第672話 オープン二日目
相良さんが企画したプールのオープン初日は、入場制限が行われるほどの大盛況でした。
なので、二日目はもう客寄せしなくても良いだろうと思ったのですが、全く姿を見せないのも詐欺みたいだから来てくれと言われてしまいました。
「ちょこっと顔を出したら、影に潜って帰って来るよ」
「うん、それで良いんじゃない?」
実は、オープン初日には唯香とベアトリーチェがお目付け役として同行していました。
ベアトリーチェは街の人達に知られていますし、唯香も治癒士として知られています。
それに、二人とも大変発育がよろしいですから、そんじょそこらの女の子では太刀打ちできませんよね。
いやいや、マノンやセラフィマが物足りないなんて言っている訳じゃないですよ。
二人には二人の良さがありますし、ささやかなのもまた趣があるのですよ。
結局、何でも良いんじゃないかとか思っているかもしれませんけど、そんなことはありません。
そこには確かな愛があるんですよ、愛が。
「とにかく、昨日みたいに取り囲まれたら、早々に逃げ出してくるよ」
「でも、健人は嬉しかったんじゃないの?」
「とんでもない、何て言うか目が怖くて……」
「あぁ、それはちょっと分かる」
オープン初日、僕は唯香とベアトリーチェが着替え終えるのを影の空間で待っていて、直接プールサイドに移動しました。
人の少ないサイドを選んでプールに入ったのですが、一人が僕に気付いたら、プール中にいる女の子たちが一斉に向かって来たんです。
「ケント様、握手して下さいませんか?」
「ケント様、私の水着どうですか?」
「ケント様はどんな女の子がタイプなんですか?」
「待って、待って、危ないから押さないで……」
やはり水着姿を晒してでも……と考える女の子たちとあって、殆どの子はスタイルに自信があるようです。
唯香とベアトリーチェが壁になろうと頑張ったのですが、あっという間に取り囲まれて、おしくらまんじゅうのようになってしまいました。
「駄目、駄目、押さないで、そんなに押したら零れちゃうよ……」
相良さんの提案なのか、それともフラヴィアさんの策略なのか、女の子たちが身に着けていた水着の多くは、日本で売られているのと同じぐらいの露出度のものばかりでした。
そんな水着で押し合い圧し合いすれば、必然的にポロリが発生してしまいます。
プールには僕を目当てにした女の子の他に、女の子を目当てにした野郎共も押し掛けていました。
僕を中心にして集まっている女の子たちを前屈みになった野郎共が遠巻きに取り囲む、結構な地獄絵図が展開されてしまいました。
それにしても、プールサイドにいた守備隊の皆さんは、ポロリを連発する女の子たちを目にしても、前屈みになることもなく混乱収拾にあたっていました。
さすが、選ばれし精鋭たちなんでしょうね、めっちゃ前屈みになっていた新旧コンビなんかとは比べものになりませんね。
偉そうに言ってるけど、僕はどうだったのかって?
勿論、前屈みになんてならず、いたって紳士的に対応を続けましたよ。
だからこそ、オープン二日目の今日は、お目付け役無しで行くことを許されているのです。
まぁ、それにはちょっとした秘密があるんですけどね。
野郎共が前屈みになっているのは、抑えられないリビドーが水着越しでも目立ってしまうからです。
つまり、目立たなければ良いのですよ。
そこで僕は考えました。
海パンの内部に小型の闇の盾を仕込むことにしたのです。
闇の盾は生物を通せませんが、術者である僕は自由に体を出し入れできます。
つまり、抑えきれなくなったリビドーは、影の空間に退避させて置く訳です。
ただし、この方法には危険が伴います。
念入りに別空間に退避させておかないと、万が一にでもコボルト隊に発見されてオモチャにされようものなら、プールで悲鳴をあげて悶絶することになりかねません。
まぁ、コボルト隊には発見されませんでしたし、唯香たちにも気付かれなかったようですから、本日も上手くやりましょう。
顔さえニヤけさせなければ、たゆんたゆんでポヨンポヨンのおしくらまんじゅうを暫し堪能し、ポロリを鑑賞して戻って来られるはずです。
でもね、ちょっと恐怖を感じたのも事実なんです。
多くは同年代の女の子だったんですが、その中には結構年上のお姉様方が混じってまして、なんかその必死さの度合いが違うんですよね。
髪振り乱し、乳振り乱しながら人波を掻き分けて迫って来る姿には、鬼気迫るものを感じました。
たぶん、ロックオーガでも裸足で逃げ出すと思います。
「じゃあ、ちょっとだけ顔出して来るね」
「はい、いってらっしゃい」
海パンに着替えて、闇の盾も仕込んで、唯香たち四人とチュってしてから影の空間へと潜りました。
移動したプールには、既に多くの人が集まっていました。
昨日と少し違って見えるのは、僕らよりも年下の子が多く来ているからでしょう。
メイサちゃんと同じか、もっと下に見える子たちは、純粋にプールでの水遊びを楽しんでいるように見えます。
一方、露出度高めで派手な水着に身を包んだ、僕らと同じぐらいの女の子たちは、プールサイドに腰を下ろして、水に足をつけながら周囲を見回しています。
うん、獲物を狙う狩人の目ですね。
何の仕事をしてるか知りませんが、討伐メインの冒険者に転職した方が良くないですかね。
プールの中では無駄に元気に泳いでいる二人、言うまでもないでしょうけど新旧コンビです。
あれは、俺こんなに速く泳げるんだぜ、カッコイイだろう……みたいな感じなんでしょうかね。
残念ながら、注目しているのは僕らよりも年下の男子だけみたいです。
もう一人、プールを潜水しながら泳いでいる人物がいます。
時々息継ぎに上がって来るのは、ゴーグルを付けた近藤のようです。
こちらは、どうやら溺れている子供がいないか見て回っているようです。
うん、真面目だねぇ……。
でも、今日は子供が多いようなので、プールサイドの守備隊員に見つけてもらえずに溺れてしまう子供がいないように、コボルト隊に影の空間から監視してもらいましょう。
「アルト、表に出ないで見張って、いざという時には素早くプールサイドまで運べる?」
「わふぅ、お任せください、ご主人様!」
「うん、お願いね」
コボルト隊の隊長は頼りになりますねぇ。
『ケント様、表に出ないでよろしいのですか?』
ずっと影の空間から覗いていたら、ラインハルトに問い掛けられました。
「うーん……これだけ小さい子がいる状況で、昨日みたいな事態になったら危ないと思うんだよね」
『確かにそうですな。昨日の様子も影から拝見しておりましたが、あのなかに小さな子供が巻き込まれるのは感心いたしませんな』
「だよね。ちょっと相良さんと相談してくるよ」
相良さんの姿は、プールの入り口近くに設けられた、フラヴィアさんのお店の臨時店舗にありました。
既に水着を用意している女の子もいますけど、話だけ聞いて水着が無い状態でも来る人たちもいるようで、そうした人を相手に水着の販売をしているようです。
接客している間は声を掛けられないので、裏に水着を取りに来たところで声を掛けました。
「相良さん、相良さん……」
「わっ、ビックリした……脅かさないでよ」
「ごめん、ごめん、でも声かけないと連絡取れないじゃない」
「それもそうね。そろそろ姿を見せてくれるの?」
「それなんだけどね……」
プールの中に小さな子供が多く遊んでいる状況と、僕が姿を見せた後に起こるであろう懸念を伝えました。
「そっか、さすがに事故になりそうな状況は不味いわね」
「でしょ? まぁ、代わりに平日に予告無しで遊びに来る……みたいに言っておいてよ」
「あっ、それいいかも。平日のお客の入りも心配だったんだ」
「じゃあ、今日のところは帰るからね」
「うん、ありがとう」
「頑張って」
さて、これで相良さんへの義理も果たせましたから、自宅のプールでお嫁さん達とイチャイチャしましょうかね。
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