マッチョ看護師は異世界では最強脳筋ヒーラーのようです

@purin_shiro02

第1話 異世界転生!職業はまさかのヒーラー!?

「世界に筋肉は必要である」


これは俺の座右の銘。



夜勤明け、妙にアドレナリンが出ている今だからこそ出来ることがある。


そう、筋トレである。


病棟を定時の9時30分に退出し、更衣室で白衣を脱ぎ捨てる。


更衣室の全身鏡に映し出される自分の上半身、下腿の筋肉に俺は少しの間見惚れる。


夜勤中も椅子に座ることなく空気椅子で過ごし、暇があればグリッパーで握力を鍛え、片手と片足1kgずつのリストバンド、レッグバンドを付けることにより常に負荷をかけ続ける。


これは勤務中でもトレーニングが出来るよう考え出した結果の産物だ。


しばし自分の鍛え上げられた肉体美に見惚れた後、Tシャツとジーパンを纏い病院を飛び出す。


向かう先は10km先のジム、もちろん自転車で向かう。



季節は5月、心地よい日差し、頬に触れる穏やかな風。


夜勤明けということで眠気が段々と襲ってくる。


瞼の重みが10倍、20倍と加重されていき、そのまま長い下り坂に差し掛かる。


ゆっくりとブレーキをかけるがそれでもどんどんとスピードが上がっていく。


視界が霞む、そして一瞬ではあるが眠気のせいで意識が遠のいた。


意識を取り戻したのは車のクラクションの音。


目に飛び込んで来たのは横断歩道の中央、赤に灯った歩行者用信号機、横から突っ込んでくる大型のトラック。


次に感知したのは壮絶な痛みと体が宙に投げ出される感覚。


最後に味わったのはコンクリートに体が打ち付けられる衝撃、引き摺られたことにより皮膚が抉り取られる激痛だった。


それらに意識がかき消されていったのだった。



『目覚めなさい』


暗闇の中、穏やかな声が聞こえる。


『目覚めなさい』


ゆっくり目を開けると暗闇の中にぼんやりと光の球体が浮かんでいる。


声はそこから発せられているようだ。


『突然ですが、あなたは死にました。』


うっすらと直前の記憶が蘇ってくる。


体を確認しようとしたが自分にいま体がないことが分かっただけだった。


魂、意識、それだけが今の自分を形作っているようだ。


『私はあなたたちが俗に言う神と呼ばれる存在です。死者の魂を選別し、選ばれたあなたは今から別の世界に転生し、第二の人生を歩んでもらいます。』


唐突過ぎて頭が追いついていかない。生きている時にアニメや小説で異世界モノと呼ばれる作品を目にする機会があったが、まさかそれに自分がなるなんて思ってもいなかった。


『よろしいですか?』


よろしいもなにもこの神とやらが醸し出す有無を言わさぬ空気感。


しかしまあ折角の機会だしやれるだけやってみよう、そう思った。


『分かりました。では、死亡時の年齢のまま異世界に召喚される形になるか、もしくは本当に生まれ直すかどちらがいいかを決めてください。死亡時のままであれば容姿や身体機能やスキルは引き継がれます。生まれ直しの場合はスキルや能力値はランダムとなります。』


選べるのか。


どうせなら鍛え上げた肉体を持ったままチャレンジしよう。


『分かりました。では死亡時の肉体を最大限復元し、異世界ベルトレイルへ転生させます。現地ではあなたの補佐官として使い魔を用意しますので分からないことがあればその者に尋ねてください。』


そう言えば、この転生に何か目的や意味があるのだろうか。


なぜ自分が選ばれたのだろうか。


『それは後々に分かることです。ではまたいつか来る日にお会いしましょう。どうかご武運を。』


ぼんやりとした光の球体が眩く輝き、その光に包まれる。


自分の存在や魂、意識がその光と融け合い、曖昧な存在になっていく気がした。



「...様!...ス様!...ルクス様!」


か細い女の子の声と揺さぶられる感覚で俺は目を覚ました。


目の前に肩までの茶髪に赤い眼をした可愛らしい女の子がいた。


年齢は高校生くらいだろうか。


「えっと...君は...?」


ゆっくり起き上がると見渡す限りの草原が広がっていた。


茶髪の女の子は赤を基調としたローブを纏い、その下には軽装のプレートアーマーがちらりと見えていた。


「私はアリス・トワール、主からあなたの補佐を仰せつかった者です。」


ぺこりと頭を下げる。


「アリスちゃんか...よろしくね。そう言えば俺の名前ってルクスって言うの?」


「はい。転生する際に前世の記憶は一部を除いて削除されています。あなたの名前はルクス・ラーバインといいます。」


「そうか、ありがとう。俺はこれからどうしたらいいんだ?神様とやらからは特に目的てかなにも聞かされていないんだけど...。」


「私も多くは聞かされていないのですが、知っている限りでは遠くない未来にこの世界で大きな戦いが起こるとのことでそれを防止、もしくは和平に導くことがルクス様の役目のようです。」


世界大戦の防止か。


これはなかなか骨が折れそうな役目だ。


それにしても気になることがある。


「ありがとう。ところで、気になることがあるんだけど...。」


「どうされました?」


アリスちゃんが可愛らしく首を傾げる。


「俺の職業っていうか、武器っていうか、王道のスキルっていうか、教えてほしいんだけど...。」


「あ!そうですよね...私としたことが忘れていました...。意識を集中させて心の那珂でステータスと呟くと現時点のルクス様と私の能力が確認できます。一度試してみてください。」


「わかった。」


俺は意識を集中させて呟く。


(ステータス。)


するとぼんやり目の前に情報が表示される。



アリス・トワール


クラス:アサシン


属性:風、闇


スキル:隠密、影潜り、黒霧、辻斬り



ほうほう、アリスちゃんはアサシンなのか。


こんな可愛い顔して殺し屋とはなかなか俺好みだ。


さて、俺はっと...。


自分の情報が表示される。



ルクス・ラーバイン


クラス:ヒーラー


属性:光、闇


スキル:ヒール、ドレイン、ステソスコープ



...。


...ヒーラー?


この俺がヒーラー...?


毎日筋トレに励んできた俺なら武闘家とか戦士とか重戦士とかじゃないのか!?


どうしてヒーラー!?



「ルクス様の疑問にお答えします。クラスに関しては転生前までの素質や職業、技能が反映されるとのことです。ルクス様は転生前は看護師として従事されていましたのでヒーラーのクラスに転生されたとのことです。ちなみに武器に関してはこちらを賜っています。」


アリスちゃんが俺の腕に白い宝石が埋め込まれたバングルをはめる。


その瞬間に宝石が光り出す。


「こ、これは?」


「この世界で魔法を使うために必要な魔鉱石を埋め込んだバングルです。魔法を使うためには空気中の魔粒子を操る訓練が必要なのですが、次の街まで丸腰になってしまうので一時的に魔法を使うための武器となります。」


「いやこれ武器じゃないよね?補助だよね?てか攻撃スキルがないんだけどどうやって戦えば...。」


「そのための私ですよ。戦闘なら少しばかり心得がありますのでルクス様は安心して後方支援に回ってください!」


飛びっきりの笑顔で胸を張られるがさすがに女の子の後ろで待っているわけには...。


そう思っている時、後ろの茂みからガサガサと物音が聞こえる。


「早速来ましたね...。」


「来たってなにが?」


「グオオオオオオオオオ!!!」


茂みから大きなクマの様な生物が飛び出してきた。


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