第2話
西暦3052年、この日1000年もの間栄えた魔物たちの国ゲルドはたった1日で人間たちの国ベルの召喚した異世界勇者により滅ぼされた。
それも俺と国王ゲルド様以外の全ての民と、ともに......。
「我々以外に生き残りは何体いる」
「我々以外の生き残りは幹部も含め誰1体いません。それに人質にとっていたベル王国の姫ティファの行方も分からなくなりました」
「そうか......。つまりそれは城の結界が破られたということか」
「はい。しかし、何故か勇者どもは王の命を狙う訳でも無く撤退しました」
「撤退した? 目的はティファの身柄確保だったという訳か。だが妙だな、結界が破られた様子は無いんだがな」
確かに、今外の様子を見て来た時には確かに結界はそこにあった。だとすれば一体どうやって。
「まさか、幹部の中に裏切り者がいるという事ですか」
「可能性はある。ただ今はそれよりも先にやる事がある。奴らの目的が復讐であるなら、まずは何としてもティファを取り返さなくてはならない。王の血を継ぐものがあっちに渡ってしまった以上、新たな勇者を召喚される恐れがある」
「そうなれば今度こそこの王室の結界を破られるかも知れませんね」
「うぅ......ん。奴らの狙いは分からないがその可能性はある。そうなる前に手を打たなくてはならない」
「つまりそれはティファを取り返す、という事ですか?」
「それだけでは無い。お前には3つの任務を与える。一つ目はティファを取り返す事。二つ目は裏切り者を見つけ出し始末する事そして、三つ目は勇者を全滅させる事だ」
「自分一人で乗り込めという事でしょうか」
「悪いが、私は国の王として王位を継承するまでは死ぬわけにはいかないのでな、それにお前はこの国の最高戦力だ、やれると信じているぞ」
確かに俺は実力だけならこの国では誰にも負けない戦闘力がある。だが相手は幹部達を一瞬で倒すほどの実力を持つ勇者達だ。勝てる保証なんてどこにも無いんだよな。
「いいかブロド。まずはどこでもいい、とにかく人間の国の街に入り情報を収集し任務を果たせ。期間はこの国が滅びるまでだ。頼んだぞ」
「しかし、俺が人間の国に行けば、膨大な魔力のせいですぐに魔物だとバレてしまいます」
「ああ、だからこれを付けて行け。これはお前の魔力を極限まで抑え、法力のように見せるものだ」
王は俺に透明なクリスタルが付いたネックレスを手渡した。ただこのネックレスを付けていると本当の力まで抑えられてしまうというデメリットがある。
「もし勇者と戦う時があったら迷わずこのネックレスを外し本来の力で戦え。分かったらすぐに出発の準備に取り掛かれ」
「了解」
俺は王に渡されたネックレスを付け、剣を腰に装備し城を後にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名前 ブロド 性別 男
レベル 64(仮)
種族 人(仮)
旅人(仮)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
このネックレスを付けているとレベルが64まで下がるのか。恐らくレベルだけで無く魔術の威力や精度も比例して下がっている事だろう。
(ブロド聞こえるか? 今どこにいる)
「街の正門付近まで来ましたが、幹部は愚か街の魔物すらいません。もしかしたら全員人質にとられたのでは?」
(いや、あれだけの量の魔物をあんな短時間で移動させたとは考えにくい、恐らく何らかの方法でまとめて浄化されたのかもしれん)
「本当にそうだとすれば、それはおそらく神器でしょうか」
(7人のうち誰がその神器を持っているか分からない以上、出来る限り勇者との戦闘は避け、先にティファを確保しろ。話は以上だお前の戦力が弱まっている以上この城の外からは【
「了解。では王よ国は頼みました」
俺はそう言うと街の正門から外へと出た。街の外へ出ると確かに王とは会話することが出来なくなっていた。まぁこのネックレスを外せばいつでも話せるが今はその必要も無いだろ。
それにここから一番近い人間の村まで走っても3時間はかかる。途中でゴブリン達の暮らす森もある、面倒だが行くしかない。
ーゴブリン達のいる森に着いたがここを越えなくては人間の村には行けない。何とかゴブリン共にはバレないことを祈るしか無い。
森の中は暗く、虫や危険な魔物たちがウジャウジャいる。それに今の俺は人間に正体がバレないようにネックレスをしているせいで、魔物たちには俺が人間にみえてしまっている。
流石に数でおされると武が悪い。出来る限りゴブリンの村から避けるように先に進んだ。
道中、美味しそうな果実があったのでそれをいただきながら先を目指す。正直、俺は悪魔なので食料は必要としないが、気分的に食べたかった。
「ッ⁉︎ 誰だ!
気のせいか......」
危なかった。俺がのんびり森の中を歩いていると、突然見張りのゴブリンと遭遇した。俺は何とか近くの草むらに隠れてバレずに済んだ。
見張りのゴブリンは警戒心が強いのかしばらくその場に立ち度待ったまま辺りを見渡していた。
気付かれる前にこのまま、あのゴブリンを後ろからやってやるか? 俺は腰にかけた剣とは別の短剣を静かに取り出し、ゆっくりと気配を消しながらゴブリンへと近づいた。すると、
「いたぞ! お前らやっちまえーー!」
ゴブリンがいきなり、大声で叫び出した。俺はバレたと思い、急いで逃げようと思ったがそうではなかった。ゴブリンはなぜか俺とは真逆の方へと走っていった。好都合だ、俺はこの隙に急いで先へと進む。
「誰かーー! 助けてーー!」
ゴブリンが向かった方からゴブリンでは無い別の声が聞こえてきた。それも、幼い少女の声。
人だ。間違いない、奥から少しではあるが法力を感じる。だが、特別助ける理由も無い。
俺は多少、心が痛むが先を目指す事にした。あの言葉を聞くまでは。
「勇者様ーー!」
俺はその言葉を聞いた瞬間急いで声のする方へと向かった。この人間は間違いなく勇者について何か知っている。確信は無かったが、今は少しでも情報が欲しい。
俺はゴブリンの跡を追うように付いていくと、そこには小さな人間の少女がゴブリン達に追われながら必死に逃げているのが見えた。何とか救いたいが周りのゴブリンの数が多過ぎる、まずは狙いを少女から俺に移し替えるか。
「【
俺は目の前にいたゴブリンに向け、魔術で作った小型の火の玉をぶつけた。するとゴブリンは炎に包まれ叫びをあげながら倒れた。
「おい! ゴブリンども、そいつを狙いたいならまず俺を倒してからにしねぇと、テメェらを皆殺しにすんぞ!」
「何だテメェ、コイツの仲間か。お前ら先にこの人間からやるぞ!」
「「おーー!」」
流石に調子に乗り過ぎた。少女を狙っていたゴブリンどころか周辺にいたゴブリンまでもが俺を狙ってきた。多分30はいる。今のままではあの数には勝てない、とはいえネックレスを外せば勇者に感知される恐れがある。
そして俺は少女の逃げた方角とは真逆の方に逃げ続けた。
「おら、どうしたゴブリンお前らも大したことねぇな【
「クソ! メクラ騙しか。お前らよく探せ!」
俺は手当たり次第、魔術を使い逃げ回った。
「いたぞ! こっちだ!」
だがすぐに見つかる。ゴブリン共も案外賢いようだ。少し甘く見ていた。
だが、そろそろ限界かじゃこの辺で引くとするか。
「【
俺は固有魔法を使い、数分前にいた草むらの位置まで移動した。固有魔法とは魔術や法術とは違い、生まれつき持つ魔法で皆違う、命やマナといったものを消費せずに無限に使える魔法だ。
そして俺の持つ固有魔法は『
ひとまずゴブリン達をまいた俺は急いで少女に追い付くため走った。
少し走ると、疲れたのか動きが鈍くなった少女が頑張って走っているのが見えた。
よし。これでゆっくり話が聞ける。俺が少女に話を聞くため、近ずこうとした時だった。
「捕まえたぞ。お前ら女を捕まえたぞ!」
草むらに隠れていたゴブリンが少女の腕を掴んだ。
そしてすぐに周りのゴブリン達が集まってきた。
「離して! ヤダ、誰か助けてーー」
「暴れるんじゃねぇ」
流石にこれ以上はまずいと思った俺は草むらから出ると少女を助けに向かった。
「【
俺の魔術により少女の腕を掴んでいたゴブリンの頭をレーザーのように打ち抜いた。
「さっきの奴だ。お前らやれーー!」
「やれるもんならやってみやがれ【
「クッソまたか、お前らよく探せ」
「どこだ!」
俺は魔術のスモークで目眩しをしている間に少女へと近づき、腕を掴んだ。
「助けに来たぞ。俺から離れるなよ」
「う、うん」
少女は少し戸惑いながらも俺の指示に従った。見た感じ10歳ほどの小さな女の子だが、一体なぜこんな所にいたのだろう。
「お前、名前は?」
「アリサ、、、アリサ・ベアリル、、、」
「よし! アリサ、ここから一番近い村への行き方はわかるか?」
「うん。ここを真っ直ぐ行くとアリサの村があるの。そこなら安全だと思う」
「分かった。
クッソ! 案外ゴブリン達って足速いんだな。このままだと追いつかれる。ちょっと飛ばすからつかまってろよ【
俺は固有魔法を使い、自身とアリサの移動速度を3倍にした。するとみるみるうちにゴブリン達の姿は見えなくなっていた。
「おー。やっと森を出られたな、大丈夫かアリサいきなり早くなったけど酔ったりしてないか?」
「う、うん......。アリサは大丈夫......なの、、、」
アリサは両手を地面についたままそう答えた。これは相当酔ってるな、この状態で村まで歩くのは大変だろう。仕方ないから俺がオブってやるか。
「おい、アリサ乗れ。疲れただろうし村までおんぶしてやるよ」
「ありがとう」
「よいしょっと! じゃアリサ村まで案内頼むぞ、もうそろそろ夜になるし俺も少し休みたい」
「うん。あの、、、助けてくれてありがとう。すっごく怖かったの」
「じゃ何で森の中にいたんだよ。最初から行かなきゃ良かったのに」
アリサは少し暗い顔を浮かべた。
「アリサね。あの怪物に誘拐されたの。それでね頑張って逃げようとしたんだけど、見つかっちゃって。でもその時お兄ちゃんが助けてくれたの」
お兄ちゃんって俺の事か、まぁ確かにこの見た目じゃ間違われてもおかしく無いか。
「お兄ちゃん国の人? アリサ達を助けに来てくれたの?」
「うん......。まぁそんな感じだね。あと俺はロトだ、よろしくな」
とりあえず都合の良い嘘をついた。ロトと言う名前も、もちろん偽名だ。まずは国の使いとでも言って村に入り勇者についての情報を聞き出すとするか。
にしてもあのゴブリン共、子供まで誘拐してんのかよ。その内、本気で滅した方がいいかもな。
「なぁアリサ腹減ってるか?良かったらこのパン食うか?」
俺は今日の朝騙されて買ったパセリ入りのパンをアリサに見せた。するとアリサは腹が減っているのか俺のパンを奪うように取るとモグモグと食べだした。
「お前そんなに腹減ってたのかよ。悪いけどもうパンはないからよく噛んで......ってお前もう食べたのかよ」
「アリサはお腹が減ると元気が出ないの。でもお兄ちゃんのおかげでちょっと元気になったの」
こいつ酔ってるのかと思ったら腹が減ってただけかよ。まぁコイツを歩かせるよりおぶった方が早く着くし、このままでいいか。
「で! あとどのくらいで着く?」
「ほらあそこ! あの大きな教会のある村がアリサの村。グリット村なの!」
「きょ、教会?」
このガキどうやら悪魔の俺をここで休ませて、そのまま浄化する気らしい。ただのガキだと思ってあなどっていた。しかしここで引き返すわけにも行かない、とりあえず教会には注意しながら少しの間滞在するか。
「まぁいいや。もう外も暗くなるからひとまずグリット村に行くぞ」
「村に着いたら助けてくれたお礼にアリサが案内してあげるの」
「おう。助かるよ」
俺は王都ベルに向かう前にこの街で情報を集める為、しばらくの間この村に滞在する事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます