第14話 ライバル 2

「そうだね、まだ始まったばかり。……次だ、次」



 アテスは炎魔法を解除し、剣を構え直した。

 どうやら魔法自体で攻撃するのはやめにするみたいだ。



「これはどうだろう。スピアップ、アタアップ、エンチャントウィンド、エンチャントブラスト! ……剣技スラッシュ!」



 補助の強化魔法二種に攻撃系二種のエンチャント。こんな事ができる十四歳はアテスだけかもしれない。

 しかも先生方に直接指導してもらっていただけあって、すでに技まで使えるとは。


 風と衝撃の二つが付与された剣技は、風の刃となってこちらに迫ってきた。

 僕は咄嗟にそれを止める。もう遅くするというより止めると言った方が適切だと思う。



「それも遅くできちゃうの!? なら、剣技スラッシュ! スラッシュ、スラッシュ!」

「む……」



 先ほどと同じ風の刃が次々と襲ってくる。魔法と違って撃てる数に際限がないのは厄介だ。

 技は撃つだけで疲れるし結構大変だって本で読んだことあるんだけど、アテスは全然大丈夫なようだ。


 風の刃は直線的な動きしかしてこなかったので、僕は自分に『シィ・スピアップ』をかけて大雑把にそれらを回避した。数日前よりは素早い動きで避けるのが上手くなってると思う。

 ……ん? 頭がモヤモヤしてきて___。



<【特技強化・極】の効果が発動。

  能力追加:【回避】>



 まさかここでこの能力を手に入れるとは。ラッキーとしか言いようがない。



「くー、当たらない……。スラッシュ、スラッシュ、スラッシュ!」



 アテスは僕が速度魔法しかない事をもちろん知っている。

 そして、アテスの中でもアークス君に僕が行った攻撃は未知のものだろう。

 だからこそ、とりあえず近づかせずに遠距離で倒す、そういう作戦に出たんだと思う。

 僕は【回避】を手に入れた事で先ほどより細かい動きで飛ぶスラッシュをかわせるようになった。

 だから思考に若干の余裕が生まれた。そろそろこちらから仕掛けよう。



「スラッシュ、スラッシュ、スラ_____」

「シィ・スピダウワイド!」



 おそらくらこの『テストホール』をまるっと飲み込むくらいの紫がかったみず色の魔法陣が、一回の詠唱で六連続、降り注いでくる。

 対象はアテスの攻撃とアテス自身。回避できる場所がない速度が下降する魔法を、アテスはモロに食らってしまった。



「う、うわぁ!?」

「ああっ!? アテスがやられたぞ!」

「なんだ今のえげつない広範囲魔法は!」



 実質、このホール内の僕以外のすべての動きがゆっくりになる。

 僕は一瞬でアテスまでの距離を詰めた。



「降参しない?」

「し、しない……僕はまだ諦めない……! ギアルも諦めなかったから、ボクも……!」

「そっか」


 

 ゆっくりとスラッシュを繰り出そうとしている腕と剣。

 僕は鈍いアテスの手首の真上に掌を置き、かなり弱めに【速度暴走】を行なって勢いをつけて剣を叩き落とした。



「あっ……」

「その、今度こそ諦めない?」

「や、やだ!」

「うーん、そっか」



 アテスがこうなったら、もう降参することはちょっとやそっとじゃあり得ない。

 となれば、ちょっとやそっとじゃないことをすれば良い。

 

 ……アテスは女の子だ。なにより僕の親友だ。


 だからマホーク君にしたように【速度暴走】をさせて顔面から転んで変な風に傷をつけるのは後味が悪すぎるし、おじさんとおばさんに合わせる面目がなくなってしまう。


 だから降参せざるをおえないほど、アテスが嫌がることをすれば良い。



「仕方ないなー」

「え、ちょ、何する気だよ!」



 僕は左腕をアテスの膝裏に、右腕を肩下から脇に通してすくいあげ、持ち上げた。

 アテスの体がすべて、僕の腕に預けられることになる。



「ふえっ!?」



 アテスは腕の中で目を丸くした。

 昔話の王子様が、お姫様をこんな持ち方してたっけ。まあ、僕は王子って柄じゃないけど……だって、もう……限界だ。


 重いっ……!!!!!


 ゆっくりだったから持ちやすくはあったけど……む、無理だ。あと二十秒ももたない。

 アテスは決して体重があるわけじゃない。僕が、僕が非力なんだ。なんか悔しいから冒険者になったら少しずつ鍛えてちゃんと筋肉つけよう。



「ちょ、ふざけないで、なに、なにしてんの、ちょっと!」

「降参……はぁはぁ……しなさそうだから……い、嫌がることしてみた。次は……どうして欲しい……?」

「わ、わかったわかったよ! ボク降参する! ギアルの勝ちでいい! だから降ろして、ボクを降ろして!」

「はい」



 もったいぶる必要がないので、というか僕の腕が限界なので、ゆっくりとアテスを地面におろして補助魔法を解除してあげた。



「ふぅ……ふぅ……バーカバーカ!」

「え、ひどい」

「ごめん言い過ぎた」



 降参の声が聞こえていたのか、ブライト先生をはじめ何人かがホールの中に入ってくる。



「まさかこんな結果になるなんて思ってませんでした。どちらもかすり傷ひとつありませんね。私、たしかに怪我をして欲しくないとは言いましたけど……」



 ブライト先生が感心したようにそう言う。

 たしかに、アテスが恥ずかしがってること以外は双方被害がなかった。

 そっか、僕の力はやろうと思えば無傷で戦いを終わらせることもできる。

 ……そう考えると、なんだかもっと僕のこの「魔法が一種しか使えない」という状況が素敵なものに思えてきた。


 とにかく一番最初のライバル対決は紛れもなく僕の勝ち、ということで。






==========

(あとがき)

※明日からは1日1〜2本投稿となります!

ただ一週間くらいはずっと2本投稿にしようと思います。それぞれ午後6時と午後10時に投稿しますよ。



【技について】

 

 各々の職業を鍛錬すると技を覚えることができる。魔力の消費と体力の消耗により繰り出すことができ、魔法でなくとも強烈な火力を誇る攻撃や近距離武器による遠距離攻撃、職人系ならば特殊な技術を扱うことができる。

 魔法として扱いをされることが多い。


『スラッシュ』

 刃物に魔力を通わせて行う切りつけ攻撃。刃物を扱う職業はいずれ使えるようになる基本技。通常の切りつけ攻撃よりも威力が上がる。武器に付与させる魔法や鍛錬次第で飛ぶ斬撃として扱うこともできる。

 なお、飛ぶ斬撃の技自体は別に存在する。



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