のんびり珍道中★世界の塔めぐり旅

@mikamikamika

第1話

 太古の昔、世界は人間が支配していた。しかし、いつからだろうか、人間以外の他の知能の高い種族が台頭しはじめた。エルフ族・魔族・天使族・氷結族……などなど、これまでファンタジーの世界の生き物と思われていた存在が地球上に出現したのだ。


 いつしか世界は争乱期に突入し、他種族同士で争い、殺し合った。しかし、まもなく安定期と呼ばれる平和な時代が訪れた。この安定期に突入した要因については、歴史学者たちが知恵を絞って解明に努めているが、未だに不明だ。しかし、明らかに争乱期が終結したことに関係があると思われる『もの』がある。それが『塔』の存在だ。争乱期の終わりに、世界中のあちこちに突発的に『塔』が出現した。


 この『塔』についても学者たちは調査してきた。しかしこれについても、未だに解明されてはいない。判明していることは、世界中に出現した塔の高さは、みんな同じであること。そのどれもが成層圏を越えていること。塔の内部は何層にも連なっていること。10層以上は『ダンジョン』となっており、凶悪なモンスターたちが闊歩していること……などなど。


 なお、塔を構成している素材は、地球上には存在しない未知の素材で、その強度はダイヤモンドを軽く凌駕している。それゆえ外壁は欠けることがなく、削って調査することもできない。この塔の内部に一体何があるのかを調べるため、これまでに調査隊が幾度も派遣された。しかし、生きて戻ってきた隊はほぼいない。記録としては14層まで足を踏み入れて戻ってきた隊はいる。しかし、全員が五体満足の状態ではなかった。10階層以上のダンジョンエリアに足を踏み入れた場合、そのほとんどが必ず死ぬのだ。おそらくの死因は、モンスターに喰い殺されることによってだろう。


 しかしながら、こうした世界中に出現した謎多い塔について、気味が悪くて誰も近づかない、という風潮はない。どちらかといえば、どの種族も『塔』を信仰の対象として崇めている場合がほとんどである。


 確かに10階層以上のダンジョンエリアには凶悪なモンスターが闊歩している。しかし、それらのモンスターは決して9階層以下にはおりてはこない。


 また、塔は世界平和の象徴ともされていた。いつから始まったのかは定かではないが、人間の『巫女』が、300年に一度だけ世界中の塔を巡礼する習わしがある。こうした『巡礼の旅』が世界平和と密接な関係があることは、全種族の間では常識となっており、どの種族も巫女の巡礼を歓迎している。なお、この『巫女』に選ばれた者は、生まれながらにして体の一部に巫女であることを示す紋章が刻まれている。『巡礼の旅』とは、巫女が『一人』だけ従者を携え、世界中の全ての塔を巡り、祈りを捧げてまわる、というシンプルな旅のことである。


 この『巡礼の旅』には幾つかの不思議なルールがあった。例えば『一人』の従者と共に塔の巡礼を行わなければならない、というのもそのルールの一つである。ルールを守らなければ、巡礼の旅は失敗に終わる。もしも巫女が巡礼を行わなかった場合どうなるのか? その結果については、これまでの歴史が語っている。以後300年間、安定期から争乱期に、再び突入する。天変地異が起きたり、疫病が流行ったり、どの種族も好戦的になったり、などなど。なんにせよ、世界の生命の総数が激減していた。


 今、前回の『巡礼の旅』からちょうど300年が経ち、新しい『巡礼の旅』が始まろうとしていた。

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