第649話 プレオープン(前編)
「プレオープン?」
「そう、本格的に解放するのは来週からみたいなんだけど、それに先だって関係者だけで試験的にオープンするんだって」
唯香が話しているのは、守備隊の敷地にできたプールの話です。
なんでも、相良さんがクラウスさんに直談判して設置が決まったそうです。
そういえばこの前、メイサちゃんが泳ぎの練習をするとか言ってましたね。
あれは、プールで泳ぐためだったのでしょうか。
「ねぇ、行ってもいいよね?」
「うん、僕が禁止する理由は無いよ」
そう言って、プール行きをオッケーしたのですが、何だか唯香のご機嫌が斜めになってきているようです。
あれっ、これは駄目と言った方が良かったのでしょうか……。
だとしたら、なぜ駄目出しを……むむっ、もしかして、そういう事なのかな。
「勿論、僕も行っていいんだよね?」
「えっ? うん、ケントも関係者といえば関係者だからね」
「いや、プレオープンとは言っても守備隊の人達はいるんだよね?」
「それはまぁ、監視員とかやるみたいだからいるんじゃない?」
「だったら僕も行くよ。唯香の水着姿を嫌らしい目で見る奴がいないか監視しないといけないからね」
「そんな人はいないと思うよ」
「いやいや、油断はできないからね。というか、水着って露出は控えめなんだよね?」
「えっ、うん……貴子が用意してくるって言ってたけど……」
「大丈夫かなぁ……あんまり過激なのは駄目だからね」
「分かってる。そこは、ちゃんと貴子にも言ってあるから大丈夫だよ」
「んー……でも、僕も行くからね」
「はいはい、分かりました」
うん、唯香のご機嫌が直ったみたいです。
今回は間違えずに済んだみたいですね。
あとは、水着姿をちゃんと褒めないとですね。
間違っても、肉付きが良くなったとか、安産型とか口走らないように気を付けましょう。
てか、僕の水着が無いんですけど、相良さん用意してくれてるかなぁ……。
守備隊のプールも興味があるんですが、自宅のプールの整備もしなくちゃいけません。
現在計画しているのは、城壁の上から覗かれないように目隠しを設置することです。
既に、目隠し用の大きな布はジョベートの帆布工房に依頼済みで、来週の半ばには出来上がる予定です。
それを池の畔に立てたアーチ型の支柱に張り巡らせれば、目隠しが完成する予定です。
土属性魔法で壁を立てようかとも考えたのですが、黒々とした壁が建っていると圧迫感があるので、帆布を使った目隠しにすることにしました。
「プールか……何をもって行けば良いんだっけ?」
プールに行くなんて本当に久々なので、何が必要だったか考えちゃいました。
まぁ、僕の場合は諸々影の空間に置いてあるので、手ぶらで行っても問題無いし、なんなら自宅の風呂場に影の空間経由で戻ってきてもいいんですよね。
「とりあえず、着替えとタオルがあれば大丈夫でしょう」
結局、着替えもタオルも影の空間に置いたので、手ぶらで守備隊へと向かいます。
今日は、唯香たちと一緒に歩いて行きます。
でないと、影の空間からあちこち入り込んだんじゃないかと疑われそうですからね。
さすがに、お嫁さんたちと同居するようになったのですから、女子更衣室を覗きになんか行きませんよ。
「あれっ、マノンとベアトリーチェは、もしかして泳げない?」
「うん、僕は泳ぐの初めてだから」
「私も初めてだから楽しみです」
「セラフィマは泳げるの?」
「はい、少しですけど泳げますよ」
セラフィマはバルシャニアの宮殿に設けられた水場で、泳ぎの練習をしたことがあるそうだ。
うん、さすがは皇女様って感じですね。
守備隊の入口までは、うちの門を出てから歩いて五分も掛かりません。
唯香とマノンは毎日のように診療所に通っていますし、ベアトリーチェは領主の娘ですし、セラフィマは輿入れの時に顔を知られています。
僕も何だかんだで守備隊の人達には顔を知られていますから、問題無く門を通してもらいました。
両手に花どころか、花に埋もれるような格好なので、門番の守備隊員からは睨まれちゃいましたけど、全然気にしませんよ。
「プールって、どこに作った……あぁ、あそこか」
守備隊の敷地には、隊列を組む訓練などをする広い訓練場があるのですが、プールはその一番手前側に作られていました。
「えっ? 二つもあるの……てか、広くない?」
「手前にある広い方は水深一メートルぐらいで、奥のプールが学校サイズみたい」
「へぇ……街の人を入れるのは、手前側なんだね」
「たぶん、そうだと思う」
近付いて行くと、入口らしきところで相良さんと本宮さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい、国分君も来てくれたんだ」
「うん、悪い虫が寄って来ないようにしないとね」
「あははは……でも、今日は守備隊の人の他は、ジョーと新旧コンビぐらいだよ」
「うわ、めっちゃ心配な虫が二匹もいるじゃん……処すか?」
「大丈夫、大丈夫、今日はフラヴィアさんとリカルダも来てるから」
「おぉ、あの犬耳の店員さん? じゃあ大丈夫か……いや油断は禁物だな」
「心配性だねぇ……そんなんじゃ本格オープンした後は来られなくなっちゃうよ」
「大丈夫、うちにプールあるから」
「うわっ、忘れてた。お屋敷の主だったか」
「そうそう、ところで海パンってある?」
「勿論、各種、各サイズ取り揃えてあるよ。ブーメランいっとく? ブーメラン」
「いやいや、普通のサーファーパンツでいいから」
てか、水泳の習慣が無いヴォルザードでブーメランパンツなんて穿いていたら、絶対に露出狂だと思われちゃうよ。
でも、せっかくなので、ちょっと派手目のオレンジ色の海パンを購入しました。
入り口を潜ると、その先は男女別の更衣室になっていて、内部には銭湯のように鍵のかかるロッカーが置かれていました。
「おーっ! 国分じゃんか、てことは委員長もいるってことか?」
「ベアトリーチェちゃんもいるんだな?」
「新田も古田も、うちの嫁さんに色目使っている暇なんかあるのかな? フラヴィアさんとリカルダも来てるんでしょ?」
「そうだった! 達也、今日ばかりは手前との友情も無しだ!」
「当り前だ和樹! 最後に笑うのは、この俺様だからな!」
海パンに着替えた新旧コンビは、先を争うようにしてプールサイドに飛び出していった。
「ジョーは、今日は遊べるの?」
「やめろよ、国分。フラグ立ててんじゃねぇよ」
「くっくっくっ、その調子だと監視員の指導とかやらされそうじゃん」
「だから、やめろ! 今日は絶対に働かないからな」
念を押すように言い切った近藤は、絶対に何かやらされそうな気がする。
まぁ、それは僕もなんだけどねぇ……。
着替えを終えて、近藤と一緒にプールサイドに出ると声を掛けられた。
「あー……ジョーと国分、良い所に来てくれた。ちょっとこれ動かすの手伝って」
声の方向へ目を転じると、屋台の準備をしている綿貫さんの姿がありました。
近藤は頭を抱えて首を振っているけど、最後には手を貸してくれるんだよねぇ。
「プールサイドで屋台の営業までやるの?」
「貴子に頼まれてね」
「って、もしかして焼きそば作るの?」
「おぅ、プールサイドと言えば、焼きそばとフランクフルトだろう」
「うわぁ、一気に日本風になったよ」
「にししし、でも嫌いじゃないだろう?」
「まぁねぇ……」
結局プールに入る前に、近藤と二人で屋台のセッティングを手伝う羽目になった。
うん、僕らはこういう星の下に生まれて来たんだよ。
「おぉぉぉぉぉ!」
屋台のセッティングを終えたところに、新旧コンビの野太い歓声が聞こえてきた。
視線を転じると、歓声の意味が良く分かった。
女性用の更衣室から出て来たフラヴィアさんは、真っ赤なホルターネックのハイレグワンピースの水着姿だった。
深い胸元の切れ込みでダイナマイツな胸の谷間を惜しげもなく披露し、ハイレグの角度は具がはみ出さないか心配になるほど鋭角です。
くるっと回ってみせた背中側も大胆なカットで、Tバック仕様になっていました。
うんうん、新旧コンビが前屈みになる気持ちは良く分かるよ。
僕は頭の中で円周率を唱えているから大丈夫……なはずだ。
てか、二人ともフラヴィアさんに視線を釘付けにされているけど、リカルダの存在を忘れてないかい。
スカイブルーとホワイトのチェック柄のセパレーツの水着は、色気というよりも健康美という感じですけど、スタイルが良いから魅力的だと思うんですけどね。
そのリカルダは、新旧コンビにチラっと視線を向けた後で、こちらへ小走りで近付いてきました。
「お久しぶりっす、魔物使いさん」
「どうも……水着似合ってるよ」
「そ、そうっすか? 正直に言うと、ちょっと恥ずかしいんですけどね」
「いやいや、かなりイケてるよ。なっ、ジョー」
「うぇ、俺に振るのかよ……うん、可愛いと思う」
「そうっすか……ありがとうございます」
ジョーも確かフリーなはずだし、新旧コンビよりも遥かに優良物件ですからね。
「リカルダは泳げるの?」
「いえいえ、こんな広い水に入るのも初めてです」
「じゃあ、ジョーに泳ぎを教えてもらえば?」
「うぉい、また俺に振るのかよ」
「新旧コンビじゃ不安だからね。あっ、僕はお嫁さんたちの相手しないといけないから」
「はぁ、しょうがないなぁ……」
「あー、駄目駄目、うら若き女性のお相手をするのに、しょうがないとか失礼だよ」
「おぉ、国分にそんなことを言われるようになるとは思わなかったぜ」
「じゃあ、お二人さん、楽しんで」
「ういっす、ジョーさん、よろしくお願いするっす」
「こちらこそ」
うん、ジョーに任せておけば問題無いでしょう。
さてさて、僕のお嫁さんたちは、どんな水着で現れるのかなぁ……。
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