第47.5話 贈与者会合・その二

 中央都市、ギルド地下――円卓。


「さて、今回の緊急会合――議題については各々で把握しているな?」


「うちは関係ないし、当事者たちで勝手にやってよ~」


「そういうわけにもいかないから緊急会合なのよ、ファーファ」


「わかってるけどさ~」


「テラ、続けてくれ」


「今回の議題はクラン戦について――本来であれば、この手の議題で我々が集まることは無い。問題は、その会話が地下三十階でなされ、多くの冒険者がそれを聞いてしまったことだ。決めるのは贈与者である我々だが……クレイ」


「私としてはこちらのクランから吹っ掛けた以上、断っていただければそれでお仕舞いになると思っているのだけれど」


 その言葉に贈与者たちの視線は酒を飲むジョニーに集まる。


「……ん? ああ、俺か? クラン戦、クラン戦なぁ……具体的に俺たちぁ何を決めるんだ?」


「開戦の有無以外で、ということか? ……エレナ、頼む」


「決めることは大きく分けて三つ。参加人数・戦闘形式・生死の有無。参加人数は戦闘形式と直結するわ。例えば戦闘形式が一対一であれば、各クランの参加人数を五人にしてそれぞれで勝敗を付けることもできるし、団体戦でもいい。生死の有無に関して――クラン戦は原則として参加する冒険者同士は何でも有り。殺しも良しとされているけれど、それを許容するか否かは贈与者である私たちに決める余地がある思うわ」


「人数・形式・生死かぁ……雑務だなぁ。酒が飲みたくなる」


「飲んでんじゃねぇか」


「安酒じゃあ酔えもしねぇ。そんじゃあ、あと二つ確かめておこう。今のところクラン戦に直接関わるクランはどこだ?」


「私のクラン『ドゥオ』と」


「オレのクラン『オクト』」


「私のクラン『ウーヌス』はお前らの側のようだ。ジョニー」


「四つか。そんで? 茶々を入れるかもしれないクラン――いや、関わらねぇクランは?」


「はぁ~い」


「ファーファのとこは当然として、ドンもか?」


「うちにそんな気骨のあるもんは居らん。あったとしても、三騎聖の中に放り込めるかい」


「まぁ、基本的にどのクランが横槍を入れても文句は言えないわけだが……そうだな。そんじゃあ受けるぜぇ、そのクラン戦」


「なにっ!?」


「……本気なのか? ジョニー」


「本気も本気、大マジだ。参加人数やらルールやらは申し出を受けた側のこっちが決めていいんだよなぁ?」


「それに関しては異論ないが……しかし、本当に――」


「……はぁ、まったくどいつもこいつもわかってねぇなぁ。考えてもみろ、今の冒険者共の実力を。十年そこら前にもそれなりの奴らが居たようだが、今の奴らは未だに七十階の前にいる。十年かけて、やっとだ。だが、うちの奴らはどうだ? 半年と経たず、すでに三十階にまで到達した!」


「……何が言いたい?」


「ふんっ――変わって冒険者の話だ。知っているとは思うが、強力な能力を持っている冒険者ってのは総じてイカレている。能力が強大過ぎる故に性格が破綻する、とも言われているが……俺たちの出した結論は違う。能力とは、精神的に劣っている部分を補うためのものだと考えた」


「ねぇ~、つまらないんだけど~」


「面白くなるのはここからだ。じゃあ、ドリフターはどうだ? 大抵の奴らはすぐに死ぬ。能力を過信して、自分は強いと勘違いをして。そんな中で――現れた! 技術は格別! 性格も精神も問題無く! そして、能力は一切戦いには向かないスカ。この場にいる贈与者の誰にも見向きされなかったドリフターが、今は地下三十階にいる。その事実」


「故の特異点だろう。この場にいる誰しもが身に染みている」


「そう。特異点だ。奴一人ではそこまで辿り着くことは出来なかっただろう。だが、奴がいなければ、他の三人――無限回廊内で一人増えて四人が、三十階に辿り着くことは不可能だったはずだ」


「……何が言いたいんだ?」


「わからねぇか? 特異点だよ。奴が押し上げた」


「つまり、特異点と他の冒険者を戦わせて、今の状況に変化を起こそう、と?」


「その通りだ。そろそろ退屈していた頃だしなぁ。冒険者の望む物を与えるのが俺たち贈与者だ。構わねぇだろ? お前ら」


「酔っているな、ジョニー」


「ああ、常にな!」


「……わかった。『ドゥオ』に断る権利は無い」


「それで、ルールはどうするのかしら?」


「そうだなぁ……『ドゥオ』と『オクト』対『ウーヌス』と『ウーンデキム』……じゃあ、人数は最低七人。勝負は旗取り。細かい規定はそのままでいい。殺しも横槍も何でも有りだ」


「ちょっと待て。〝最低〟七人? 上限は無いのか?」


「ああ、無い。二つのクラン合わせて最低七人だ。事前にクラン戦への参加表明をすれば、何人でも、だ」


「それでは差が出るのではないか? 『ドゥオ』と『オクト』は共に大所帯だが、『ウーヌス』は少数精鋭で『ウーンデキム』は言うまでも無く。自らのクランを不利にするルールなどイカレている」


「はっ――サイクス、お前んとこはどうか知らねぇが、三騎聖がいるクランの連中は知っているはずだ。たった一人の強い冒険者を前に、有象無象が集まったところで勝てるわけはねぇ。俺の勘が間違っていなければ、どちらも多くても十人以内の参加人数になるはずだ」


「旗取りの理由は?」


「倒す倒される以外の目標があったほうが面白いだろ?」


「……はぁ……まぁクラン戦を受けた側の意見を尊重しないわけにはいかない。参加人数は七人以上で、形式は旗取り。どのクランの介入も良しとする何でも有り。あとは場所だな」


「決まってる。場所は――この街全てだ!」


「この街……中央都市全体だと? 正気か?」


「はっはぁ……ああ、意外にもな」

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