第9話 攻撃方法

 僕は素早く抱きついてこようとするお姉ちゃんから離れた。補助魔法を解除していないので、一瞬で想定していたよりかなりの距離か空く。

 うーん、自分自身にかけた場合のスピード感にも慣れていく必要があるな。とりあえず今は解除しておこう。



「むぅ。そんなに離れられたらお姉ちゃん拗ねちゃうよー! ……でも、これでギィくんは試験で大活躍すること間違いなしだね!」

「……いや、それがそうもいかないんだ。まだ決定的な攻撃手段がなくって」



 魔法攻撃にしても、物理的攻撃にしても、それを相手が繰り出すまで、いや、繰り出してからも多大な不自由を課すことができるようになった。

 また、自分もまだ制御しきれてないけど早く動いて回避することだって出来る。

 とりあえず相手が誰であれ、負ける可能性はグッと下がった。


 でも決定打がないから勝つことも難しい。だから、いま僕が欲しいのは確実にダメージを与える攻撃方法だ。



「ふっふっふ、それならお姉ちゃんにまっかせっなさーーい!」

「何かあるの?」

「うんうん、補助魔法しかないと攻撃手段が乏しいっていうのは同じ魔法使い系として簡単に想像付くからね。昨日、ギルドマスターに頼んで借りてきたものがあるの。ちょっと待っててね」



 そういうとお姉ちゃんは家の中まで戻り、ごちゃごちゃと物が詰め込まれているのがわかる大きな袋を重たそうに持ってきた。

 そして袋を開け、庭の地面に中身を取り出した。



「ふぅ。これはね、『魔法以外に攻撃方法を増やしたい魔法使いのための武器お試しセット』だよ! いろんな武器の初心者用のが入ってるんだー」

「おお、ありがとうお姉ちゃん!」

「えへへー。どれがいいかな?」



 本当に色々ある。刃物は基本的に全てが木でできているようだ。

 ナイフや短剣に剣、槍、弓と矢。

 一般的に使い手が多いものが入ってる。戦斧や槌など無いものもあるけど、お試しセットとしては十分だろう。



「弓なんてどう? ギィくんが使えば高速で連続の遠距離攻撃ができちゃうね! ほら、こんな感じで」



 お姉ちゃんは一式の中に入っていた簡易な的をもつと、庭の一部に突き刺した。

 そして戻ってくるなり、弓と木の矢を持ち素人目にも素人だとわかる構えで弓を弾き、立てた的に向かって矢を放とうとした。

 ……うまくいかずにポトリと矢が地面に落ちた。



「……ぎ、ギィくんならできるよ!」

「とりあえずやってみるよ」



 お姉ちゃんから弓を受け取り、昔本で読んだ、とある名手の構えを思い出しながらそれに従って姿勢を整える。


 弓はお姉ちゃんの言う通り、僕と相性がいい。速く連続で弓を放てば単純に強いし、放った弓を『シィ・スピアップ』の魔法陣に潜らせて飛んでいくスピードを強化すれば威力も上がりそうだ。


 しかし結構力がいるな。正直、矢を引いているのがきつい。

 とりあえず撃ってみる。

 ……ポトリと矢が地面に落ちた。



「……」

「ぎ、ギィくんはお姉ちゃんと一緒でこーゆーの苦手だもんね? 仕方ないよ、うんっ」

「だね……」



 よくよく考えたら、お母さんもお父さんもこういった類のものは苦手だ。きっとマーハも苦手だろう。血は抗えない。


 しかし困った。僕は非力だから今からやっても剣も槍も試験当日に扱えるようにはなっていない気がする。となると短剣だろうか。


 でも僕がナイフや短剣を手にしたところで、振り回すだけしかできないし、やっぱり決定打には程遠い。ないよりマシかもしれないだけだ。

 得意なことじゃないから【特技強化】も期待できない。


 やっぱり弓は捨てがたい。どうにかして練習するしかない。

 弦を弾いて矢をビュンと放って……それだけ見たら簡単そうに思えてしまうけど、実際そんなことなかったし……本当に上手くできるようになるのだろうか?


 ……いや、なんか、何かが心の奥底で引っかかる。

 何かが浮かび上がる寸前。喉まで出かかっている状態。

 弓が武器として成立する原理ってたしか……。



「ねぇ、お姉ちゃん。どうして弓って矢を勢い良く放てるかわかる?」

「どうしたの急に。たしか矢を持って、力を込めて弦を弾いて、その弦が跳ね返るのを利用するんじゃなかったっけ?」

「そうだよね」



 ただその一連の行動の間に、力をためて放出するという過程がある。弓を絞る時だ。

 絞った力を、溜めて、溜めて……一気に手放すことで力強く矢が飛んでいく。

 僕とお姉ちゃんみたいに力の溜めがヘタクソだったり弱かったら上手くいかないわけだ。


 そうだ、引っかかるのはここだ。

 この原理が僕にとって活用できる気がしてならない。


 ……そういえば、お父さんが借りてきた本の中に「補助魔法によって動きを遅くされた生き物は、普段通りに動こうとして、普通より体に力が入るようになる」という研究の結果が載っていた。


 そう、そう、それだ!

 それが弓の「力を溜めること」の代わりにすることができるんじゃないだろうか!

 『遅いという状態』そのものを力のストッパーにするんだ。


 そしてそれを、補助魔法の解除を行なって一気に解放すれば……?

 さらにさらに、その上で魔法ですぐさま加速すれば……?


 試してみて損はないだろう。



「お姉ちゃん、僕閃いたよ」

「え、なになに?」

「見てて」



 僕はそこらへんの手頃な石をもち、振りかぶって投げようとした。

 それと同時に自分へ三回重ねで『シィ・スピダウン』をかける。身体が思うように動かなくなった。カタツムリの魔物の移動速度よりゆっくりかもしれない。



「ぐ、ぐぎぎぎぎ……」

「な、なにしてるの?」

「い、いいから……いいから」



 力をいっぱい込めてこの『遅い状態』に抗おうとする。力を溜めすぎて体中がギチギチと音を立てている……ような気がする。

 

 よし、そろそろ頃合いかもしれない。

 僕は自分にかけた三重の『シィ・スピダウン』を解除。その一瞬の間に新たに『シィ・スピアップ』を三回重ねてかける。


 いつもの自分じゃ考えられないほどの強さで勢いよく腕が振るわれる。

 そして手のひらの中から石が離れ、さっき立てられた的に目掛けて猛スピードで飛んでいき、被弾。


 石と同じサイズの穴が的に開けられた上に、うちの庭の煉瓦塀が傷ついてしまった。


 まるで攻撃力の補助魔法を使ったんじゃないかと思ってしまうほどの破壊力。

 本職の力自慢に比べたら可愛いものだけど、この僕が放ってこれなんだ。



「な、なに今の……!」

「ふふふ……っ。……い、ぃ……いったぁ……」

「ギィくんどうしたの!?」

「か、肩が……肩が……」



 肩と腰に激痛が走った。

 なるほど、威力は出るけどやっぱり非力な僕が耐えられるようなものでは無かったわけだ。

 でも今みたいな無茶をしなければ、少なくとも試験では有効な攻撃手段になるはずだ。


 よし、やった……!

 僕が、僕が速度魔法をモトにした攻撃方法を編み出したんだ! 

 本来なら速度魔法を重ねがけしたりせず、攻撃強化の魔法一回で済むことだけど、それでもこれは嬉しい……!


 でも痛いものは痛い。

 お姉ちゃんは駆け寄ってきて慌てて回復魔法で僕の肩を治してくれた。一気に痛みが引いていく。



「ふぅ。ありがとう」

「今のも速度魔法だけでやったんでしょ?」

「うん。あとでちゃんと教えてあげる」

「とてもすごいし、やっぱり天才だけど、魔法の特訓内容といいあんまり無理はしないでよ?」

「気をつけるよ……」



 いつものように頭の中にモヤモヤと文字が浮かび上がった。



<【特技強化・極】の効果が発動。

  能力創造:【速度暴走】>



 『追加』じゃなくて『創造』らしいから、どうやらこの能力は僕の完全オリジナル。


 効果としては、

 ・一連の手順を意識せず、省略して行える。

 ・威力が上昇する。

 というもの。


 僕が能力を作ったということは、【個性求道】の効果によって他の能力を合計二段階も進化させることができる。


 ああ、やっとこの能力を活かせる時が来たか。

 

 実際、自分の所有している能力が頭の中で渦巻き始めた。

 その中で僕は【重複補助】と【連続魔法】の二つを選ぶことにした。


 重ねがけ可能な回数を増やしたなら、できることが増える。今の僕にとってできることを増やすのが先決だ。

 そして一度に連続して発動できる回数を増やし、より魔法を活用しやすくさせてみる。

 とりあえずこんな感じでいいだろう。

 


<【個性求道】の効果が発動。

  能力進化:【重複補助・改】>


<【個性求道】の効果が発動。

  能力進化:【連続魔法・改】>



 どうやら重ねがけの限界が三回から、倍の六回。連続で発動できる回数も三回から六回になったようだ。この短時間でまた僕は強くなった。






==========

(あとがき)


主人公のこの攻撃方法、本当は弓を見て考えついたのではなく、デコピンをみて思いつきました。もっと正確に言うならデコピンを応用した武術を調べているうちに、です。

本当は本編内でもデコピンで説明したかったのですが、どうにも話の内容と合わないためなくなく弓の弦に置き換えました。



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