第86話 真相

 極大発生した魔物が、押し寄せて来るかもしれない。

 ヴォルザードからロンダル達が戻った翌日から、ラストックの街は戦場のような騒ぎになっています。


 ラストックは、十五年前に行われた大規模な開拓事業によって生まれた街で、魔の森との間には大きな川が流れているので、一般家庭では魔物への備えがありません。

 この状態で極大発生に襲われたら、甚大な被害が出ることでしょう。


 カミラが一番先に着手したのは、街の人々の避難所の設営でした。

 一般家庭を一軒一軒補強していたら、到底時間が足りません。

 そこで、大人数を収容できる建物を補強して、人々の避難所にするようです。


 同級生達が収容されていた兵舎は、元々頑丈な作りになっているので、そのまま避難所として利用されます。

 その他に、学校、教会、講堂などが避難所に選ばれ、守備隊の隊員は勿論、冒険者や街の人々が総出で補強工事を進めています。


 補強工事を進める一方で、穀物倉庫などから食料の運び込みも行われていました。

 急な事態で、しかも大規模な工事とあって現場では慌しく人々が走り回っていますが、混乱が起こっている様子はありません。


 現場ごとに作業を統率する騎士が居て、進捗状況のチェックや次に取り掛かる作業の指示を的確に下しているからです。


『フレッド、この指示ってカミラの計画に従ってる感じなの?』

『その通り……知らせが届いてから、殆ど寝ていない……』


 カミラは、ロンダル達がヴォルザードから戻って以来、短い仮眠を除いて殆ど不眠不休で計画を立て、進捗状況の報告を受けては新しい指示を出しているそうです。


 カミラが頭脳となり、騎士が神経となって情報を伝え、冒険者や住民が手足となって動く。

 まさに、今のラストックは、街全体が一つの生物のごとく機能しているようです。


『クラウスさんも凄いって思ったけど、カミラは更に上をいってる感じがするよ』

『まさに名君の器……カミラに比べたら、他の王族はゴミ……』


 これだけの実務能力があって、しかも騎士や住民に対する思いやりを欠かさないのだから、人望が集まっても当然だよね。

 正直に言って、僕らの扱いが正当なものであったなら、同級生のみんなも自主的にカミラに協力していたんじゃないかな?


 補強工事の進む街の様子を昼前まで見て回り、一旦ヴォルザードへと戻りました。

 守備隊の臨時宿舎へと顔を出すと、先生達が書きあがった書状の最終チェックを行っていました。


 我々からの要求は、リーゼンブルグ王国からの公式の謝罪、死亡した船山の遺族と迷惑を被った我々へ総額七千万ヘルトの賠償、そして元の世界への帰還です。


 この要求を受け入れるならば、第四王子の王位継承への手助けを行う。

 だが、要求を拒絶するならば、ラストックの極大発生対策を妨害する。


 ラストックで懸命に対策を行っている人々を見て来たばかりなので、少し心が痛む内容ではありますが、カミラが要求を受け入れてくれれば逆に協力するつもりです。

 先生達全員が書状の内容に賛同し、小田先生が封筒を閉じました。


「では国分、この書状を第二王子派……いや第一王子派や国王派にもバレないようにカミラ王女に届けて、書状で返事を受け取って来てくれ」

「分かりました、たぶん、今夜遅くの接触になると思いますので、明日の朝にでも……」

「いや、我々も今夜はここで待機しているつもりだ、遅くなっても構わないので報告に来てくれ」

「分かりました」


 書状を受け取り再びラストックに戻る前に、守備隊の食堂に顔を出そうかとも思ったのですが、色々と風当たりが強いので止めておきました。

 お昼は、例によってラストックの駐屯地で、ちょろまかして済ませましょう。


 補強工事で主力を担っているのは、土属性の魔術士達です。

 避難所として選ばれた建物の入口や窓、そして一階の壁面などを重点的に補強していきます。


 こちらの世界の建物は、基本的に土属性の魔法で建てられているようで、木の骨組みの上に土を塗り、その土を魔法を使って硬化させています。

 腕の良い土属性の魔術士ほど、一度に大量の土を硬化させられるし、硬化させた後の強度も高められるそうです。


『ラインハルト、あの硬化はどの程度の強度まで上げられるものなの?』

『一般的な建築では、腕の良い職人では天然石と同程度、駆け出しの職人だと固まってはいるが弱い……といった感じですな』

『鉄とかよりも強く硬くとかは無理なのかな?』

『武具を作る職人の多くも土属性の魔術士ですが、剣や槍などを作る場合には、やはり材料を厳選する事から始めるようです』

『そうか、その辺の土じゃ限界があるって事なんだね』

『いかにも、その材料の厳選を専門に行う者もおりますぞ』


 なるほど、剣一本を作るのも大変な手間が掛かる……あれ? ラインハルト達が使ってる武器ってどうなってるんだろう?

 強化の時にイメージしたら出来たんだけど、材質すら分かってないんだけど……うん、考えたら負けって事にしておこう。


 避難所の補強工事を終えた者達は、今度は川の護岸の整備に駆り出されるようです。

 これまでラストック側の川岸は、街道を繋ぐ跳ね橋と川で漁をするための船着場がある程度で、殆ど自然のままで整備はなされていませんでした。


 その川岸を掘り下げ、掘り下げた土を積んで護岸を作る工事を進めています。

 言うなれば、天然の水掘である川に加えて、城壁を作ろうとしている訳です。


「ひとまず崩れない程度に固めれば良い、最終的な硬化までやっていたら間に合わんぞ」

「どうした、芯材がたりないぞ、早く持って来い!」


 避難所の工事を終えた人員が集まり始めて、工事は順調に進んでいくのかと思いきや、どうやら資材が足りないようです。

 避難所の補強と違い護岸の工事は範囲が広く、土属性魔法の硬化が追い付かないので、芯となる木材を組んでから土を盛るようです。


 つまり芯材が無いと土が盛れず、土が盛れないということは、掘り下げる事も出来ない訳です。


「おい、芯材に使う材木はどうなってる?」

「避難所の工事に回してしまって、在庫が底を尽いているらしい」

「では、伐採に向かわないと駄目なのか?」

「もう一陣が出ているそうだが、まだ戻っていないようだ」

「くそっ、ここまでは順調だったんだがな……」


 夕暮れが迫ってきた川岸では、手持ち無沙汰で立ち話を始める者達も出始めていました。

 このままでは工事は完全に中断してしまいそうですね。


 駐屯地の執務室に移動すると、カミラが頭を抱えていました。

 書類を眺めていたかと思うと、立ち上がって窓から駐屯地の訓練場を見下ろします。


 執務室の窓からは訓練場と駐屯地の門が見えるのですが、カミラが心待ちにしている伐採に向かった者達は、まだ戻って来ないようです。

 アルトに偵察を頼むと、伐採に向かった者達はラストックを目指している途中だそうで、まだ到着には時間が掛かりそうです。


『やっぱりカミラでも全て計算通りとはいかないんだね?』

『そうですが、避難所の工事が予定よりも早く進んだのかもしれませんぞ』

『あっ、そうか……予想外に工事が進んで材木が足りないのか……大きな事業って難しいもんだね』

『その通りですぞ。戦でも兵站が途切れれば戦う事が出来なくなります。工事では、資材、人員、そして人員が動けるように食事や休憩などにも気を配る必要があるでしょうな』

『カミラは、この後どうするんだろうね』

『その辺りでも、上に立つ者の資質が見えるかもしれませんぞ』


 カミラは、腕組みをしてジッと窓の外を睨んでいましたが、決断するように頷くと、窓を開いて怒鳴りました。


「クレメンス! 今日の作業は製材担当を残して全部終了させよ! 明日からも作業は続くから、十分に休息を取るように伝えよ!」

「はっ! 了解しました!」


 日没までは、まだ少し時間がありますが、カミラはキッパリと作業終了を決断しました。


『どう? ラインハルト』

『良い決断ですな。資材が無ければ工事は進みませぬ。ダラダラと作業を続けても疲労が増すだけです』


 窓を閉めたカミラは、机に戻り工程のチェックを再開しました。

 驚いたことに、カミラの秘書官や警備兵までが現場に派遣されていて、執務室に残っているのはカミラだけです。


 報告に来る者のために執務室のドアさえ開け放たれたままです。

 カミラは工程表と資材の一覧を突き合わせては、眉間に皺をよせていました。


 早馬を仕立てて増援を求めても、どこからも援護が届いていない現状では、資材が底を尽くのは目に見えています。

 材木のように伐採して来れば手に入る物はまだしも、釘やかすがいなどは直ぐには準備が整いません。


「最悪避難所が何とかなったとして、護岸は間に合わぬか……」


 この後、現場の監督を終えた騎士達が次々に報告に訪れましたが、口々に要求されるのは資材の搬入に関する事ばかりでした。


 木材同士を繋ぎ止めるのには金具が必要で、その金具は土属性の魔術士が固める事で代用が出来るのですが、そうなると魔術士の負担が増加して、結果としては工事の遅れに繋がるようです。


「カミラ様、このままでは護岸の工事が進みませぬ」

「金具もですが、やはり材木が圧倒的に足りません」

「伐採の担当を増やすしかないのでは?」

「王都からの応援は来ないのですか?」


 どの意見も、もっともなものばかりですが、カミラも十分に承知しています。

 伐採の人数を増やせば、工事に関わる人数が減るし、かと言って資材が無ければ工事は進みません。


 結局カミラに出来た事は、伐採に関わる人数を若干名増やすに留まりました。

 途中、届けられたサンドイッチを口にしただけで、報告を聞き対策を練り続け、いつしか執務室にはカミラ一人が残っていました。


 時折、左手でこめかみを押さえているのは、軽い頭痛を感じているからかもしれません。

 でも、僕は僕の仕事をさせていただきましょうかね。


 廊下の見張りをバステンに頼み、護衛役としてラインハルト、カミラが暴れた場合にはフレッドに取り押さえてもらいます。


 ラインハルトを従えて影の世界から出て僕が机の前に立っても、カミラは気付かずにペンを進めています。

 ふっと手を止めて、何気なく上げたカミラの目線が僕を捉えました。


「な、何者……」


 叫ぼうとした喉笛にフレッドの剣が添えられ、カミラは動きを止めました。


「お静かに願いますか、僕も手荒な真似はしたくありませんので……」


 正直、カミラを前にして少々ビビり気味なんですが、余裕があるように振る舞いました。


「そうか……貴様はあの時の……」

「さすがですね。僕を覚えてましたか……」

「くっ……何という事だ。私は最初から失敗していたのか……」


 カミラは右手に持っていたペンを机の上に放り出しました。

 どうやら暴れるつもりは無いようなので、フレッドに剣を引かせました。


「早速ですが、我々の……」

「分かっている。貴様の要求ならば、良く分かっている……」


 カミラは、ゆっくりと立ち上がると、机を回りこんで僕と向かい合い、いきなり上着を脱ぎ捨てました。


「えっ? ちょっ……?」


 予想もしていなかった行動に、僕がフリーズしていると、カミラは床に跪いて深々と頭を下げました。


「えぇぇ……ちょ、何して……」

「魔王よ、わ、私はどうなろうと構わない、この身を差し出すから……どうか、民には手を出さないで欲しい……」

「えっ、えっと……何を……」

「駄目……なのか、やはりラストックの……いやリーゼンブルグ中の女は、その身が壊れるまで陵辱の限りを尽くされるのだな……」

「ちょ、そんな訳ないでしょう!」


 僕の言葉に顔を上げたカミラの目は、死んだ魚のようでした。


「そうか……今ではないのだな、こんな人気の無い場所ではなく、騎士達の前……いや、集められた民の面前に、我が汚される姿を晒そうというのだな……きっと魔王の軍勢にも寄ってたかって孕むまで……んきゃ!」


 思わずカミラの頭を張り倒しちゃいましたよ。


「話聞けよ! 誰もそんな事要求してないよ!」

「えっ……でも魔王の要求と言ったら……」

「うるさいよ、さっさと上着を着て座れよ!」


 カミラが上着を着終わるまで、勝手にソファーに座って待たせてもらう事にしました。


「ま、待たせたな、それで、この私に何用が……」

「いまさら格好付けたって駄目だからね」

「くぅ……これが魔王か、こうして少しずつ精神を削っていくのだな……」

「はぁ……さっきから、僕のことを魔王、魔王って呼んでるけど、何の根拠があって魔王なんて呼ぶんだよ」

「貴様が召喚者だからに決まっておろう」

「はぁ? 召喚するのは勇者じゃないの?」

「ふむ、そうか、貴様は民に伝わっている勇者の話しか知らんのか?」

「どういう意味?」

「魔王は、召喚された者の成れの果てだ」

「はぁぁ?」

「民の間に伝わっている御伽話は、王室が作り上げた話で真実ではない」


 カミラは王室に伝わる、勇者と魔王の真実を語りました。

 遥か昔、今は魔物の支配する南の大陸には、一つの王国が存在していたそうです。


 細い半島で結ばれたその王国とは長きに渡って戦が続けられ、ある王の時代にリーゼンブルグは滅亡の危機に瀕したそうです。

 その時に行われたのが、初めての勇者召喚だったようです。


 召喚された勇者は、膨大な魔力と幾つもの属性を操り、南の王国の軍勢を退けたそうです。

 ここまでは勇者として申し分の無い働きですが、戦果を上げるほどに勇者は増長し、色々な要求をするようになり始めたそうです。


 金、地位、名声、そして女性。

 勇者は、気に入った女性は手当たり次第に自分のものとしたようです。


 その女性に婚約者がいようが、既婚者であろうが容赦なく純潔を奪い、人間離れした体力に物を言わせて身体が壊れるまで陵辱を続けたらしいです。

 それだけではなく、勇者は治癒魔法を使って壊れた女性の身体を治療すると、再び壊れるほどの激烈な陵辱を加え、女性の精神が崩壊するまで弄び続けたそうです。


「リーゼンブルグ王家は、追放すると決め暗殺も試みたが、勇者は南の大陸へと落ち延びて行ったそうだ」


 カミラは、吐き捨てるように言いました。

 追放された勇者は南の大陸を支配し、魔物を従え魔王として君臨したそうです。


 そして、魔王はリーゼンブルグにも復讐の魔の手を伸ばして来るようになり、窮した王室は再び勇者召喚を行ったようです。


「だがその召喚は、魔王を二人に増やしただけだった。困り果てた王室は、チートだ……ひゃは――っ! などと奇声を上げて女を漁る二人目の魔王を唆し、一人目の魔王にぶつけたそうだ」


 同属嫌悪というやつなのでしょうか、魔王と魔王は死力を尽くして戦い、結局は経験の差からか一人目の魔王が勝利したらしいです。

 そして一人目の魔王は、二人目の魔王との戦いで、ボロボロに消耗した所を潜んでいたリーゼンブルグの騎士に狙われ、討伐されたのだとか……。


 その時の戦いで、南の大陸には異常な魔力が澱み、その結果として魔物が支配する大陸へと姿を変えてしまったようです。

 そして、その南の大陸から溢れたトレントの極大発生の跡が、現在の魔の森となっているのだそうです。


 この時の反省から、リーゼンブルグ王家は召喚術そのものを禁術として徹底的に秘匿し、勇者と魔王の御伽話を捏造したのと同じく、召喚術も架空の物としてしまったそうです。


 ただ、魔王化したものの召喚者が膨大な魔力を持つのは事実で、王家には有事の最終手段として勇者召喚の儀式が伝承されてきたようです。


「私は、その召喚術式を独自に研究し、アレンジを加えた上で執り行った。本来一人の男性の下に集中する魔力を分散させるために、人数を増やし、年齢を下げ、性別の限定を取り払った。その結果として召喚されたのが貴様らだ」

「だから僕らを、魔王の資質を持つ者なんて言ったのか?」

「なっ、貴様、なぜヴォルザードへの親書の中身まで知っている……だが、間違いではあるまい、貴様らが召喚された時の事を思い出してみるが良い」

「えっ? あっ……船山……」


 召喚された直後、船山はカミラに食って掛かり、夜の相手さえ要求していました。

 もし船山がチートな能力を手に入れていたら、カミラの言う魔王のごとき所業に及んでいたでしょう。


 だからカミラは船山を見せしめとして、死んでも構わないと考えていたそうです。


「扱いやすい年齢を指定して召喚しても、成長すれば手が付けられなくなる恐れがある。だからこそ隷属の腕輪で縛り、リーゼンブルグへの忠誠を叩き込んだのだ」


 へなちょこ勇者の鷹山は、戦闘力が高いので囲い込む為に良い待遇やシーリアを与えていたけど、少しでもハーレムなどと言い出した時には、始末する予定だったらしい……危なかったな鷹山。


 一旦話を切ったカミラは、僕に視線を向け、次にラインハルトを、最後に何時でも拘束できる位置に控えているフレッドを見てから溜息を洩らしました。


「だが、それほどまでに準備を整えておきながら、私は最初の一歩で躓いていた。まさかハズレ判定の貴様が魔王だったとは……」


 うーん……カミラが言う魔王と、ヴォルザードで呼ばれている魔王の意味は違うみたいだけど、交渉するのには有利そうなので、訂正するのは止めておきましょう。


「それで魔王よ、貴様の要求は何だ。先程も言った通り、私の身体はどうなろうと構わない、だが民に手を出すのであれば……どんな手段を使ってでも貴様を殺す」

「出来ますかね? 先日、仲間を助け出した時には少々油断して串刺しにされましたが、もう同じような油断はしませんよ」

「くっ……パウルが仕留めたと言っていたのは貴様か……確かに腹を抉ったと言っていたのに……」

「これでも痛みは感じるんです。剣で串刺しにされる痛み、味わってみますか?」

「そ、それで、それで民が助かるのなら、どんな痛みにも、どんな屈辱にも耐えてみせよう」

「いいでしょう、僕らの要求はこれです」


 僕は見せ付けるように影収納から書状を取り出して、テーブルの上をカミラに向かって滑らせました。

 カミラは封筒を手にすると、ゴクリと生唾を飲み込んでから封を切りました。


「これは……」


 ざっと書状に目を走らせたカミラは、小さく驚きの声を洩らした後で、ゆっくりと二度ほど文面を読み直しました。


「王族の内情まで調べ上げているのか……脱走は第二王子派の手引きではなかったのだな……」

「本当は、貴方を飛び越して国王と交渉しようという話もあったんだけど、あの国王では……」

「アルフォンス兄やベルンスト兄の事も承知しているのだな?」

「当然……」

「それで、我に実権を握らせようと言うのか?」


 僕は無言で頷いて見せました。

 カミラは文面を見直す振りをしながら、必死に頭を巡らせているようでした。


「残念だが、この要求には応えられない」


 カミラは、一度目を閉じた後で、決意した強い視線で僕を見据えながら、キッパリと言いました。


「残念ですね、僕もラストックの住民は……」

「待て、待ってくれ。謝罪ならばいくらでもしよう、先程も言った通り、貴様らの慰み物になれと言うならば、喜んでこの身を差し出そう。賠償金も……何とか、一度には無理でも必ず支払おう。だが……送還術式は存在しない。元の世界への送還は……不可能だ」

「えっ……」


 心のどこかで予想はしていたけど、カミラの口から告げられた言葉は、僕を凍りつかせるのに充分な威力を含んでいました。

 必死の形相で言い募ってきたカミラが、嘘をついているようにも見えません。


「ふ、ふざけるな! お前が、召喚術と送還術はセットが基本だと……」

「それは嘘だ……貴様らが暴動を起こさないように用意しておいた嘘だ、すまない……」


 思わずソファーから立ち上がったまま、僕は次の言葉を見つけられませんでした。

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