第30話 新旧、凸凹、ガセメガネ

 オークが獲物を包囲するような狩りをすると知って少し驚いたんだけど、良く考えたらゴブリンに食われた時には、前後挟み撃ちにされて捕まったんだった。

 ゴブリンが挟み撃ちするぐらいだから、オークが包囲してきたって不思議じゃないよね。


 オークの群れに取り囲まれた5人は、血路を切り開く覚悟を決めたようです。

 森の外へと続く道に立ち塞がるオークに向かって、小林さんと八木の2人が魔術を打ち込む準備を始めました。


「やるわよ、ガセメガネ!」

「いつでもいいぞ!」

「マナよ、マナよ、世を司りしマナよ、集え、集え、我が手に集いて風となれ、踊れ、踊れ、風よ舞い踊り、風刃となれ!」

「マナよ、マナよ、世を司りしマナよ、集え、集え、我が手に集いて水となれ、踊れ、踊れ、水よ舞い踊り、水槍となれ!」

「せーの……うりゃぁぁぁぁぁ!」


 小林さんが風属性、八木が水属性の攻撃魔術を発動しました。

 槍と呼ぶには頼りない八木の攻撃魔術は、オークに棍棒であっさりと弾き飛ばされてしまいましが、小林さんの風属性魔術は見事に命中。


「ブフゥ……?」


 オークの肩口から、鮮血が飛び散りました。


「やったか……?」

「ちょっと、変なフラグ立てないでよ!」


 カマイタチのようにスパっと切れた後でジワジワと痛みが湧いて来たのか、血が溢れて来るとオークは憤怒の表情を浮かべました。


「ブモォォォォォ!」

「ブモオォォォ! ブモォォォォォ!」


 魔術を食らったオークが咆えると、他のオークも声を上げて一気に包囲の輪を狭めてきます。

 その迫力に圧倒され、5人は立ち竦んでいます。


「駄目だ、全然効いてねぇぞ」

「おい、どうする、どうすんだよ!」

「やばい、やばい、やばい、やばい!」

「いやぁぁぁ……助けてぇ、誰か助けてぇぇぇ!」


 パニック状態の桜井さんが泣き叫びました。

 きっとゴブリンに食われていた時の僕も、こんな感じだったんでしょうね。


 成す術無く立ち竦む5人を守るように、3体の凶悪スケルトンがヌルリと影から現れました。

 いいね、ヒーローっぽいぞ!


「うおっ……なんだ、こいつら……」

「ふざけんな、新手の魔物なんて……」


 驚く5人を余所に、ラインハルト達がオークの群れを迎え撃ちます。

 猛烈な勢いで踏み込んだラインハルトが愛剣グラムを振るえば、あっという間に5頭のオークの頭が吹き飛びました。

 仁王立ちのまま一歩も動かぬバステンの愛槍ゲイボルグが閃くと、更に5頭のオークが眉間を貫かれて崩れ落ちました。

 漆黒のフレッドの身体が揺らめくように消失したかと思うと、残り4頭のオークの首が転がり落ち、首を失ったまま5、6歩走ってから倒れ込みました。


「何これ……あたし達、助かったの……?」


 小林さんが疑問を口にしても、他の4人は答える事も忘れて、周囲を見回しています。

 ならば、答えてあげましょうかね、この僕が。


「みんな、お待たせ、助けに来たよ!」


 ラインハルトの影から外に出て声を掛けると、5人が一斉に振り向きました。

 うわっ、ちょっと怖っ、でも何か、ちょっと良い気分っすね。


「お前、国分……?」

「色々と聞きたい事はあると思うけど、今はここから離れる事を優先してね。 まずは隷属の腕輪を外すから用意してある服に着替えて」

「お前、死んだんじゃなかったのかよ?」

「質問は後、早く移動しないと、血の臭いで魔物が集まって来るよ」

「うぇ、マジか……」


 まぁ、魔物が集まって来た所で、ラインハルト達が返り討ちにするけどね。

 急がせるには、味わったばかりの魔物の恐怖を利用するのが一番だよね。


 隷属の腕輪を外すと、みんなガッツポーズして喜んでいます。

 余程、腕輪によって虐げられていたんだろうね。


「お前、何で腕輪を外せるんだよ?」

「闇属性の魔術が使えるからだよ。さぁ、急いで着替えて。着替え終わったら移動するよ。サイズ重視、色とか柄とかに拘らないで早くしてね」


 男子はその場で、女子はフレッドとバステンが天幕用の布を支えて作った、簡易的な更衣室で着替えてもらいました。


「この三人は僕が闇属性の魔術で召喚して強化したスケルトンで、普段は僕の為に働いてくれているんだ。これから森の向こう側、城塞都市ヴォルザードまでみんなの護衛をするからね」


 着替えを終えた5人に、ラインハルト、バステン、フレッドを紹介しました。

 味方だと分かり、昔活躍していた騎士だと知ると、5人の表情が一変しました。


「すげぇよな……あのオークを瞬殺だぜ」

「槍捌きが全く見えなかったぜ」

「槍どころか、フレッドさん? 何時移動したのかも見えなかったわよ」


 新旧コンビと小林さんは3人に興味津々と言った様子ですが、まずは移動を始めましょう。


「話は移動しながらするよ、桜井さん、大丈夫?」

「えっ、う、うん、大丈夫、大丈夫」


 魔物の危機が去って真っ青だった顔色も戻り、いつもの調子が戻りつつあるようです。

 僕よりも小柄なので、サイズの合う着替えが無くてダボダボなのは御愛嬌でしょう。


「腕輪で強制されなくても歩けよな」

「うっさいガセメガネ、あんただって殆ど役に立ってないじゃないのよ」

「なんだとミニマッチョ……」

「はいはい、移動するよ、下らないことで揉めてると置いていくからね」

「えっ、待って、それは駄目……」

「国分、お前冷てぇじゃねぇか……」

「フレッド、皆の服と腕輪を使って、偽装工作お願いね。バステンはオークの死体を処分しちゃって」


 フレッドとバステンに事後処理を頼んで、ラインハルトの護衛で移動を始めました。


「それじゃあ、これからの事を説明するよ。これから行く森を抜けた先は、リーゼンブルグ王国とは違う、ランズヘルト共和国の城塞都市ヴォルザードという街で、みんなを受け入れてもらえるように話をしてあるから安心して」

「とか言って、また奴隷にされんじゃないだろうな?」

「八木の心配は当然だろうけど、領主さんと話を付けてあるし、ラインハルト達が、街を守る貴重な戦力になっているから、みんなが奴隷扱いを受けることは無いよ。そもそもランズヘルト共和国では奴隷制度は廃止されてるからね」


 説明を聞いた5人は、ほっと胸を撫で下ろしています。

 やっぱり駐屯地での扱いが堪えているんだろうね。


「ヴォルザードに着いたら、ギルドで身分証を作ってもらうよ」

「おぉ、それって俺ら冒険者として活躍できるのか?」

「僕も最初、新田と同じように思ったんだけど、ヴォルザードのギルドは仕事全般を扱う所で、言うなればハローワークみたいな感じなんだ」

「それって、普通のバイトみたいなのもあるってこと?」

「うん、そうだよ。小林さんの考えているような見習い仕事から、魔物の討伐まで、何でもありって感じ」

「俺らも魔物退治とかの仕事を受けられるのか?」

「残念だけと、たぶん無理。どんなに魔力が強くてもEランク、普通はFランクからのスタートだから、古田が思うような仕事が受けられるようになるには、ランクを上げないと駄目だね」

「うぉぉぉ……何か、やっと異世界っぽくなってきたじゃんか!」

「ギルドに綺麗なお姉さんとか居ないのか?」

「こっちの世界特有の美味しいものとかないの?」

「やべぇ、超~楽しみなんですけど」


 八木が拳を突き上げて喜ぶ姿を見て、みんな口々に同意を示していました。

 駐屯地のあの扱いから脱出出来れば、テンション上がるのも無理ないよね。

 でも、トラブルになる前に釘は刺しておかないと駄目だね。


「みんな喜ぶのはOKなんだけど、ちょっとだけ話を聞いて。ヴォルザードの領主さんには受け入れてもらえるように話はしてあるけど、この後まだ200人ぐらいの同級生を救い出して、同じように受け入れてもらわないといけないよね。もし、みんながヴォルザードで大きなトラブルを起こすと、受け入れの話が駄目になるかもしれない。そうしたら、僕ら行く場所が無くなっちゃうからね」

「てかよぉ、こっちの連中が勝手に呼び出したんだから、良い待遇で受け入れるのが当たり前なんじゃねぇの?」


 やっぱり釘を刺しておいて良かった。脳筋は僕の話なんか聞いてやしないと思ったんだ。


「古田のアホ! 国分の話聞いてなかったでしょ?」

「なんだよ小林、俺の何が間違ってるって言うんだよ」

「これから行く街は、こっちの国とは別の国だって言ってたでしょ」

「あっ、そうか……」


 凸凹シスターズとガセメガネは理解してるみたいだから、新旧コンビに重点的に釘を刺しておきましょう。


「今回は、みんなを死んだように偽装して連れ出したけど、全員を助け出した後は、日本に帰るための交渉をしないと駄目だよね。交渉が纏まるまではヴォルザードに住ませてもらわないと、下手したら魔の森で息絶える事になるんだからね」

「うっ、それはマジ勘弁……」

「余計な事すんじゃねぇぞ、達也」

「分かってるよ、大人しくしてれば良いんだろう? ちぇ、折角の異世界なのに面白くねぇな……」


 なるほど、脳筋にはストレス発散の場が必要ですよね。


「あぁ、魔物の討伐とかやりたいなら、ギルドで戦闘技術の講習をやってくれるから受けてみれば?」

「戦闘技術の講習? マジか……って、木剣使って殴り合うんじゃねぇだろうな?」

「そうだけど、ラストックみたいな感じじゃなくて、ちゃんとした試合形式だよ」

「そうなのか? そんじゃあ受けてみるかなぁ……」

「火の曜日から星の曜日までの講習を全部クリアすれば、1人でダンジョンに潜る許可が貰えるよ」


 ぽろっと洩らした一言に、みんなが食いついて来ましたよ。


「マジで? ダンジョンあるの?」

「うぉぉぉ……ダンジョン行きてぇ……」

「ダンジョンって、お宝が眠ってたりするの?」

「国分君は潜ったことあるの?」

「どんな魔物が出るんだ?」

「ストップ、ストップ、ちょっと待って、一度に聞かれても答えられないよ」


 とりあえず一度全員を黙らせて、改めて釘を刺しておきます。


「みんながトラブルを起こせば、ダンジョン探検どころじゃなくなるからね。それにダンジョンは魔の森同様に危険で、講習をクリアしないと1人じゃ入れないよ。僕の下宿に前に住んでいた人は、ダンジョンに潜ったまま帰って来なかったそうだよ」


 さすがに魔の森同様に危険と聞けば、浮ついた気分も落ち着いたようですね。


「でもよぉ……さっきの場所から結構歩いてるけど、魔物なんか出て来ないじゃん」

「そう言えばそうだな。ガセメガネの癖に良い所に気が付くじゃん」

「うっせぇぞ新田。お前ら脳筋と違って、俺は観察を怠らないんだよ」


 オークに襲われて以降、魔物が現れていない事で5人の気が緩んだようですね。


「言っておくけど、ラインハルトが気配を隠していないから、弱い魔物は逃げ出して襲って来ないだけだからね。普通なら、この辺はゴブリンとかコボルトとかウロウロしてる場所なんだよ」

「マジで……?」

「てか八木は、森に入って早々にオークに襲われたのを、もう忘れちゃったの?」

「いや、忘れた訳じゃねぇけどさ……」

「それじゃあ、ここから5人だけでヴォルザードまで歩いてみる? 走れば2日で着くかもしれないよ」

「走って2日って、そんなに遠いのかよ、てか、何処で寝るんだよ、飯は?」


 あぁ、まったく煩いガセメガネっすねぇ……ちょっと絞めちゃいますか。


「ちゃんと天幕も食料も用意してあるよ、でも、何なら1人で進んでも良いんだよ」

「無理無理、てかさ、国分だって1人じゃ踏破出来ないんだろ?」

「えっ、僕は影に潜って移動出来るから、ヴォルザードまでは今すぐだって行って来られるよ」

「何それ、ズリぃじゃんかよ。てか、それで俺らも移動すれば良いじゃんか、そうだよ俺頭良い!」

「影の世界には、闇属性の適性が無いと入れないんだよ。何なら入口を開いてみるから試してみる?」


 闇の盾を出すようにして、影の世界へのゲートを開いてみましたが、八木だけでなく他の4人も入る事は出来ませんでした。


「ちぇ、使えねぇな闇属性……」

「うん、やっぱり八木は捨てて行こう……」

「いやいや、待って、待って、そういう意味じゃなくて……」

「そうだ、ラストックの駐屯地からパクってきた、隷属の腕輪があるから、あれを嵌めて送り返そうか?」

「嘘、嘘、冗談だって、冗談……」

「天幕も、食料も闇属性魔術を使わないと取り出せないから、八木の分は無しにしようか……」

「すんません、ホント、すんませんでした、調子こいてました」

「うんうん、分かれば良いんだよ、分かればね……」


 恥も外聞も無く土下座したんで、許してあげましょうかね。

 土下座するガセメガネの前で、腕組みして頷いていたら、小林さんから指摘されちゃいました。


「何か……国分って感じ変わったよね」

「えっ? そうかな?」

「うん、何て言うか、前はもっとキョドってたし、ひ弱な感じだったけど、今はそんな感じしないよね」

「あー……農園で肉体労働したり、ラインハルト達と特訓してるからかな……あとは、大人と接する機会が増えたからかも……」

「何だか、国分君も苦労してるみたいだね」


 おぅ桜井さん、君はなかなか良く分かってるじゃないか、何なら君たちもドノバンさんに紹介してあげるよ。

 てか、脳筋の新旧コンビは、余計なトラブル起こさないように、思いっきり扱いてもらいましょう。


 偽装工作を終えたフレッドとバステンも合流して、警護の体制は万全になりましたが、隷属の腕輪から開放されて、全員が完全にピクニック気分みたいです。

 今回は5人だけだから目が行き届くけど、これが50人、100人になったら、やっぱり警護が大変そうだよね。


 5人のオークとの戦い振りからして、現状ではゴブリン程度なら戦えるけど、それ以上の魔物となると戦力になりそうもないよね。


「ねぇ、この5人ってさ、他のみんなと較べて戦力的にはどうなの?」

「俺と達也は、騎士タイプの中では強い方だぜ」

「あたしとあっちゃんも、術士の中では上位のレベルだと思う……鷹山は別次元だけどね」

「そうか……やっぱりか……」

「何だよ国分、何がやっぱりなんだよ」

「うん、実はね……」


 八木の質問に答えて、これからの救出計画について話をしました。

 ヴォルザードに逃げ込むには、今日のように魔の森を踏破しないといけません。


 リーゼンブルグからの追っ手が掛かれば、フレッドやバステンはその対応に当たるので、警護が手薄になってしまいます。

 なので残りの同級生達には、ある程度の実力をリーゼンブルグで付けてもらうつもりです。


「国分の考えは分かったけどさ、あのオークに勝てるようになると思うか?」


 八木の言葉に、他の4人は即座に首を横に振りました。

 桜井さんなんて、また顔が蒼褪めちゃってますし、あの戦い振りでは、ちょっと無理って考えちゃうよね。


『ケント様、何も戦いは1対1でやるとは限りませんぞ』

『そうですケント様、今回はオークの方が多かったですが、逆の場合ならどうでしょう?』

『大事なのは……連携と戦術……』

「あっ、そうか! うん、そうだよね」

「何だよ国分、何がそうなんだよ」

「えっ、あぁ、ごめん、今ラインハルト達から念話でアドバイスをもらってたんだ」

「念話? 嘘っ、そんな事出来るの? くっそぉ、いいな闇属性……」


 もう当たり前に使うようになってるけど、僕が八木の立場だったら、やっぱり羨ましいと思うだろうね。


「でね、ラインハルト達が言うには、1対1じゃなくて、多対1で考えたらどうだって」

「そうか、俺と和樹がゴブリンを倒した時みたいにか」

「そうそう、2人だけじゃなくて、5人とか10人で掛かったらどうだろう?」

「それなら倒せるんじゃない? 先にあたし達術士が魔術で攻撃して……」

「俺ら騎士タイプが止めを刺す感じか? いけるんじゃねぇか」


 今回は5人しか居ないので警護は楽な分、戦力としては小さい。

 これが50人、100人になれば、単純計算で戦力は10倍、20倍になります。


 今日と同じ規模のオークの群れに襲われても、一部をラインハルト達が削れば、数に物を言わせて倒せるかもしれませんし、自分達を守る程度なら可能でしょう。


「なるほど、ゲームのパーティープレイみたいなもんか。でも、そんな訓練やってないよな?」

「そうだな……騎士タイプの訓練は、ひたすら木剣を使って相手を倒すだけだったし」

「術士の方は、ひたすら的に向かって魔術を撃ってただけね」


 古田と小林さんの話は、偵察した時の状況のまんまですね。


「この先、ちゃんと連携の訓練とかやるのかな?」

「どうなんだ? もしかしたらやらないで使い捨てにされんのかもよ」

「と言うか、今の私たちが、その使い捨ての状況じゃないの?」


 八木と桜井さんの言葉に他の3人も頷いていますが、それだと肝心の魔の森開拓が進められないような気がします。

 みんなに、戦う相手とか目的を聞かされているのか聞いてみたけど、魔物と戦うとしか知らされていないようです。


 なので、カルラの目的がリーゼンブルグ西部の砂漠化対策として、魔の森を開拓する事にあるらしいと話してみました。


「お前、そんな事まで探ってんの? 何かすげぇな……」

「俺たちは、そんな事考えてる余裕無かったからなぁ……」

「何言ってんのよ、脳筋2人は余裕があっても考えたりしないでしょ」

「るせぇな、凸凹だって考えてなかったんだろう」

「まぁまぁ……あの環境じゃ僕だって理由を探ろうなんて余裕は無いと思うしさ……で、どう思う?」


 砂漠化によって農作物の収穫量が落ちて、西部の街では栄養不良の子供もいると話すと、5人とも複雑な表情を浮かべました。


「目的は理解出来るけどよぉ……やり方が気に食わねぇよ」

「そうよ。もっとちゃんとした待遇してくれるなら考えるけど、あんな扱いされたんじゃ協力したいって思えないわよ」

「女子のみんな、毎晩泣いてるわよ」

「だよなぁ……やる気があるのは、鷹山とか一部の連中だけだろ?」

「シーリアちゃんだっけか? マジ羨ましいだろ、あれ」


 八木の一言に、新旧コンビも激しく同意を示し、凸凹コンビはちょっと顔を顰めています。


「そのシーリアなんだけど……」


 カミラの母違いの妹で、身分の低い母親を人質にされているらしく、鷹山の相手も強制されていると話すと、今度は全員が顔を顰めてカミラを罵り始めました。


「マジ最悪だな、あのクソ王女」

「すんごいムカつく、国分、あいつ殺しちゃいなよ」

「そうだな、生かしておけねぇよな」

「ホント、あの女だけは許しちゃ駄目だと思う……」

「でも、殺す前に辱めないと気が済まないだろう」

「うわぁ、出たよエロメガネ、本性現しやがった……」

「ちょ、待てよ、古田だってそう思うだろ?」

「い、いや……俺は……思わないよ」

「あんたら、ホントに下衆だよね……」


 話が脱線し始めたので、ちょっと止めましょうかね。


「はいはい、みんなちょっと待ってね、肝心な事を忘れていない?」

「肝心な事って何だよ」

「八木、日本に帰りたくないの?」

「うっ……そうだった。そうか、あのクソ女が帰還方法を握ってやがるんだった」


 八木の言葉で、他の4人も思い出したようです。


「カミラはムカつく、それは間違い無いんだけど、日本に帰るための魔法を握られてるんだよ。勿論、フレッド達と協力して探るつもりだけど、同時にカミラとも交渉しないと駄目だと思うんだ」

「でもさぁ、腹違いとは言え、自分の妹にそんな事させる女が交渉に応じると思う?」

「うん、小林さんの言う通り。今の僕らじゃ絶対に交渉に応じてもらえないと思う」

「いっそ、あの強いスケルトンに、駐屯地の兵士を皆殺しにしてもらっちゃえば良いじゃん」


 まったく、このガセメガネは、考えが単純すぎですね。

 その程度で解決するなら、とっくにやってまよ。


「八木……それで、日本に帰すの拒否られたらどうすんの? どうやって日本に帰るんだよ」

「それは、あの王女を脅してだな……」

「脅しに屈するように見える? あの性悪王女が……」

「それは……見えないな」


 ガセメガネは、降り注ぐ冷たい視線の中で小さくなっていなさい。


「カミラが一目置くような相手に、僕らはならないと駄目だと思うんだ。そのためにも、ヴォルザードの後ろ盾は絶対に必要だし、みんなの成長も不可欠だと思う」

「ねぇ、リーゼンブルグと戦争するの?」


 小林さんの質問を聞いて、みんなの表情が固くなりました。


「いや、人間同士の殺し合いとかしたくないから、それは最後の選択肢。それよりも、僕らをこっちの世界に置いておくよりも、日本に戻してしまった方が良い存在だって思わせられれば、帰れる可能性が高くなると思うんだよね」

「うーん……良く分かんねぇけど、強くなれば良いのか?」

「そうだね、ヴォルザードの人達と仲良くなる事も忘れないでよ」

「うっし、仲良くなって強くなる、つまりは友情パワーだな」

「まぁ、古田と新田は、そんな感じでいいや……」


 多少の不安を抱えつつも、一行は早いペースで魔の森の街道を進んで行きます。

 さすがに新旧コンビも、凸凹シスターズも体育会系だけの事はあります。


 あぁ……ガセメガネは弱音を吐いてましたけど、置いていくよ……の一言で封殺して歩かせました。

 このペースなら、明日の夜にはヴォルザードに着けるかもしれませんね。

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