5.Daft Punkと拙作「ティーンズ・イン・ザ・ボックス」

 2020/11/28-29に、サマーソニック公式サイトで、過去のライブ映像がたくさん公開されました。コロナ流行の最中、こうした取り組みは今や見慣れたものになりましたが、今回のラインナップがアナウンスされた時、私は声を上げたのを覚えています。


「Daft Punkがいる!!!!」


 Daft Punkは、有名なフレンチハウス/テクノ/ディスコ/エレクトロミュージックアーティスト。覆面マスク……いや、ロボットの2人組で、名前を知らなくても多くの人がどこかで曲を聞いたことがあるでしょう。コーラスユニットのPentatonixによるカバーも人気ですし、最近では、Apple製品のCMで使われていました。

 そんなDaft Punkは、公式のライブ映像がほとんど見当たらず、YouTubeなどで見られる映像は、ライブに参加したファンが客席から撮影したものばかり。公式のWarner Music Franceでさえ、なぜだかファン撮影の映像をMVとして利用しています。(その一方、銀河鉄道999でおなじみ松本零士監督とのコラボMVシリーズは出していたりする)


 更に、彼らは最近ほとんど表舞台に姿を見せず、最後に人前でライブをしたのはいつなんだろう……といった次第(2021年2月に解散、最後の人前でのパフォーマンスは2017年のグラミー賞授賞式で披露したザ・ウィークエンドとの“I Feel It Coming”だったとか)。

 だからこそ、サマーソニックでのライブ映像公開は、歴史的なものだったのです。


 実際、Alive 2007ツアーの内容をほぼそのまま活かしたライブ映像を見た時は、嬉しすぎて心臓をぎゅっと潰されたようになりました。ピントが合っていて、音響もちゃんとしていて、カメラワークがちゃんとしているDaft Punkの姿……。ありがとう、ありがとう世界。



 さて、前置きが長くなりましたが、ここからは私の自作品とDaft Punkについて書いていきたいと思います。もし、拙作をお読みくださった方が、このエッセイにも辿り着いていたとしたら、ピンと来たかもしれません。

 顔のない男、ダンスミュージック……!

 そう、この組み合わせは、拙作『ティーンズ・イン・ザ・ボックス』(※現在非公開) に登場する、黒い円筒型の顔をしたユウヒにぴったり合致します。(本作は、SF×青春×恋愛小説。内気な少女・野菊と機械頭の少年・ユウヒを中心とした、音楽に友情に恋愛に慌ただしい、ハイスクールに通う彼らの日常を描いた物語です。)

 勿論私は、この作品を書くより前からDaft Punkが好きでしたが、『ティーンズ~』を書くにあたって、安直に「よーし、Daft Punkの真似しちゃお!」と考えたわけではありません。


 実は元々、「茶筒頭の男」というイメージは何年も前から持ち合わせていたのですが、なかなか物語として書き上げることが出来ないで居ました。(異形頭というか、ロボットや顔のない登場人物が好きなのです。スターウォーズのダースベイダーのような。)そこへ、細々と放置されていたアイデアを組み合わせた結果、『ティーンズ~』の物語を書こうとなったわけですが、何かが足りない。

 私は元々ロックが大好きで、エレクトロニカやダンスミュージックはようやく最近になって聞けるようになってきました。私に足りなかったのは、このジャンルの雰囲気や音楽の質感のイメージ。そこで、数少ない「昔から聞けたエレクトロニカ/ダンスミュージック」としてのDaft Punkを、ちゃんと聞いてみることにしたのです。

 そして私は、これまで知らなかった彼らの楽曲の歌詞について、知ることになります。これが、『ティーンズ~』を書く際、特に顔のないユウヒと主人公・野菊のやり取りの中で、参考になりました。


 正直に申し上げて、今まで、ダンスミュージックの歌詞ってあまり気にして来なかったのです。踊りやすい、語感のいい言葉を使っているだろうから、意味より音の方が大事なのかなあと。(実際そういう面もあるとは思いますが、これは当初の私の思い込みで、メッセージ性の高いダンスミュージックはたくさんあります。例えば、Aviciiの”The Nights”とか泣いてしまう。)

 なので、『ティーンズ~』を書くにあたりDaft Punkの曲を再度聞いて初めて、彼らの歌詞がある曲の内容に気づいて、「なんだこの青春感のある歌詞……」と驚きました。そして、この雰囲気を『ティーンズ~』で出したい、どんな場面でも、「登場人物たちはティーンエイジャーで、青春のただなかにいる」ということを忘れないようにしようと思いました。



 それでは、実際にどんな歌詞があるのか、少しだけご紹介したいと思います。歌詞をそのまま出すわけにはいかないので、ざっくりと歌詞の概要を書いておきます。(参考にしたアルバムが、Daft Punkのアルバム‟Discovery”だったので、その中からの選曲です。)


・Something About Us

 今言うべきじゃないかもしれないし、僕は相応しくないかもしれない。でも、僕らの間に何かあるって言いたいんだ。何より君が必要なんだ。誰よりも君のことを思うよ。君のことを愛してる。


・Face to Face

 僕は君のことをよく知らないし、不安のせいで目の前が見えなくなる。君が不安がっていたらと思って、君を避けてしまったけど、君が間違ってなかったと気づいたんだ。君と僕がついに出会った時、僕らの距離は簡単に飛び越えられる。


・Digital Love

 昨日、君と踊る夢を見た。腕を回すのにいいタイミングで、君も僕に身を寄せた。でも突然朝が来て、夢は終わってしまった。この夢が本当になればいいのに。どうしたらいいんだろう。どうして君は、僕と遊んでくれないんだろう?


 ちゃんと歌詞を読んで、びっくりしました。あの、表情の変わらないロボット2人組が、こんな「普通の恋する男の子」みたいな歌詞の曲を演奏していたなんて!何を考えているのかわからない見た目で、シュッとすました様子で、よくもまあこんな可愛らしい曲を!と。

 そしてこの驚きが、拙作『ティーンズ~』の雰囲気、特にユウヒについて考える際の、インプットになりました。



 ユウヒは人間なのですが、諸事情により幼い頃から“機械頭”を使用しています。この機械頭のスペックが大変低く、見た目は黒い円筒形をしているため、ぱっと見では彼は不気味に見えます。それをユウヒは持ち前の人柄や、良く動く手の動き、音楽の腕前でカバーしているわけです。一方、主人公の野菊にもとある事情があり、彼女は大きい音や男性が苦手。

 そんな2人が、“偶然”出会い惹かれあうわけですが、実は……。(お話の続きは、ぜひ作品にて。)


 拙作の主人公は野菊ですが、ユウヒ側から見ると、「野菊と親しくなるための物語」でもあります。そこには、色んな感情がないまぜになっているのですが、彼には顔がないため何を考えているのかわかりません。もう少し言うと、「ユウヒが意図的に見せようと思って表現したことしか他人からは見えない」状態です。彼の本音は、ユウヒが作るダンスミュージックの歌詞や台詞の一部からも伝わって来るのですが……。


 この、「外からは見えないけれど腹の中には色んな感情がある」そして「その色んな感情には、プラス/マイナスの感情もあれば無邪気/作為的な感情もある」という雰囲気を感じるのに、Daft Punkの音楽が参考になりました。特に、プラスで無邪気な感情の部分がユウヒの中にあるというのを忘れないために、Daft Punkの歌詞をよく確かめながら音楽を聴きました。



 そして、『ティーンズ~』にはクラブでダンスミュージックが流れる場面が多く登場するので、こうした場面を書く際には、Daft Punkのライブ音源を収録したアルバム“Alive 2007”を聞いたり、彼らのライブ動画、他にもBoiler roomのようなクラブの様子が分かる動画をたくさん見ました。


 実は私は、先述の通りロックばかり聞いて来たため、いわゆる、23時くらいから始まって朝まで踊り明かすクラブ、みたいなものには行ったことがありません。ライブハウスなら1人でも平気で行けるのですが、クラブの雰囲気はさっぱりです。なので、自分のライブハウスの経験と、クラブの映像を足し合わせて、『ティーンズ~』のクラブの場面を書きました。

 その時も、ユウヒの出番の時に流れる曲は、Daft Punkのようなテクノ寄り、踊れるけど少し内向的な雰囲気を意識しています。(結局踊っているので、音楽の表現には出ていないと思いますが……。歌詞なら伝わるかも……?)

 普段、お話を書く際は音楽を聴かないようにしていたため、あえて聞きながら書くというのは少し面白い感覚でした。



 さて、長くなりましたが。今回、このエッセイを書こうと思ったのは、完全にサマーソニックでのDaft Punkのライブ映像配信によるものです。本来であれば、こうした自作品解説みたいなものは好きではありません。(出来上がったものを読んでいただく際の、要らぬ情報になると思っているので。)


 ですが、それでも私がこれを書こうと思った理由はたったひとつ。

 Daft Punkはいいぞ。

 それをお伝えしたかったのです。


 先述のライブ音源は、Spotifyはもちろん、Amazon music(Amazonプライム会員なら追加料金なしで利用できるサービス)でも聞くことが出来ます。ライブの何がいいって、元々個別でかっこいい彼らの音楽を、マッシュアップした最高にかっこいいバージョンで聞けるということです。

 自分は常日頃、「ライブ盤の音源って観客の声が入ったり音質も少し悪かったりするのに、なんで需要があるんだろう」と思っていましたが、エレクトロニカ/ダンスミュージックには、マッシュアップや曲と曲の繋ぎといった、ライブならではの楽しみ方があるのだなと、このアルバムで強く感じました。(この分野の音楽は、舞台演出が最高に良いので、何度も申し上げる通り映像と合わせて楽しみたいものですが……)

 ご興味がおありの方は、この機会にぜひ聞いてみてください。


 また、もし間に合う方は、サマーソニック公式のYouTubeアカウントでライブ配信もご覧になってみてくださいね。(2020/11/29 20:00ごろまでリピート配信中→サマーソニックにて一部がアーカイブ視聴可能)


 最後はなんの話か分からなくなってしまいましたが、Daft Punkについては延々と話してしまいそうですので、この辺りで終わりにします。

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