7.良い眠りには良い音楽 〜おすすめ3枚のご紹介

 去る3月19日は、「世界睡眠デー(World Sleep Day)」だったそうですね。2021年のスローガンは、“Regular Sleep, Healthy Future(規則正しい睡眠と健康な未来)”で、各所で様々な取り組みがされていたようです。世界的に見ても、コロナウイルスの流行を始め、ここ数年はストレスフルな状況です。睡眠をただの“一日の終わり”として考えるのではなく、“未来を生きるための時間”としてとらえるのも、わかる気がします。

 さてさて。今回は、「世界睡眠デー」に関連して、自分が好きな音楽の中でも、睡眠時のお供・リラックスしたい時におすすめのアルバムを3枚、ご紹介したいと思います。



1.Mercury KX / Flow (2020年リリース)

 まずはこちらを紹介せずにはいられません。既に、「6.2020年ベストアルバム15選」 https://kakuyomu.jp/works/1177354054897097110/episodes/1177354055430398312 でもご紹介しているアルバムですが、私の中で睡眠・リラックスならここに任せておけば何とかなる、と絶大な信頼を置いているレーベルMercury KX(マーキュリーケーエックス)によるコンピレーションアルバムです。


 Mercury KXは、ロンドンをベースとしたレーベル。“ロンドンをベースとした”と言うと、音楽好きな方はいわゆるUKロックを想像されるかもしれませんが、Mercury KXは毛色が違います。代表するアーティストがÓlafur ArnaldsやLambert、Keaton HensonやLuke Howardであることからもわかるように、どちらかと言えばアンビエントやエレクトロニカ、クラシック寄りのレーベルです。

 そんなMercury KXが、全力で聴衆を癒してくる楽曲を次々送り出してくるものですから、どうしても体の力が抜けていく……。柔らかなピアノの音色やシルキーなボーカル等、最高の楽曲がこの一枚に詰まっています。聞く人によっては、真っ暗闇の真夜中よりも、夜と朝が混じり合う、薄く霧がかかった空を想像するかもしれません。

 ひとつ注意があるとすると、全体的に結構シリアスな雰囲気の楽曲が多いです。そのため、ちょっと精神的にふさぎ込みがちな時に聞くと、そちらにメンタルを持って行かれやすいようにも思います。どちらかと言うと、一日張り切ってガンガン行った日の夜に、心を落ち着かせる用途の方が向いているなと、個人的には思います。


 ちなみに、Mercury KXはかの有名なユニバーサルミュージック・グループ。そのため、2021年の世界睡眠デーに合わせて公開されたプレイリストの中に、Mercury KX所属のアーティストの楽曲が4曲含まれています。


 また、Mercury KXのYouTubeアカウントでは、“Calm amongst the Chaos: LoFi music for Relaxation, Chill, Sleep and Study”という動画でこれまた全力で癒してくるプレイリストを公開しています。(サムネイルが、ヨガの姿勢をとった角のある動物の動画)

 かなり癒されるプレイリストになっていて、おうちでのリラックス時間や寝る前のひと時のお供にぴったりです。



2.Tom Adams / Yes, Sleep Well Death (2018年リリース)

 イギリスのシンガーソングライターであるTom Adamsは、「まるでJonsi(ヨンシー/Sigur Rosのボーカル)の歌声をもったNils Frahm(ニルス・フラーム/クラシックとエレクトロニカを組み合わせた音楽性で有名)」と称されるのも納得の楽曲を多く発表しています。


 まず聞いてみて魅了されるのは、Jonsiの歌声に勝るとも劣らないファルセット。この声色が本当に心地よいもので、目を閉じて寝転がって聞いていると、自然と体中の力が抜けて行き、自分までふわふわとどこかに浮かんでいるような心地がします。

 それなのに、なぜか音楽の端々に切なさがあるのが、Tom Adamsの楽曲の大きな魅力のひとつ。浮遊感があり、時に壮大に広がる空を飛ぶような音楽なのに、どことなく内向的だったり独り言の様に聞こえたりする。このおかげで、彼の音楽を聴いていると親近感がわいてくるんですよね。音楽が壮大すぎて置いて行かれる、圧倒されすぎる……ということがなく、「ごくごく自然にそこにある素晴らしい音」といった雰囲気があります。この雰囲気が、リラックスにちょうどいい。

 また、彼を語る際に外せない、Nils Frahmの名前の通り、ピアノの音色も大変良い。優しく、時に楽曲の主役になる美しい音色は、普段ピアノだけの楽曲を嗜まない方であっても、聞きやすいのでは。それも、先述の通り彼の音色の雰囲気がなせる業。肩肘張ったり、自分の腕前を見せつけたりするのではなく、「そこにある音色を紡ぐ」という彼の音楽性が、聴衆の心にある警戒心や緊張感を解いてくれます。


 余談ですが、Tom Adamsがデビューしたきっかけには、こんな出来事があります。

 デビュー前のTom Adamsはベルリン旅行中に、偶然Nils Frahmのライブに足を運びました。そのライブ中、Nils Frahmが観客に演奏するよう声をかけたところ、ふわりとステージに上がったのがTom Adamsでした。Tシャツ・短パン姿のラフな格好な彼がステージに上がり、演奏するうちに観客やNils Frahm本人を魅了していく姿は、まるで奇跡のような瞬間です。(YouTubeでその動画を見た時、私までその場に立ち会ったような心地がしました)

 そんな偶然と奇跡の巡りあわせで、彼の音楽が聞けるんですから幸せなことです。ありがとう音楽の神様。なんてセンスがいいんだ。



3.London Grammar / If You Wait (2014年リリース)

 イギリスのLondon Grammar(ロンドングラマー)は、女性ボーカルのハンナの力強いボーカルが印象的な3人組です。しばらく活動が緩やかだったのですが、2020年にシングル“Baby It's You”で戻って来てくれました。


 私が彼らの音楽を知ったのは、このアルバムにも収録されている“Night Call”をauのCMで聞いて一気に引き込まれたから。“Night Call”自体は彼らの楽曲ではなくカバーなのですが、見事にLondon Grammarの音楽として昇華させています。

 このアルバム以降は、次第に壮大さが増すというか貫録が出て来る彼らの音楽ですが、“If You Wait”での彼らはごく一個人といった気配を感じます。なんででしょうね、ハンナの声は今も昔も変わらず美しいし、楽曲自体が素晴らしいのは変わらないんですけれども。

 あるとするならば、“If You Wait”全体を通して感じる哀愁やもの悲しさ、美しさと言ったものの方が、身近に感じやすい親しみを覚えやすいもののように思います。それらを抱えながらも飛び立つ心根みたいなものが、このアルバムから溢れ出しているような気がして、心のわだかまりもスッと成仏してくれる……。

 だから、London Grammarというとどうしても私は、このアルバムを思い返してしまいます。ただの一人の人間が、ベッドの上で孤独感と一緒にぼんやりしている・何か悩みを抱えてうずくまっているのを、同じ視点から見ていて、音楽に変えてくれるような印象です。

 

 こうした“孤独感”や“もの悲しさ”を美しい楽曲に変えてくれる音楽というのは、聞く人や気分によっては重苦しく感じられるのですが、私は結構好きですし、心が落ち着きます。London Grammarの他にも、DaughterやThe XXもそういった雰囲気があり、とても好きです。寝る前に聞きたくなるのは、こうした楽曲だったりします。




 さて、今回は「世界睡眠デー」を機に、睡眠時のお供やリラックスしたいときにおすすめのアルバムを3枚ご紹介しました。コロナの流行や地震、新年度や新生活なと、色々と不安なことが多い毎日ですが、これらの音楽が少しでも良い眠りにつながれば幸いです。


 そして、「世界睡眠デー」のスローガンにもある通り、どうぞ健康な未来を!

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