第74話 オーランド商店
メイサちゃん達にキラキラした視線で見送られ、ギルドの中へと戻ろうとしたら、腕を組んで立っているドノバンさんの姿が見えました。
さすがにこのタイミングで首根っこを掴まれるのは恥かしいと思っていたら、ドノバンさんは顎でカウンターの方を示し、先に歩いて行ってくれました。
職員の皆さんに、ペコペコと頭を下げてカウンター裏へと通ると、ドノバンさんはお茶の準備をしています。
もしかして、自分がお茶する口実に僕を使ってません?
「Sランク冒険者になるのが嫌で、先生に転職する気か?」
「いえ、そんなつもりじゃ……あれ? でもそっちの方が良いのかなぁ……」
「ふふん、本気で悩むな。高等教育院を卒業して資格を取らなきゃ教師にはなれんぞ」
「はぁ……そうですよね。簡単に先生になんかなれませんよね」
「そういう事だ……」
ドノバンさんは、また器用な手付きでお茶を淹れて振舞ってくれました。
「うーん……また違う茶葉なんですね、今日のは爽やかな香りがしますね」
「ちゃんと睡眠は取ったみたいだな。昨日は半分寝てやがったからな」
「うっ……すみません、と言うか、ドノバンさんこそ、ちゃんと寝てるんですか?」
「当たり前だ、俺を何だと思ってやがる……」
「魔石で動くカラクリ……嘘です、ごめんなさい、冗談です」
「ふん、お前の眷属と一緒にするなよ……」
「はい……それは、勿論……」
「で、お前の用事は何だ?」
「はい、実はですね……」
ヴォルザードに滞在するにあたって、同級生達を代表して先生がクラウスさんに挨拶をしたいと言っているので、予定を聞きに来た事を話しました。
「そうか、だが、極大発生の後始末でガタガタしているからな、週明け、火の曜日の午前中なら大丈夫だろう。ここに連れて来るといい」
「分かりました。やっぱり後始末とか大変ですか?」
「まぁ、あれだけの騒動だからな、楽という事は無いが、それでも死者が出ていないから気は楽そうだ」
「死者が出ると、やっぱり大変ですよね」
「遺族に弔慰金を出すのは当然だが、死んだ者が一家の大黒柱だった場合には、残った家族が安心して暮らして行けるように道筋を付けてやらないとならんしな」
今回のように強制的に召集された冒険者が亡くなった場合、その対応は守備隊の隊員の待遇に準ずるそうです。
一時払いされる弔慰金の他に、遺族年金のような形でもお金が支払われるそうですし、遺族の暮らしが成り立つように様々な援助が行われるそうです。
「ずいぶんと手厚いケアがされるんですね」
「そうでもしなければ、いくら強制徴集を行っても士気は上がらないし、下手をすれば人が集まらなくなってしまうぞ」
「なるほど……でも、家族の心配をする人からすれば、当然の措置なのかもしれませんね」
「まぁ、そういう事だ……他に用事はあるか?」
「あの、ヴォルザードよりも内地側に逃げていったゴブリンなんですが……」
アマンダさんに聞いた穀物などの価格への影響、討伐の必要性などを訊ねてみました。
「そうだな……確かにお前の言う通り、街道にゴブリンどもが出没するだけでも穀物の価格は上がるだろう。だが、商隊の護衛や魔物の討伐は冒険者にとっては稼げる仕事でもある。お前が眷属を使えば、それこそ根こそぎ討伐出来るのかもしれんが、まずは様子を見てからだな」
「それは、穀物の相場次第って事ですか?」
「そうだ、冒険者の生活も成り立たせねばならんが、穀物相場ともなれば市民の生活を直撃する問題だ。価格が暴沸するようならば指名依頼を出すかもしれん」
「はい、いつでも協力しますので言って下さい」
「ふふん、これほど頼りにならなそうで、これほど頼りになる奴も居ないな」
いや、否定はしませんけど、職員の皆さん、くすくす笑うって酷くないですか?
「他に用事はあるか?」
「いいえ、今日の用事はこれだけです。後は帰って交渉のための資料を纏める予定です」
「そうか……」
ドノバンさんは、少しぬるくなったお茶を一息に飲み干すと、一つ頷いてから話を始めました。
「ケント、オーランド商店の主人、デルリッツから面談の申し込みがあった」
「えっ、僕にですか?」
「そうだ」
救出作戦に極大発生と慌しくしていたせいで、オーランド商店のことはスッポリと頭から抜け落ちていました。
ベアトリーチェに横恋慕しているナザリオの父親で、フレイムハウンドの雇い主、ヴォルザード一の商店主……こう考えると、一筋縄ではいかなそうな人物に思えます。
例え面談するとしても、どんな人物か入念に下調べしてからでしょう。
「不安か……?」
「フレイムハウンドの一件もありますから……」
と言うか、ナザリオの父親ってところの方が引っ掛かってるんですけどね。
息子の希望を叶えつつ、領主一族と血縁関係を作るのが目的だった場合には、間違いなく僕は邪魔な存在だよね。
あれだけ釘を刺しておいたから、フレイムハウンドは余程の事が無い限り手出しして来るとは思えないけど、オーランド商店はまた別だもんね。
「先方からは、お前の都合の良い時に店に来て欲しいという事だ。暇ならこの後行って来い」
「えっ、これからですか? それはちょっと……」
「まぁ、用心するのは良い事だが、今回はギルドを通しての面談の申し込みだからな、お前に不利な事態は起こらないはずだ」
「そうなんですか?」
ドノバンさんが言うには、ギルドを通しての面談の申し込みは、相手に対して危害を加えない、不利益となる契約を結ばせないという意志表示でもあるそうなんです。
もし危害を加えたり、不利な契約を結ばせた場合には、ギルドとの取り引きを全面的に停止させられるそうです。
「でも、オーランド商店みたいに大きな店だったら……そうか逆に影響が大きいのか」
「その通りだ。ギルドとの取り引き停止は、ヴォルザードに限らずランズヘルト全土に渡る処分になる。そうなった場合、素材の調達、働き手の調達、商品の納入など手広くやっている者ほど大きな影響を被る事になる」
まぁ、ドノバンさんが行って来いと言う時点で心配は無いのでしょうが、油断して痛い目に遭ったばかりですから、気は抜かないように気を付けましょう。
ドノバンさんにクラウスさんの面会の件を頼んで、ギルドを後にしました。
『ラインハルト、どう思う?』
『そうですな……大店の主ともなれば、損得の見極めは出来るはずです。ケント様に危害を加えたりする可能性は低いでしょうな』
『じゃあ……行くだけいってみようか』
オーランド商店は目抜き通りに面して、周囲の三倍ほどの間口を持つ大きな店です。
扱っている商品は、高級な宝飾品から日用雑貨まで幅広く、冒険者用の装備品も売られています。
肝心の目的も忘れて、キョロキョロと商品を見ていたら、若い女性店員さんに声を掛けられました。
「お客様、何かお探しでしょうか?」
十代後半から二十代前半ぐらいでしょうか、釣り目がちの大きな目が勝気そうに見え犬獣人の女性で、少し迷惑そうな表情を浮かべています。
良く見ると、僕が居る場所は、冒険者用の装備品の中でも、かなり高額な商品が並んでいるエリアでした。
たぶん、買えもしないヒヨっ子冒険者が冷やかしていると思われたのでしょうね。
「えっと……買い物ではなくて、デルリッツさんにお会いしたいのですが……」
そう伝えると、店員さんは更に怪訝な表情を浮かべました。
たぶん、世間知らずな子供が、雇って欲しいと頼みに来たとでも思われているのでしょうね。
「失礼ですが、お約束はございますか?」
「えっと……約束というか、ギルドに面談の申し込みが来ておりまして……」
「えぇぇ! 君が『魔物使い』だって言うつもり?」
いやいや、お姉さん、気持ちは分かるけど、素の表情丸出しなんですけど大丈夫ですか。
「はぁ……何だかそう呼ばれてます」
「あははは……君ねぇ、嘘をつくならもう少し上手な嘘にしないと駄目だよ」
まるで信じてもらえていないようで、店員さんは小さな子供に諭すような口調で話し掛けてきたのですが、それと同時に店のあちこちから囁き声が聞えてきました。
「あれが魔王だ……」
「嘘だろう、ただのガキじゃん……」
「見た目に騙されるな……痛い目に遭うぞ」
店中にざわめきが広がっていき、周囲の視線が僕らの方へと向けられて来ます。
「えっ……えっ……うそっ、本当に君が……」
店員のお姉さんが戸惑っていると、ザ・執事という風貌の渋い男性が割り込んで来ました。
「大変失礼いたしました。私、デルリッツの執事を務めておりますギュスターと申します。ケント様でいらっしゃいますね。主がお待ち申し上げております。どうぞ、こちらへ……」
ギュスターさんは丁寧に頭を下げながら、興味深げな視線を向けてくるお客達を捌き、僕を店の奥へとスムーズに案内してくれました。
うん、野次馬があんな風に道を開けてくれるのって、執事オーラのなせる技だよね。
店から裏のスペースへと出ると、たくさんの店員さんが働いていたのですが、みんな僕に向かって深々と丁寧なお辞儀をして来ます。
でも、これって僕が誰とかじゃなくて、ギュスターさんが案内しているから重要人物と認識されているんだよね。
「主が参りますまで、こちらでお寛ぎ下さい」
オシャレな内装だけれど、けばけばしい感じはしない応接室へと案内されると、すぐにメイドさんがお茶とお菓子を運んで来てくれました。
クッキーみたいな焼き菓子に、スコーンのようなケーキ、何かは分からないけどドライフルーツのようなものもあります。
香ばしい香りのする深い色のお茶が注がれたカップもシンプルながら高そうに見えます。
『ケント様、隣の部屋から観察されていますぞ』
『そんな事だろうとは思ってた……』
少し香りを楽しんだ後で、ゆっくりとお茶を含むと、口の中に複雑なハーモニーの味わいが広がります。
ドノバンさんの淹れてくれるお茶も高そうな感じがしますが、これは別格という味わいですね。
ドライフルーツは、良く見るとリーブルを加工したもののようです。
生で食べるとブドウとキウイフルーツを合わせたような味わいですが、乾燥させたものはネットリとした歯触りで、甘みがギュっと濃縮されています。
強い甘みを感じますが、果実の甘みなので嫌味が無く、お茶と一緒に口に含むと至福の味わいとなりました。
『ケント様、お出ましのようですぞ……』
『了解……』
静かにドアが引き開けられると同時に立ち上がり、この店の主を出迎えました。
デルリッツは、四十代の後半ぐらいでしょうか、少し後退を始めた藍色の髪を綺麗に油で撫で付け、口髭を蓄えた小太りな男でした。
どことなくナザリオと似ているように感じるのは、やはり親子だからでしょう。
「これはこれは、初めましてケント君……いや、ケントさんとお呼びすべきかな……私がオーランド商店の店主、デルリッツです」
「どうも、初めまして、ケントです」
「ささ、立ち話も何です、どうぞお掛け下さい」
「はい、ありがとうございます」
デルリッツさんは満面の笑みを浮かべていますが、目の奥に鋭い光が宿っているような感じです。
ナザリオは、いかにも金持ちのボンボンという感じでしたが、その親はやり手の商売人という空気を纏っています。
メイドさんが新しいお茶を淹れ終わるのを待って、話を切り出してきました。
「さて、率直にお話させていだくが、わざわざご足労いただいたのは他でもない、我々オーランド商店との関係を改善していただくためです」
デルリッツさんは一度言葉を切って、反応を確かめるように視線を送って来ましたが、返答に困っていると勝手に続きを話し始めました。
「失礼とは思いましたが、少しケントさんを調べさせていただきました」
デルリッツさんは、僕が異世界から召喚されて来た事も、光属性、闇属性の二つの属性が使える事、眷属の種類と数、同級生の救出に奔走していた事なども把握していました。
「ナザリオが、ちょっかいを出していた事も存じていますし、フレイムハウンドの件も報告を受けております。色々とご迷惑をお掛けして申し訳ない」
デルリッツさんは、姿勢を正すとキッチリと頭を下げてみせました。
「本来であれば、騒動の直後にこうした場を設けるべきでしょうが、お忙しく活動なされていたようなので、お声を掛けるのを控えさせていただいておりました」
と言うことは、救出作戦が完了した事も分かっているぞ……という事なんでしょうかね。
『結局、この人は何が言いたいんだろう?』
『恐らくですが、一方的に謝罪して関係を修復するのではなく、自分達も一筋縄ではいかない存在だと分からせたいのでしょうな』
『なるほど……』
わざわざそんな事をしなくても、僕みたいな子供から見れば、殆どの大人は一目置く存在ですよね。
まして、これほど大きな店の主人ともなれば、敬意を払い、警戒すべき存在であるのは言うまでもありません。
「あの、関係の改善という事ですけど、具体的には何がどうなるのでしょうか?」
「その話の前に、これまで私どもがケント様にご迷惑をお掛けした件は、ナザリオの独断や、ナザリオに取り入ろうとしたフレイムハウンドの独断であったと御理解いただきたい」
「それはつまり、デルリッツさんは、知ってはいたけど、関与はしていないということですか?」
「その通りです。私の息子と、私が雇い入れた冒険者のしでかした事ですから、全く責任が無いとは言いませんが、私が指示を出した結果ではないと御理解いただきたい」
確かにナザリオが連れていた冒険者は、デルリッツさんの指示を受けている感じはしませんでしたし、フレイムハウンドの一件も僕の方からの挑発の手紙が原因であり、これもデルリッツさんの指示ではないですね。
「でも……でしたら、わざわざ僕を呼び出して謝罪する必要は無いのでは……?」
「ふふふ、お友達が起こした事件のために、靴屋に跪いて謝罪していた貴方がそれを仰いますか」
「あっ……」
「先程も言った通り、私に直接的な責任はありませんが、監督者としての責任は免れません。そうでしょう?」
「確かに……」
確かにデルリッツさんの言う通りなんですが、今ひとつシックリ来ないんですよね。
「あの……一つ聞いても良いですか?」
「何なりと……」
「デルリッツさんとして……いや、オーランド商店としてかな、ナザリオ君とベアトリーチェさんが将来的に結婚するのが望ましいとお考えなんでしょうか?」
「はははは……いや失礼、そうですな全ての事の始まりですし、気になるのは当然ですな。ですが、率直にお答えするならば、どうでも良い事です」
「えっ、どうでも良いんですか?」
本当におかしそうに笑うデルリッツさんに、少々拍子抜けする思いです。
「色々とお聞きかもしれませんが、私どもも商売をして行く上では様々な手段を用います。ですが、息子の嫁に頼らなければならないほど落ちぶれてはいませんよ」
ニヤリと笑みを浮かべた顔は、したたかな商売人のものでした。
「確かに、領主の一族と血縁関係を持てば得をするかもしれません。ですが、ケントさん、単独でサラマンダーを討伐してのける貴方と敵対してまで手に入れる必要があるほどのメリットではありませんよ」
「それでは、その……僕とベアトリーチェさんが、その……」
「ベアトリーチェさんが貴方を選ぶならば、仕方ありませんな。私も親として子供の思いが遂げられれば良いとは思いますが、親の手を借りなければ好きな女の子をものに出来ないようでは……この店を継がせる事も考え直さなきゃいけませんな」
どうやら僕が思っていたほどには、ナザリオとベアトリーチェの結婚を重要視していないようです。
「それにケントさん、貴方もお気づきでしょうが、クラウス・ヴォルザードという男は実にしたたかです。例え血縁関係を築けたとしても、街にとってデメリットだと判断すれば斬り捨てるだけの判断力を持っています。そして、逆に言うならば、街にとってメリットになると思えば、血縁云々などには関係なく手を結んで来る男です」
普段は軽そうなチョイ悪オヤジにしか見えないクラウスさんですが、城壁の増築や極大発生への備えなどを見ると、キレ者である事を意図的に隠しているようにも見えるんですよね。
確かに、あのクラウスさんを相手に、血縁関係だけで甘い汁を吸うというのは難しそうですね。
「なるほど……分かりました。それで具体的に僕は何をすれば良いのでしょうか?」
「何も……何もしていただかなくて結構です」
「えっ、何もしなくて良いのですか……?」
わざわざギルドを通して面談の申し込みがあったのですから、何かしらの要求があるものだと思っていたので、ちょっと意外でした。
「私どもとしましては、ケントさんと良好な関係を築いていきたいと思っておりますが、これまでの経緯を考えれば急には無理な話でしょう。なので、一旦フラットに……好きも嫌いも無い状態に戻していただきたい。その上で、オーランド商店という存在を改めて、ケントさん自身の目で見て判断して頂きたい。それが私からのお願いです」
柔和な笑みを浮かべて話すデルリッツさんからは、商売人としての自信と風格が感じられます。
なるほど、これは一筋縄ではいかない人物ですね。
「分かりました。僕からも、フレイムハウンドに少々行き過ぎた対応をして、お騒がせした事を謝罪いたします」
先程のデルリッツさんを真似て、姿勢を正して頭を下げました。
「ふむ……元々の資質なのか、環境に鍛え上げられたのか、その両方なのか……いずれにしても貴方はこれから一角の人物になるでしょうな。出来れば商売仇になるのだけは止めていただきたいものです」
「い、いえ、僕なんかまだ全然ただの子供ですし、商売の事は全く分かりませんので……」
「はははは……ただの子供は、『魔物使い』や『魔王』などという二つ名で呼ばれたりはしませんよ。過度の謙遜は、人によっては嫌味に映るものです、気をつけられた方がよろしいですよ」
「はぁ……そう、なのかもしれませんが、急に手に入れた力なんで、どうも実感が伴わないんですよね」
「これまでの貴方を知っている人は多くはないでしょう。殆どの人は、今の貴方だけを見て貴方という人間を判断します。それを頭に入れておかれた方がよろしいでしょうな」
「そうですね……ご忠告ありがとうございます」
この後、逃亡したゴブリンの影響など、当たり障りの無い話をしましたが、それが最善と思えば指名依頼を自ら出す可能性もあると言ってのけるほど、デルリッツさんは徹底した商売人という印象を強くしました。
『なかなか手強い人物という感じがしますが、判断基準が明確なだけに反応は読みやすいかもしれませんな』
『そうだね、でも、目先の小さな利益だけじゃ動いてくれそうもないから、やっぱり難しい相手だとも思うよ』
『そうですな、ですが現時点での敵対は無くなっただけ良かったと判断すべきですな』
オーランド商店からの帰り道、ラインハルトの意見も聞いてみましたが、ほぼ同意見でした。
まぁ、ナザリオに関しては放任主義という感じなので、また何かチョッカイ出して来た時には遠慮なく締め上げてやりましょう。
下宿に戻ると、そろそろ夕方の営業が始まる時間でした。
夕食までの時間は、交渉のための資料作りをして過ごしましょう。
「ただいま戻りました」
「あぁ、ケント、おかえり」
「ケント、手紙が来てる……」
「へっ、僕に?」
メイサちゃんが持って来てくれたのは高級そうな封筒で、蝋で刻印が押されて封をされています。
この紋章は、確か城壁に刻まれていたものだから……
「クラウス様からの招待状らしいよ……」
「ねぇケント、何て書いてあるのか読んでみて」
「えっ、うん、そうだね……」
招待状には、ゴブリンの極大発生での働きに感謝し、夕食に招待したいと書かれていました。
「えっと、良く働いたから、明日、夕食を御馳走してくれるみたいです」
「えぇぇ……いいなぁ、ケント……あたしも行きたい」
「えっ、どうなんだろう……一緒に行っても良いのかなぁ……」
「メイサ、あんたは働いてないだろう。行きたかったら、あんたも招待されるような働きが出来るようになりな」
「うーっ……分かった、我慢する……」
たぶん、メイサちゃん一人ぐらいだったら大丈夫だとは思うけど、ここはアマンダさんの意見に従っておきましょうか。
代わりに、何かお菓子でも買って来てあげましょう。
「あのアマンダさん、こういう時って何を着て行けば良いんですかね?」
「あぁ、そう言えばケントは前の下宿人のお古しか持っていないんだね。うーん……明日の昼間にでも買いに行っておいで、お金はあるんだろう?」
「ですよねぇ……うーん……」
「どうしたい、浮かない顔して」
「僕、服装のセンスとか壊滅的に駄目なもんで……」
「あははは、そんなもんは服屋に全部任せりゃ良いのさ」
「あっ、そうか、そうですよね」
と言う訳で、明日は服を買いに行って、夕方にはクラウスさんのお屋敷に行く事になったんだけど、うーん……何事も無ければ良いのですが……。
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