第237話 特訓場への飛び入り

 綿貫さんの相談を受けた翌日、僕は魔の森の訓練場へと足を向けました。

 年末年始の休みも残すところ二日、休日明けからは帰還作業も本格化させる予定ですし、いつまでもダラけてはいられません。


 そこで鈍った身体を動かそうと思ったのです。

 訓練場や周囲の森では、コボルト隊やゼータ達が走り回って遊んでいます。


 ヴォルザードから歩けば丸一日掛かるほど、魔の森の奥深くにあるけれど、これでは魔物なんか近付いて来れませんよね。

 ここだけポッカリと空いた安全地帯って感じです。


 まず最初は、ジョギングとストレッチで身体を解してから、振り棒を使っての素振りや筋力トレーニングを行いました。

 土属性の魔術も使えるようになりましたから、ダンベルとかバーベルも自作しちゃいましたよ。


 メイサちゃんではないけれど、休日の間遊び呆けていたので、かなりキツイですね。

 それでも、光属性のおかげで、筋肉痛とかは自己治癒出来ちゃいますから、楽なもんです。


『さて、ケント様。久々に手合わせとまいりますかな?』

「その前に、ちょっと星属性の練習をしようかと……」

『星属性ですか?』

「うん、ヒュドラをやっつけた跡とか、どうなっているのか気になってるからね」

『なるほど……意識だけを飛ばして、遠隔地の様子も見られるのでしたな』

「そうそう、そんな感じ……」


 全属性を合わせた星属性の魔術は、召喚術、送還術と、この千里眼的な能力の他は、何が出来るのか分かっていません。


 でも、とりあえず分かっている部分を練習していれば、他の能力も分かってきそうな予感めいたものがあります。

 なので、これからは暇をみつけて訓練していくつもりです。


「マルト、ミルト、ムルト、ちょっと支えていてね」

「わふぅ、分かりましたご主人様」

「うちも、ちゃんと支える」

「うちは、暖めちゃう」


 訓練場の日当たりの良い場所にシートを広げて、そこに体育座りしてマルト達に回りから支えてもらいます。

 その姿勢のまま意識を外に引き出すようにイメージすると、座っている自分の姿を上から眺めることが出来ました。


 そのまま意識を上昇させて、上空へと上って行きます。

 魔の森は、常緑樹の多い森で、冬本番のこの時期でも深い緑に覆われていました。


 それでも、所々には紅葉する木々もあるらしく、赤や黄色の彩りも目に飛び込んできます。

 そのまま魔の森の上空を南の大陸方面へと進んでいくと、眼下にコボルトの群れやオーガなどの姿が見えてきました。


 今の僕は、意識だけが抜け出して空を飛んでいる状態です。

 試しに高度を下げて森の木に突っ込んでみたら、衝撃を感じることも無く摺り抜けていきます。


 ひゃっは――っ、これ、楽しぃぃぃぃぃ!

 超リアルなVRゲームという感じで、自由自在に飛び回れます。


 調子に乗ってスピードを上げて滑空を続けていると、いきなり視界が開けて水面が広がりました。

 速度を緩め、高度を上げてみると、ヒュドラ退治の時に出来たクレーターに水が溜まって大きな池になっています。


 池の周囲には、ゴブリンやコボルト、オークの姿も見えます。

 水場が出来たことで、魔物達が集まってきているのでしょうか。


 実体を持たない意識だけの状態なので、触れるぐらいの距離に近付いても気付かれません。

 これって、魔物の生態調査をするには最適なスキルですよね。


 それに、この能力を使えば、女湯も今まで以上の大迫力で……なんて、やりませんからね。

 ゴブリンが一匹、周囲を警戒しながら池へと近付いて行きます。


 やはり、魔の森の食物連鎖の中では下の方に位置するのでしょう、時々離れた場所にいるオークをジッと観察しています。

 警戒に警戒を重ねて、ようやく水面に口を付けて水を飲み始めた瞬間でした。


 水中から藍色の大蛇が飛び出して来て、ゴブリンの首筋に噛み付きました。

 大蛇の全長はゴブリンの五倍以上ありそうで、すぐさま全身を絡み付かせて締め上げ始めます。


「ギャ、ギャァァ……ガフッ……ギィィ……」


 ミシミシ、ボキボキと骨の砕ける音が響き、ゴブリンは口から血泡を吹いて動かなくなりました。

 大蛇は暫く締め付け続けた後、動かなくなったゴブリンを丸呑みにして、水底へと姿を消して行きました。


 うん、ナショナルジオグラフィックよりも大迫力ですね。

 4K、8Kで撮影して放送したら、凄い反響がありそうですよね。


 てか、今の僕は実体を伴っていないから撮影出来ませんけどね。

 この後、高度を下げたままで池の周囲を見て回りましたが、警戒が必要な大きな群れは見当たりませんでした。


 再び高度を上げて、今度はヴォルザードを目指します。

 速度を上げて滑空すると、まるでウイングスーツかジェットスーツを着て飛んでいるようです。


 慣れてきたら、錐揉み、旋回、宙返りも思いのままです。

 しかも、墜落しても怪我したり、死んだりする心配も要りませんから、これは病みつきになりそうです。


 あっと言う間にヴォルザードの上空に達して、猛スピードで通過。

 少しスピードを落としながら上空を旋回してみます。


 こうして空から眺めてみると、ヴォルザードの発展の歴史が良く分かりますね。

 正方形の旧市街に付け足すように城壁が作られ、一部は迷路のようになっています。


 今は年末年始の休み中なので、人の往来も少ないですが、賑わいを見せる平日の様子も見てみたいですね。


 北側の領主の館、西側の倉庫街、そして南側には守備隊の敷地が広がっています。

 その守備隊の訓練場で人影が動いているのが見えました。


 休日なのに訓練でもやっているのかと思って近付いてみると、同級生でした。

 新田和樹、古田達也の新旧コンビ、柔道部のナイスガイ近藤譲二、それにガセメガネこと八木祐介の四人です。


 新旧コンビと近藤は、木剣を手に何やら動きを確認しているようです。

 八木は、柵に腰を下ろして、横からゴチャゴチャと言ってるようですね。


「やっぱりバットスイングが一番力が入るだろう」

「そんなん和樹だけだ。俺は蹴るのが一番だけど、蹴りじゃ魔物は倒せそうもねぇしな」

「いや、鎧の脛当てみたいなので、棘とか刃とか付ければいけるんじゃね?」

「おぉ、さすがジョー、頭いいな」

「けっけっけっ、そんなの作るのにいくら掛かるんだよ。その金どうやって稼ぐんだ」


 八木の一言に、残りの三人は渋い表情を浮かべています。

 何だか面白そうなので会話に加わろうかと思ったら、身体を置いてきちゃってるんですよね。

 一旦、魔の森の訓練場に戻って出直してきましょう。


「ただ今、みんな、ありがとうね」

「わふぅ、お帰りなさいご主人様」

「わぅ、撫でて撫でて」

「うちは、お腹撫でて」

「はいはい、順番だよ」


 尻尾をブンブン振り回して、マルト達が摺り寄って来ると、他のコボルト隊やゼータ達まで集まって来て、揉みくちゃにされちゃいました。


『ケント様、いかがでしたか?』

「うん、槍ゴーレムを落とした跡に水が溜まって、魔物達の水場になってた」

『ほほう、それでは大量発生の予備軍が出来ているのでは?』

「一応ぐるっと周囲を見て回ったけど、警戒するほどの大きな群れはいなかったから大丈夫じゃないかな」

『そうですか、一応コボルト達に時々見回らせましょう』

「そう言えば、深い青色の大蛇がゴブリンを丸呑みにしてたよ」

『ほほう、おそらくコバルトヴァイパーでしょうな。あまり姿を見せない魔物なので、革が高値で取り引きされますぞ』

「そうなの? てかさ、身体をこっちに置きっぱなしだったから、捕まえるのは無理だったけどね」

『ならばケント様、身体を手元に召喚出来ないか、試されてみてはいかがです?』

「おぅ、なるほど、それはちょっと面白そう」


 シートの上に横たわって、意識を外に移動させて召喚術を使ってみましたが、上手くいきません。

 そこで発想を転換、意識が存在している場所に身体を送還させてみると、今度は上手くいきました。


『おおっ、さすがはケント様』

「うん、これはちょっと面白いね。工夫次第で色んな使い方が出来そうだよ」

『ですがケント様、意識が無い状態の身体が無防備ですぞ』

「そうだね。だったら、身体は影の空間に置いておくよ。それなら外敵から危害を加えられることも無いからね」

『なるほど、それならば安心ですな』


 ラインハルトは手合わせを始めたくてウズウズしている感じですが、その前に、ちょっと四人の様子を覗きに行きます。

 影移動を使って守備隊の訓練所に移動すると、四人はまだ同じ場所にいました。


「おっす、みんな何してんの?」

「おう国分か、見りゃ分かるだろう、訓練だよ」

「いやいや、八木は見てるだけじゃん」

「ばーか、お前はホント馬鹿な、俺様はスーパーバイザーってやつだよ。こいつらの訓練にアドバイスしてやってたところだ」

「とか言って、邪魔になってただけでしょ?」


 新旧コンビと近藤に視線を向けると、三人ともウンウンと頷いています。


「それでも、たまに、たまーに役に立つことも、あるような、無いような……」

「てめぇ、近藤、さっきも脛当ての価格を指摘してやっただろう」

「価格の問題を指摘しても、解決法が提示されないからなぁ……」


 脛当てというのは、さっき古田が欲しがってたやつですね。


「解決法って……そうだ、金のことなら、ここに解決法が居るじゃないか、なぁ国分」

「お金のことって、明々後日ぐらいからは帰還を本格化させるから、もうお金なんか出さないよ」

「いや、こいつらはヴォルザードに残るってよ」

「えっ、マジで?」

「あぁ、俺と新旧コンビはヴォルザードに残って冒険者になるつもりだ」


 新旧コンビはギリクに感化され、近藤は強制労働が終わった後も城壁工事に参加していて、そこでヴォルザードの大人達から話を聞いて決心したんだとか。


「なるほど……それで自主的に訓練してたって訳だね。そう言えば、ギルドの戦闘講習とかは受けてるの?」

「勿論受けてるぞ。三人とも、今は風の曜日の突破を目指しているところだ」

「へぇ……勿論、八木は参加してないよね?」

「うるせぇ、俺様は頭脳労働担当だから、一回受けただけで十分だ」


 そう言えば、ヴォルザードに来た頃に、そそのかして受けさせたんでした。


「そう言えば国分、お前はギルドの講習とか受けないのか?」

「うぇ? いや、僕はほら、もうSランクだし……」

「ドノバンのおっさんは、受けさせたがってたみたいだぞ、なぁ和樹」

「おぅ、達也の言う通りだ。たまには引っ張って来いって言ってたぞ」

「えぇぇ……」


 そう言えば、指名依頼の完了届けを出し忘れた件とか、休み明けには謝罪に行かないと拙いですよね。

 そのタイミングで講習に参加しろって言われそうだなぁ……。


『ケント様、やはり訓練場に戻って手合わせした方がよろしいですぞ』

『うっ、そうかもね……』


 訓練場に戻ろうか悩んでいたら、近藤から尋ねられました。


「国分は基本的に術士なんだよな? それなのに騎士の訓練もしてるのか?」

「まぁ、行きがかり上、そういう事になってるんだよねぇ……」

「でも、ギルドの訓練場じゃ見掛けないけど、どこで訓練してるんだ?」

「訓練は……魔の森の中にある訓練場で……」

「マジで? あっ、あの眷族のスケルトンに稽古してもらってるのか、ズリぃぞ国分」

「おう、達也、俺達も行って訓練しようぜ」

「そうだな、そうしよう」

「いやいや、待って待って、ヴォルザードから歩くと丸一日ぐらい掛かるから無理だよ」


 訓練場までの移動が出来ないと言ったら、八木に突っ込まれました。


「ばーか、お前はホント馬鹿な。送還術で日本に帰せるなら、魔の森なんてすぐじゃんかよ」

「あっ、そうか……いや、でも防具とか無いし……」

「お前はどうしてんだよ」

「えっ、僕? 僕は、ラストックの駐屯地からいただいて来たのを……」

「だったら、あと三組ぐらいチョロまかして来れんだろう」

『ケント様……防具の予備ならもうある……』


 フレッドの楽しげな声に、思わず膝から崩れ落ちそうになりましたよ。


「はぁ……僕の優秀な眷属が、もう準備してくれてるってさ」

「じゃぁ文句ねぇだろう、さぁ行くぞ」

「えっ、八木も行くの?」

「ばーか、俺様はスーパーバイザーだって言ってんだろ、何聞いてんだよ」

「はいはい、分かった分かった……しょうがないから連れていくよ。ただし、僕が指定した範囲からは絶対に出ないでよ。スッパリだからね」

「お、おぅ……分かってる」


 マルト達を目印に使って、四人を魔の森の訓練場へと送還し、影移動で後を追います。

 訓練場では、突然の来客に興味を示した眷族達が周囲を取り囲み、四人は固まって冷や汗を流していました。


「みんな、この四人は僕の同級生だから、手荒にはしないでね」

「おい国分、そういう話は送還する前にしておくもんじゃないのか?」

「まぁ、そうなんだけど忘れちゃったんだよ、てへっ」

「馬鹿、お前はホント馬鹿だな、てへペロなんてしたって……」

「ご主人様、こいつは敵なの?」

「主殿、排除いたしますか?」


 八木が僕に食って掛かると、眷族のみんながジリっと距離を縮めて来ました。


「いや、ち、違います。違いますよ、嫌だなぁ……ちょっと国分とじゃれてただけですよ」

「わぅ、ご主人様、ホント?」

「うん、ホント、ホント、八木はみんなと遊びたいんだってさ」

「おいっ、国分……さん、ちょっとそれは……」

「さぁ、みんな、八木と仲良く遊んであげてね」

「主殿のご命令とあれば、全力で……」

「わふぅ、うちらも全力で遊ぶ」

「いや、ちょ、ちょ……待って、ああぁぁぁぁぁぁ……」


 八木はコボルト隊&ゼータ達に揉みくちゃにされて、訓練場の端の方へと強制移動させられました。


「和樹、見ろ、ダンベルがあるぞ」

「おぉ、バーベルまであるじゃん。国分手前、自分だけ用具送ってもらったのかよ」

「違うよ、それは土属性の魔術で作ったんだよ」

「マジで? いいなこれ、今度俺達の分も作ってくれよ」

「この程度だったら、宿舎で暇そうにしてる連中に頼めば作れんじゃないの?」

「おう、そうだ。土属性の連中に頼めばいいか」

「達也、ウェイト変えられるようにしてもらおうぜ」

「ベンチ台とかもあった方が良くない?」

「おぉ、さすがジョー、気が利くな」


 トレーニング用具について、三人があれこれ話し込み始めたら、痺れを切らしたらしいラインハルトが振り棒と防具持参で姿を現しました。


『ささ、ケント様。いつまでも遊んでいると日が暮れますぞ』

「そうだね。でも、どうやれば良いかな……みんなは自己治癒は使えないし……」

『まずはケント様が、いつものように手合わせをして、一本終わったら次の者と交代、他の者の負傷はケント様に治していただくしかありませんな』

「そっか、僕が治療すれば良いのか……最後に、みんなを送り届ける分の魔力は残しておかないと駄目だね」

『そうですな。では、始めますか……』


 新旧コンビと近藤に、フレッドが用意した防具を配って、僕も自分の防具を装着しました。


「じゃあ、まず最初に僕が手合わせするよ。一本取られたら交代するから、良く見ててね」

「おう、分かったけど……手加減はしてくれるんだよな?」

「あぁ、それは大丈夫。手加減してもらえなかったら、僕も命の危険に晒されちゃうからね」

『ぶははは、ケント様、一度ぐらい本気でやってみますかな』

「いやいやいや、いくら僕がチートな自己治癒を使えるからと言って、爆散しちゃった身体までは治せないからね」


 勿論、ラインハルトは冗談で言ってるのでしょうが、マジになられたら洒落になりませんからね。


『では、参りますぞ……』

「お願いします!」


 五メートルほどの距離で向かい合い、振り棒を構えた直後、一瞬でラインハルトは間合いを詰めて来ました。

 重厚な見た目のメタリックなスケルトンは、流れるような動きで振り棒を繰り出してきます。


 一瞬、三人の驚きの声が聞こえたような気がしましたが、全神経をラインハルトの太刀筋に集中し、横薙ぎの一刀を全力で打ち払いました。

 鉛の棒でも仕込んであるのではと思うほど重たい一撃を凌いでも、気を抜くことなどできません。


 すぐさま襲い掛ってくる袈裟懸けの一撃を掻い潜り、背後から迫る下段からの一撃を迎え打ちます。


 振り棒がぶつかり合う度に、削れた破片が飛んで来たりするけど、怯んでいたら一瞬で叩きのめされるだけです。

 剣筋を読み、反射神経を張り詰めて、ラインハルトの怒涛の攻めを凌ぎます。


『さぁさぁ、ケント様、守ってばかりじゃジリ貧ですぞ。そらそら、休み過ぎて鈍りきってますぞ!』

「うっ、くっ……しまっ、ぐはぁ!」


 下段からの打ち込みを逸らしきれずに振り棒を撥ね上げられ、ガラ空きとなった脇腹に痛烈な一撃を食らいました。


 蹴飛ばされた空き缶のように訓練場を転がり、止まったところで蹲って全力で自己治癒をかけます。

 肋骨が二、三本折れているように感じます。


「うぎぃぃぃ……まだまだ!」

『ケント様、交代ですぞ』

「えっ……あっ、そうか、うぐぅ……じゃあ次は、誰がやる?」


 三人に声を掛けましたが、揃って口を半開きにして固まっています。


「どうしたの?」

「いや、お前……いつもこんな訓練やってんの?」

「そうだけど……」

「それよか、大丈夫なのかよ。さっきの一撃、洒落になってねぇぞ」

「あぁ、結構効いたけど、もう自己治癒掛けたから大丈夫だよ。みんなが怪我した時も治療するから大丈夫だよ」

「いやいや、治療するから大丈夫って……」

「どうする、和樹」

「どうするって……」

「分かった、俺がやる!」


 一番手を買って出たのは、近藤でした。

 近藤は、僕と同じように五メートルほどの距離でラインハルトと向かい合い、一礼して木剣を構えました。


 滑るような足取りで迫ったラインハルト下段からの一撃で、近藤は木剣を跳ね飛ばされ、僕と同じように脇腹に一撃を食らって転がりました。


「あぐぁぁぁ……がふっごふっ……ぐぅぅぅぅ……」

「うわぁ……近藤、大丈夫? すぐ治療するから腕をどけて」


 訓練場に転がった近藤は、歯を食いしばり、脂汗を流していました。

 治癒魔術を流すと、肋骨が二本、ぽっきりと折れていて、当然ながら打撲の腫れも出始めています。


 まぁ、この程度の打ち身は、僕にとっては日常茶飯事なので、さらっと治療は終わりです。


「お、おおぅ、マジか、嘘だろう、全然痛くねぇぞ」

「はいはい、次はどっち? 古田? 新田?」

「よし、次は俺が……」

「いや、待て達也、俺が先に……」

「どうぞ、どうぞ……」

「うわっ、手前ぇ……」

「ほら、どっちでも良いからさ、ドンドンやろうよ」

「分かったよ、やりゃいいんだろ、やってやるよ!」


 木剣を持って歩み出たのは良いけれど、新田はだいぶ腰が引けてました。

 新旧コンビの二人も、最初は一撃で転がされていたけれど、回数を重ねるごとに打ち合う時間も伸びていきました。


 この辺りは、さすが脳筋の面目躍如という感じですね。

 この後、ラインハルトとの手合わせは、空が赤く染まる頃まで続けられました。


 あぁ、八木も特訓が終わるまで、眷族のみんなと楽しく遊んでいましたよ。

 ボール代わりにされていたような気がしたけど、まぁ、気のせいでしょう。

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