棺に今日も華を添えましょう
ネモ🍣
プロローグ
「うん、今日は実にいいお茶会日和だったようだ。
陽の光は眩しいが、それもこれだけ生きていると慣れてくるな…」
今日は晴天。海辺は白波が美しく地上の雲のように白く輝き、その白さを青が引き立たせている。
そんないい日の昼。
1人の少年は、教会の広く美しい庭で優雅にお茶会をしていた。
少年が座るガゼボの中には細く美しい曲線を描きながら巻きついている蔦の先に、摩訶不思議な形を咲かせているのはトケイソウ。
屋根を支える柱に、紫と白のコントラストが美しく巻きつき、
日光に長くはあたれない少年のために、
日を遮るカーテンとなっているアイビーが、トケイソウと混ざり合っている場所もある。
ガゼボに辿り着くまでの道にある薔薇で飾られたアーチには
高い場所は青い薔薇や黄色い薔薇が我こそが1番の輝きだと言わんばかりに咲き誇り、
下のささやかな空白を彩るのは鈴蘭、パンジー、唐草や
マーガレット。
ここは四季折々の花が植えられており、
どれも美しいため、
月に1回は教会に来る人々に解放し、花を摘んだり走り回ったりと出来る日を設けている。
さらに少し奥へ行くとある温室には、年中
ベルガモットやカモミール、タイムやジンジャーが様々な香りを辺り一面に漂わせている。
ラベンダーだけは温室の外で温室を囲うように植えられており、よく蜜を集めに蜂が来ている姿を見掛ける。
そしてこの庭の菜園には、
ベリーなどの果実も植えられている。
時折それを狙った真っ白だったり斑だったりする可愛らしいウサギがぴょんと飛び出てきては、1粒1粒美味しそうに食べてしまって逃げ帰る事もある。
「おや、今日は…ブラックベリーのゼリーか。
どうやら、上手い事ウサギ達よりも多く収穫出来たようだね…」
少年は暗赤色に輝くゼリーをしばらく眺めた後、
添えられた黒曜石で出来ているスプーンでその柔らかく弾ける透明な身の側面をそっと削いで、口へ運ばれた。
そのゼリーと同じように赤に染った唇が、
ゆっくりと動かされる。
「…うん、とても美味しい。
これは作る時に少し違うベリーを入れたな。
酸っぱさが違う。…ストロベリーか?」
そう聞くと、摘みどきの花を見繕い摘んで来た男性が、テーブルの小さな花籠に飾りながら満足そうに答える。
「えぇ、そうです。
流石は我が主。
ストロベリーのソースを混ぜたので、少しばかり甘さが増しております」
「だからか…ソースまでは考えつかなかったが、その発想は賞賛すべきものがあるな。
…とても美味しい」
「ふふ、お褒めに預かり光栄にございます」
褒められた事の嬉しさを隠すこと無く、
尻尾を振って喜んでいるその様子を見ながら
少年は微笑み紅茶へ口をつけ、一口飲むと
そっとティーソーサーの上へ置くと、
「さて」と口を開いた。
「今日は、どのような話を聞けるだろう」
「そうですね…
きっと、今日も素敵な話でしょう」
静けさを纏った2人の空間に、1話の小鳥が愛でられに来た。
少年はその小鳥を愛おしく撫で、
満足そうに飛んで行った小鳥を見届け、
立ち上がった。
「…門を開けよう。
本日の依頼を、物語を紡ごうじゃないか」
「かしこまりました」
遺品の葬儀屋は、
今日も摩訶不思議な棺に
華を添える。
彼らが紡ぐのは、遺品達が語る物語。
物にだって話したい事は沢山ある。
そんな、物の語りを
文字の書けない物の代わりに、
言の葉を喋れない彼らの代わりに、
言葉にし、文にする。
彼らが安らかに、
持ち主の元へいけるように。
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