第878話 北風と太陽?
我がスケルトン・ナイツをボロフスカの城へと送り込み、三日ほどが経過いたしました。
たかが三日、されど三日、フレッド達の調査能力を舐めてもらっちゃこまります。
影の世界を伝って昼夜を問わず暗躍し、常人では入り込めない場所まで調査を進めてきた結果、色々な事が分かってまいりました。
まず、城と川を挟んだ対岸にある訓練場の地下深くに存在する麻薬関連施設の他に、ボロフスカは新たに大規模な麻薬工場の建設を進めていたようです。
バルシャニアがリーゼンブルグの屋台骨を揺さぶるために麻薬を活用した事に味をしめ、追加の発注も受けないままに勝手に増産体制を進めていたみたいです。
ところが、バルシャニアはリーゼンブルグへの侵攻を取り止め、それどころか歴史的な友和への道を進み始めました。
その結果、新規の麻薬関連施設は、本格的な稼働もしないまま宙に浮いた形になってしまっているようです。
バルシャニアの侵攻を止めたのは、誰あろう僕なので、全く無関係という訳ではありませんが、捕らぬ狸の皮算用で勝手に建設を進めていたのですから知ったこっちゃありません。
ていうか、麻薬をバラ撒いて私腹を肥やそうとする連中に同情の余地などないでしょう。
この新たな麻薬製造施設の建設は、別の分野へも影響を及ぼしているようです。
麻薬関連の先行投資が大きすぎたおかげで、隣の領地から買い入れた小麦や米の支払いが滞りつつあるようなのです。
「ラインハルト、結局ボロフスカが内乱を起こそうとしている理由って何なの?」
『正直に申し上げると、分かりませぬ』
「えぇぇ、何か理由があるんじゃないの?」
『ボロフスカにとっては、隙あらば他領に攻め入り、領地を切り取るのは当たり前なのでしょうな』
戦国大名みたいな感じなのでしょうか、バルシャニアの一領主としての恩恵を受けつつも、好機とあらば他領を攻めるのは当然だと考えているようです。
今回でいうならば、バルシャニアの騎士団がギガースとの戦いで多数の死者を出して弱体化している事や、麻薬絡みの件が絡んで、内乱に傾いているようです。
平和な日本に育った僕からすれば、内乱なんて損害が増えるだけだろうと思うのですが、逆にボロフスカの人にとっては内乱など当たり前、領地繁栄のための手段の一つという感覚のようです。
結局、コンスタンさんが話していた通り、確固たる主義主張などは無いようです。
「じゃあ、結局どうすれば内乱が始まるのを防げるんだろう?」
『それはボロフスカが内乱を起こす余裕が無くなるか、内乱など起こさなくても良いぐらい潤うかのいずれかでしょうな』
童話の北風と太陽ではありませんが、弱体化させるか、利益を与えるかのいずれかのようですが、ぶっちゃけボロフスカに利益を与えるのは気が進みません。
『ならば、弱体化させるしかありませぬな』
「まぁ、そうなるよねぇ……」
『何か気掛かりな事がございますか?」
「うん。二つほど……」
『どのような懸念ですかな?』
「一つは、ボロフスカを弱体化させる事で、別の部族が内乱を始めたりしないか……だね」
『なるほど、コンスタン殿も好機となればわかりませんな』
そもそも、コンスタンさん自身がバルシャニアの皇帝として、硬軟織り交ぜた政策で国を保ってきたはずです。
僕はバルシャニアが内乱とならないために動いているのに、コンスタンさんが内乱の引き金を引くようでは意味が無くなってしまいます。
『その件については、コンスタン殿に直接確かめるしかないでしょうな』
「まぁ、そうだよね」
『ただ、コンスタン殿は騎士団の体制強化などに余念が無いようですし、今は自ら内乱を起こそうとは思わないでしょう』
「うん、そうだと思うけど、一応確認はしておこうかな」
『ケント様、二つ目の懸念はなんでしょう?』
「ボロフスカを弱体化させるのは良いとして、民衆に悪影響が出ないかと思って……」
『なるほど、民の生活を圧迫させたくは無いのですな。それならば、弱体化させる目標を吟味いたしましょう』
とりあえず、バルシャニアの帝都グリャーエフを訪れて、コンスタンさんからはボロフスカを弱体化させても、こちらから戦は仕掛けないという確約を貰いました。
ただし、他の部族の動向までは分からないとも言われてしまいました。
しっかし、みんな戦うの好きだよねぇ……。
僕なんか、一生ダラダラしていたいけどなぁ。
『ケント様、どこから手を付けますか?』
「麻薬の実験場……と言いたいところだけど、あれは最後かな」
『最初に手を付けない理由は、騒ぎになるのを防ぐためですかな?』
「まぁね、いずれは手を付けるけど、気付きにくい所から始めようと思う」
という訳で、最初に手を付けるのは、バルシャニアが保管している武具を盗み出すことです。
内乱を始めようにも武器が不足していたら、戦いようがないでしょう。
「フレッド、食料以外の兵士の装備品を盗み出して」
『りょ! すでに把握済み』
兵士の装備品は、日常的に使われている物とは別に、戦時にのみ使われる物があります。
そうした品物もキチンとした体制ならば管理されているのでしょうが、杜撰な体制では書類上のチェックだけで現物を確認していない場合もあるそうです。
「さてさて、ボロフスカはどうなのかな?」
『内乱を目論む割には杜撰……』
フレッドが調べたところでは、一応管理はされているようですが、チェックは年に一度程度で、多くの品物が埃をかぶっているそうです。
「うん、倉庫の床にこれだけ埃が積もっていて、足跡一つ残っていないんだから杜撰だね」
倉庫には、鉄製の大盾や長柄の槍、ローマの戦車を思わせる二輪の馬車などが置かれていますが、いずれの品物も埃をかぶっています。
「じゃあ、フレッド。コボルト隊を指揮して、ラストック方式でいただいちゃって」
『ラストック方式というと、表側だけ残して裏側ゴッソリ……?』
「うん、その感じでヨロシク!」
『りょ……』
まずは軍関連の備蓄品、それが終わったところで、今度は日常品の奪取を始めます。
『ケント様、日常品はさすがに発覚するのではありませぬか?』
「うん、ラインハルトが心配する通り、すぐに発覚すると思うけど、例えば馬が一頭いなくなったら何が起こると思う?」
『それは、当然犯人捜しが始まりますな。なるほど、内部を混乱させて内戦を起こす余裕を無くすのですな』
「そういう事、味方が信用できない状態では戦えないよね?」
という事で、まだ新しい馬車や毛並みの良い馬など、日常的に使っていて売り払ったらお金になりそうな物を選んで頂いてしまいます。
馬は夜の間に送還術を使ってヴォルザードまで移送し、馬車は闇の盾を使って夜中の内に盗み出しました。
そうです、僕らがやってる事って泥棒なんだよね。
『ぶははは! ケント様、世の平和のためですし、まさかヴォルザードの人間が関わっているとは、ボロフスカの連中は夢にも思わないでしょう』
「まぁね、なかなか良い馬が揃っているみたいだから、ヴォルザードの守備隊で使ってもらおうかな」
『しっかり値段を付けて引き取ってもらわないと、ベアトリーチェ様に叱られますぞ』
「でもなぁ、どこから持って来たんだって、クラウスさんに突っ込まれて買い叩かれそうだなぁ……」
『ぶははは! そこは親子の攻防を見守ることといたしましょう』
「はぁ……そうしようかな。じゃあ、仕上げに向けて、引き続き作業を進めていこうか」
バルシャニアの内乱を防ぎつつ、私腹を肥やさせてもらおうじゃありませんか。
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