第608話 追加の依頼

 おはようございます。

 自宅に戻ってベッドにダイブした後、三日ほど眠り続けていたようです。


 三日も眠っていたのですから、ブースターの反動もすっかり抜けて……いないんですよねぇ、これが。

 全然体が動かせませんし、頭がグラングランして気持ち悪いです。


「健人、何か食べられそう?」

「んー……今はいらない、食べても戻しそう」


 まるで酷い船酔いしているみたいで、全く食欲がありません。

 お嫁さん達が付きっ切りで看病してくれているのですが、冗談を言う気力もありません。


 前回ブースターを使用した時も、体が動かせなくなりましたが、今回のような気持ち悪さはありませんでした。

 なので、最初のうちは唯香達に看病される状況を楽しんでいられたのですが、今回はマジで病人モードです。


 ヘロヘロの状態で帰ってきて、そのまま倒れ込むようにして眠り続けた上に、死人みたいな顔色をしているらしく、唯香もお説教ではなく看護モードです。

 まぁ、回復した後には、まとめてお説教されそうですけどね。


 マノンは、すっかりお姉さんキャラに変身しております。

 僕としては、出会った頃のアワアワしちゃうマノンも好きなんですけど、愛情たっぷりに看護されるのも悪くないですよね。


 ベアトリーチェも落ち着いてきましたけど、やっぱり四人の中では甘々キャラです。

 デレデレに僕を甘やかして、デレデレに甘えてくる……ずっとそのままでいて欲しいです。


 四人の中で、一番包容力があるのはセラフィマです。

 やはり皇女としての教育を受けてきたからでしょうか、威厳というか余裕のような物を感じます。


 一番ロリっ子体型なんですけど、添い寝からのヨシヨシは破壊力抜群です。

 親バカ皇帝陛下、兄バカ皇子殿下、セラフィマを大事に育ててくれて感謝します。


 唯香達が看病してくれますが三日間も眠り続けていたので全く眠気も起らず、瞼を閉じても目が回る感じがして、なかなか回復しません。

 いつもだったら、マルト達やコボルト隊が布団に潜り込んでくるのですが、僕の調子悪さを察して、みんな遠慮しているようです。


 今の状態でお腹に乗られたら、胃液が逆流しそうなので助かっていますが、誰も遊びに来ないのは寂しいですね。

 元気になったら、みんな纏めてワシワシ撫でまわしてあげましょう。


 ベッドで一日大人しくしていたら、相変わらず体は動かせないものの目が回る気持ち悪さは解消されてきました。

 明日か明後日には、自分の力で起きられそうな気がします。


 僕が寝ている部屋には、テレビも無いし、パソコンやタブレットなども置いてません。

 なので、小惑星がその後どうなったのか全く情報が入ってきません。


 ただ、何か不測の事態が発生しても、僕はベッドから動けないので対処のしようがありません。

 なので、その後の状況が知りたいような、知りたくないような、微妙な気持ちです。


 そんな事を考えていたら、マルトが申し訳なさそうに影の中から顔をのぞかせました。


「ご主人様、梶川から何度も電話が来てる」


 なんの用でしょうか、天文学的な金額の報酬を支払う……なんて話じゃない事だけは確かでしょう。

 少し迷いましたが、マルトに操作を頼んで電話をかけてみました。


「もしもし……国分です」

「国分君、具合はどうだい?」

「まだ一人では身動きすらできませんね」

「大丈夫なのかい?」

「まぁ、あと二、三日寝ていれば起きられるようになるかと……」


 今の体の状態と、以前ブースターを使った時の状況などを説明しました。


「そうか、分かったよ。国分君は、こちらの心配などせずに、ゆっくりと休養を取って下さい」

「分かりました……って言いたいところですけど、梶川さんが電話してきてたのはそんな連絡をするためではないですよね」


 一応、梶川さんには事前に動けなくなるとは伝えてあります。

 それでも何度も連絡してきたとなると、それなりに緊急性が高い用事があったからでしょう。


「そうなんだけど……国分君が動けないんじゃ、しょうがないよね」

「まぁ、その通りですけど、事前に情報を聞いておけば、動けるようになったらすぐ対処できますよ」

「なるほど……それじゃあ話だけでも聞いておいてもらおうかな。実は、避難要請が来ているんだ」

「避難要請って、小惑星の衝突は回避できたんですよね?」

「勿論、国分君の奮闘のおかげで小惑星が衝突する可能性は無くなったし、大きな被害をもたらす可能性がある大きな欠片もほぼ無くなった」

「それじゃあ避難する必要は無いですよね?」

「一ヶ所を除いてね」

「えっ……どこですか?」

「ISS……避難要請は、国際宇宙ステーションなんだ」


 人類が滅亡するかもしれないような事態は回避できましたが、砕いた小惑星の欠片が大量に降ってくる可能性が高くなっています。

 直径一メートルほどの欠片であれば、大気圏突入時に燃え尽きてしまうでしょう。


 地上への影響はなくなっても、宇宙空間に存在している物への影響は測り知れません。

 もし、直径一メートルの欠片が衝突したら、ISSが崩壊、墜落するかもしれません。


「現在、ISSには六名のスタッフが滞在しているけど、全員を退避させる方法が無いらしいんだ」

「それは、小惑星の欠片が衝突するまでに終えれば大丈夫ですか?」

「そう聞いている。可能かな?」

「正直、分かりません。その時までに、僕が回復しているか分からないので、確実に救出できるとは約束できかねます」

「でも、国分君の体調が戻っていれば、救出できる可能性はあるんだね?」

「はい、そのための準備も進めておきます」

「具体的には、どんな感じで救出するのかな?」

「ISSまで僕が移動して、そこから影の空間経由で練馬駐屯地まで移動させるつもりです」

「それならば、実行可能になれば時間は掛からないのかな?」

「そうですね。人数にもよりますけど、五分も掛からないかと……」

「分かった、その準備を進めてもらえるかな」

「了解です」


 それにしても、寝たきり状態になりながらも仕事こなすなんて、僕って出来る男……ではなくて究極の社畜って感じですよねぇ。

 もうドノバンさんを超えちゃってるんじゃないですかねぇ……。


 ISSに救助に向かうには、まずISSを捕捉しなければなりません。

 まぁ、遥か宇宙のかなたの小惑星を見つけたスケルトンズに掛かれば、月面からISSを捕捉するなんて簡単です。


 唯香に頼んで、タブレットにISSの画像を表示してもらい、ラインハルト達に探してもらいました。

 念のため、ISSの影の空間にはコボルト隊を常駐させておきます。


 もし、小惑星の欠片が地球に接近する日までに僕が起き上がれなかったら、マルト達に運んでもらいましょう。

 魔力の譲渡をするだけならば、動けなくても出来るでしょう。


 ISSが墜落する危険性があるならば、他の人工衛星とかも壊れてしまう可能性があるでしょう。

 通信衛星とか、気象衛星とかが壊れてしまったら、一般市民への影響も大きくなりそうです。


「てか、衛星打ち上げビジネスは難しそうだけど、ISSの後継機の製作とか、月面基地の作成なんかには、僕ってめちゃくちゃ役に立つんじゃね?」


 基本となる衛星に闇属性ゴーレムを載せて軌道上に投入すれば、それを目印にして影の空間経由で物資を運べます。

 それに、ラインハルト達だったら宇宙服無しで、長時間の作業も出来てしまう。


 それこそユニットの構成次第だけれど、二、三日で宇宙ステーションの建設が終わってしまう気がします。

 宇宙ステーションどころか、月面基地も製作可能です。


 小惑星の衝突騒ぎが終わったら、余計な仕事が増えそうな気がしている。

 でも、日本独自の宇宙ステーションとか、月面の有人基地とか浪漫を感じるよねぇ。


『ケント様、このISSという物から人を避難させるぐらいなら、闇の盾で守ればよろしいのではありませぬか?』


 ラインハルトの言う通り、最大サイズの闇の盾ならば、ISSをすっぽりカバー出来ます。

 盾から入った隕石は、別の盾から放出できます。


「うん、それでも良いと思うけど、闇の盾の端に隕石が衝突すると闇の盾が壊れると思うんだ。その状況で次の隕石が衝突したら、やっぱり乗員が危険に晒されるから、避難してもらった上で闇の盾を設置するつもり」

『なるほど、念には念を入れて対応するのですな』


 ISSの他にも気象衛星など、捕捉できる物には闇の盾の守りを加えておくつもりです。

 まぁ、僕の体調が戻れば……の話なんですけどね。


 というか、そろそろ尿意が限界なんですけどぉぉぉ……。

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