第110話 スカベンジャー

「駄目だからね。ダンジョンなんか行っちゃ駄目なんだからね!」

「はいはい、誰か別の人に代わってもらえないか、ドノバンさんに聞いてくるよ。ほら、そろそろ行かないと学校に遅刻するよ」

「うーっ……駄目なんだからね!」

「はいはい、分かりました……」


 目を覚ましてからもメイサちゃんは、僕にベッタリと張り付いて、ダンジョンに行かないか監視していましたが、渋々といった様子で学校に向かいました。


「悪かったねぇ……ケント」

「いえ、あんなに心配してもらえるなんて、有り難いぐらいですよ」

「ギルドにサラマンダーを見学に行った後、学校で自慢しているみたいなんだよ」

「えっ、僕の事ですか?」

「あぁ、うちに下宿しているケントは凄いんだ。強い眷属を引き連れて、ヴォルザードの街を守ってくれているんだ……てな感じでね」

「そうだったんですか……」

「ほれ、この前の夕食会の時、マノンちゃんの弟が来てただろう」

「はい、ハミル君ですね」

「そうそう、あのハミル君にも、ずーっとケントの話を自慢してたんだよ」

「あぁ、あれは……そういう事だったんですね」


 メイサちゃんに、そんな風に思われていたとは全然思っていなかったので、ちょっとジーンと来てしまいました。


「それでケント、やっぱりダンジョンには行くのかい?」

「はい、ちょっと切迫した状況みたいですし、他の人とかだと、かえって危ない気がするので、ちょっと行って片付けて来ようと思ってます」

「大丈夫なのかい?」

「はい、僕は影に潜って移動が出来るので、馬鹿正直にダンジョンに潜るのではなく、影の中から調査するつもりですから、危険は無いです」

「そうかい……それなら良いんだけど、くれぐれも気を付けるんだよ」

「はい、メイサちゃんに心配掛けないように、夕食には戻ってくる予定でいます」

「そうしてくれると助かるよ。悪いねぇ、気を使わせちまって」

「いえ、これぐらい当たり前ですよ」


 ヴォルザードのダンジョンは、ランズヘルト共和国の中心部へと向かう街道を途中から右へ逸れ、大人の脚で半日ほど歩いた場所にあります。

 ダンジョンまでの道の途中には大きな池があって、休日には魚釣りを楽しむ人で賑わうそうです。


 時間に余裕がある時でしたら、そうした景色を楽しみながら行く所ですが、今回は早く片付けてしまいたいので、ラインハルト達に目印になってもらい、影移動で一気にダンジョンの入口近くまで移動しました。


 ダンジョンは、岩山の麓にポッカリと口を開けていて、入口には頑丈そうな鉄の門が取り付けられています。

 入口へと向かう道の両側には、平屋建ての建物が並んでいて、ちょっとした集落のようになっていました。


『ケント様、あの門は立ち入りを禁ずる為のものではなく、中から魔物が溢れて来るのを食い止めるためのものです。良く見ていただければお分かりになると思いますが、門の閂はこちら側から下ろす様になっております』

「なるほど……って、ダンジョンから魔物が溢れて来たりするの?」

『ヴォルザードではどうか分かりませんが、過去に他のダンジョンから魔物が溢れて大きな被害が出た事が有りますぞ』

「そうなんだ……」

『普段ダンジョンの門前は、もっと賑わっているはずですが、出入り禁止では、この様子も仕方ないのでしょうな』


 ラインハルトの言う通り、通りには数人の姿が見えるものの、誰もが呆然とダンジョンの入り口を眺めているばかりで、いかにも手持無沙汰という感じに見えます。


『ケント様、この集落の建物は飾りみたいな物ですぞ』

「えっ、飾りって……どういう事? 結構頑丈そうに見えるけど……」

『ここは先日の極大発生の時のように、ヴォルザードを回り込んだ魔物の群れに襲われる可能性があります。なので、建物の本体は全て地下に作ってあるのです』

「えっ、地下があるの?」

『大きい建物は、地下三階ぐらいまで掘ってあるそうで、地下への入口は頑丈な扉を二重、三重にしてあるそうですぞ』


 魔物の群れに襲われても、地下に籠って生き延びようという知恵らしいです。

 ダンジョンの入口に向かって集落の中を歩いて行くと、当然のように不審そうな目で見られてしまいます。


 ダンジョンに単独で潜るにはギルドの戦闘講習を修了する必要があり、僕みたいな子供が講習を終了しているとは思われていないからでしょう。


「よう坊主……ここは、お前ぇみたいなガキの来る場所じゃねぇぞ……」


 うん、失敗しました。直接ダンジョンの入口まで移動しちゃえば良かったです。

 まだ朝っぱらだというのに、見るからに酔っぱらった冒険者に絡まれました。


 ボサボサの赤茶けた髪とボウボウのヒゲ、いかにも採掘専門という感じの固太りした体型で、歳は四十手前ぐらいでしょうか。


「えっと、ギルドの使いで来たんですけど……」

「けっ、ギルドの使い走りか……早く潜れるように調査しろって言っとけ!」

「はぁ……分かりました」


 冒険者のおっさんは、路上に唾を吐き捨てると、フラフラと建物へと入って行きました。

 ダンジョンに潜れず、稼ぎが無くてイライラしてるのでしょうが、八つ当たりもいいところだよね。


 それでも、あまり面倒な事にならなくて良かったと思いながら歩き始めると、ダンジョンの門の前で、腕組みをしてこちらを眺めている人が居るのに気付きました。

 身長は180センチぐらい、スキンヘッドにビッシリと顎髭を蓄え、右目には黒い眼帯を付けています。


 ドノバンさんよりは若く見えますが、額から右半面に掛けては、魔物のものと思われる爪跡が四本も刻み込まれていて迫力は負けてませんね。

 身長よりも少し長い鉄の棒で、トントンと肩を叩きながら、何人たりとも通さないといった様子で睨みを利かせているようです。


「おはようございます」

「ん? 坊主、何か用か?」

「はい、ドノバンさんに言われて来たのですが、ギルドの方ですよね?」

「おう、ドノバンさんからの伝言か?」

「いえ、ダンジョンの中を調査して来いって言われまして……」

「はぁ? 坊主みたいな……そうか、お前が魔物使いか?」

「はぁ……そんな風に言われてます、ケントです」

「ダンジョンの入口を管理してるロドリゴだ。話は聞いているが、一応ギルドのカードを見せてくれ」

「はい、どうぞ……」


 ロドリゴさんは、受け取ったカードに視線を落とし、ジロリと僕に視線を戻し、もう一度確かめるようにカードに視線を戻した後で、一つ頷くとカードを返してくれました。


「驚いたな……噂に聞いた話じゃ、黒髪黒目のゴツイ奴だという話だったからな」

「えぇぇ……もしかして偽者とか思われてます?」

「いや、噂なんてものは話半分だ。まして魔物使いだとか、魔王だとか言われている奴の噂となれば、尾鰭が付いてデカくなってるものだからな」

「そんなもんなんですか?」

「そんなもんだ……」


 ニヤリと凄みのある笑みを浮かべるロドリゴさんは、間違いなくドノバンさんと同じ種類の人ですね。


「それでケント、お前一人で潜るつもりか?」

「いえ、何が潜んでいるのか分からない場所に、正面から入る勇気は無いです」

「ほう、ならばどうする?」

「はい、囮を使って、僕は影から見守らせてもらいます」

「囮か……そいつは何処にいるんだ?」

「もう近くには来ているはずなんで、ちょっと呼びますね。マルト、準備してるみんなを呼んで来て」

「わふぅ、分かったよ、ご主人様」


 影からヒョコっと頭だけ出して返事したマルトは、また影に潜って近くで待っているコボルト隊を呼びに行ってくれました。


「今のが、お前さんが使役してる魔物なのか?」

「使役しているっていうか、家族みたいな感じですけど……」

「家族……は良いとして、コボルトみたいだったが、しゃべったり、影に潜ったり、どうなってるんだ?」

「まぁ……その辺りは企業秘密ってことで……」

「手の内は明かせないか……まぁ、いいだろう」


 ロドリゴさんは、楽し気な笑みを浮かべましたが、小さい子だとチビりそうな迫力ですよね。

 マルトが伝令に走って暫くすると、岩山を回り込むようにしてコボルト隊が姿を現しました。


「ん? ありゃ何だ……ゴブリンか?」


 コボルト隊は、ロープでグルグル巻きにされた三頭のゴブリンを担いで来ました。


「ご主人様、指示通りに持って来た」

「みんな、ありがとうね」


 ゴブリンを担いできたコボルト隊を順番に撫でてやると、みんな目を細めて擦り寄って来ました。

 一方のゴブリンは、ロドリゴさんに睨み付けられて震え上がっています。


「こいつらを囮としてダンジョンに放り込んで、それで様子を見ようって事だな?」

「はい、そういう事なんで、入口を開けてもらっても良いですかね?」

「いいだろう……」


 ロドリゴさんが腰に下げていた大きな鍵を使って錠前を外し、門を開けてくれました。

 ゴブリンを担いだコボルト隊と一緒に門の中へと入り、ロドリゴさんに合図をすると、門は重々しい音を立てて閉ざされました。


「じゃあ、僕が影に潜ったら、ゴブリンの縄を解いてダンジョンの奥に追い立てて」

「わふぅ、分かりました、御主人様!」


 門の格子の間から見守っていたロドリゴさんに手を振って影へと潜ると、目を剥いて驚いていました。


 影の中から見守っていると、縄を解かれたゴブリン達は、コボルト隊に猛烈に吠え立てられて、ダンジョンの奥へと逃げ込んで行きます。

 それを影の中から観察しつつ、ゴブリン達を奥へ奥へと誘導していく予定です。


「じゃあ、フレッド、ゴブリンの誘導をお願いね」

『了解……お任せを……』


 初めて入ったダンジョンの内部は、真っ暗闇かと思いきや、ぼんやりとした明るさがありました。


「ラインハルト、何か光ってるの?」 

『ヒカリゴケが生えているので、魔法で視力強化しなくても何とか歩ける程度の明るさはあります。ですが、ダンジョンに潜る冒険者は、状況を確認するために明かりの魔道具で照らしながら進みます』


 ダンジョン内部は、岩の洞窟という感じで、天井は高いところで5メートルぐらい、低い所だと腰を屈めないと頭をぶつけそうな程です。

 通路の幅も広いところでは7、8メートルぐらいありますが、狭い所は人がやっと通れる程度の所もあります。


 通路は、いくつにも枝分かれしていて、枝分かれした先にはホールと呼ばれているスペースがいくつもあるそうです。

 ホールは小さいものだと三畳間程度、大きなものは二階建ての一軒家がスッポリと収まってしまうほどの大きさがあるらしいです。


 ゴブリン達は、フレッドの投石に追い立てられ、下層へと向かうルートを歩かされていきます。


「静かだねぇ……何も出て来ないよ」

『そうですな、普通であれば、この程度まで来ればインプやゴブリンの一匹程度現れてもおかしくないのですが……』


 一階層を通り過ぎ、二階層へと下りても魔物が出てくる気配はありません。

 時折交わし合う、囮ゴブリンの鳴き声が聞こえるだけで、ダンジョンは静まり返っています。


「ラインハルト、あそこで光ってるのは何?」

『恐らくは何かの鉱石だと思われますが、ワシは専門外なので何の鉱石なのかまでは分かりかねますな』


 天井付近の壁が光っているように見えたので、ラインハルトに手伝ってもらって掘り出すと、鈍い輝きを放つ一抱えもある大きな石が出て来ました。


『随分と大きな固まりが出て来ましたな』

「これは大きい方なの?」

『ダンジョンで掘り出されるものの多くは、両手の平に収まる程度のものが殆どだと聞きます。これは天井近くだったので見逃されてきたものなのでしょう』


 ダンジョンの鉱石は、こうした感じで表面に出て来たものを目視で探したり、土属性の術士が魔法で探ったりして掘り出すそうです。

 掘り出した鉱石を影収納へと放り込んで、ゴブリン達の追跡を続行しましたが、二階層を通り過ぎても何の異変も起こりませんでした。


『やはり変ですな。いくら主要ルートを真っ直ぐに進んで来たと行っても、ただの一匹の魔物とも遭遇しないというのは変です』

「ゴブリンの上位種に統率されて、何処かに隠れているとか?」

『上位種が居たとしても、ゴブリン以外の小型の魔物までが姿を見せない理由にはなりませぬ』

「ダンジョン自体が魔物化して、入って来た奴を全部食べちゃってるとか?」

『さすがに、そのような事態は聞いた事が有りませんな』


 このまま何も起こらずに、どこの階層まで下りて行く事になるのだろうかと考えながら、ゴブリン達の追跡を続けていると、フレッドが異変に気付きました。


『ケント様……上を……』

「えっ、なに……? うげぇぇぇぇぇ……G?」


 そこは幅は狭くなっているものの、天井は高くなっている所でした。

 足元のヒカリゴケの光が届かない天井や天井近くの壁を埋め尽くすように、ビッシリと黒くテラテラと光る物体が張り付いています。


 良く見ると羽は退化しているようですし、足は十本もありますが、そのフォルムはどう見てもゴキブリにしか見えません。

 そして、その大きさは30センチ以上あるように見えます。


『スカベンジャーですな』

「スカベンジャー……?」

『はい、死肉を漁るダンジョンの掃除屋みたいなものですが……何やら様子が変ですな』


 ビッシリと天井一杯に張り付いたスカベンジャーの下を、ゴブリン達は気付かずに進んで行きます。

 ですが、スカベンジャーはゴブリン達が真下に来ても、襲い掛かるそぶりを見せません。


「あれ? こいつらが原因じゃないのかな?」

『ケント様、スカベンジャーは死肉を漁るだけで、生きたものは……』


 多分、ラインハルトは襲わないと言い掛けたのでしょうが、ゴブリン達がスカベンジャーが居る天井の下を20メートルほど進んだ所で、一番端から順番に雪崩を起こす様にスカベンジャーが降って来ました。


「ギャッ、ギギャギャギャァァァァ……」


 スカベンジャーの一部は噛みつき始めたようで、驚いたゴブリン達は更にダンジョンの奥を目指して走り始めました。

 スカベンジャー達は、通路を埋め尽くしながらゴブリン達に襲い掛かります。


 ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ、ガサガサガサ……


 通路に響き渡るスカベンジャーの足音は生理的な嫌悪感となって襲い掛かって来ます。


『スカベンジャーが生きている物を襲うなど、聞いた事が有りませぬ』

「理由は分からないけど、ダンジョンに入った人が戻らない原因は、これだよね?」

『それは間違いないでしょう。何しろ、こやつら以外にはダンジョンに動くものが見当たりませんし』


 スカベンジャーに追われたゴブリンが飛び込んだ先は、通路の途中にあるホールでした。

 広さはバスケットコート一面程度で、地図で見ると分岐点にもなっているようで、三つの出入り口が描かれています。


『ケント様……出入り口が塞がっている……』

『ケント様、上です!』


 ホールには本来有るはずの他の出入り口が無く、更には天井を埋め尽くすスカベンジャーの群れが存在していました。

 そればかりではなく、壁も一面スカベンジャーによって埋め尽くされています。

 余りの光景にゴブリン達が立ち尽くしていると、たった今入って来たばかりの通路が姿を消していました。


「げぇぇぇ……スカベンジャーが通路を塞いでるんだ」

『来ますぞ、ケント様』


 逃げ場を失い、スカベンジャーで埋まった壁面をキョロキョロと眺め、必死に逃げ道を探すゴブリン達に、天井のスカベンジャーが降り注いて来ました。


「ギギャァァァァァ……」


 あっと言う間にゴブリンの全身にスカベンジャーが集り、黒い塊となって床に倒れ込みました。


「ギィィギャァァァァァ……」


 バリバリ、ニチャニチャ、グチュグチュ……


 ゴブリン達は手足を振り回し、必死にもがいていましたが、圧倒的な数の暴力に対抗する術はなく、肉を食い千切られていきます。 

 そして、ゴブリンの動きが止まった頃、そいつらは姿を現しました。


 突然、ゴブリン達に群がっていたスカベンジャーが、潮が引くように壁際まで下がると、そこへ天井から三つの影が落ちて来ました。

 二つの影は体長70センチ程度、もう一つは体長1メートルはあろうかというスカベンジャーです。


『ケント様、どうやらスカベンジャーの上位種のようですな』

「うげぇぇぇ、気色悪っ……」


 スカベンジャーの上位種は、ゴブリンの胸板を食い破り、頭を内部に突っ込んでガリガリと音を立てて食事を始めました。


「もしかして、魔石を齧ってるの?」

『そのようですな……いかがいたしますか? ケント様』


 こいつらが、今回の騒動の主犯だというのは、ほぼ間違いないでしょう。

 ですが、パッと見ただけでも千匹以上いるのは確実で、もしかすると二千匹近くいるかもしれません。


 いくら僕の眷属であっても普通に戦えば、全滅させる前に齧られそうな気がします。


「よし、三本の通路は僕が闇の盾で封鎖するから、全員で攻撃してもらうけど、攻撃は影の中からだけにして。こんな奴らは、戦いではなく駆除作業だからね。淡々と終わらせよう!」

『了解!』


 みんなに言った通りに、三つの通路は闇の盾を広げて封鎖。

 そして、僕の眷属による駆除作業が始まりました。


 スカベンジャーは、背中の殻が固く、Fランク、Eランク程度の冒険者では剣を弾かれてしまうそうです。

 勿論、僕の眷属達ならば、紙のように切り裂いてしまうのでしょうが、今回は、もっと簡単です。


 お腹側の柔らかい部分を、影の中からザーエやアルト達に切り裂かれ、スカベンジャーは次々に息絶えて行きます。

 上位種達も、ラインハルトに頭を吹き飛ばされ、バステンに頭を貫かれ、フレッドに音も無く頭を切り落とされて息絶えました。


 全てのスカベンジャーの息の根を止めるまで、十分ほどしか掛かりませんでした。

 ホールの中は、スカベンジャーの体液とゴブリンの血が入り混じって酷い臭いです。


「じゃあ、上位種の魔石だけ取り出したら、ホールの中央に積み上げちゃってくれるかな?」

『これをどうなさるのですかな?』

「うん、一応、仕事をした証拠としてドノバンさんに見てもらって、その後は廃棄だね」

『しかし……スカベンジャーに上位種が生まれるなど聞いた事がありませぬ』

「それも、報告しておいた方が良いんだろうね」


 巨大なGの死骸の山は、見ているだけで寒気がします。

 影収納へと放り込み、さっさと報告を終えて帰りましょう。


「じゃあ、サルトからトルトまでの十頭は、十五階層まで変な魔物が居ないか調べて来て、危ないと思ったらすぐに影に潜って報告に来るようにね。他のみんなは通常の体制に戻って。フレッドはバルシャニアの偵察、バステンは第二王子派の偵察、よろしくね」

『了解!』


 ヴォルザードの街に戻る前に、ロドリゴさんにも報告を入れておきましょう。

 わざわざ門を開けてもらうのも申し訳ないので、門の外で影から表に出ました。


「ただいま戻りました」

「ぬぉぁ! 急に出てくるな、驚くじゃねぇか……」

「あっ、すいません。一応、終わりましたんで報告に来ました」

「何だと、もう終わったのか?」

「はい、スカベンジャーに上位種が生まれていて、そいつが群れを統率して襲っていたみたいです」

「はぁ? スカベンジャーの上位種だと? そんなものは聞いた事がねぇぞ」

「えっと、死骸があるんで、見ます?」

「おう、拝ませてくれ」


 一番大きなスカベンジャーは、頭をラインハルトに爆散させられちゃったので、フレッドが仕留めた二番目に大きな死骸を表に出しました。


「うぉ、こいつは普通の倍はあるぞ……」

「こいつが二番目に大きい奴で、一番大きかったやつは更に五割増ぐらいの大きさでした」

「全部で、何匹ぐらい居やがったんだ?」 

「そうですねぇ……二千弱ぐらいですかね……」


 いつの間にか、野次馬の輪が出来ていて、ゴブリンが襲われて食われる様子から、討伐の最後までを話すと、揃って震え上がっていました。

 話を終えた頃、サルトがヒョコっと顔を出しました。


「わふぅ、ご主人様、下には変な魔物は居なかったよ。ただ、十四階層にご主人様が締め上げた人間は居た」

「それって、フレイムハウンドの連中?」

「うん、そいつら」

「三人に、スカベンジャーの群れは討伐したって伝えてくれる?」

「わふぅ、分かった、行って来る」


 既に食われてしまったかと思われていましたが、なかなかどうしてAランクパーティーとあってしぶといようです。

 スカベンジャーの上位種の死骸を取り囲んでいた野次馬達が、一斉に僕とサルトに視線を向けて、ヒソヒソと囁きあっていました。


「あれが魔物使いか……」

「ベアトリーチェちゃんを手籠めにしたって話だぞ……」

「クラウス様ですら手に負えないとか……」

「ギガウルフを一人で九頭も倒したって……」

「女癖は最悪らしいぞ……」


 いやいやクラウスさんには扱き使われますし、女癖も悪く……ないはずですよ。

 ふと目をやると、ダンジョンに入る前に僕に絡んできた冒険者のおっさんが、野次馬の影でブルブルと震えています。


 目が合ったので、歯を剥いて笑みを浮かべやりました。


「す、すまねぇ! 悪気は無かったんだ、お、俺は……うわぁぁぁぁ……」


 米つきバッタみたいに頭を下げたかと思ったら、悲鳴を上げながら逃げて行きましたね。

 うん、ドノバンさんに見られたら、また襟首掴まれて連行されるところでしょうね。


「じゃあ、ロドリゴさん、僕はヴォルザードに戻って、ドノバンさんに報告を入れておきます」

「そうか、ダンジョンの開放はギルドの指示が届いてからになるだろうが、取りあえずの目途が立った。助かったぜ」

「いえ、僕は依頼をこなしただけでですから……では」


 闇の盾を出して、スカベンジャーの死骸を仕舞い、ついでに野次馬の皆さんに見せつけるようにして影に潜りました。

 さぁ、早く帰ってメイサちゃんを安心させないとですね。

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