第724話 結婚披露パーティー(前編)
「本日は、お忙しい中を僕らのために集まっていただきありがとうございます」
背筋をピンと伸ばして、僕の家に集まってくれた皆さんに感謝を込めて頭を下げました。
カミラがヴォルザードに到着した翌日、今日は僕らの結婚披露パーティーの日です。
色んな堅苦しい仕来たりが面倒なので結婚式は取り止めにして、親しい人たちを招いての披露宴だけ行うことにしました。
普段は広すぎると感じていた自宅の食堂が、今日は満席になっています。
これだけの人を集められるようになったんだと思うとニヤけてしましそうですが、気合いを入れて挨拶を続けましょう。
「既に、マノン、唯香、ベアトリーチェ、セラフィマとは、ここで家族としての生活を営んでいますが、今日新たな家族が加わります。カミラ・リーゼンブルグ改め、カミラ・国分です」
今日は唯香たちと揃えた白いドレスに身を包んだカミラを僕の隣に誘いました。
「本日お集りの皆様の中には、カミラに対して複雑な思いを抱いている方もいらっしゃると思います。正直に言うと、一部の方からは僕とカミラの結婚は祝福されない覚悟もしています」
今日の結婚披露パーティーには、僕と花嫁の家族の他に、カルツさんメリーヌさん夫妻、シーリアさんフローチェさん母娘、それに居残り組のクラスメイトも招待しています。
その中には、綿貫さんと娘ちゃんの姿もあります。
「僕もこちらの世界に来た当初は、カミラに対して強い憎しみを抱いていました。自分達の国の都合を何の関係も無い僕らに押し付けるなんて酷い女だと思っていました。だって、何も知らされず、何の武器も持たされずに、夜の魔の森を一人きりで歩かされて、危うくゴブリンの餌になるところだったんですから、恨むのも当然でしょう」
僕の話を聞いた父さんが、何やら唯生さんに囁いていますが、そう言えば召喚当日の話は詳しくしてませんでした。
まぁ、足りない情報は後で補填しておきましょう。
「僕自身殺されかけて、大いに腹を立てたのですが、カミラが置かれている事情を知り、リーゼンブルグという国を立て直すために共に尽力する過程で、どうしようもなく惹かれ合ってしまいました」
どうしようもない愚物だった国王、第二王子、第三王子、男色に現をぬかしていた第一王子、王国乗っ取りを目論んでいたアーブル・カルヴァインの騒動など、いかにカミラが孤立した状態だったのか説明しました。
「今となっては笑い話ですが、アーブル・カルヴァインの一件については、そちらのバルシャニア皇帝陛下も一枚噛んでいらしたそうですよね?」
「ふははは……過ぎた話だ。今は攻め込む気など毛頭無いぞ。平和に取引をした方が潤うのは当然だからな……なっ」
「は、はい!」
コンスタンさんに同意を求められたディートヘルムが、慌ててガクガクと頷いてみせました。
この二人も、僕を介して親戚になる訳ですから、仲良くしてもらわないといけませんね。
「話が逸れてしまいましたが、リーゼンブルグを立て直し、日本への賠償を終わらせるために奔走する中で、僕とカミラは互いに欠くことのできない存在となり、今日という日を迎えました。これから、僕らが共に生活していく中で、沢山の人に支えられ、沢山の人に教えられることでしょう。その中でも、今日は特に親しい皆さんをお招きしました。お固い話はここまでにして、この後は忌憚のない正直な言葉を語って下さい。それこそが僕らの新生活へのエールだと思っています。今日は、お時間の許す限り、遠慮なく、飲んで、食べて、語って下さい。よろしくお願いします」
この後、乾杯の音頭は僕の父さんにやってもらいました。
事前に頼むのを忘れていたのですが、息子の晴れの日ですからお願いしますね。
「た、ただ今ご紹介に預かりました、健人の父、国分武人と申します。ここにいらっしゃる皆様は御存じでしょうが、私は……私は本当に駄目な父親でした。血を分けた息子に愛情を抱けず、その成長を見守ることすら放棄してしまいました。ですが、親は無くとも子は育つとは良く言ったもので、健人はヴォルザードの皆さんに支えられて本当に立派に育ちました。こんな事を私が言うのはおこがましいのですが、それでも言わせて下さい。健人は自慢の息子です」
ヤバい……涙腺が崩壊しそうです。
でも、奥歯をグッと噛み締めて我慢しましたよ。
「今日、この場にいられる事は、私にとって望外の幸せです。そして、この場に亡き妻を出席させられなかった自分が情けなく、申し訳ない気持ちで一杯です。日本に戻ったら、妻の墓前に花を供えて、私たちの息子がどれほど立派に育ったか、どれほど素晴らしい人達に囲まれて暮らしているか報告しようと思っております。健人は、私から見ても規格外の力を身につけていますが、それでもまだ十代の若造です。どうか、健人が道を外れそうになったら、遠慮なくぶっ叩いてやって下さい。よろしくお願いします」
深々と頭を下げた父さんの瞳には光るものがありました。
てか、僕の瞳はウルウルで決壊寸前ですけどね。
「それでは、健人と花嫁、そしてご列席の皆様が幸多からんことをお祈りして……乾杯!」
「乾杯!」
グラスに注がれたリーブル酒を一息に飲み干しました。
さぁ、ここから先は無礼講、戦いのゴングを打ち鳴らしましょう。
「お姉様、ご結婚おめでとうございます」
最初にカミラに歩み寄って来たのは、シーリアさんでして。
その腕の中には、リリサちゃんが抱かれています。
「ありがとう、シーリア。シューイチ殿との子供だな?」
「はい、リリサと名付けました」
「ラストックでは、色々とすまなかった」
「もう、やめましょう。確かに辛いと思った事もありましたが、シューイチと出会えたのは、お姉様のおかげですよ」
リリサちゃんを優しくあやしながら、シーリアさんはニッコリと微笑んでみせました。
「もう、すっかり母の顔なのだな」
「強くなければやっていけませんよ」
本当に、シーリアさんは母としての貫禄がでてきましたねぇ。
鷹山も大きな子供みたいなものだし、しっかりしないとやっていけませんよね。
その鷹山が僕に話し掛けてきました。
「国分、結婚おめでとう」
「ありがとう、鷹山は祝福してくれるんだね」
「まぁな。俺はラストックでも良い待遇を与えられていたし、ヴォルザードでは国分に迷惑を掛け通しだし、何よりも召喚してもらっていなかったらシーリアとは出会えてないから反対する理由なんて無いよ」
「そうか……いっぱいお金を使った甲斐があるよ」
「お前なぁ……まぁ、その通りだから俺からは何も言えないが……大丈夫なのか?」
鷹山がチラリと視線を向けたのは、綿貫さん達が座っている席です。
「さぁ?」
「さぁ……って」
「大丈夫でも、大丈夫じゃなくても、しっかり向き合いたいってカミラから頼まれたんだ。だから僕は見守るし、何かあった時には支えるよ。僕は、どちらの気持ちも理解しているつもりだから」
「そうか、じゃあ俺が口を出すことじゃないな」
「うん、見守っていてくれるとありがたい」
「そうさせてもらうよ」
カミラは、シーリアさんと一緒に歩み寄ってきたフローチェさんとも普通に言葉を交わしています。
シーリアさんやフローチェさんとは、二人がラストックを出る時に顔を合わせて和解済みですから、心配していませんでした。
フローチェさんとの会話が終わったところで、カミラが僕へと視線を向けて覚悟を決めたように頷いてみせました。
それでは一緒に移動することにしましょうか、綿貫さん達のテーブルへ……。
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