ハズレ判定から始まったチート魔術士生活

篠浦 知螺

第1話 異世界召喚されたけどハズレ判定でした

 

「ざっけんじゃねぇよ! どうなってんだよ、説明しやがれ!」


 問題児の船山が喚き散らすのは日常茶飯事で、クラスのみんなも『またやってるなぁ……』程度にしか思いません。

 ただし、それは相手が学校の先生の場合であって、フルプレートの金属鎧を身に着けた騎士が相手だとしたら……ちょっと話は別だよね。


 僕の名前は、国分健人こくぶけんと、中二です。

 この中二って言うのは中二病って意味じゃなく、そのまま中学二年生って意味で、現在進行形で異世界に召喚されていまーす。

 ほらやっぱり中二病じゃないかって? まぁ、お年頃ですから、それなりに患ってはいますけどマジなんですよ……これが。


 ついさっきまで東京の中学校で3時間目の授業を受けていたんですけど、いきなり光に包まれたと思ったら、空中に魔方陣みたいなのが浮かんで、校舎の三階が丸ごとこちらに召喚されちゃったみたいなんです。


 みたいって言ったのは、居眠りしていて召喚の光とか魔方陣とか見逃しちゃったからです。

 いきなり真昼の東京から夜の荒れ地のど真ん中ですから、一瞬にして周囲が真っ暗になり、女子の皆さんが盛大に悲鳴を上げてたおかげで目を覚ましました。


 それにしても、異世界召喚の瞬間を見逃すなんて、マジで僕って馬鹿なんじゃないかと自分でも思いますね。

 更に言うと、校舎3階の床から天井まで、ごっそり召喚されちゃっています。

 これって、タチの悪い達磨落としですよ。


 残された東京の校舎って、いきなり4階部分が2階部分に降り注いで……大惨事になってるはずです。

 一学年全員が行方不明になるだけでも大事件なのに、校舎の3階だけが消失したんですから世界的な騒ぎになってますよね。


 CIAとかMI6とかインターポールとかも捜査に参加しちゃうんでしょうかね。

 もし帰れたら、新聞とかネットとか漁りまくりますよ。

 と言うか、マスコミの取材攻勢を受けちゃったりして超有名人になっちゃうでしょうし、アイドルと仲良くなっちゃったりもしますよね。


 なんて桃色な妄想をしていたら、何やら責任者っぽい人が出てきました。

 他の兵士さんとは一目で違いが分かる金ピカの鎧を身に着けた、金髪縦ロールの僕らより少し年上に見える美女です。


「静まれ! 私が貴様らを召喚した、リーゼンブルグ王国の第三王女、カミラ・リーゼンブルグだ」


 おぉ、王女様きた──っ! 鎧姿の王女様なんて、いかにも異世界っぽいじゃないですか。

 みんな一斉にスマホを取り出して、写真撮りまくりですよ。


 僕らを取り囲んでいる騎士の皆さん、強面を装ってますけど興味津々なのはバレバレで、めっちゃ物欲しそうに見てますね。

 あっ、船山の野郎、今度は王女様に絡みにいったよ、あの身の程知らずのデブめ。

 と言うか、何でこっちの世界の言葉が分かるんでしょうね。


「ようよう、王女さんよ、俺ら、勇者として召喚されたんだろ? だったら、もっと豪華なおもてなしがあっても良いんじゃねぇの? 何なら、あんたが夜のおもてなしをしてくれてもいいんだぜ」


 船山は身長180センチオーバー、体重も100キロオーバーの巨体で、噂によると相撲部屋からスカウトが来たらしい。

 授業に難癖つけられて、教育実習生の杉山彩子先生がベソかいちゃったくらい無駄に迫力はあるんだよなぁ……。


 対する王女様は、船山よりも頭一つ以上小さいけど全くビビった様子はないね。

 さすがは王女様、王族オーラ全開、威厳たっぷりですよ。


「何やら勘違いしているようだから教えておいてやろう、貴様らは勇者などではない、不足している戦力を補うためのただの兵士だ」


 あれ? てっきり勇者召喚きた――っ! って思ってたんだけど、ただの兵士ってどういう事なの。

 まわりのみんなもザワザワと戸惑ってる感じだよ。


「静まれ! 貴様らの選択肢は二つ、我々に服従して手柄を立て、褒美を受け取って帰るか、それとも逆らって死ぬか、好きな方を選べ!」


 えぇぇ……究極の選択きた――っ!


「ざっけんじゃねぇ! 何で、手前らの言いなりになんなきゃいけねぇんだよ!」


 船山の野郎、王女様に掴みかかろうとして、あっさり護衛の騎士に掴まえられたよ。


「ぐっ、手前……は、離せ……」


 護衛の騎士は船山の首を掴まえて、巨体を右手一本で吊り上げちゃったよ。


「何度も同じ話をさせるなよ、私は気の長い人間ではない、貴様らの選択肢は二つ、服従か? 死か? 好きな方を選べ!」


 船山は騎士によって、ポイって感じでゴミのように捨てられました。

 はい、僕は勿論服従します。


 と思ったら、委員長きた――っ!

 うちのクラスの委員長、浅川唯香さんは、黒髪ストレートが似合う絶滅危惧種の大和撫子なんですよ。


「質問させていただいても、宜しいでしょうか?」

「かまわん、許可する」

「ありがとうございます。手柄を立てれば、褒美を貰って帰れると仰いましたが、元の世界に帰る方法が有るのでしょうか?」

「当然だ。召喚魔法を使って、手に余るような怪物が出てきたらどうする? 送り返す方法が無ければ困るだろう。召喚術式は送還術式無くして成り立たない。これは召喚魔法の基本中の基本だ」


 間髪入れぬ王女様の自信満々の答え、これなら安心だよね。

 委員長も周りのみんなも、ほっとした表情を浮かべています。


「他に質問が無いなら、これから貴様らの魔力判定を行う」


 えっ、魔力判定って事は、もしかして僕らも魔法が使えたりするのかな。

 あれかな、チートな能力が判明しちゃうイベントかな。


「判定は『魔眼の水晶』を使って行う。一人ずつ手で触れれば、その者の魔力資質が分かるようになっている。判定を受けたら魔力の暴走を防ぐ腕輪を着けて、属性ごと魔力量ごとに分かれて馬車に乗れ。時間が無い、さっさと始めろ!」


 直径30センチほどの水晶球が三つ用意されていて、最初は先生達、次に生徒が判定を受けることになりました。


「緑、風属性、中、次っ! 青、水属性、強、次っ!」


 どうやら水晶球に手を触れると、その人の属性に応じた色の光を放つみたいで、光の強さが魔力の量を示しているみたいだ。

 観察していると、琥珀色の光の土属性、緑の光の風属性が多いみたいで、その次が水属性、火属性は少数派のようです。


 判定が終わるとブレスレットを左腕に嵌めてもらうんだけど、これが黒曜石を削り出したような感じのやつで、中二心をくすぐるんだよね。

 それにしても、判定を行っているお姉さん、キャリアウーマンって感じで、かなりの美形なんだけど、もの凄く事務的なんだよね。


 まぁ、これだけの人数を次から次だから仕方無いんでしょうね。

 おっ、次は委員長の番だ。委員長は、何となく癒し系の水属性って気がするな。


「次っ! うわっ、目がぁぁぁ……」


 委員長が水晶球に触れた途端、それまでとは比較にならないほどの白い光が溢れました。


「ほう、これほどの魔力量、しかも光属性か。個人を召喚する勇者召喚と違って、期待は出来ないと思っていたが、なかなかの拾い物があったようだな。貴様は……そうだな私の馬車に乗れ」


 おぉぉ……光属性なんて、委員長は僕の予想を超えて、リアル天使に昇華してしまうのかな。

 何か、騎士達が『聖女様……』とか囁きあっているのが聞こえてくるんですけど、あげないからね、委員長は僕らの委員長なんだからね。


 その後、バスケ部のイケメン野郎が火属性の強なんてレアを引き当てて、マジでリア充爆発しろ! とか思っているうちに、ようやく僕の順番になりましたよ。

 それでは仕方がないから見せてあげましょうかね、僕のチートっぷりを!


「ふざっけんなよ! 何で、手前は、言うこと聞かないんだよ!」


 思わず水晶球に叫んじゃったよ、だってさ、光らないんだもん。

『魔眼の水晶よ、俺の魔力で深遠の闇に染まれ!』なんて、思いっきり中二な台詞付きで判定に挑んだのに、光らないって何だよ……こいつ使えねぇな。


「あぁ……これは、あれだな、ハズレっぽいな……」


 さっきまで事務的だったお姉さんに、哀れみを含んだ視線で見られちゃってますけど、もしかして使えないのは僕だったりして……。


「ハズレって何ですか、ハズレって……」

「まぁいいから、今度こっちに触ってみろ」


 判定のお姉さんが取り出したのは、直径10センチほどの水晶球。

 あぁ、何となく分かりますよ、これ委員長あたりが触ると粉々になっちゃう奴でしょ。


 回りからめっちゃ注目浴びてるし、凄く嫌な予感がするから触りたくないですね。

 でも、王女様まで早くしろって顔で見てるから触りますけどね。


「今度こそ……って、あれ?」

「あぁ……これは、完全なハズレだな、たま~に居るんだよ、たま~に、でも召喚者の中に居るとは思わなかったなぁ……」


 お姉さん曰く、今回召喚された人間は勇者ほど強力じゃないけど、現地の人よりは強い魔力を授かるはずなんだって、はず……ねぇ。

 僕も思ってなかったよ、まさかの逆チートなんて……異世界に召喚されたのに、魔法が使えないなんて酷すぎる。


「カミラ様、これ、どうします?」

「ふん、邪魔にならない場所にでも控えさせておけ」


 うわぁ、委員長を見た時のキラキラした視線とは、打って変わって虫けらでも見るような視線だよ。

 ちょっとゾクゾクして何かに目覚めちゃいそうです。


 あっ、ブレスレット貰えなかったよ。

 てか、暴走する魔力が無いんだから意味無いのか。


「ぎゃははは、バブの野郎、ハズレだってよ、ありえねぇだろハズレって」


 船山の野郎、すんげぇムカつく、お前もハズレちまえ!

 あっ、バブってのは僕の蔑称ね、馬鹿な国分を略してバブ、別にお風呂に入れても泡なんか出ないからね。


「次っ! デカぶつ早くしろ!」

「よぉし、俺様の燃え滾る魔力を見せてやるぜ!」


 ハズレろ、ハズレろ、いっそめり込んでしまえ!


「琥珀、土属性、弱、見掛け倒しだな、次っ!」


 うひゃひゃひゃひゃ、船山ざまぁ! あれ知ってるよ、Hな本で見たことある。

 ベットの上で『小さいのね……』とか、『早いのね……』とか言われた時と同じだよね。


 うん、あれは結構堪えるだろうね、お姉さんグッジョブです。

 心の中で船山を嘲笑っていたら全員の判定が終わって、結局ハズレは僕一人だったよ。


 落ち込んでいる僕に構わず騎士達は撤収の準備を進めて、その場に残ったのは王女様と委員長、それと判定をしていたお姉さんだけになっちゃいました。


「それで、カミラ様、どうします? これ」


 そんな汚いものでも見るような眼で見られたら……ゾクゾクしちゃいますよ。


「貴様は、どこへなりと、好きな所へ行っていいぞ」


 うわぁぁぁ、バッサリ切り捨てられちゃったよ、もう居合い斬りの巻き藁みたいだよ。


「ちょっと待って下さい。国分君は私達の仲間です。見捨てるような事は出来ません!」


 あぁ、委員長マジ天使! もう一生付いて行きます、いっそ犬と呼んで下さい。


「ふん、私の部下に役立たずは必要無い。民の税金を無駄に使う事など出来るか」

「そんな……私達は一方的に召喚されたんですから、魔力が無いからと言って切り捨てるなんて酷いです」

「ふん……そうだな、ならば、こいつにチャンスをくれてやろう」


 王女様が黒い笑いを浮かべてます。なんか嫌な予感しかしないんですけど……。

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