第19話 ギルド

 中央都市ギルド――広さは西のギルドの約三倍。中には食堂も併設されていて、冒険者たちの憩いの場って感じだが……やはりクランという隔てがあるせいか雰囲気は殺伐としているな。


「結構時間掛かってるにゃ~」


 今現在、ヨミはギルドの奥へ連れていかれて名簿の確認を行っているらしい。生死を知ることが出来るのは近親者のみということだが、つまり、名前からかそれ以外の何かがあるのか、ヨミの父親が冒険者であり中央都市に居たことは判明しているようだ。


「まぁ、急いでいるわけでも無いしな」


 併設の食堂で待つこと約二時間が経とうとしていた。


「退屈にゃ~、体動かしたいにゃ~」


「さすがにここを離れるのはマズいからな。じゃあ、チームバランスについて考えてみるか。前衛は俺とネイルで事足りるとして、やっぱり後衛か?」


「にゃん。できれば後衛に武器や装備、食料を運べる倉庫系が一人欲しいにゃ~。あとは盾役も欲しいにゃん」


「盾役? それはどの立ち位置になるんだ?」


「ボクらとヨミの間にゃ」


「ってことは後衛を守るための盾ってことか。ヨミ自身も戦えるし、どちらかと言えば倉庫系の仲間が増えた場合に必要ってことだな」


「んにゃん」


「とにもかくにも仲間を増やさないダメか。実力はまぁいいとしても……倉庫系自体が稀なんだろ? そもそもどう探せばいいのか――」


「募集広告を出せるらしいですよ」


 不意に話に参加してきたヨミは、空いている席に腰を下ろした。


「広告?」


「はい。チームの仲間を募集する掲示板がありました。そこにこちらのクラン名とチームメンバーの名前、それと募集する能力のタイプや前衛後衛を明記して貼っておくようです」


 なんか、バンドのメンバー募集みたいだな。こちらは生き死にが懸かっているわけだが――踏破者では無いフリーの冒険者にとってはそういう募集が大事になるのだろう。


「んじゃあ、俺たちも募集を出すとして――ヨミ、結果は訊いたほうがいいか?」


「生きてたにゃん?」


「そうですね……結論から言えば、おそらく生きている可能性が高いのだと思います」


「理由は?」


「ギルドにあった名簿は二種類です。一つはこの都市にいる冒険者リスト。そして二つ目が無限回廊に下りた冒険者のリストです。後者のリストには冒険者の生き死にが明記されているわけですが――」


「おかしいだろ。最初のほうのリストがあれば二つ目は要らないよな?」


「私も同じことを思ったのですが、リストを見て理由がわかりました。無限回廊を下りた冒険者のリストに載っていたのは生死及び、死体の有無。そして行方不明冒険続行中、と」


「んにゃっ!? 十年以上も無限回廊に入っているってことかにゃ!?」


「そういうことになりますね。そして、私の父も行方不明もしくは冒険続行中、と書かれていました」


 となれば俺はむしろ生きていないことを前提に考えるが、それは俺がヨミの父親のことを知らないからだろう。ヨミだけでなく、ネイルの表情からも生きている可能性が高いと窺える。つまり、それほどまでの人物だった、と。


「……なるほど。じゃあ、やることは変わらないな」


「強くにゃる!」


「それと、仲間集めですね」


「とりあえず募集広告を出して、それから無限回廊の地下一階から二階で鍛え直すとするか」


 ネイルと共に残っていた飲み物を飲み干せば、不意にヨミが首を傾げた。


「……何か注目されていませんか?」


「ああ、やっぱりわかるか? まぁ特に絡んでくるわけじゃないから無視でいいと思うんだが――」


 そう言った途端に近付いてくる気配が二つ。


「よおよお、お前らが噂の新顔だな?」


「女二人に男一人、か」


 褐色の肌に背負う大剣、青白い肌に腰に携えた双剣――ドリフターか。


 ネイルの猫耳に伸ばそうとする褐色の男の腕を刀で弾けば、こちらを睨み付けてきた。


「触れたら殺す」


「お~お~、ナイト様か。それは済まねぇな」


「私達に何か御用ですか?」


「いや、君等に用は無い。興味があるのは、ドリフター。お前だ」


「俺には無い」


「まぁ、そう言うなよ。同じドリフターじゃねぇか。俺は業火のジン。こっちは――」


「氷雪のアオだ。お前は?」


「……フドーだ」


「そうか。フドー、お前らもう無限回廊に挑戦したんだろ? どうだった?」


「どう? まぁ、一階から五階は大したこと無かったな」


「へぇ……なら、この世界に来て初めて戦う俺たちでも安心だな」


「ん? お前ら、踏破者じゃないのか? どこの街から来た?」


「俺たちはこの街に転移してきて、直接クランにスカウトされたドリフターだ。お前と違ってな」


 スカウトとかもあるのか。……やっぱりバンドみたいなんだよな。


「お~い! 何やってんだお前ら! さっさと行くぞ~」


「あ、はい! すぐに行きます!」


「まぁ、また話そうぜ。フドー」


「うるせぇ。さっさと消えろ」


 格好つけた感じで去っていった二人は、顔面偏差値の高い集団と合流してギルドから出て行った。


「にゃははっ。同じドリフターにゃのに全然違うにゃ」


「まぁ、色んな奴がいるのは仕方が無いが……今の集団はなんだ?」


「おそらくファーファのクラン『セクス』ですね。噂によれば、あそこは顔の良い冒険者だけを管理者直々にスカウトするようです」


「ジョニーみたいな変人もいれば、そういうのもいるのか。……それはそれとしても、初戦闘が無限回廊って、さすがにマズくないか?」


「死ぬかもにゃ」


 軽いな。まぁ、この世界で冒険者が死ぬのは日常か。


「他のチームの心配よりは、まずは私たち自身のことです。仲間の募集について、受付に訊きに行きましょう」


 確かにその通りだ。冒険者が死ぬのが日常なら、明日は我が身って可能性も十分にある。先に自分たちの生存確率を上げることのほうが先だ。


「ん? あそこにいるのって……」


 ギルドの受付に向かっていると、そこで受付嬢さんと話している見覚えのある人物がいた。


「ドロレスさんですね」


 近寄って行けば、こちらに気が付いた。


「ああ、まだ居ましたね」


「なにやってるにゃん?」


「ジョニー様からのお使いです。おそらく仲間の募集をすると思うが、どうせやり方を知らないだろうから私が行って来い、と」


「特別なやり方があるのか?」


「特別、というのとは違いますが、単純にクラン管理者の許可が必要になるので、その許可証を持ってきました」


 掲げられた巻き物が許可証らしい。こういう手続きが面倒なのはお役所っぽいな。


「何か私たちがすることはありますか?」


「いえ、特には。欲しい仲間は倉庫系の能力持ちですよね? お三方が踏破者なので資格の有無には拘らず、一週間後に応募者の面談をすることになります」


「面談? ジョニーがか?」


「いえ、あなた方自身が、です。同じチームの仲間になるんですから、自分たちの眼で見ないでどうするんですか?」


「まぁ、そうりゃあそうだが……そんなに集まるとも思えないが」


「どうでしょう。案外、そうとも限らないかもしれませんよ」


 含みがあるが、突っ込むのも面倒だ。


「んにゃ~、ドール。これから無限回廊に入ることは出来るかにゃ?」


「これからですか? クランに所属している冒険者は低階層なら申請なく挑戦して問題ありませんよ」


「低階層というのは?」


「地下一階から三階です。実力の伴わない冒険者が修業することが多い階なので、当日中に入って戻ってくるのであれば、ご自由に」


「にゃはっ! 修行にゃ!」


「では早速行きましょう」


 火が点いたのはネイルだけでなくヨミもか。


「あ、そうだ。ドロレス。俺たちが注目されている理由って、もしかしなくともジョニーが関係しているよな?」


「そうですね。無関係では無いでしょう」


「……そうか。戻ってきたら色々と教えてもらえると助かるんだが」


「ご期待に沿えるかどうかはわかりません」


 知ってはいるけど話せないって感じだな。


 決まりなのか忠誠心なのか――わかっているのは、ジョニーだけでなくドロレスも、相当な実力者だってことだけだ。

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