第17話

「大切な家族を、私を拾ってくれた恩人を……私は殺しました」

何よりも幸せを願い、生きてほしいと祈った人たちを、殺してしまった。どれほど自分を恨んでも、もう二度と帰っては来ない。


「私の手は、もう血に塗れているし、誰かの屍の上を歩いても来ました。今の私は、犠牲にした命の上を、歩いているということ……私の幸せを、生きることを願ってくれたみんなのためにも……」



————もう、逃げない。



————もう、目を逸らしはしない。



————私は、前を向く。



「決めたんです」


 自分の経験なのに、それが自分にとって受け入れ難いものであることは、理解している。でも、いつまでも後ろを向いてウジウジとしているわけにはいかない。


 認められない自分がいてもいい、悲しい気持ちも憎いと思う気持ちも、すべてを許して受け入れなくていい、そうオリヴァーは教えてくれた。それなら、もう後ろを向く必要はない。


「そういえばオギさん、ずっと聞きたかったのですが……」


「なんでございましょうか、ユーフェミア様」


「どうして、この国の人たちは黒の髪と目の私に普通に接してくれるんですか?」


 私は、あえて話題を変えるべく、前々から気になっていたことを、オギさんに聞くことにした。ベルファス帝国では、私の髪の毛も目も忌むべき色ではないようで、お屋敷ではいつも優しくしてもらっている。それが不思議でならないのだ。


 こういっては何だが、隣り合っている国でこうも、扱いに差が出るとちょっと可笑しいと思ってしまう。


「この国では、太陽の神子と月の愛し子と呼ばれる、とある特徴を持った人たちの伝説があります。この国にいるも

のは幼子でも知っている、帝国建国記です」





————はるか昔、ベルファス帝国を建国したとされる、二人の特別な人間がいました。その二人は、他の人々とは少し違った容姿をしており、一人は金色に輝く髪と瞳を。もう一人は夜空のように美しい黒い髪と瞳を持っていました。



 この国は建国されるまで、互いに争い合っては関係のない人々が命を落とすような、危険な場所でした。それを平和に導いたのが、金色と黒色を持ったお二人です。それから平和になり、帝国を建国した帝国の父、帝国の母という親しみを込めて、金色の髪と瞳を持った者を太陽の神子と。黒い髪と瞳を持った者を月の愛し子と呼ぶようになったのです。





————しかし建国史はこれだけではありません。




 争いをやめ、平和になったはずの帝国で、誰が帝国を統べるのか、という新たな問題に直面したのです。もちろん、人々は王に相応しいのは神子様と愛し子様だ、と誰もが思っておりました。


 ですが、一部の人間は神子様が相応しい、いや愛し子様が相応しい、と対立をしてしまった。お二人は、そのことを嘆き悲しまれました。自分たちがいるから、争いが生まれてしまう、と…………特に悲しんでおられた愛し子様は自らの胸を短剣で突き刺し、自害なされました。それを知った、神子様は愛し子様のために真の平和を求め、皇帝としてこの国を統べる方となったのです。



「こちらが建国史として一番知られているものになります。諸説ありますが、当時の残っている資料から、最有力建国史とも言われております」


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