鳴かなくなった君へ

砂上楼閣

第1話

今日もまた自身の汗の冷たさで目を覚ます。


あの子が逝ってしまってから随分と経つ。


今でも君の鳴き声は覚えてる。




あの日。


冷たくなった君を抱いたあの日から。


寝ても覚めても君のことが頭から離れない。


朝起きて、君の声が聞こえない、それだけでこんなにも寂しい気持ちになるなんて。


まだ信じられてない。


受け入れたくない。


けど、君はもう鳴かない。




僕の膝の上で震えていた君。


両手で包み込むように抱き上げると、最初は嫌がるけど、すぐに大人しくなった。


手のひらにのせたご飯。


けど結局いつものお皿に入れないと食べてくれない。


どんどん押すから、何度も膝からおちそうになってたね。


何日も家に帰れなかった時。


君はいつものように窓辺で鳴いていたのかな。


空っぽになったゲージ。


君の好きだったおもちゃも、みんなもとのまま。


変わってしまったのは、君がいないこと。


もう君の鳴き声がしない。


静かだ。


寂しい。




忙しくて、ご飯を忘れちゃったことがあったね。


お腹を空かせた君を思い出すと、後悔で胸が苦しい。


天国でお腹が空かないように、たくさんご飯とお水をお供えしたけど、なくならないご飯の山は悲しいね。


何度も夜中に目が覚める。


夢を見るんだ。


ご飯を用意するのを忘れる夢。


急いで帰って、ゲージを見るけど、君はいない。


必死に探して、探して、ようやく君を見つける。


お腹を空かせて、辛そうにする君を。


ご飯を忘れた後悔と、やっと見つけた嬉しさで、泣きそうになる。


急いでご飯を用意する。


そこで目を覚ます。


君はいない。




君が鳴かなくなったあの日から。


僕は何度も何度も夢を見た。


空のゲージを見る度に、君の死に目に間に合わなかったことを悔やんだ。


寂しい思いばかりさせてしまったことを、僕は朝起きる度に思い出す。


君の眠る場所に生えた木は今年も元気に実らせてるよ。


元気にやっているかい?


お腹は空いてない?


僕は今でも少し、寂しいよ。

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