余計なことはしないでくれ

 俺は女性が苦手だ。

 女子たちの間に流れる微妙な空気の中になんぞ入りたいとも思わない。





「「……………」」


 昼休み。

 俺は食堂でご飯を食べているはずなのに、まったくもって味がしない。

 おいしいはずなのに、むしろまずさを感じるレベルで、味覚障害が発生している。

 ご飯を食べる俺の隣には、碓氷さんが、そしてその向かい側に那智さんが座っていて、ふたりとも、にらみ合ったまま動かない。


 ほら、ご飯食べようぜ?


 俺だけ食べるのもどうなのよ?ね?

 別に大勢で食べたいと思うことは少ないのだが、人がいるなら一緒に食べたい。

 食べたいというより、食べないと空気が気まずくなので、食べてほしい。

 うん、ほら、早く。


「先輩は黙っててください」

 ごめんなさい。


 那智さんはずっと険しい顔で碓氷さんを見ている。

 対して碓氷さんは、那智さんのことをニコニコと見つめていた。

 すでに、心の余裕に差があるので、勝負はついてないか?

 いやまず勝負ってなんだよ、って話なんだが。


「私も一口ちょうだーい」

「なっ!?」


 俺のスプーンを勝手に奪い、俺が食べていた親子丼を一口食べる碓氷さん。

 そしてそれを見て、絶句する那智さん。

 なんだその顔は。顔芸?


「悠馬、さすがにそれは失礼よ」

 ごめんなさい。


 ………俺謝ってばっかじゃない?


「で、那智さん、だっけ?私に何か?」

「うっ、えっと…」


 那智さんが言葉に詰まる。まぁ、なんか出会った流れで来てるからな、用という用はないんだろう。


「とりあえず、自己紹介してなかったね。私は碓氷穂奈美。悠馬とは、昨日の夜一緒に過ごしたかな」

「えっっっ!?」

 おい。変なこと言うな。

「えー、だって事実じゃん」


 と、ケラケラ笑う碓氷さん。

 事実は事実だが、言い方よ。ただ酒飲んだだけだろう。

 あ、ヤバイ。那智さんが固まってる。

 おーい、那智さーん?


「せ、先輩は、こ、この人と、つ、つつ、付き合ってるん、ですか?」

 なんでそうなる。つきあtt…。

「もしそうだったら、何?あなたに関係ある?」


 お前なぁ…。


「な!?くは、ない、というか…」


 うつむいて、どんどん小さくなっていく那智さん。なんだかかわいそうだ。

 碓氷さん、お前なぁ…。


「っていうか、そもそも私は自己紹介したのに、そっちはまだ聞いてないんだけど?」


 それはごもっともであるが、言い方言い方。なんでそう圧をかける。


「いいからいいから」


 何がだ。


「えと、私は、先輩と同じサークルに入ってる、那智日和です…」

「ふーん、日和ちゃんかぁ。かわいい名前してるねぇ」

 セクハラおやじみたいなこと言ってんな。

「あはは。ってか悠馬ってサークル入ってんの?」

 ああ。アニメ・漫画同好会。

「へー、悠馬ってそういうのが好きなんだ」

 好きっていうか、俺も友達に誘われて、だよ。俺は漫画読んでるだけだしな。

「ふーん」


 何か考えながらニヤニヤする碓氷さん。

 はっはっは。嫌な予感しかしない。


「その同好会に、見学行ってもいい?」


 それみたことか。


「え、来るんですか!?」


 那智さんも、驚きを隠せていない。

 あーあ、あの同好会は、今までは、女性に会わなくてもいい、気楽な空間だったのになぁ。

 俺は女性が苦手なんだよ。

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