第787話 日本に倣う?

 予想していた通り、ラインハルト達はガシガシと新しい鉱山への道を切り開いています。


「そんなに急ピッチで工事して大丈夫なの?」

『ぶははは、ダブル・マジカル・シールド工法を駆使しておりますから心配ご無用ですぞ』

「ダブル……なんて?」

『ダブル・マジカル・シールド工法ですぞ』

「それは、どんな工法なの?」

『ケント様の暮らしていたニホンで使われているシールド工法を参考といたしました』


 ラインハルト達は、街道の路盤改良などを行う時に、日本の土木工事の技術を参考にしたそうです。

 今回も山を貫くトンネルを作ると決めた時から、考えていた工法を試してみるつもりだったようです。


『ケント様も御存じでしょうが、山を貫くような穴を掘ると地下水脈に突き当たる場合がございます』

「うん、水が溢れてくると掘った部分が崩れたりして危ないんでしょ?」

『その通りです。そこで、我々は何か良い方法は無いかと、ニホンの技術を探り、シールド工法というものを知りました』


 ラインハルト達は日本のシールド工法を基にして、魔法を使った独自の施工技術を完成させたそうです。


『まずは、トンネルの壁となる部分を土属性魔術で硬化させ、硬化させていない内部を掘り出したあと、更に壁面の外側を硬化させます。二度の硬化を行うことで、地下水脈などの圧力にも耐える頑丈なトンネルが完成する訳です』


 こちらの世界の工事では、掘ってから固めるという手法が常識とされていたそうです。


「なるほど、二度の硬化を掛けるからダブル・シールドなんだね」

『違いますぞ、ケント様。ダブル・マジカル・シールド工法ですぞ』

「ごめん、ごめん、魔術を使うからマジカルなんだね」

『その通りです』


 実際に現場を見に行ってみると、ゼータ達が固めたトンネル内部をコボルト隊が掘り出して、影の空閑経由で運び出しています。

 なんと言うか、小型超高性能なパワーショベルが何台も稼働しているようで、みるみるうちに土砂が消えてトンネルが出来上がっていきます。


「これって、路盤も硬化させてるの?」

『勿論ですぞ、地下水脈の流れは複雑ですからな』


 壁、天井、路盤を硬化させ、崩した内部の土砂は影の空間に放り込んでいくだけですから早いのなんの。

 日本の大手ゼネコンの社長が見たら、絶対にスカウトされると思います。


「この調子ならば、予定よりも早く完成しちゃいそうだね」

『そうですな、あちらの坑道の復興状況が思わしくないですからな』

「えっ、あちらって……旧カルヴァイン領の鉱山?」

『はい、ワーウルフによる統率が無くなったせいで、坑道に居る魔物どもが狂乱状態に陥っているようです』


 ワーウルフがレイスとなったアーブル・カルヴァイン達に操られていたように、オークやゴブリンなどの魔物はワーウルフに従っていただけです。

 統率していたワーウルフが居なくなり、呪縛から解放されたのは良いものの、何処とも知れぬ地底に放り出されれば、そりゃあパニックになりますよね。


『坑道内部オーク共が、力による序列を争っているようですぞ』

「うわぁ、何だか不毛な争いのような気がする……」

『おっしゃる通り、不毛な争いですな』

「でも、それを利用して効率良く討伐とか出来ないのかな?」

『騎士達も対応策を考えているよですが、何にせよ行動が入り組んでいるので、群れを一気に殲滅……みたいな戦い方は出来ないので、討伐に手間取っているようですな』


 オークのような大型の魔物を倒すには、相手に気付かれる前に致命的な一撃を食らわせるのが一番安全な討伐方法です。

 逆に、オークが興奮状態になる前にダメージを与えられないと、体力が余った状態でめちゃくちゃな動きをされて討伐に苦労することになります。


「もうさ、面倒だから一旦埋めちゃって、みんな餓死した頃に掘り返せば良いんじゃない?」

『その方法はお薦めできませんな』

「えっ、なにかマズいことでもあるの?」

『オークやゴブリンをまとめて生き埋めにすれば、共食いを始めます。まぁ、既に始めているでしょうが、共食いが続けば……?』

「あぁ、そうか……上位種が生まれる可能性が高まるのか」

『その通りです。オークの上位種が何体も生まれたら、騎士団も手を焼くでしょうな』


 オークの上位種が生まれれば、オーク共を率いて反転攻勢に出るでしょう。

 埋めた坑道を突き破って地上に出てくれば、場合によっては騎士団は奇襲を受けて被害を出す可能性もあります。


「じゃあ、地道に討伐するしかないの?」

『我々ならば、サクっと片付けられますぞ』

「いや、まぁ、そうなんだけどね」

『ケント様としては、リーゼンブルグ騎士団に任せるおつもりなのでしょう?』

「僕らじゃなきゃ出来ない仕事でもないし、騎士団がやっても膨大な時間が掛かる訳ではないよね?」

『そうですな。新しい鉱山への道を作る方が、リーゼンブルグに任せると膨大な時間が掛かると思われますな』

「じゃあ、僕らは道作りに専念しよう」

『了解ですぞ』


 思いの他あっさりとラインハルトが引き下がったのは、狭く崩れやすい坑道では思う存分暴れられないからだろうね。

 ラインハルトは工事に戻ったので、僕は旧カルヴァイン領の坑道を覗きに向かいました。


 坑道の入口付近では、風属性や土属性の探知魔術を使える騎士たちが坑道の先を探りながら、慎重に討伐を進めているようです。

 内部の様子は魔物たちによって作り変えられたりしているので、討伐だけでなくマッピングもしなけれならないようです。


 更には、壊された部分の修復や補強も必要なようで、土属性の術師は大忙しです。


「なるほど、これは時間が掛かりそうだ」


 騎士団の働きぶりを見た後で、坑道の奥へと影移動で進んでいくと、オークに捕まったゴブリンが手足を引き千切られて食われてました。


「うわぁ、マジで共食いしてるよ……って、オークがゴブリンを食らうのは普通か」


 そう思っていたら、ゴブリンの魔石を取り合って、オーク同士で取っ組み合いを始めました。

 この調子では、上位種が現れるのも時間の問題のような気がします。


「あれ? でも良く考えたら、上位種になる過程で共食いが繰り返されるなら、群れを率いて襲ってくる……みたいな感じにはならないのかな?」


 上位種というと、どうしても魔物の大量発生の時を思い出しますが、ここに居る魔物は減ることはあっても増えることはありません。

 だとすれば、それほど心配する必要も無いのかもしれません。


 まぁ、とりあえずは様子を見るとしましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る