普通のスライムが一日に一度のみ、自身を分裂させて新しいスライムを一匹生み出すのに対し、ジューススライムは生み出せるスライムに上限がなく、栄養さえ足りていれば一日に何匹でも誕生させられる。

ただし、同格であるジューススライムを新しく生み出すには自分で既に生み出した百匹分のスライムを一か所に固め特殊な行為をしなければならず、その行為は一週間に一度しか行えない。


人間に対しては好戦的であり、人間が高い栄養価を持つことを理解している。魔法が扱えるように知能は低くなく、むしろ自分の生み出したスライムを完全に支配下に置くため高い方だと言える。



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