29. 吹奏楽部時代に聴いたらびっくりしたであろうアーティスト3選

 中学生の頃、吹奏楽部に入っていました。様々な事情で荒れていた中学、強い先生が他校に異動して弱体化した最初の年……。割とガラの悪い部員だらけで、やさぐれた先輩が多く、そして私自身も好んで入ったわけではない(好きな音楽の方向性とは違うから)のに最後は部長をやる羽目になった……という、内外どちらもアウェイな環境でした。が、なんやかんやでいい経験でしたし、自分が担当していた楽器の音はいまだに好きです。

 大人になった今、あの頃よりも色んな音楽を聴くようになった私は、時々思います。

「このアーティスト、自分が吹奏楽部だった時に知ったらさぞびっくりしただろうな! 聴かせてみたいな!」

 今回は、そんなアーティストを3組、ここに書いておきたいと思います。



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1. SO SNER


 いきなり通好みなもので恐縮ですが、こちらはウィーンのバスクラリネット奏者 Susanna Gartmayer と、Stefan Schneiderによるプロジェクトです。2022年にデビューアルバム"Reime"がリリースされました。


 ところで、バスクラリネットの印象ってどうですか? もし道行く人に聞いたら、「そもそもバスクラリネットを知りません」という答えが返って来そうなくらい、楽器の中では少しマイナーなバスクラリネット。更に、“バス”と言う名を冠していることからもわかる通り、バスクラリネットは低音の楽器で、リズム帯としての役割を担うことが多いパートです。そのため、どう考えてもトランペットみたいに目立つ楽器ではないし、シンバルみたいに最後の一音で全部持って行くインパクトもない。


 そんなバスクラリネットへの印象を吹き飛ばすのがSO SNER。品行方正に大人しく、音の根っこを支える安定感とは無縁の音色が響き渡ります。

 音は歪み、ビリビリ鳴って、リードミスかと思うような音でさえ気にせず鳴り続ける。ソウル? アバンギャルド? なんだこれは……。そんな呆気に取られる時間が流れていく。これが、あのバスクラリネット? うそでしょ……。そう思わせる力があります。

 多分、これを聴いてしまったら、学校でバスクラリネットを吹いている人たちは「なんだよ、こんな自由に吹いていいんだ……」悔しく思うことでしょう。私だったらそう思う。多分。


・おすすめのパフォーマンス動画:So Sner @ !nterpenetration 2.2.2

 これを見てようやく、「あ、ほんとにバスクラリネットなんですね」ってなりました。それくらい、バスクラリネットへの印象が吹き飛ぶ音楽を聴かせてくれます。



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2. MEUTE


 続きましては、ドイツのテクノ・マーチングバンド。よく考えてみてください。“テクノ”バンドでも“マーチングバンド”でもなく、テクノ・マーチングバンドなんです。その意味を頭だけで考えてみると、正直言ってさっぱりわからん。だもんで、このバンドについてはとにかくパフォーマンスを見て頂きたいです。

 私が初めて彼らの演奏を見たのは、YouTubeの公式チャンネルで上がっている"Peace"というオリジナル曲のMV。11名がお揃いの赤と黒の制服に身を包み、廃墟となった発電所にある、倉庫のような場所で演奏している動画です。(ただ、マーチングバンドとは言え“マーチング”はしていません。あくまで、“マーチングバンドの楽器を使ったバンド”です)


 人力で、テクノって出来るんだな……。ドイツと言えばテクノだし、やっぱり色々な手法でテクノやりたくなるんだな……。すごいなこれ……。私が彼らに抱く印象はこんな感じです。

 テクノと言えば電子音楽が主、そういうものだと思って生きて来ました。もちろん今までにも、テクノの楽曲をカバーした人力演奏のバンドはたくさんいます。私が好きなDaughterだって、Daft Punkのゴキゲンなナンバー"Get Lucky"を彼ららしいダウナーなカバーをしたくらいです。しかし、カバーの場合はあくまでも、テクノの楽曲を人間を介したアレンジ。テクノのカバー曲は必ずしもテクノではなくてもいい。


 ところがどっこい。MEUTEはマーチングバンドという、人力演奏の極みみたいな形態をとりながら、どう聴いても「これはテクノだ」と言い切れる音楽を聴かせてくれます。特にマーチングシロフォン(木琴)の存在感がかなり大きい。このパートが刻むリズムや音の動きがあるからこそ、他の音が乗っかって楽曲をテクノとして作り上げる土台が出来ている。そう思います。


・おすすめのパフォーマンス動画:Think Twice (Live in Paris)

 どの動画もおすすめですが、ライブ映像なので観客の熱気が伝わってくるのが魅力。普通のマーチングバンドの演奏では、味わえない興奮です。曲冒頭のマーチングシロフォンを聴いて頂ければ、「この音が彼らの楽曲をテクノたらしめているんだな」と実感出来るはずです。



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3. Moon Hooch

 最後はこのバンド。ニューヨーク・ブルックリン出身の、サックスとドラムのバンドです。一応ジャンルはジャズ……だそうですが、ダブステップやダンスミュージックを思わせることが多い印象があります。


 彼らを知ったきっかけは、忘れもしません。アメリカのラジオ局NPRの人気企画Tiny Desk Concertのサムネがあまりにも目を惹いたから。Tiny Desk Concert名物、オフィスの本棚を背景に演奏をするサックス二人とドラム一人。しかし、なぜかサックスのうち一本のベルに、思いっきりカラーコーンが刺さっている!

 カラーコーンって皆さんご存知ですか? 工事現場の手前や、運動会の時のグラウンドだとか、まあ色んな所に置いてある赤い三角のあれ。だいぶ縦長のあれ(継ぎ足したか、海外仕様なのか……)が刺さったサックスを、頬を膨らませて吹き鳴らす。それがMoon Hoochの音楽です。


 カラーコーンを通したせいなのか、吹き方のせいなのか。どちらの要素が強いのかわかりませんが、サックスの音はだいぶビリビリ響きます。多分、人によっては彼らの音楽が音楽ではなく“騒音”に聞こえることでしょう。だから私は、彼らの音楽が“音楽”に聴こえる頭をしていてよかったなと思います。だって彼らの音楽は、こんなにも格好いい! なんだよ、音がビリビリ鳴るのって曲によっては悪いことじゃなかったんだな! そう思える音楽です。

 彼らのパフォーマンスは、ライブハウスのこともあれば渋滞中の道路で始まることもあります。そういう突発的なところも含め、私はこのバンドが結構好きです。


・おすすめのパフォーマンス動画:Moon Hooch: NPR Music Tiny Desk Concert

 めちゃめちゃかっこいい。その一言に集約されるライブ映像。彼らは当初、ニューヨークの地下鉄で演奏をしていて、駅のホームの端で踊るのを防ぐために市警からベッドフォード・アベニュー駅への立ち入りを禁止されたことがあるとか。Tiny Desk Concertの小さな空間で演奏する彼らを見ると、駅のホームで踊り出すその熱量もわかるなあ、としみじみ思います。



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 お気づきの方も多いでしょうが、私は吹奏楽部時代に木管楽器を担当していました。だからどうしても、そちらの音に惹かれる傾向があります。三つ子の魂百までとはまさにこのこと。人生の伏線回収は、音楽については永遠に続くようです。きっとどれを聴かせても、あの頃の私は「なにこれ」と目を丸くしたことでしょう。


 今回紹介した楽曲の動画は、YouTubeで見られます。ぜひ、動画とあわせて彼らの楽曲を聴いて、びっくり楽しんでみてください。

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