第98話 リーゼンブルグの三忠臣

 父さんへのメッセージの録画を終えた後、食堂の隅に鷹山を手招きで呼び出しました。


「何か用か?」


 また何かやらされるのかと思っているのか、いかにも面倒です……って表情してるのがムカつきますねぇ。

 もうシーリアのメッセージを伝えるの止めちゃいましょうかね。


「何か用かじゃないよ、僕が鷹山を呼び出す用事なんて一つしか無いんじゃないの?」

「シーリアの事か? どうした、いつ連れて来れる?」

「はぁ……この前言ったばかりだろう、そんなに簡単じゃないって。鶏並みの記憶力しかないの?」

「うっ、すまん……」


 実際、シーリアとは連絡が付きましたが、母親は居場所すら分かっていません。


「今朝、シーリアさんと会って話をしてきたよ」

「本当か? 元気にしていたか? 俺の事は何だって……」

「待って、待って、今から話すんだから慌てるなよ!」

「すまん……」

「何かさぁ、鷹山こっちに来てからアホになってない? 大丈夫? そんなんで一家の主としてやっていけんの?」

「わ、悪かった……それで、シーリアは何て?」


 全然反省しているように見えないけど、焦らしても効果無さそうだから話しますかね。


「シーリアさんは、駐屯地の狭い部屋に幽閉されていて、鷹山の事は死んだと思ってたよ」

「えっ……なんで……」

「だって、実戦に出た者は、全員死亡したって騎士達がカミラに報告してたからね。逃げられたなんて報告したら拙いと思ったんでしょ」

「そんな……それじゃあシーリアは……」

「また会える日を心待ちにしてるって……ずっとお慕いしています……だってさ」


 鷹山は、目を真ん丸に見開いて、次の瞬間ボロボロと涙を零しました。

 えぇぇ……あの鷹山が泣いてるよ。

 って、僕も余り人の事は言えた義理では無いんだけど、ちょっとビックリしたし、ちょっと引きましたね。


「ほ、本当か、本当なのか?」

「嘘を言って、僕が何か得する事でもある?」

「あぁぁ……シーリア……」

「とりあえず、シーリアさんの同意は得られたけど、彼女のお母さんとはまだ連絡が取れていないからね。カミラには二人の解放を認めさせられるとは思うけど、王妃達が何て言うか分からないから、全然予断は許さないけど……取りあえず伝言は届けたからね」

「あ、ありがとう国分、本当にありがとう。出来たら、俺からのメッセージをシーリアに……」

「それは、ヴォルザードに迎え入れる準備が出来てからじゃないの?」

「うっ、そうか……そうだな……」


 ぶっちゃけ、鷹山の伝書鳩になるつもりはないですし、他にもやらなきゃいけない事が山積みですからね。


「昨日も城壁工事に行ってたみたいだけど、今日も行ってきたの?」

「あぁ、俺は器用じゃないからな、今出来る仕事って言われても他には思い浮かばないからさ」

「いいんじゃないの、それでさ。出来る事をやる……他のみんなの手本になってよ」

「そんな事言って、反面教師に使おうって魂胆じゃないのか?」

「良く分かってるじゃん。てかさ、恩赦は出たけど、まだ靴屋のマルセルさんから許してもらった訳じゃないからね」

「分かってる、許してもらうためにも、もう暫くは城壁工事をシッカリやるつもりだ」

「うん、そうしてよ。こっちも進展があったら知らせるからさ」

「頼む。何でもかんでも国分頼みで申し訳ないけど、頼むな」

「出来る範囲でだけど、なるべく早くシーリアさんが解放されるようにするよ」


 ビデオカメラなどの撮影機材は、古館先生が保管してくれるそうなので、後でまとめて取りに来る事にして、僕はラストックへと向かいました。


『今朝、下宿を出てギルドに行き、そこからラストックに移動、次に日本の捜査本部、召喚地点に立ち寄り、王都アルダロスで夕日を眺め、ヴォルザードに戻り、またまたラストックへと移動……ケント様、働きすぎではございませぬか?』

『だよねぇ……僕もちょっと思った。まぁ、今日はこれが最後の仕事の予定だから頑張るよ』


 ラストックへは、カミラから貴族の状況を聞き取りに行くのですが、明日でも大丈夫と言えば大丈夫なんですが、先延ばしにすると更に仕事が溜まりそうな気がするので、片付けられる仕事はドンドン片付けていきます。


 それに明日の安息の曜日には、大事な用事があるからね。

 ラストックの駐屯地では、今夜もカミラが一人居残って仕事を続けていました。


 まぁ、今日は僕が貴族の相関関係をまとめておくように指示を出したせいもあるのでしょうが、連日一人で残業しているのを見ると、仕事の振り分けが下手なのでは? という疑問が湧いてきます。


 影の中から見守っていると、書類を書き進めながら、時々頭がカクンと前のめりになっています。

 見るからに過労気味ですが、たぶん配下の者達では諌める事も出来ないのでしょうね。


 前回同様に、カミラが書類に集中している間に影から出てソファーに腰を下ろしました。

 ついでにマルト達も呼びだして、回りにはべらせてモフモフを堪能していましょう。


 てか、僕も朝から動き通しって感じで、座り心地の良いソファーに腰を落ち着けていると瞼が重たくなってきますねぇ。


 貴族の話とか頭に入るかなぁ……と、少し心配になっていたら、お茶の良い香りが漂ってきました。

 同じように香りに気付いて顔を上げたカミラと目が合いました。


「魔王……様、いつの間においでになられていらしたのですか?」

「んー……さっきだけど、あぁ、フレッド、ありがとう……」


 お茶の香りがしたのは、気を利かせてくれたフレッドが準備してくれていたからでした。

 フレッドは、僕の前と向かいの席にもカップを置き、カミラに席に着くように促しました。


 カミラは、机の引き出しから紙束を手に取ると、僕と向かい合うように腰を下ろしました。


「お申し出のありました、リーゼンブルグの貴族の相関関係ですが……」

「待って、冷める前にお茶を飲んでからにしよう」


 でないと、日本に居た頃のように、話の途中で居眠りを始めてしまいそうです。


「魔王様、お疲れのご様子ですが……」

「はぁぁ? 誰のせいだか分かって言ってるの?」

「し、失礼いたしました。全ては私の不徳の致すところです。申し訳……」

「うん、くどい! お茶ぐらい静かに飲ませて」

「し、失礼いたしました」


 フレッドが淹れてくれたお茶の葉は、カミラのために用意されたものなのでしょう。

 ドノバンさんが淹れてくれるお茶とは味わいが違いますが、こちらも華やかな香りとスッキリとした後味で、頭の中に掛かっていたモヤが晴れていくように感じます。


 日本に居た頃は、飲み物と言えば清涼飲料水という感じでしたが、こうしたちゃんと淹れたお茶を味わっていると、大人になったような気がして来ます。


「ところで、極大発生への対策は進んでるの?」

「はっ、多くの資材の提供ありがとうございます。おかげ様で資材不足は解消されたのですが、いかんせん人材不足が深刻な状況で、進捗率としては三割ほどしか進んでおりません」

「ちょっと、そっちの計画も見せて」

「しかし、自分達の力で守ってみせろと、魔王様が……」

「夕方、王城の塔の上で夕日を眺めていたんだけど、強い西風が吹いていたよ」

「王城の塔、そんな所にまで……本当でございますか?」

「場所よりも気にするのは風向きじゃないの? 今のペースで対策を進めていて、間に合うの?」

「それは……分かりません。ですが未だに王都から応援は到着しておらず、人材に限りがありまして……」


 確かに王都からの応援が望めない状況では、出来る限りの事をやっているのでしょう。

 ですがカミラには、まだ知らない事実が残っています。


「ヴォルザードがゴブリンの極大発生を退けられたのは、僕の眷属の働きがあったからだよ」

「えっ……城壁があったからでは?」

「勿論、城壁の効果は大きかったけど、ゴブリン達の死骸が積み重なり、もう少しで乗り越えられそうになった。その死骸をラインハルトやバステンが薙ぎ払ったからこそヴォルザードは極大発生を乗り切ったんだ」


 リーゼンブルグの使者には明かされなかった、ヴォルザードが極大発生を乗り切った裏側を話したのですが、カミラは訝しげな表情を浮かべています。


「どうしたの? 信じられない?」

「いえ、そのラインハルトとバステンと言うのは、魔王様が従えているスケルトンの事でございますか?」

「そうだけど、それが何か?」

「もしや、賢王アルテュールを命懸けで守り抜いた、豪腕のラインハルトと烈火のバステンでは?」


 確かに、ラインハルトとバステンは、その二つ名で呼ばれていたそうですが、主人を守りきれなかった無念さから彷徨っていたと聞いた覚えがあります。

 ラインハルトに視線を向けると、驚いたように目を見張っています。骨だけど……


「どうなの、ラインハルト」

『いかにも、ワシ等はアルテュール様に仕えておりましたが……』

「そのアルテュール様を守りきれなかったって言ってなかったっけ?」

『あの時、待ち伏せの軍勢に襲われ、ワシ等は敵を食い止めるために残り、命を落としましたが、その後、アルテュール様がどうなされたのか分からないのです』


 ラインハルトからは、自分の仕えた主の行く末を知りたいという気持ちが、ヒシヒシと伝わってきます。


「確かにラインハルト達は、豪腕、烈火、瞬斬と呼ばれていた騎士達だよ」

「なんと、リーゼンブルグの三忠臣を全て従えられていらっしゃるのですか」

「リーゼンブルグの三忠臣?」


 カミラの話では、当時の第一王子だったアルテュール・リーゼンブルグは、ラインハルト達の活躍により絶対絶命の危機を脱し、民衆の圧倒的な支持を受けて即位したそうです。


 その後、善政を布き、新たな農地の開拓を進め、リーゼンブルグ王国の中興の祖として崇められているそうです。

 そのアルテュールを守った主力の三人、ラインハルト、バステン、フレッドの三人の働きは、リーゼンブルグの三忠臣として王族の間で語り継がれているそうです。


『アルテュール様が……そうであったか、ワシ等の奮闘は報われたのだな』

『分団長……言葉にならない……』


 何も知らぬままに、魔の森で彷徨い続けていたラインハルト達の思いは、確かに報われて、今のリーゼンブルグの礎となっているようです。


 今は骨となり、流す涙は無いはずですが、二人の目には確かに光るものがありました。

 二人から熱い思いが流れ込んで来て、僕も涙を堪えられませんでした。


「良かった……ラインハルト、本当に良かったね。フレッド、バステンにも知らせてあげて」

『了解……行って来る……』


 フレッドは、弾むような足取りで影に潜って行きました。


『当時のアルテュール様は、成人なさったばかりで、丁度今のケント様と同じぐらいのお歳でした。利発で、慎み深く、寛容で、民を思い、将来必ずや名君になると感じさせる資質をお持ちでした。だからこそ、ワシ等は命を賭しても少しも惜しいと思いませなんだ。ただ、アルテュール様がご無事であったか、それを確かめる術が無かった事が心残りでした』

「それじゃあ、もう思い残す事は無くなったんだね」

『いいえ、それは違いますぞ。ワシ等には、ケント様の行く末を見守るという新たな役目がございます。ケント様ならば、必ずや傾きかけたリーゼンブルグを立て直して下さるはずですぞ』

「ちょ……僕はリーゼンブルグの王様にはならないからね」

『いいえ、例え王位に就かなくとも、リーゼンブルグには新たな魔王の伝説が生まれるはずですぞ』

「それは、僕の働きというよりも、ラインハルト達の働きに掛かってるんじゃないの?」

『無論、ワシ等は骨惜しみする気はございませぬ。ケント様の思いを必ずや叶えてみせましょうぞ』


 この世への未練が無くなって、もしかして成仏しちゃうかと少し心配になりましたが、それは杞憂で終わったようです。

 フレッドから知らせを受けたバステンが王都から飛んできて、ラインハルトと熱い抱擁を交わしました。


『分団長……分団長……』

『おぉ、やり遂げたぞ。ワシ等は守り抜いたのだ』

『アルテュール様は、立派な王になられたのですね』

『そうだ、ワシ等の目に狂いは無かったぞ』

『はい、感無量です』


 スケルトン同士が、骨を鳴らしながら抱き合う姿は、一見するととてもシュールな光景ですが、それはとても美しい光景に僕には見えました。

 また涙が溢れて来てしまいましたが、カミラがカチーンとくる一言を洩らしました。


「魔王様も、涙を流されるのですね」

「あのねぇ……召喚されてなかったら、僕は普通の子供だったんだからね。そもそも、召喚者を魔王にしてしまったのは、召喚した人間の責任じゃないの? 魔術の存在しない世界から呼び出され、突然強大な力を与えられ、周囲からチヤホヤされれば、増長するに決まってるじゃないか」

「ですから、私は隷属の腕輪を使って……」

「馬鹿なの? どうして、そんな風に極端な考え方しか出来ないのかなぁ……騙されて奴隷扱いされて、酷い扱いをされて……それで気分良く協力しようと思うはずが無いだろ。実際、同級生たちからは相当な恨みを買ってるよ」

「それは……覚悟の上です。全てはリーゼンブルグの為……」

「なってないよね。カミラ・リーゼンブルグ個人に留まらず、リーゼンブルグ王国に対しても酷い恨みを持った人間を二百人……いや、僕らの国、日本で被害にあった人や、その遺族を加えれば、もっと多くの人から恨みを買ってるんだよ。それがリーゼンブルグの為になる事なの?」

「それは……確かになっておりません」


 カミラは自分の計画に自信を持っていたのでしょうし、万が一の時の覚悟も決めていたようですが、被害にあった僕らからすれば考えが甘すぎです。


「ずっと思ってたんだけどさ、敵と味方に対しての扱いが違い過ぎるよね。それじゃあ敵は何時まで経っても敵のままじゃないの? 和解する道を自分から閉ざしちゃってるよね」

「しかし、敵に情けを掛けていたら侮られるだけです」

「それじゃあ、一度敵と認定したら、相手を屈服させるまで戦い続けるの? 相手が弱けりゃいいけれど、互角の力を持つ相手だったら、お互いに消耗するだけじゃん。消耗した所に新しい敵が来たら、共倒れする事になるんじゃないの?」

「それは、そうかもしれませんが、状況に応じて……」

「対応しきれてないじゃん。僕に膝を屈したのは何処の誰?」

「くっ……私です」


 形の上では忠誠を誓っていますが、カミラが僕を見る目には、屈辱や恨み、反発心といったものが混じっています。

 まぁ、ディートヘルムのような桃色視線よりはマシですけどね。


「護岸の改修計画を出して……」


 テーブルをコツコツと指で叩きながら指示すると、カミラは渋々といった様子で計画書を取って来ました。

 カミラから受け取った計画書の束には目を通さず、そっくりそのままラインハルトに丸投げします。


「ラインハルト、ザーエ達やコボルト隊を指揮して、夜中のうちに進めちゃって」

『よろしいのですか?』

「リーゼンブルグ王国の罪を許した訳じゃないけど、何も知らされていない民衆に犠牲が出るのは避けたい。邪魔する奴が居たら、縛り上げて転がしといて」

『心得ました』


 ラインハルトは、ざっと目を通すと計画書をカミラに返し、影に潜って移動して行きました。

 それを見送ったカミラが問い掛けてきました。


「なぜです? どうして、そこまで力を貸して下さるのですか?」

「放置すれば多くの人が犠牲になるかもしれない。僕にはそれを救えるかもしれない力がある。だったら力を行使しない理由なんか無いだろ」

「ですが、私は魔王様や同輩に酷い仕打ちを……」

「だから、それはラストックの住民には関係の無い話だろ。勿論、協力に対する見返りは要求するよ。お前には、しっかり働いてもらう。さぁ、リーゼンブルグの貴族の話を聞かせてもらおうか」

「お、仰せのままに……」


 僕を見るカミラの視線が、少し変わったような気がしますね。

 バステンが、ラインハルトの代わりに護衛に残り、フレッドは新しいお茶の準備を始めてくれました。


「それでは、説明させていただきます。リーゼンブルグの主要な貴族は三十七家ございます。その内、二十三家が第一王子派、十四家が第二王子派ですが、強硬派はその半数程度と思って下さい」


 カミラが出して来た紙には、三十七家が第一王子派と第二王子派に分けて書かれていました。

 その中でも第一王子派には三家、第二王子派には二家の家名の下に線が引かれています。


「こちらに記してある五家は、それぞれの派閥で中心的な役割を果たしている家です」


 ドレヴィス公爵家

 ラングハイン伯爵家

 サルエール伯爵家

 グライスナー侯爵家

 カルヴァイン辺境伯爵家


 いずれの家も長い歴史と広い領地を持ち、王国内で大きな発言力を持っているそうです。


「この中でも、第二王子派のグライスナー侯爵とカルヴァイン辺境伯爵は、かなりのクセ者です」


 グライスナー侯爵は、王国東部の広大な穀倉地帯を領地としていて、西部の砂漠化の影響で穀物相場が上昇した恩恵を一番受けており、相当な資金力があるようです。


 カルヴァイン辺境伯爵は、その名の通り、東北の山間地域の辺境を領地としていて、領地の中には良質の鉱山があるそうです。

 王国内の金属材料を、一手に押さえていると言っても過言ではないらしいです。


 対する第一王子派の主要三家は、広い領地はあるものの砂漠化の影響をモロに受けている地域で、ここ数年は資金繰りが危うくなっているようです。


「グライスナー侯爵が資金で、カルヴァイン辺境伯爵が人的資源で第二王子派を支えているようです。鉱山という土地柄、気の荒い腕っ節の強い連中が多く、その中から選りすぐった者がベルンスト兄の下へ送りこまれているようです」


 第二王子、第三王子と共に、乱行に加わっていた連中がそうかもしれません。

 発言力もあり、経済的にも恵まれた状況にある二家は、第一王子には即位してもらいたくないはずです。


「貴族の当主とかは、表には出て来ないの?」

「積極的、消極的の違いはあれど、全ての貴族がどちらかに属しているのですが、表向きには国は一つに結束している事になっており、貴族の当主が表立ってどちらかに肩入れする事はありません」

「つまり、裏で糸は引いても表には出て来ない。もしくは、出て来ていても、出て来ていない事になっている?」

「その通りです。アルフォンス兄かベルンスト兄、どちらが即位するかによって貴族達の処遇は変わってきます。現状で甘い汁を吸ってる連中と、追い詰められた状況にある者達が強硬派と考えて下さい」


 クラウスさんの言っていた、残りの人生を賭けた博打に参加せざるを得ない連中が強硬派という事なのでしょう。

 でも鉱山の主とか、聞いただけでも一筋縄では行きそうもないですよね。


「戦力的には拮抗している状態なの?」

「単純な兵力を比較するならば、アルフォンス兄の派閥の方が上回っていますが、資金的にはベルンスト兄の派閥に軍配が上がります。つまり、短期で決着するならばアルフォンス兄が、持久戦となったらベルンスト兄が有利になります」

「つまり、第一王子派には兵隊は居るけど、戦線を維持し続けるだけの金が無いんだね?」

「そういう事なのですが、金の流れに関しては、一代貴族の動向が大きな影響を及ぼすと思われます」


 リーゼンブルグ王国には貴族を名乗れる家が、三十七家の他にも百家以上あり、その殆どが一代貴族だそうです。

 一代貴族とは、爵位をお金で買った人達の事で、購入した人物が存命の間は貴族と同じ待遇を受ける事が出来るそうです。


「一代貴族の連中は、称号は持っていても領地を持っていません。なので、基本的に後継争いには参加しません。ですが、商売に関わる税金や制度が大きく変わるような場合には、雪崩を打ってどちらかの派閥に走る可能性はあります」

「爵位をお金で買ったってことは、当然まだ資金が残っている人達なんだよね。例えば、自分が王になったら……みたいな約束で、第一王子が一代貴族の人気を得るような事になれば、第一王子派の資金不足も解消されるんじゃないの?」

「その約束が実行可能なものならば、或いは一代貴族達の支持を得られるかもしれませんが、彼等の多くは商売で財を成した者達なので、思い付きだけで実行性に欠ける話を持ち掛けた場合、逆に支持を失う恐れがあります」

「なるほど……口先だけの約束で騙されるほど甘くは無いって事だね」


 第二王子派を潰すには、グライスナー侯爵とカルヴァイン辺境伯爵、そして一代貴族の動向が鍵となるようです。


「それじゃあ、この情報を元にして、僕の方でも独自に調査を行い方針を決める。カミラ、お前は引き続き極大発生への対策を進めろ」

「畏まりました」

「それと、今夜はもう休め」

「はっ? ですが、まだ工程の調整が……」

「僕の眷属の働きは、材木の件で分かってるよね。ラインハルト達が進めた分を確認しないと、夕方の時点の進捗状況を元にしても意味無いよ」

「あっ……」

「休める時にはキッチリ休め、いいな」

「はっ、仰せのままに……」


 カミラがまとめた資料を手に、悠然とした態度を装いながら、闇の盾を出して影の世界へと潜りました。


『さすがケント様……絶妙なアメとムチ……』

『いやいや、まだカミラには利用価値があるから倒れられちゃ困るだけだからね』

『でもカミラは……ほぼほぼ陥落状態……』

『いや、無いから、委員長に怒られちゃうから、無いからね』


 ラストックに留まっていると、色々と誘惑が多いので、さっさとヴォルザードに戻りましょう。

 と言うか、ラインハルトが嬉々として護岸工事に出掛けて行ったのが少し心配ですが、まぁ、やり過ぎた時はやり過ぎた時で考えましょう。

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