青春アラカルト

七夕ねむり

第1話 それ以上は黙っててください



「先輩、帰ってください」

「まだこんな時間なのに?」

「こんな時間でもどんな時間でも、用がないなら帰ってくださいと言っているんです」


後輩に言われっぱなしだというのに一向に立ち上がる素振りも見せず、先輩は綺麗な色の髪を惜しげもなく太陽の日に当てる。こんなことでも絵になるなんて狡い。


「読書の邪魔はしないで欲しいです」


少し低めの声で言ってやる。早く呆れてどこかへ行ってくれればいい。

「そんなに邪魔なの?」

私の思惑とは裏腹に、愉しそうな声が頭上から降ってきた。

「邪魔ですけど」

すると先輩はふふんと、嬉しそうに頬を緩ませる。


「俺のことなんて無視していいのに、ね」


なんで出来ないのかなあ、わかる?


思わず先輩の顔をまじまじと見た。てっきりまた意地悪に笑っているだろうから、また文句の一つでも言ってやらねば。


「なに?」


それなのに。

あまりにも柔らかく下がった瞳が、私を見つめているものだから。


「先輩のせいでちっとも集中出来ません!」


そう言うのが精一杯だった。


「はは、そりゃ光栄だ」


移動する気配のない先輩を文庫本で遮って息をつく。一言一言に心臓がばくばくと音を立てた。こんなの私の心臓じゃない。一生懸命に自分に言い訳をして。


まだもう少しこの気持ちは気づかないふりをしていようと思った。

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