第15話 試験の翌日

「おにーちゃん、抱っこ!」

「ギィくん、私も!」

「お母さんも!」

「いや……たぶんベティしか無理……」

「やった!!」



 ベティももう十歳なのにどうしてこうも幼げなんだか。

 ……あれ、思ったより重い。いや、また僕が非力なパターンだと思うけど、そうか、成長したんだなぁ。


 一方、お姉ちゃんとお母さんは頬を膨らませて文句を言っている。

 勘弁して欲しい。僕とほぼ身長が同じのお姉ちゃんと、少し身長が高いお母さんを持ち上げるのは無理だ。ほんとに、アテスが僕の限界のギリギリだったんだろう。



「しかしまさか、本当にギアルが同級生とお隣のアテスちゃん、二人相手して両方に試合で圧勝してくるとはなぁ。ともすれば、お父さんにしてくれたあの話は現実になるかもしれないな」

「もちろん、現実にするよ」



 僕の試合結果は試験が終了してまだ一日しか経ってないのにもかかわらず、町の情報誌によってすでに広まっていた。


 マホーク君は試合中に自分の持っている力はそれなりに出せており、あんな風に負けても実際にマホーク君を狙ってるギルドは少なくないらしい。


 アテスも、『魔導剣聖』らしく同年代ではまずできる人間が他にいないようなを技術を連発させていた。


 それを全て上回って完封してしまったというのが僕であると、その情報誌によって大々的に書かれている。アテスをお姫様抱っこしたことも。

 事実なんだけど、その内容に対して自慢げに「はいそうです」とは言いにくい。

 ここまで大袈裟に扱われるほどのことじゃないと、僕自身は思ってるからだ。

 


「これだけ活躍したんだもん! 確実に私が居たギルドからお話が来ると思うよ。いいところだよ、あそこは。私はみんなが恋しくて帰ってきちゃったけど」

「うん、スカウトされたら悪くはないかもね」



 でも姉と一緒のギルドに行くというのはなにかと比較されたり、本人の現状を細かく聞かれたりしそうでなんか嫌だ。

 国内ナンバー2のギルドっていうのは魅力的だけど内心は他のところがいいかな、なんて考えたりしてる。



「で、お声がかかるのはいつからだっけ?」

「早い人は今日からだったと思うよ。優秀な人材は早めに欲しいだろうし。で、ベティ、そろそろ降ろしていい?」

「やー」

「も、もう限界が……来てるんだよね……」

「ティちゃん、私とギューしよっか!」

「する!」



 ベティがお姉ちゃんのおかげでやっと腕から降りてくれた。

 お姉ちゃんが自分のところにやってきたベティを身をかがませて抱きしめた瞬間、この家の玄関の戸がノックされる。



「誰か来たな?」

「そうね。はーい、今出ますよー」



 お母さんが玄関まで出て戸を開けると、そこには校長先生とブライト先生がいた。

 たぶん僕に関しての話だろうから、すぐにお母さんのもとに向かった。



「あら、校長先生とブライト先生! ご無沙汰しております。どうされました?」

「いやぁ、情報誌を読んでくださればわかると思いますが、ギアル君は昨日大活躍しましてな! それでその、我が校生徒の中でスカウトの申し込みが断トツで一番多くてですな。一番最初に呼びに来たというわけです」

「あらあら、まぁまぁ! 聞いてたギアル!」

「うん、聞いてたよお母さん」



 なんとなくこうなる気がしてたけど、実際にこうなった。

 自分のできる範囲で頑張った結果が認められたってことだから単純に嬉しい。

 


「じゃあ早速だけど、ギアル君。私達と一緒に学び舎の校舎まで来てもらえませんか? もう皆さま、揃われています」

「わかりました」



 これでどのギルドを選ぶかで一生が変わる。

 ……っていうほど大袈裟なことではない。別に鞍替えなんて個人の自由だし、そもそもこうやってちゃんと学び舎に通い、試験を通してスカウトされる人間の方が少数派。本来は自分から入り込む人の方が多い。

 でも、しっかりした心意気で臨んだ方がいいのはたしか。変なところに入ったら今後のモチベーションに関わる。



「慎重に選ぶのよ!」

「スカウト組への優待システムがあるギルドもあるから、そういうのも含めて考えるんだよ?」

「うん。それじゃあ行ってきます」

「「「行ってらっしゃい」」」



 僕は先生方と共に家を出た。

 道中、校長先生が興奮しながら儀式以前の日常のように僕のことを褒めちぎってたけど、先週の態度を見てからあんまり信用してない。

 ブライト先生は同じように褒めつつも、どこかしらで頻繁に謝罪を入れてきた。どうやら僕が珍しく怒ったことに対して自分の中でかなり反省しているらしい。


 学び舎につくと、そこには様々な紋様が描かれた馬車がずらりと並んでいた。三十台はあるんじゃないだろうか。

 まあ、駐車場として貸しているだけで、流石にこれ全部が僕に対してのスカウトというわけではないだろう。



「見えるかね? これら全部、君のことをスカウトしたいという冒険者ギルドや軍の馬車なのだよ」

「……そうなんですか」

「ちなみに、これは一部です。さらにあと五十台ほどが別の場所で待機していますよ。君目的でね」



 だとしたら驚きだ。そんなにギルドや団体なんてあるもんなんだ。

 もしかしたら、「本来は『魔導剣聖』のアテスを見にこの町に来たけど、いい子を見つけたからついでにスカウトしておこう」程度の考えの所も居るかもだけど。



「さ、中に入りましょう」

「いいかね、親御さんも仰っていたけれど、よーく考えて決めるんだよ!」

「は、はい……」



 僕たちは人の気配を多く感じる学び舎の校舎の中へ入っていった。

 





==========

(あとがき)

※しばらく一日二本投稿するので、次回は今日の午後10時ごろです。


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