第734話 別次元
※今回は、近藤に弟子入りしたオスカー目線の話になります。
粘って、頼み込んで、ようやくジョーさんに弟子入りを許された。
まだ少し話しただけだが、ペデルさんが言う通り頭の回転が速い。
それに、身のこなしというか普段の行動からして生真面目さが現れている気がする。
ギリクさんとでは、比べる事すら申し訳ないと思うほどだ。
ジョーさんのパーティーは、シューイチさん、タツヤさん、カズキさんとの四人編成だ。
ジョーさんとカズキさんが風属性、シューイチさんが火属性、そしてタツヤさんが俺と同じ土属性だ。
つまり俺は、ジョーさんのリーダーとしての働きを観察しながら、タツヤさんの動きを学べば効率良く成長できるという訳だ。
いよいよ念願の護衛依頼に同行できるとワクワクしていたのだが、弟子入りした翌日は魔の森に討伐に入るから装備を整えて来いと言われてしまった。
オーランド商店の護衛依頼ではないのかと訊ねてみると、勿論護衛の依頼も受けるが、自分たちがレベルアップするために鍛えるのだと言われた。
ペデルさん曰く、ジョーさんたちのパーティーが若手の中では頭一つ以上抜けているそうだが、それでも本人たちは納得も慢心もしていないようだ。
「身近に国分みたいな化け物がいると、あいつには到底敵わない、追い付けっこないと思う一方で、国分に出来るなら俺たちだってとも思うもんなんだよ」
「じゃあ、ジョーさんもSランクを目指しているんですね?」
「いや……さすがにSランクは無理だと思うが、そうだな少しぐらいは夢見ているかもしれないな」
弟子入りした翌朝、ジョーさんたちとはマールブルグに向かう北東の門で待ち合わせをした。
ジョーさんたちは、まだCランクなので魔の森に向かう門からは出られないのだ。
今後、魔の森を抜ける街道の護衛を受諾出来るランクがBからCへと引き下げられるそうだが、ジョーさんたちはランクが引き下げられるのを待つよりも自分たちでランクを上げてしまおうと考えているようだ。
あと1ランク、四人のうちの一人でもBランクに昇格すれば、ランク引き下げを待たずに堂々と魔の森へ向かう南西の門を出られるようになる。
待ち合わせ場所の北東の門に現れた四人は、ペデルさんと同じ様に手入れの行き届いた防具に身を包み、歴戦の勇者といった雰囲気を醸し出していた。
四人とも見た事の無い金属製の水筒を持ち、背中に密着する特殊な形の鞄を背負っている。
どうやら、元住んでいた世界から取り寄せた物らしい。
歩いているのを見ただけだが、殆どズレる気配も無く、これなら背負ったままでも戦闘が出来そうな気がする。
北東の城門から街の外へ出て、しばらくマールブルグ方面に進んだあとで左に折れて、魔の森へと踏み込んでいく。
ジョーさんたちぐらいになると、街の近くの魔の森ならば緊張することも無いのだろうが、ちょっと気になったことがあったので訊ねてみた。
「あの、ジョーさん、風向きを確かめなくても良いのですか?」
「あぁ、和樹がいるから必要ない」
「えっ、どういう意味ですか?」
「和樹が魔法で操作して、周囲から風を集めて上空に送っているから、何処から見ても俺たちは風下だ」
普通、森に入る時には風向きに注意して、獲物に気付かれないように風下から接近を試みる。
風は地形や天候、時間によっても向きを変えるので、常に気を配っている必要があるとペデルさんからは教えられたのだが、自分たちで制御しようなんて考えたことも無い。
「えぇぇ……それじゃあ、ずっと魔法を使い続けているんですか? カズキさん」
「あぁ、そうだぜ。いかに魔力の消費を抑えて効率良く風を操れるか工夫している最中だがな」
カズキさんが言うには、いかに少ない魔力で必要な風の流れを作り出せるか工夫を重ねているそうだ。
自分達で風を制御してしまえば、少なくとも匂いで魔物に気付かれて狙われる心配はしなくても良くなる。
これは森の中で行動するのに大きなアドバンテージになるだろう。
「オークの足跡だ、頼むぞ達也」
「オッケー任せろ」
一時間ほど歩いたところでジョーさんがオークの足跡を見つけると、土属性のタツヤさんに場所を譲った。
タツヤさんは残っているオークの足跡の側に両手を付けると、目を閉じて精神を集中させ始めた。
「向こうだな……二頭、距離は500メートルぐらいだ」
「えっ、距離や方向、頭数まで分かるんですか?」
「まだ完璧じゃないが、たぶん間違いないと思うぞ」
詳しいことは教えてくれなかったが、地面の凹凸の中から同じ足跡を探って方向を見定め、後は地面の振動で距離と頭数を探知しているらしい。
ペデルさんは、しきりにジョーさんを褒めていたが、カズキさんやタツヤさんも俺からみたら遥か上のレベルにいる。
「誰がやる?」
「俺にやらせてくれ」
「えぇぇ……鷹山ぁ?」
「まぁ、離れてれば大丈夫じゃね?」
誰が討伐するのかジョーさんが訊ね、シューイチさんが手を挙げると残りの二人は微妙な反応をしてみせた。
「オスカー、鷹山の近くには行くなよ、巻き添え食らうかもしれないからな」
「えっ、どういう意味ですか?」
「炎を暴発させて、危うく俺達まで丸焦げにされるところだったんだ」
タツヤさんがシューイチさんの失敗の様子を身振り手振りを交えて説明してくれた。
「うっせぇな、ちょっと制御をミスっただけだろう」
「鷹山は無駄に魔力だけはあるんだから気を付けろよな」
「あー……二頭いるなら一頭は俺がやってもいいか?」
「おっ、弟子が出来たから良いところ見せようってか?」
「そんなんじゃないけど、ちょっと試してみたい魔法があるんだ」
ジョーさんはタツヤさんに茶化されても冷静に答えている。
試してみたい魔法とは、どんな魔法なんだろう。
「良いんじゃね。どうせ鷹山はバーンと燃やすだけだし」
「うっせぇな、大群相手の範囲攻撃の練習なんだから仕方ねぇだろう」
大群相手の範囲攻撃って、一体この人たちは何と戦おうとしているのだろう。
討伐の方針が決まると、四人は話をやめて狩人の目付きに変わった。
手の動きだけで意志を伝え合い、着実にオークを追い詰めていく。
タツヤさんの読み通りに二頭のオークに追いつくと、最初はジョーさんが魔法で攻撃をするようだ。
二頭のオークは全く気付いた様子もなく、こちらに背中を向けて歩いていたのだが、突然一頭がバッタリと倒れて動かなくなった。
その直後、ジョーさんが手で合図をして、頷いたシューイチさんが魔法を発動させた。
俺では聞き取れないほど短く早い詠唱の直後、巨大な火柱がオークを飲み込んで吹き上がった。
オークは悲鳴すら上げられず、棒立ちのまま火炙りにされ、こちらもバッタリと倒れて動かなくなった。
「手応えはどうだ、鷹山」
「んー……たぶん仕留めていると思うけど、念のために止めは刺した方がいいかな。そっちは?」
「俺も同じだな」
オークに攻撃をしかけたジョーさんとシューイチさんは、お互いの手応えを確認しながらオークへと近付いて行った。
ジョーさんが風の魔法で首筋を切り裂いて止めを刺したが、オークは既に事切れていたらしく全く反応しなかった。
「ど、ど、どうなってるんですか?」
「ジョーは、たぶん魔法で真空状態を作り出して酸欠にさせて、鷹山は周りを炎で包んで焼き焦がしながら、同じく空気を奪って酸欠にさせたんだと思う」
タツヤさんが解説をしてくれたのだが、正直言ってることの半分も理解できていない。
「というか、なんであんなに離れた場所に魔法を発動させられるんですか?」
「あれか、あれは……フワっときて、ヒュって感じらしい」
「はっ?」
「いや、違うな……ビビってきたのをガツンって感じだな」
「はぁ……」
駄目だ、何を言っているのか全く分からない。
弟子入りはしたものの、俺はこの人たちの所で成長できるのだろうか。
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