談議ヌスの横やり

@mikamikamika

プロローグ

 『豆タヌキ』と呼ばれる生き物がいた。身長50センチほどの小柄な体格で、不老不死の種族だ。『タヌキ鍋』にして食べると美味しいらしい。更に、その肉を一口食べるだけで寿命が最低10年は延びるともいわれている。そのため人間から目を付けられ、狙われていた。権力者は概して寿命を求める傾向にある。実際、豆タヌキを食べたことで1000年以上も存命した王もいた。


 豆タヌキは人間などに『変身する能力』を持っている。しかし、変身中は葉っぱを頭の上に乗せていなくてはならない。変身は大気中のマナを体内に取り込むことで行使できる。葉っぱは、マナを体内に取り入れるパイプのような役割を果たしており、帽子などで遮った場合、変身が解けてしまう。


 葉っぱはアクセサリーのように見せることもできるが、豆タヌキのこうした変身中の特徴は人間に知れ渡っており、『豆タヌキ』であることを見破られるリスクが高い。そのため、豆タヌキは変身することができるからといって、基本的に人間社会に紛れ込んだりすることはなかった。


 ある日、ひっそりと森の中で暮らしていた豆たぬきの4姉妹が、人間にねぐらを発見された。ねぐらの近くで人の足跡が見つかったのだ。後日、狩り人たちが大勢でやってきたことを察知し、4姉妹は森の奥へと逃げた。


 足跡を見つけた後、警戒レベルを上げていたことが助けとなった。しかし、その森の奥は一度足を踏み入れたら生きては戻ってこれないとされる『迷いの森』でもあった。人間も豆タヌキもこれまで足を踏み入れることを避けてきた未開の場所でもある。


 迷いの森に足を踏み入れた数日後、豆タヌキ4姉妹は森の女神と出会った。そして、狩人たちから匿ってもらえることになった。


 森の女神は森に迷いこんだ人間に『ある仕事』をやらせていた時期があった。しかし、契約を一方的に破棄されたらしい。そんな折、不老不死である豆タヌキが森の女神が管轄する領域に迷いこんできたのだ。森の女神様はそれをとても喜び、4姉妹を歓迎した。


 豆タヌキは寿命で死んだりしない。森の女神と同じく不死であり、友好関係を築けば、互いにとって利が続くと考えたのだ。


 森の女神は迷いの森を迷路のようにして、狩人たちを追い返した。匿ってもらえることは豆タヌキたちにとって願ってもないことである。なお、その見返りとして森の女神が求めてきた労働があった。それは『情報の提供』である。


 森の女神様は不思議な力を持っている。ただし、その能力を自身が享受するには『第三者の存在』が必要となる制約があった。森の女神は迷いの森という限られた場所から移動することができない。ゆえに『退屈』で苦しんでいた。たかが『退屈』……しかし、それは不死者にとっては拷問に等しいものである。


 豆タヌキたちに課せられた仕事は、異世界である『日本』の『情報』を森の女神様に『お供え』すること。情報を取得する方法は、森の女神が全て用意した。


 こうして豆タヌキたち4姉妹の、そして森の女神にとっての新しい生活が始まった。豆タヌキたちは週に5日間。8時間労働で2日間の休みをもらっている。勤務時間外であれば『日本』という国に自由に行き来することも許された。働いた分は日本円での給与が支給された。そして、8年という年月が流れた。

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