第465話 闇属性魔術

※ 今回はルジェク目線の話です。


 目が覚めると、身体の痛みは綺麗さっぱりと消えていた。

 それどころか、これまで経験したことが無いほどの清々しい目覚めだ。


 いつもよりも少し早く目覚めてしまったのか、窓の外には薄明かりが差し始めているけど物音も聞こえず静まり返っている。

 喉の渇きを覚えたので、静かにベッドから下りて台所に足を向けた。


 ケント様のお屋敷では、基本的に使用人も含めた全員が集まって食事をするが、宿舎の部屋でも簡単な調理が出来る造りになっている。

 1人になりたい気分の時や、小腹が空いた時に軽食を作ったり、お茶を飲んだりするのに便利なようにとケント様が配慮して下さったと聞いている。


 魔道具を使ってカップに水を注ぎ、ゆっくりと飲んだ。

 身体が弱かった頃は、慌てて水を飲むだけでも気持ち悪くなったりしていたので、健康になった今でも時間を掛けて飲むクセが抜けていない。


「あれは、本当に僕がやったんだろうか?」


 歓楽街のボスの息子であるロレンシオの取り巻き達に殴られ蹴られ、足腰が立たなくなった僕は気付いたらメイサちゃんの家の裏口に移動していた。

 サチコさんが影の中から出て来たと言っていたので、影の空間を使った闇属性魔術による移動法だとは思うのだが……。


「どうやったら入れるんだろう?」


 影の中へと入ろうとしても、床や壁に手足がぶつかるだけで入り込める気がしない。

 そもそも、影に入り込めてしまうなら、普通に歩いていて潜ったりしないのだろうか。


「ルジェク」

「おはよう、姉さん」


 起きて来た姉さんは、僕の姿を見つけると足早に歩み寄って来て、額に手の平を当てて熱が無いか確かめた。


「大丈夫だよ。今朝は凄く気持ちよく目覚められたんだ」

「あぁ、旦那様の治療のおかげね。あとで良くお礼を言うのよ」

「勿論、分かってるよ」

「ルジェク、よく頑張ったわね……」

「うん……」


 姉さんにギューっと抱き締められた。

 兄弟だから普通のことなんだろうけど、なんとなく子供扱いされているようで、ちょっと気恥ずかしい。


「学校には行かれそう?」

「うん、大丈夫、行けるよ」

「そう、まだ早いから、ゆっくりと仕度をなさい」

「うん、そうす……あっ! 宿題があったんだ」

「じゃあ、朝食までに終わらせてしまいなさい」

「は~い……」


 姉さんは身支度を整えて、朝の仕事に出掛ける。

 僕も着替えてから学校の宿題を始めた。


 ケント様の治癒魔術は本当に凄い。

 昨日、お屋敷まで運んでもらった時には、こんなに回復するなんて思っていなかった。


 たぶん、何日かは痛みに呻くことになると思ったのに、一晩で……いやたぶん、昨夜の時点で元通りに回復していたのだろう。

 とってもとっても有難いのだけど、ほんのちょっとだけ残念だ。


 痛みに呻いている間は、ミオ様に看病してもらえたかもしれない。

 いやいや、駄目だ。もっと強くなって、ミオ様を心配させずに守れるようにならなくては……。


 そのためにも、もっと上手に闇属性の魔術を使えるようになりたい。

 姉さんも闇属性の魔術を使えるけど、ケント様のように影に潜って移動したりは出来ないらしい。


 やっぱり、ケント様に教えてもらった方が良いのだろう。

 でもケント様は、とてもお忙しい方だから、僕なんかに魔術の手ほどきをしている時間は無いかもしれない。


 どうやってお願いしようかと悩んでいたら、朝食の席でケント様に呼ばれた。


「ルジェク、ちょっと……」

「はい、何でしょうかケント様」

「昨日は美緒ちゃんを守ってくれて、どうもありがとう」

「い、いえ、当然のことをしたまでです。それよりも治療していただいて、ありがとうございました」

「それこそ当然の話だよ。この屋敷に暮らしている人は、僕にとっては家族同然だからね」


 そう話ながら、ケント様は僕の頭をワシャワシャと撫でまくる。

 照れくさくて俯くと、影の中からコボルト達に羨ましそうな目で見られていた。


「それでね、ルジェク、例の歓楽街のボスの息子なんだけど……」


 まるでお使いでも頼むかのように、サラっとケント様が口にした内容は言葉を失うほどの内容だった。

 僕の知らないところで、ロレンシオは父親に左腕を切り落とされ、その腕がケント様のところへと届けられたそうだ。


 これだけでもビックリなのに、ケント様は送られてきた腕をロレンシオの所へ持参して元通りにくっ付けてしまわれたそうだ。

 更には、今後はミオ様にも僕にも、手出しをさせないように話を付けてしまわれていた。


「もう心配は無いと思うけど、一応ルジェクにもコボルト隊を付けておく事にしたから、何かあったら連絡して。ネルト、おいで」

「わふぅ、呼んだ? ご主人様」

「うん、今日からルジェクの護衛を担当してくれるかな?」

「わぅ、任せて」


 影の中から飛び出してきたコボルトのネルトは、ケント様に撫でられて千切れんばかりに尻尾を振っている。


「よ、よろしくお願いします」

「わふっ、安心していいよ」


 挨拶すると、ポフポフと肩を叩かれた。

 身長は僕よりも低いし、見た目はモフモフで愛嬌があるけど、オークさえ一撃で倒してしまうそうだ。


 ネルトを僕に付けるのは、ロレンシオが取り巻き達に無茶な要求をしないように牽制する意味もあるらしい。

 今後、学校でロレンシオが横暴な振る舞いをしたら、それを止めるのは僕とネルトの役目となるのだろう。


 だとしたら、なおさら闇属性の魔術を上手く使えるようにならなくてはいけない。


「あ、あの……ケント様、実は僕、闇属性の魔術を使ったみたいなんです」

「うん、ちょっと聞いたけど、影移動を使ったみたいだね」

「はい、そうみたいなんですけど……上手く使えなくて……」


 試してみても、影に入り込める気がしないと話すと、学校が終わった後で見て下さることになった。


「そろそろ、学校に行く時間だよね。続きは帰ってきてからにしよう」

「はい、分かりました」


 学校へ行く支度を終えて宿舎を出ると、門に行く途中でミオ様が待っていた。


「ん……」

「えっ?」


 ミオ様は、無言で右手を差し出してきた。


「が、学校までの道を間違えると困るから……ん!」

「は、はい……」


 学校までは、目抜き通りに出て一度曲がるだけなので、間違える心配など要らないのだけど、ミオ様のお望みとあれば断われない。

 左手でミオ様の手を握ると、そうじゃないとばかりに振りほどかれて、指を絡めるように握り直された。


「ミ、ミオ様……んっ」

「さ、様って言ったら駄目なんだからね」

「は、はい……」


 き、気をつけないと、学校でチューされてしまったら、クラスのみんなに冷やかされてしまうだろう。

 というか、誰かに見られたら恥ずかしいと思っていたら、いつの間にか影の中から出てきた、ネルトとミオ様の護衛を担当しているコボルトが並んでウンウンと頷いていた。


 お願いします、今のはケント様には報告しないで下さい。

 学校に着くと、ミオ様に帰りも校門のところで待っているように言われた。


 そう、道に迷ったりしないように、ちゃんとご案内しなくてはいけないのだ。

 早く授業が終わらないかなぁ……い、いや、ケント様の魔法の手ほどきが楽しみだからで、ミオ様をミオ様と呼ぼうなんて思っていないよ。


 教室に行くと、ロレンシオ達に取り囲まれた。


「ごめんなさい! もう二度と殴ったりしないから、許して下さい!」

「えっ、ちょっと……」


 四人は謝罪の言葉を叫びながら、教室の床に額を擦り付けた。


「えっと……と、とにかく頭を上げて。僕はケント様に治療していただいたから大丈夫だから……」


 頭を上げた四人のうち、取り巻きの三人の頬は青黒く腫れ上がっていた。

 昨日、帰宅して相談したら親に思いっきり殴られたそうで、その上ロレンシオが何をされたのか聞いて震え上がっているらしい。


「とにかく、これから理不尽なことをしないなら、僕から何かを要求することはしないから、だから……仲良くしよう」

「あ、ありがとう……」

「ごめんよ、ルジェク……」

「お前、いい奴だなぁ……」


 四人は揃ってベソベソと泣き出してしまい、始業時間になって教室に来た先生に説明するのが大変だった。

 この調子ならば、僕に護衛は必要無いと思うけど、その判断をするのはケント様なので帰ってから聞いてみよう。


 仲良くしようと言ったものの、ロレンシオ達は休み時間になる度に僕の席へと集まって、ケント様の話を聞かせてくれとせがんで来た。

 これまで休み時間は、1人静かに過ごす時間だったので騒々しいと思う反面、やはりケント様の凄さを語るのは気分が良い。


「でもさ、なんで闇属性の術士なのに治癒魔術が使えるんだ?」

「ケント様は、闇属性だけでなく全ての属性の魔術を使えるんだよ」

「嘘っ、本当に?」

「本当だよ……と言っても、全部の属性を使っていらっしゃるところを見せてもらった訳じゃないけど、僕に嘘をつく必要なんか無いからね」


 四人の中でもロレンシオはケント様を神様のように崇拝していて、腕を切り落とされた痛みと絶望、それを救ってもらった時の様子を何度も何度も話していた。


「俺もケント様みたいな凄い冒険者になる。あの歳で、うちの父ちゃんと対等以上の話が出来るなんて凄すぎる。身体のデカい手下どもだって、父ちゃんに睨まれるだけでビビってるのに、ケント様は平然としてた。それどころか、父ちゃんの方がビビってたぐらいだ」


 まぁ、ロレンシオの父親どころか、リーゼンブルグの王女様でさえケント様には従っている。

 そんなケント様のようになんてロレンシオがなれるはずがないし、闇属性の資質を持つ僕の方が可能性は高いだろう。


「ところで、ルジェクとミオ様は、どんな関係なんだ?」

「ど、どんなって……」

「昨日、言ってたじゃんか、ミオ様は俺が守る……って」

「いや、あれはケント様に言いつけられていたから……」

「今朝は、手をつないで登校してきたよね」

「えっ……」

「同じお屋敷に住んでるんだろう?」

「いや、それは……」


 やっぱり騒々しい休み時間は苦手だ。

 一日の授業が終わって、急いで帰り支度をして教室を出ると、隣りのクラスは先に終礼が終わったらしく、廊下でミオ様とメイサちゃんが待っていた。


 教室の中からロレンシオ達に一緒に帰ろうと声を掛けられたが、断わって急いでミオ様に歩み寄る。


「ミオ様、お待たせしまし……あっ!」


 しまった、学校でミオ様と呼んでしまった。

 ミオ様は、むぅっと頬を膨らませた後、僕の左手を握って足早に歩き始めた。


「あ、後でちゃんとお仕置きだから……」

「は、はい……」


 大股で歩く僕らと並んで歩きながら、ニマニマするのは止めてくれないかな、メイサちゃん。

 どうやら、僕がケント様に魔法の手ほどきを受けると聞いて、一緒にお屋敷まで来るみたいだけど、お店の手伝いとかあるだろうから帰っても良いんだよ。


 結局、お屋敷の門を潜って、庭に入ったところでミオ様にチューされた。

 しっかりメイサちゃんに見られてしまった。


 うん、かなり恥ずかしいから直さなきゃ駄目だな。

 でも、自信ないなぁ……えへっ。


 学校の鞄を宿舎に置きに行ってからお屋敷のリビングを訪ねると、ケント様の他にセラフィマ様がいらっしゃった。

 セラフィマ様はバルシャニア帝国の皇女様で、芸術品のようにお美しい方だ。


 白い髪は銀糸のごとくサラサラで、整った容貌は儚げでありながら、芯の強さも感じさせる。

 輿入れの行列がヴォルザードの目抜き通りを通った時には、老若男女を問わずセラフィマ様の美しさに溜息を洩らしたそうだ。


「痛い……なんで抓るの? ミオちゃん」

「ふん……鼻の下を伸ばしちゃって、こんな時はミオちゃんなんだ……」


 あれっ、様じゃなくて、ちゃんって呼んだのに怒られてるの?

 どうして急にミオ様は、機嫌が悪くなったのだろう。


「じゃあルジェク、まずは影移動を使った時の状況を教えてくれるかな?」

「はい、ロレンシオ達に連れられて、路地裏の小さな空き地に連れ込まれました……」


 足腰立たなくなるまで暴行を受けて、何とかミオ様に危険を知らせたい一心で這ってでも動こうとしていたら、水に沈むような感じがした直後にメイサちゃんの家まで移動していたと話すと、ケント様は何度も頷いていました。


「うん、きっとルジェクがミオちゃんを守りたいという気持ちが、普段よりも強い魔力を引き出したんだろうね」

「そう、だと思います……」


 気付くとミオ様に手を握られていた。

 ちょっと唇を尖らせて、チラっ、チラっと上目使いで僕を見てくる仕草が可愛い。


「あ、あの……僕は、もっとちゃんとミオ様を守れるように、闇属性の魔術を上手く使えるようになりたいです。ケント様は、どうやって魔術を使われていらっしゃるのですか?」

「えっ、僕? 僕はねぇ……こう、スって感じ。うん、影に向かってスルって入る感じだね」


 自信たっぷりに説明されたけど、全然、全く分からない。


「あの……詠唱は?」

「しないよ。習ってないし」


 ニコニコしているケント様の横で、セラフィマ様が額に右手をあてて小さく首を横に振っている。

 分かります、セラフィマ様の気持ちは凄く分かりますけど、ケント様の説明は全く分かりません。


「ケント様、それではルジェク君の参考にはなりませんよ」

「えっ、なんで?」


 セラフィマ様に窘められても、ケント様は逆に首を捻っています。


「ケント様、普通の者はキチンと詠唱を行って魔術を発動させるものです」

「そうみたいだね。でもさ、ルジェクは詠唱しないでも影移動できたんでしょ?」

「あっ……」


 ケント様の言う通り、確かに僕は詠唱をせずに魔術を使った。


「僕は詠唱をしなくても魔術が使える。僕と一緒に召喚された同級生達も詠唱しないと魔術は使えないって言うんだけど、ルジェクは使えたんだよね? だったら、詠唱しないで魔術を使う方法を考えるべきじゃないかな? 詠唱するのとしないのとでは、発動までの時間が全然違うからね」

「で、でも……どうやれば……」

「そうだねぇ……ネルト、ちょっと出て来て」

「わふぅ、なぁに、ご主人様」

「これから闇の盾を出すから、そこにルジェクの手を引いて入って欲しいんだ」

「わぅ、いいよ」


 ネルトは何をするのか分かっているようだが、僕にはケント様の意図が分からなかった。


「あのね、闇属性を持つ者は、他の闇属性の術士が作った空間にも、手を握ってもらえば入れるんだ。たぶん、ネルトの手を握れば、ルジェクも僕の影の空間に入れるはずだよ。ネルトに手伝ってもらって、影移動する感覚を身に付けていけば、いずれ1人で無詠唱で入れるようになるんじゃないかな」

「本当ですか?」

「ルジェク、魔術は信じる気持ちが大事なんだよ」


 スっとケント様が指差すと、真っ黒い四角い板が現れた。

 その横でネルトが、早く来いとばかりに手招きしている。


 ケント様の影の空間へと続く闇の盾の前に立ち、大きく深呼吸する。

 魔術は信じる気持ちが大事、大丈夫、大丈夫きっと入れる。


 正直、とても怖くて足が震えているけど、この一歩がミオ様を守るための第一歩なのだ。

 モフモフのネルトの手を握り、思い切って踏み出すと、黒い壁に溶け込むように身体が前に進んだ。


「うわっ、凄い……」

「わぅ、みんなご主人様のものだよ」


 真っ暗闇だと想像していた影の空間は、夕日が沈んだ直後ぐらいの明るさがあった。

 どこまで続いているのか分からない空間には、武器や鎧、何台もの馬車、魔石の山、魔物の角や爪などの山、金属の素材などが整然と並べられていた。


「わふぅ、いいもの見せてあげる。こっち、こっち……」

「あぁ、ちょっと待って……」


 ネルトに引っ張られていった先には、小さな窓が開いていて外の景色が見えた。


「な、何ですかここは……」

「ご主人様が育った街だよ」


 見た事も無いような高い建物がいくつも並び、どこまでも街並みが続いているように見える。


「こっちはヴォルザードだよ」

「えっ、ここは……」

「塔の上だよ」


 確かに見下ろしている風景の中には、見覚えのある建物があるし、遠くに見える城壁は間違いなくヴォルザードのものだ。

 お屋敷から然程歩いていないのに、全く違う場所にいるらしく、感覚が混乱してきた。


「ご主人様が呼んでるから、帰るよ」

「は、はい……」


 ネルトに連れられて数歩歩いただけで、闇の盾を出て元の場所へと戻った。


「ど、どうなってるの……?」

「わぅ、これが闇属性の魔術だよ」


 どうだとばかりに胸を張るネルトを、尊敬の眼差しで見ることしか出来なかった。


「どうだった、ルジェク」

「もう、何が何だか……」

「まぁ、徐々に慣れていけば良いよ。それにネルトが一緒ならば影の空間に入れると分かったし、たぶんマルツェラも同じ事が出来るんじゃないかな……そうなれば、他の街への移動も可能になるし……二人には、もっと重要な仕事をしてもらうようになるね」

「ケント様、バルシャニアへの使者の役割も果たせるのでございますか?」

「そうだよ、セラ。でもまずは、マルツェラとルジェクに影移動に慣れてもらわないとだね」


 ケント様とセラフィマ様の話を聞いているうちに、身体が震えてきた。

 この震えは恐怖から来るものじゃなくて、未来への期待からだ。


 これまで、身体が弱くて姉さんの足を引っ張ることしか出来なかった僕が、他の人には出来ない役目を果たせるかもしれない。

 気付くと視界が涙で滲んでいた。


「ルジェク、どうしたの? 大丈夫?」

「ミオ様、僕、僕、ケント様のお役に立てるみたいです。嬉しい……凄く嬉しいです」

「良かったね、ルジェク。でも……様って言っちゃ駄目なんだから」

「んっ……はい」


 ミオ様に、チューされた後で抱きしめられた。

 ミオ様は、とっても柔らかくて、良い匂いがして……ずっとこうしていたい。


「んっ! うんっ! ルジェクも眷属のみんなと一緒なら影移動できるみたいだし、ラインハルト、これからは時間のある時に、魔の森の特訓場で鍛えてあげてくれるかな」

「えっ……」


 ケント様の言葉が終わる前に、闇の盾から鏡のごとき光沢を持つ金属製のスケルトンが姿を現した。

 腕組みをして僕を見下ろす骸骨は、確かにニヤリと笑った気がした。


「ちょっと、ルジェク、なんで震えて……ひっ」


 僕を抱きしめた腕を緩めたミオ様は、振り向いて短く悲鳴を洩らした。

 そう、僕が震えているのは不確定な将来への期待ではなくて、確定した将来への恐怖からだ。

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