なんでくるんだよ

 俺は女性が苦手だ。

 なるべく関わりたくない。だからこそ、女性が少なそうなサークルに入ったつもりだったんだが。





「悠馬殿、一体何があったでござるか?」


 俺が聞きたい。

 知っている人がいたら、ぜひ教えてくれ。


「へー、結構色んなものがそろってるんでだねー。」

「か、勝手にあさらないでください!」

「別にいいじゃん。どうせ日和ちゃんはあんまり読んでないんじゃない?」

「うっ…」


 詰まるな詰まるな。


「へー、アニメのDVDもあるんだ。あ、これなんか見たことある」

「知ってるのか!?このアニメは隠れた名作で、知ってる人が少ないのが悲しいが、当時はまだ新人だった今をトキメク人気声優が出ているのが、アツいんだよ!特に八重原可奈子ちゃんが…!」

「……………」


 碓氷さんが言葉を失っている。辰義の熱量に圧倒されて、横目で俺に助けを求めていらっしゃる。

 すまんな、助ける気はない。


「もう、あのシーンの可奈子ちゃんが…」

「ストップ」

「ん?どうした?」

「残念なイケメンって本当に存在するのね」


 言い過ぎ言い過ぎ。初対面ですよそこ?

 ほら、辰義もポカーンとしちゃってんじゃん。

 結局、講義終わりに俺についきて、アニメ・漫画同好会にやってきた碓氷さん。

 案の定引っ掻き回してくれちゃってまぁまぁ。

 なんでこんな日に限ってフルメンバーかねぇ。


「で、誰でござるか」


 朋弥も案外ばっさりいくよな。

 確かにごもっともな質問ではある。

 碓氷さんは、部室に入るなり、あれこれ漁り始めたのだから、みんな唖然としたことだろう。


「あぁ、ごめんごめん。私は碓氷穂奈美。悠馬とは同じ学部で、アパートが隣の部屋です」

「えっ!?」

「まじで」

「なんと…」


 三者三様の反応をするな。いやわかりやすいけど。

 ってか最後の情報別に要らないだろ。


「別に言っても問題はなくない?」


 …言い返せないのが、なんとも腹立つ。


「と、とと、とな、り!?え?えっ??」

「面白いことも起こるもんだなぁ」

「アニメみたいな展開でござるな!?続きが気になるでござるよ!」


 肩を揺らすな朋弥。首がかっくんかっくんして痛い。


「あっはっは、キャラ濃いね~」


 爆笑していらっしゃる。

 まぁ生理的に無理!とか言われなくて良かったよ。

 確かに朋弥は見てくれはまぁ太ってるし、しゃべり方もアレだけど、めちゃめちゃいいやつだからな。

 なんなら彼女いるしな。

 会ったことはないけど、写真で見るとまぁまぁ可愛かったのを覚えている。お幸せに。


「なんかゆるそうなサークルだね」

 まぁな。じゃないと俺も入ってない。

「あー、悠馬っていつもだるそうにしてるもんね」

 昨日の今日で「いつも」とは言われたくないがな。

「一日見ればなんとなくわかるでしょ。………そのほかの情報もね」


 ちらっと、後ろを見る碓氷さん。

 彼女の視線の先には、不機嫌そうな那智さんの姿があった。

 じーっと碓氷さんだだけを見つめている。いや睨んでいる。

 そう邪見にするなよ。めんどくさいが悪いやつじゃない、と、思う、ぞ。

「言い切ってよそこは」

 すまんな、女性に対して自分が何か言うのが、気持ち悪くなっただけだ。

「………なんで悠馬ってそんなに女が苦手なの?」


 碓氷さんの言葉に、視界の端で那智さんもピクっと動いたのが見えた。


 ………いろいろあるんだよ。人生は。

「じじいかよ」

 うるさい辰義。

「気にしてるのは悠馬殿だけのような気もするでござるよ」

 いちいち掘り返さんでいい。

「ふーん、まぁ悠馬が言いたくないなら、無理に聞かないけど」

 助かる。

「さて、まぁ、今日はちょっと覗きに来ただけだだし、そろそろお暇しようかな」


 踵を返し、部屋の入口に向かう碓氷さん。

 それを見て、少しほっとしたような表情を浮かべる那智さん。

 あんたらなんなんだ。


「そうだ、帰りにちょっとお茶したいんだけど、付き合ってくれない?那智さん」

「え?」


 目を丸くする那智さん。

 急に話かけられたのもそうだが、内容にもさぞ驚いたことだろう。

 かくいうメンズ3人も、びっくりして無言である。

 あー、とことん引っ掻き回していきますなぁ、この人は。

 ま、部室が楽になるのは良いことか。

 俺は女性が苦手なんだよ。

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