第4話 今更だけど魔術の話

 ラインハルト、バステン、フレッドの強化も終ったので、森を抜けて町を目指します。

 森を抜けた先にあるのは、ヴォルザードという城砦都市だそうです。


 城砦都市とか格好良いよね。

 いかにも異世界って感じするよね。


『ところでケント様は、何の用があってヴォルザードに向っておられたのですかな? たった一人で森に入るなんて自殺行為も良いところですぞ』

「えっ、そうなの? あぁ……やっぱり一人で森を抜けるなんて無理難題だったんだ。畜生……あの性悪王女め」


 今更ながらに異世界から召喚されて来た事や、魔力判定がハズレだったので、ラストチャンスとして森を抜ける単独行を言い渡された事をラインハルトに話しました。


「でもこれってさぁ、邪魔者を処分したって事だよね?」

『そうとしか考えられませんな。この森は、護衛を付けた集団でなければ踏破するのは難しい危険な森ですぞ』


 ラインハルトの話によれば、この森は樹木に擬態する魔物、トレントの大発生によって広がった森だそうです。

 広がった理由が理由だけに魔物の生息数も多く、森を切り開いて元々の道を取り戻すには、相当な困難があったようです。

 それでも道を取り戻したのは、人間の意地みたいなものなのだろうね。


「それじゃあ、この危険な森を一人で踏破できなれば、僕の価値も見直されるのかな?」

『無論ですな。この森を単独で踏破するのは、一流の冒険者や達人クラスの武芸者でもなければ無理です。それに闇属性と光属性の両方の魔術を使えると聞けば、下にも置かぬ待遇を受けるのは間違い無しですぞ』

「おぉ……いよいよ僕の時代がやってきてしまうんだね」


 異世界でチートな能力を手に入れるという中二ならば誰しもが夢見る状況に、興奮を抑え切れませんね。

 召喚主である僕の気持ちが伝わるのか、三人も興奮気味です。


 でも、ちょっと待って。こういう感じで調子に乗ると、手痛い失敗をするというのがお約束だよね。

 ここは慌てて突っ走るのではなく、立ち止って考えましょう。


 そして、判断を下すためには情報が必要だよね。

 なのでラインハルト達から、この世界について教えてもらう事にしました。


『さすがはケント様。類い稀なる力を手に入れても、驕らぬとは素晴らしいですな』

「いやいや、力と言っても貰い物だし、使いこなせてもいないし、それに、召喚された後の扱いも良かったとは思えないからね」


 なんてたって服従か死を選べだもの、何の準備もしないで戻ったら、酷い状況が待ち構えてるのは間違いないでしょう。

 あぁ、委員長は大丈夫だろうか心配だよ、マイ・スイート・ハート。


 そう言えば全く以って今更だけど、こっちの言葉が分かるのは、やはり召喚の影響らしいです。

 と言うか、それしか説明のしようが無いもんね。


 試しにラインハルトに文字を書いてもらったけど、それも読めるし書こうと思えば書けるんだよね。

 マジで、この召喚の術式とか作った人って凄いよねぇ。


 ラインハルト達から話を聞くと、今いる場所はリーゼンブルグ王国という王制の国だそうです。

 そう言えば、あの性悪王女が、そんな家名を名乗っていたっけね。


 ちなみに、カミラという王女の名前をラインハルト達に聞いてみたけど、知らないそうです。

 ラインハルト達が亡くなってから、結構な年月が経っているようだし、その間、森からは出て居ないのだから、分からないのは当然だよね。


「ところでさ、僕らは兵士として召喚されたっていう話だったんだけど、兵士が必要って事は、どこかと戦争するのかな?」

『常識的に考えれば、そうなりますが、戦争のための兵力を集めるならば普通は戦場の近くにするものです。ですが、ここは王国の中では、むしろ中央付近で他国との国境からは離れております』

「そうか、わざわざ二百人近い人数を、戦場から遠い場所に呼び出す必要なんか無いものね」

『いかにも。そう考えるとその第三王女、もしや力による王位の簒奪を目論んでいるのかもしれませんな』

「あぁ……なるほど、クーデターって事か。言われてみれば、あの性悪王女、権力欲強そうだったものなぁ……って事は、僕らは王位を巡る権力闘争に巻き込まれたのかな?」

『その可能性が高いと思われますな』

「うーん……」


 これは、ますます身の振り方を良く考えないとマズいよね。

 性悪王女は、手柄を立てて、褒美を持って帰れ……なんて言ってたけど、クーデターに失敗すれば処刑コースまっしぐらでしょ。


 これは、ノコノコと戻らない方が良いように思えてきました。

 クーデターとなると、今現在の国の内情とかが分からないと話にならないよね。


 そこで、身の振り方を考えるのは、ヴォルザードまで行って、現状を調べてから考える事にしました。

 次に今の僕に必要な知識といえば、魔術に関する知識だよね。


 早速ラインハルト達に魔術に付いて聞いてみたんだけど、みんな基本的な知識は持っているんだけど、余り得意では無いらしいんだよね。


『すみませんな、ケント様、ワシらは皆、騎士タイプなもので、術に関する知識はあまり持ち合わせておらんのです』

「ん? それってどういう事?」


 ラインハルト曰く、魔術には六つの属性の他に、大きく分けて二つの分類が存在するのだそうだ。

 一つは、いわゆる魔術を使う感じの放出系の術士、そしてもう一つが、身体を強化する循環系の騎士で、ラインハルト達三人は、循環系が得意な騎士タイプだそうです。


『殆どの者は、どちらかに偏っているのが普通です、両方の魔術を使いこなせる者は稀で、どの者も国で重用されておりました』

「なるほど、だとすると、僕は術士タイプなんだろうね」

『おそらくはそうなりますが、ケント様ほどの卓抜した才能があれば、あるいは循環系の魔術も使いこなせるかもしれませんぞ』

「自分の身を守るためには、その方が良いよね?」

『そうですな、ですが、ケント様の場合は、我々が守りに付きますので、心配はいりませぬぞ』

「たしかに……」


 こんな凶悪な性能のスケルトンナイツが居るのだから、生半可な攻撃は僕にまで届かないだろうね。

 でも、一つ、凄く気になる事があるんだよねぇ。


「あのさ……街中でも、みんなと一緒にいても大丈夫なのかな?」

『そ、それは……』


 あぁ、やっぱり駄目そうだね。

 普通に考えて、いくら召喚したと言っても、他の人から見れば、スケルトンは魔物の類いだものね。

 白昼堂々と、街中を引き連れて歩く訳にはいかないよなぁ。


「うーん……困ったなぁ、森から出た後、僕一人じゃ何も出来そうもないのになぁ……」


 自慢じゃないけど日本にいる頃からポンコツだったのに、異世界じゃ常識知らずのただの子供だし、ラインハルト達抜きで世の中を渡っていける自信なんてゼロです。

 どうしたものかと困っていると、バステンが教えてくれました。


『闇属性の魔道士は、自分の影の中に使い魔を潜ませたり、影を使って遠方から召喚する事が出来ると、まだ生きていた頃に聞いた事があります、ケント様ほどの才能ならば、可能なのではありませんか』

「えっ、闇属性の魔術って、そんな事も出来るの? って言われても、どうやって魔術を使って良いのか、今いち分かってないんだよねぇ……」


 僕がそう言うと、三人は揃って顔の前で、いやいやいや……と言わんばかりに手を振り、ラインハルトが代表して言いました。


『ケント様、ワシらを無意識で召喚し、このような姿にまで強化しておいて、そんな事を言ったら、世界中の魔道士から罵声を浴びせられますぞ』

「うーん……そう言われてもねぇ……」


 三人から言わせれば、僕の魔術は常識外れも良いところらしい。

 普通は頭の中で発動をイメージしながら正しい呪文を詠唱して、初めて魔術が発動するそうです。


 僕のようにイメージするだけで魔術が使えるなど、出鱈目にも程があるのだとか。


『イメージするだけで魔術を使われていると仰るのでしたら、そのやり方で影を使った召喚が出来るか試されてみてはいかがでしょう?』

「おぅ、そうだよね、分からなければ試してみれば良いんだよね」


 バステンの提案を採用して、何が出来るか試してみる事にしました。

 で、試してみたんですけど、凄いっすよ、チートですよチート。


 影の中から皆を召喚する事も出来ましたし、皆を影を伝って移動させちゃう事も出来ちゃいました。

 そればかりか自分自身が影に沈んで、影を伝って移動まで出来ちゃいました。


 何かに襲われてヤバいと思っても、影の中に逃げ込んでしまえば無問題ですよ。

 ひゃっはー! ここまーで、おーいでぇ! ですよ。


 闇属性の魔道士は影という別空間に干渉できるようで、自分だけの空間を作って物を置いておけます。

 これならば街中に入った後、皆には影の中に居てもらえば大丈夫だね。


 元々、皆との会話は念話に近い形だったので、皆が影の中に居る状態でも問題無く出来るのも便利です。

 さすがレアな闇属性、そのチートっぷりは自分でも惚れ惚れしちゃいますよ。

 これは、モテ期到来、間違い無しでしょう。


 闇属性の魔術をいくつか使えるようになると、気になるのはもう一つの属性、光属性ですよね。


「闇属性の魔術は、何となくだけど感じが掴めてきたんだけど、光属性の魔術にはどんな魔術があるの?」

『光属性は、治癒と退魔の魔術になりますな』

「ほうほう、何となくイメージ通りって感じだけど、どんな魔物にも効果があるのかな?」

『ワシらは詳しくは無いのですが、強力な光属性魔術はどんな魔物にも有効だと聞きます。ただ通常はアンデット系の魔物、つまり我々スケルトンやゾンビなどの魔物に対して強い効力を発揮するそうですぞ』


 うん、何となくイメージしていた通りだね。

 ラインハルト達の仲間を送った時に、無意識で使ったのは光属性魔術だと思う。

 あと、ゴブリンに食われた身体を再生したのもそうだろうね。


「光属性の魔術が使えれば、死んだ人でも生き返らせたり出来るのかな?」

『それは無理だと聞いてますな。凄腕の治癒士ならば、瀕死の人の命を救う事が出来るそうですが、完全に死んだ人間の蘇生は無理ですな』

「そっか、そこから先は死霊術の領域って事だね」

『いかにも。ですが、その両方の属性の魔術を使えるケント様であれば、その境目はかなり曖昧になるかも知れませんな』

「なるほどねぇ……」


 その後、実際に自分の手を少し傷つけて、手の平で被いながら傷が治るのをイメージしたら、血を流していた傷が跡形も無く消えたのには驚きましたね。

 でも良く考えてみたら、腸を引きずり出されて食われていたのに傷一つ無くピンピンしているのだから、この程度の傷が消えたところで驚くまでもないんだよね。


『ケント様は……光属性も出鱈目……』

「そうなの?」


 フレッド曰く、切り傷が治る程度の治癒魔術は珍しくないそうですが、内臓を引き摺り出され、更には食われて欠損しているような状態から再生するような治癒魔術は初めて見たそうです。

 ラインハルトも、バステンも、揃ってカクカクと頷いています。


 光属性の魔術は、アンデット系を除けば攻撃には向いていないそうで、光属性の魔術士は後方で支援するケースが殆どのよう7です。

 光属性の魔術士自体がレアなのと、回復役が先にやられたら意味が無いからだそうです。


 でも、現代日本に暮らしていた僕とすれば、レーザーとかビームとかアニメにおける光線兵器は花形的存在なんだよね。

 そこで何とか実現出来ないかと、色々と試してみました。


 まず最初に光の発生から始めてみたら、光を浴びたラインハルト達がアガガガ……ってな感じでダメージを受けちゃって、慌てて影の中に退避してもらいました。

 護衛のために強化したのが無駄になっちゃうところだったよ、危ない危ない……。


 次に光を強めたら『目が、目がぁぁぁ……』ってなって、滅びの呪文を唱えちゃったかと思ったよ。

 やっぱり光線兵器は魔術じゃ無理なんでしょうかね。


 イメージ的には魔力を光に変換する、そこに魔力を注ぎ込んで強め、それを圧縮し、方向性を定めて開放するっ……て感じなんだけど、魔力を注ぎ込んだ時点で『目が、目がぁぁぁ……』になっちゃうんだよねぇ。


 それでも光線兵器を諦めきれず、ラインハルト達を放置したまま試行錯誤を続けていたら出来ちゃいました。

 要は手順を入れ替えれば良いので、大量の魔力を圧縮し、方向を決めて撃ち出す瞬間に光に変換するだけの話です。


 と言っても、ロボットアニメに出て来るような太い線のような大出力のレーザーなんて無理で、チカっと光って木に5ミリ程の穴が開くだけです。

 見た目的にショボいし、発動させるまで30秒ぐらい時間が掛かるけど、瞬時に撃てるようになったら凄い威力を発揮しそうだよね。


 だって見えたと思った時点で命中してるんだから、光属性の魔術もチート極まりないよねぇ。

 てか、基本、魔術ってチートだよねぇ。


 あれっ? でも、こっちの世界では当たり前なのかなぁ。

 どうでも良いけど、魔術を使うと、やたらとお腹が減るのは何でだろう。


『それは、空気中に存在しているマナを属性の魔力に変換するのに、魔術士の体内エネルギーを使っているからですな』

「なるほど、ラインハルト達が使っていた循環系の魔術も同じなのかな?」

『仰る通りですぞ。その変換効率が高いほど、強い魔術を使えるのです』

「なるほど、あの『魔眼の水晶』っは、属性とその効率を見てたんだ」


 光属性の魔術の練習は一旦切り上げて、またもや木の実でお腹を満たしました。

 美味しいけど、いい加減飽きてきちゃったよ。

 あぁ、白米と味噌汁が食べたい……。

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