第92話 召喚後の出来事

 とにかく圧倒的に情報が足りません。

 こんなに僕の偽者が現れている状態では、警察署に行っても名乗った途端に門前払いを食らいそうです。


 まぁ、魔法を使ってみせれば信用してもらえるでしょうけど、何の情報も持っていない状態は解消しておいた方が良いでしょう。

 中学校の前で揉めている一団の脇を通り、あかね雲公園の脇を抜け、突き当たりを警察とは逆の右に曲がります。


 この道の突き当たり、公園に入ったすぐの所に図書館があります。

 勿論こんな時間には開館していませんが、影移動を使って入り込みました。

 防犯カメラなどに映るとマズいので、館内も影を伝って移動し、閲覧も影の中でします。


『ケント様、凄い蔵書の量ですな。王室の書庫か何かですか?』

『ここは、住民が自由に閲覧できる図書館だよ』

『なんと……』


 ヴォルザードにも本はあったけど、日本のように大量に印刷はされていないようで、まだまだ貴重な存在のようでした。


『ケント様、ここで何を調べられるのですか?』

『僕らが召喚された時からの新聞と週刊誌』


 まずは、僕らが召喚された時に、中学校がどんな状況に陥ったのかを調べたのですが、想像していた以上に大きな被害でした。

 死者四十八名、重軽傷者百五十二名、行方不明者二百七名。

 この二百七名が召喚された同級生と先生になります。


 最初は、欠陥建築による建物の崩壊と思われていたようですが、膨大な人数の行方不明者が居る事が分かって、大規模なテロや某国による拉致事件の可能性も囁かれるようになったようです。


 更に調査が進められていくと、校舎の三階部分がスッポリと消失していると判明し、科学的な理由付けが難しくなると、世間では一気にオカルト的な話が加速しだしたようです。


 現代版の神隠し、瞬間移動の実験で起きた事故の影響、当然異世界召喚だと主張する者達も現れ始めます。

 そんな中で、一件の傷害事件が発生します。


 僕の母さんが、事件の知らせを受けて久々に帰宅した父さんに、包丁で切りつけたそうです。

 幸い父さんの怪我は、命に関わるほどでは無かったようですが、切り傷、刺し傷を合わせると二十箇所を超えていたそうです。


 この事件が、週刊誌のネタとして取り上げられてしまったのです。

 子供が原因不明の失踪をしているのに、不倫関係が原因の刃傷沙汰を起こしていると報じられてしまいました。


 僕は知らなかったし、知ろうとも思っていなかったのですが、父さんは湾岸地区にあるタワーマンションで、愛人とその子供と一緒に暮らしているそうです。

 そして、事件の経過を追い掛けているうちに、衝撃的な記事を見つけました。


『嘘っ……そんな……』

『ケント様、どうなされました』

『母さんが……』


 母さんは、留置所の中で自殺したそうです。

 これで父さんへの批判が高まっていったようで、傷害事件の被害者として身元もバレてしまっていたでしょうし、恐らく嫌がらせも受けたのでしょう。

 父さんがマンションを処分したのは、この頃だったようです。


『父さんが、普通に家に帰って来ていた頃は、母さんも優しかったんだよ……』


 父さんが家に寄り付かなくなったのは、僕が小学校三、四年生の頃で、その頃から母さんの生活も荒れていって、家の中が一気に険悪になったのを覚えています。

 機嫌の悪い母さんに近づくのが怖くて、お婆ちゃんにばかり頼っていたのも、今になって考えると良くなかったのかもしれません。


『大丈夫ですか、ケント様』

『うん、何て言うか、全然実感がわかないし、自立するんだって決めたからなのか、今は大丈夫』


 父さんは、ネット上で個人情報を晒された後、タワーマンションからも引っ越して行方を眩ましたようです。

 その後の住所などは特定されなかったようで、そのまま騒ぎは収まるかと思われた頃、最初の僕の偽者が現れたそうです。


 僕の偽者は、泥だらけの制服姿で警察署に現れたそうです。

 突然校舎ごと知らない世界に飛ばされ、そこで同級生達と人里を探して行動している時に崖から転落し、気付いたら光が丘公園に戻って来たのだと語ったそうです。


 謎の失踪を遂げていた中学生が現れたと聞いて、またマスコミが大騒ぎになりました。

 僕の偽者は、僕と顔が似ていたようで、警察は僕本人だと思い込んで何度も事情聴取を行い、精神鑑定までも行ったそうです。


 いくら似ていても、父さんが面会すれば偽者だと分かったはずですが、父さんはマスコミに所在を知られるのを嫌ったのか、対応を弁護士に一任していたそうです。

 その結果として、偽者だと判明するまでに一週間以上も掛かってしまいました。


 勿論、僕の偽者を演じた少年は批判されたのですが、一週間以上騙されていた警察や、失踪した子供が現れたのに会いに来なかった父さんにも批判が集中しました。


 そして、不倫をして家庭を蔑ろにしていた父さんと、一向に進展しない捜査状況をおちょくるために、『国分健人を演じてみた』という感じで僕の偽者を演じるのが流行り出したようです。


 本物っぽく演じる者から、先程の一団のように、みえみえの偽者を演じる者など、パターンは様々のようです。

 図書館にはパソコンも置かれていますが、さすがに電源を入れるのは拙いと思い、ネットの情報は見ていません。


 ですが、週刊誌に書かれているぐらいですから、かなりの数の動画がアップされているのでしょう。

 中学校の近くは質の悪い聖地巡礼のようになっているようで、僕が普通に名乗り出ても偽者だと思われたのは、このためなのでしょうね。


『それで、いかがいたしますか?』

『うーん……捜査本部に突撃するしかないかな。闇の盾を出して、見せ付けるようして表に出れば、さすがに本物だと思ってくれるでしょう』

『なるほど、こちらの世界には魔術は存在していないのでしたな』

『うん、でも、この時間じゃ捜査本部にも人が残っていなそうだから、明日にでも出直して来るよ』

『では、戻られますか?』


 図書館からヴォルザードへと戻ったのですが、調べものに思った以上に時間が掛かっていたようで、食堂は明かりが消されていました。


 宿舎を覗くと、同級生のみんなは自分の部屋で手紙を書いています。

 小田先生の部屋には、加藤先生が来ていて、打ち合わせをしていました。


「先生、良いですか?」

「国分か、どうなった?」

「はい、実は……」


 影の世界から出て、日本に戻ってからの事を報告しました。

 四十八名もの犠牲者が出ていると聞いた時には、二人とも天井を仰ぎました。

 僕の偽者が横行していると聞くと怪訝な表情になり、その理由を聞くと沈痛な表情へと変わりました。


「国分、大丈夫なのか?」

「はい、今は記事で読んだだけで、母さんが亡くなった実感は全然わいてこないので大丈夫です。後でショックを受ける時があるかもしれませんが、それは仕方の無いことかと……」


 小田先生の質問にも、普通に答えられている自分が不思議でもあります。

 加藤先生にも肩を叩かれました。


「辛くなったら、無理せずに言うんだぞ」

「はい、ありがとうございます。とりあえず、明日は直接捜査本部に乗り込んでやろうと思っています。小田先生、一度こちらに寄りますから、書きあがった手紙を集めておいてもらえますか?」

「分かった、お前も戻って休め」

「はい、そうさせてもらいます」


 下宿に戻る前に、一つ試しておきたい事があります。

 久々に魔の森の特訓場へと足を運び、眷属のみんなに集まってもらいました。


「えーっと、とりあえずラインハルトとバステン、フレッドで試してみるから、みんな魔石を持って」


 極大発生の時に集めたゴブリンの上位種の魔石を五個ずつ持ってもらい、これまた久々の強化を行いました。

 と言っても、今回は身体能力の強化ではなく、言語能力の強化です。


 この先、日本での活動も有り得るので、日本語が理解できるようになってもらおうと考えたのです。

 僕とのリンクを通して、日本語の知識を転写するつもりで強化してみました。


「えーっと……これは読めるかな?」


 地面に棒を使って、国分健人と漢字で書いてみました。


『読めますぞ、ケント様のお名前ですな』

「じゃあ、こっちは……フレッド」

『聖女様の名前……変わっている、文字にも意味がある……』

「じゃあ、これは……バステン」

『領主殿の名前ですな、ほほう、こちらの名前はこう書くのですか』


 どうやら漢字もカタカナも大丈夫のようです。

 あとは、どのぐらい聞き取れるのかは、日本に行ってみてですね。


 この後、ザーエ達やアルト達も順番に強化していきました。

 さすがに人数が増えたので、けっこう疲れました。


 みんなの強化を終えて下宿の部屋に戻ると、箱を並べて広げたベッドでメイサちゃんが眠っていました。

 もう誰の部屋なんだか分からなくなりそうですね。


 でも、一人になりたいような、一人になりたくないような今夜みたいな時には、本当にありがたいです。

 マルト達にも、メイサちゃんを起こさないように言って、僕も箱を並べたベッドへと入りました。


 グッスリと深い眠りに入っているように思ったのに、僕が布団に入るとすぐにメイサちゃんが抱き付いてきました。

 何か特殊なセンサーでも付いてるんでしょうかね。


 まぁ、今の季節には温かいので文句はありませんよ、涎とおねしょさえ無ければね。

 精神的にも、肉体的にも疲れているはずなのに、なかなか寝付けません。


 やっぱり母さんが自殺したという記事が、心に重く圧し掛かっています。

 新聞にも雑誌にも載っていたから間違いではないのでしょうが、遺体に対面した訳でも、葬儀に参列した訳でもないので、まるで他人事のように実感が無いのです。


 それよりも愕然としたのは、最近の母さんの顔を思い出そうとしても、頭の中で表情を思い描けなかった事です。

 思い出すのは父さんが家に居た頃の笑っている顔と、父さんが帰って来なくなった頃の辛そうな顔ばかりです。


 良く考えてみれば、もう何ヶ月もまともに顔を合わせていないし、最後に交わした言葉すら思い出せません。


『ケント様、眠れませんか?』

『ねぇ、ラインハルト、僕は薄情な人間なのかな?』


 母さんの顔を思い出せない事を、ラインハルトに話してみましたが、即座に否定されました。


『それは、ケント様だけの責任ではございませんぞ。ケント様は普通に暮らしていらしたのですよね? それなのに顔を合わせられないのでは、覚えていられなくても当然です』

『うん、そうなのかもしれないけど……もっと出来る事があったような気がするんだよね』

『そう思われるのでしたら、それは母君が残してくれた教訓として、ケント様のこれからの生活に活かされるべきでしょうな』

『そうだね……うん、そうするよ』


 ラインハルトに話した事で、少し心が軽くなりました。


『ケント様は、手紙を書かなくてもよろしいのですか?』

『えっ、だって僕はいつでも帰れるし……』

『父君とも、あまり会えていないのでは?』

『あっ……うん、そうだね、書いておいた方が良いかもね』


 自業自得な面もあるけれど、騒動に巻き込まれている状態では父さんと会うのも難しいですし、感動の再会……みたいに演出されちゃうのも嫌なので、しばらくは会わない方が良いのかもしれません。


 でも、いざ紙とペンを用意すると、何を書いて良いのか迷ってしまいました。

 父さんとは、まだ家に帰って来ていた頃から、あまり話をした記憶がありません。

 一番最初に頭に浮かぶ言葉は、勉強しろ……です。


 僕には小学生の頃から居眠りの癖がありました。

 頑張って起きていようとしても、途中で眠たくなって、授業の内容が半分も頭に入って来ない事が良くありました。


 当然、成績は良くなかったし、通知表にも毎回居眠りの件は書かれていました。

 父さんは僕が起きる前に会社に向かい、帰宅するのは深夜で、土曜日曜も会社の接待ゴルフに出掛ける事が多く、キャッチボールとかをした記憶もありません。


 たまに顔を合わせた時も、いつも一言目は、ちゃんと勉強しているかの一言で、その度に成績の悪い僕は、萎縮してしまって上手く話せませんでした。

 あの時は……そう、学校で流行ってる遊びとか、アニメや漫画の話がしたかったような気がします。


 だから、僕がヴォルザードに来て、どんな人と出会い、どんな仕事をして、どんな生活をしているのか、これからどんな風に生きていくつもりかを手紙に書きました。


 マノンや、委員長、ベアトリーチェの事も忘れずに書かないといけませんね。

 最後に、これまで育ててくれたお礼と、これからは一人の男として生きていく決意を記しました。


『書けましたか? ケント様』

『うん、父さんに手紙を書くなんて、初めてだから変な感じだよ』

『思いは、残さず書き添えられましたかな?』

『どうかな……急に書いたから、後から忘れていた事を思い出すかも……でも、そんなものじゃないのかな』

『そうかもしれませんな……さぁケント様、夜明けまでには間があります。少しお休みくだされ』

『そうだね。明日も……いや、もう今日か、忙しくなりそうだものね』


 父さんへの手紙を書き終えて、気持ちが落ち着いたせいか、すぐに眠りに落ちていけました。

 途中で何度か目を覚ましては浅い眠りを繰り返した後で、迎えた朝は思っていたよりも普通の朝でした。


「ほら、ケント、メイサ、起きな! いつまでも寝てると朝食抜きにするよ!」

「んー……あぁ、おはようございます、アマンダさん」

「おはよう、ケントが起きていないのは珍しいね。昨夜は遅かったのかい?」

「はい……しばらくバタバタしそうな感じです」

「そうかい……あんまり無理をするんじゃないよ。いくら凄い魔術が使えたって、無理が祟れば身体を壊すんだからね」

「はい、気を付けます……」


 アマンダさんは、僕の頭をクシャっと撫でて、少し寂しげな笑みを浮かべました。

 ですか、それもほんの少しの間だけで、すぐにいつものアマンダさんに戻りました。


「ほら、メイサ  起きな! いつまで寝てるつもりだい、ちゃんと起きられないならケントの部屋で寝させないよ!」

「んあー……んー起きた、んー……モフモフ……」


 アマンダさんの声で、一旦起き上がったメイサちゃんでしたが、ムルトの上に突っ伏すと、また寝息を立て始めました。

 ムルトが僕とアマンダさんの顔を交互に見て、無言で助けを求めています。


「はーっ……メイサ! いい加減にしなよ!」

「ひっ……えっ、えっ……お母さん? えっ、起きる……うん、もう起きた……」


 絶対まだ半分以上は寝ていそうだけど、メイサちゃんは条件反射的に上半身を起こすと、キョロキョロと周りを見回し始めました。


「おはよう、メイサちゃん」

「えっ……うん、おはよう……えっ、ケント?」

「ほら、早く起きないと朝ごはんが無くなるよ」

「えっ、やだ……ごはん食べる……」

「じゃあ、ほら起きて、顔洗っておいで」

「うん……わかった、あれ? うん……」


 まだ半分ぐらい眠った状態で、メイサちゃんはフラフラと顔を洗いに行きました。

 さぁ、僕も起きて、朝食を済ませたら、先生の所に顔を出して、それから警察に突撃しますかね。


 朝食を食べ終えた後で、元の世界に戻れた事や、僕の家族に起こった事件を伝えました。

 母さんが、自ら命を絶ってしまったらしいと伝えると、アマンダさんは席を立って僕を抱き締めて涙を流してくれました。


 隣の席ではメイサちゃんもボロボロ泣いています。

 でも、なぜだか僕は涙が流せなくて、何だか変な気持ちです。


「それでいいんだよ。あんたは、まだ受け入れていないから泣けないだけさ。ちっとも変じゃないし、薄情だからでもない、今はそれでいいんだよ」

「ありがとうございます。僕は、ちゃんと一人前の男として、ヴォルザードで生きていきたいと思っています。でも、まだまだ足りない事ばかりだから……これからも、よろしくお願いします」

「そうさね、いつまででも居て構わないけど、それは女の子達が許しちゃくれないだろうから、自分の家を持つまで、ここが自分の家だと思っておいで」


 メイサちゃんも涙を拭いながら、何度も頷いてくれました。

 日本には、帰る家も無くなってしまったけど、ヴォルザードには僕の居場所が出来ました。


 ちょっと前の僕は、ちょっとだけ不幸だったけど、今の僕は凄く幸せです。

 だから今度は、みんなを幸せに出来るように、頑張りましょう。


 守備隊の宿舎に出向くと、小田先生から全員分の手紙と、先生達がまとめた報告書を託されました。

 報告書は、ヴォルザードに来てから、先生達が同級生から聞いた話をまとめた物だそうです。


 当然、報告書には船山が命を落すまでの経緯が記されていて、その取りまとめには彩子先生が中心的な役割を果たしたそうです。


「私は、船山君の近くに居ながら、彼を救ってあげられませんでした。その謝罪の意味も込めて、出来る限り詳細に、ありのままの状況を書いてあります。必ず、これを届けて下さいね」

「分かりました。みんなが日本に帰れる方法も探しますが、今はこの報告書と手紙を届けてきます」


 先生や同級生のみんなに見送られながら影に潜り、警察署を目指しました。

 僕らが召喚された当時は、連日マスコミが詰め掛けていたそうですが、何の進展も無い状況が続き、殆どのマスコミは別の事件の現場へと向かい、警察署の前は普通と表現するのが相応しい状況です。


 それでも正面から入れば、つまみ出されるかもしれないので、直接捜査本部へと突撃します。

 影に潜ったまま警察署内を移動し、捜査本部を探しました。


 光が丘中学校倒壊失踪事件特別捜査本部


 大きく墨書された看板が設置されているのは、大きな会議室のようでした。

 部屋の中には、沢山の机や椅子が置かれていますが、捜査に出掛けているからか、残っている人は、そんなに多くありません。


 ホワイトボードが置かれた近く、固定電話の引かれた所が偉い人の席のようです。

 難しい顔をして、指示を出しているのは四十代後半ぐらいの体格の良い男性で、何だか光が丘版のドノバンさんって感じです。


 以前の僕なら、ビビって声も掛けられなかったでしょうね。

 とりあえず、影の中から声だけ掛けてみましょうかね。


「あのぉ……ちょっと宜しいでしょうか……」


 変化は劇的でした。

 近くにいた全員が顔を上げて、声を掛けた僕を探し始めました。


「誰だ! どこに居る、出て来たまえ」

「すみません、驚かせるつもりじゃなかったんですが……」

「誰だね、姿を見せなさい」

「はい、僕、失踪した事になっている光が丘中学校の二年生の一人です。これから表に出ますけど、驚かないで下さい」


 なんて言ってるけど、本当は驚かす気満々なんですよ。

 でないと、僕が国分健人だと信じてもらえそうもないですからね。


 一番偉そうな男性の前に闇の盾を展開、両手を挙げて敵意の無い事を示しながら表に出ました。


「なっ……どうなってる」

「初めまして、本物の国分健人です。見てもらったのは、移動するための魔術です」

「確保!」

「えぇぇ……ちょ、待って、痛い、痛い……何でですか……」

「大人しくしろ!」

「いやいや、大人しくしてますよ」

「こいつ、どこから入り込みやがった」


 机の周りに居た屈強な捜査員に、あっと言う間に押さえ込まれちゃいました。


「待て、あまり手荒にするな」

「いやいや、もう充分手荒だと思いますよ」


 ちゃんと断りも入れて、ホールドアップの姿勢までして姿を見せたのに、床に押さえ込むとか無いんじゃないですかね。


「君は、本当に本物の国分健人君なのかね?」

「だから最初からそう言ってるじゃないですか、信じてもらえないだろうと思って、わざと魔術を使って姿を見せたのに、これは無いんじゃないですか?」

「本当に魔術が使えるのかね?」

「この移動に関する魔術は僕しか使えません。だから代表として手紙と報告書を届けに来たんです」


 一番偉いと思われる男性は、考えをまとめるように黙り込みました。


「片山、離してやれ……」

「良いのですか? おい、暴れるなよ」

「だから最初から暴れたりしてませんって……もう、酷くない?」


 一応こうした事態も想定していたので、ラインハルトには待機するように言っておいて良かったです。

 いや、いっそスケルトンの実物も見てもらった方が良かったのかな?

 何だか前途多難な感じなんですけど……

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